『今日も平和に暮らしたいだけなのに、スキルが増えていく主婦です』

チャチャ

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119話『静かな共鳴と、世界の気配』

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 土曜日の朝。珍しく家族全員が、何の予定もなく家でのんびりしていた。

 「今日は……おでかけなし! 宿題もなし! ごろごろする日!」

 宣言したのは悠翔だったが、ひなのも負けじと、

 「ごーろごろーっ! おふとんさんといっしょ~!」

 と言いながら毛布に包まっていた。

 「いやいや、せっかくいい天気なんだから、ちょっとは外出ようよ~」
 麻衣が笑いながら、ソファの背もたれに座る。

 雄一も新聞片手に「たまにはこういう日もいいよなぁ」と、ぼんやりしていたが――
 そんな家族の穏やかな時間の中、麻衣のスマホがそっと光を放った。

 

 《共鳴反応:世界スキルネットワーク・低レベル接続開始》

 「……ん?」

 通知を開くと、見慣れない項目が並んでいた。

 > ■現在、同調中のスキルユーザー(仮名・地域)  > ・【SILVER GATE】(北欧/共鳴型)  > ・【はるかな声】(関西/感応型)  > ・【星読みルミエール】(フランス/観察型)

 (世界の……プレイヤー?)

 

 スキルの世界は、自分ひとりのものではなかった。
 スミレさんが話していた「スキルを手にした人たちの緩やかなつながり」。
 それが今、麻衣の端末にも、静かに反応し始めていた。

 (もしかして……“共鳴の環”が広がってるの?)

 まるで見えない水面に、小さな波紋が重なっていくように。
 名前も顔も知らない誰かが、どこかで、麻衣と似たような感覚を持っているのかもしれないと思うと、不思議と胸があたたかくなる。

 

 「ねえ、麻衣?」

 ふと、隣から雄一の声がした。

 「ん?」

 「来週、会社でまた海外の人とやり取りがあるんだけどさ……もしスキルがまた“ちょっとだけ”助けてくれたら、嬉しいなって」

 「……あら、お願いされたら、がんばっちゃうかも?」

 「報酬はプリンでいい?」

 「むしろ倍!」

 じゃれ合うように笑い合う二人。そのやりとりを聞きながら、悠翔が「夫婦っていいなぁ」とつぶやいたのを、ひなのが「なにそれ?」と笑う。

 

 そしてその夜。

 麻衣はひとり、ベランダから星を見上げながら、スマホを手にした。

 《あなたのスキルは、静かに共鳴しています》
 《世界のどこかで、同じように誰かが気づいています》

 「……私は何も“すごいこと”してないのにね」

 思わずこぼれた言葉に、画面がふっと光り、短いメッセージが表示された。

 > 【SILVER GATEより】
 > ――すごいことをしてる人ほど、自分では気づかないものです

 麻衣は、まるで見えない手紙を受け取ったかのように、ほっと笑った。

 

 見えない誰かと、見えないところで。
 静かに、やさしく、共鳴は続いていく。


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