17 / 77
3章「精霊の記憶と、禁忌の残響」
第17話「精霊の契約と、守られし大地」
しおりを挟む
神殿の奥、静寂に包まれた大広間。
土の擬似精霊兵との戦いが終わった今、そこに残るのは、ただただ荘厳な沈黙だった。
崩れた瓦礫の間から差し込む光が、土の精霊――ロゥナの姿を優しく照らしている。
彼女は、ぼんやりと空を見上げていた。
「……思い出したの。全部じゃないけど、大事なところは」
その声は、どこか晴れやかで――でもほんの少し、寂しさを帯びていた。
「ロゥナ……」
僕は一歩、彼女に近づく。
セリューナとセフィアも、そっと後ろから見守っている。
ロゥナは、土の神殿の奥にある大地の紋章へと視線を向けた。
その紋章は、戦いの余波にもかかわらず、まるで守られていたかのように美しく、ひときわ鮮やかに輝いている。
「私……この神殿の守護者だったの」
彼女の言葉に、僕は思わず息を呑む。
「精霊戦争の最中、私たちは“記憶”を後の時代に託すために、それぞれの祠や神殿に“核”を残した。
でも……その記憶さえも、やがて消えてしまったの」
精霊としての存在そのものが曖昧になり、封印されたこの神殿の中で、擬似精霊兵としての力と混ざりながら眠り続けていたのだろう。
「でもね、レク。あなたが来てくれたから、私は“私”を思い出せた。あなたの“大地を感じる力”が……私を呼び戻したの」
ロゥナの瞳がまっすぐに僕を見つめる。
「だから、今度こそ――」
彼女は僕の手を取り、ゆっくりと自分の胸元へと導いた。
そこには、小さな輝きが宿っていた。
「これが……私の“精霊核”」
土の精霊の証。
精霊と人間が“真の契約”を結ぶときに、精霊が自ら差し出す魂の一部――それが精霊核。
僕はその温かな光に、自然と手を伸ばした。
「いいの? 僕なんかで……」
「あなたじゃなきゃ、意味がないの。――レク、契約して?」
その言葉に、僕は力強く頷いた。
「……うん。こちらこそ、よろしく。ロゥナ」
次の瞬間、神殿全体が淡く光に包まれた。
これは――精霊との“契約の儀式”が始まる前兆。
大地が、応えている。
✳✳✳
大地が脈動するような震えと共に、神殿の空気が一変した。
足元に刻まれた土の紋章が、まるで生きているかのように脈打ち、淡い光を放ち始める。
ロゥナの手の中で輝く“精霊核”は、鼓動に合わせて共鳴していた。
――これは、“精霊契約”の儀式。
「レク。あなたに問います」
突如として、空間に響くロゥナの声が変わる。
それは彼女自身のもののようでありながら、どこか神聖な力に満ちた響きを帯びていた。
「あなたは、この世界を感じ、大地を愛し、生命を護る者となりますか?」
「……はい。誓います」
そう答えた瞬間、僕の身体に熱が流れ込んだ。
いや、熱じゃない。これは――“力”そのもの。
土のマナが、僕の体内に注がれていく。
周囲の空気が、次第に重厚になっていくのが分かる。
「では、精霊の名において、契約を結びましょう」
ロゥナの両手が、僕の胸に触れる。
土のマナが、僕の中でうねり、形を変えていく。
その瞬間、目の前にシステムメッセージ風の文字が浮かび上がった。
---
《契約進行中……》
《土の精霊・ロゥナとのリンクを確認》
《契約条件:精神耐性判定、元素親和率確認》
《条件クリア》
《ユニークスキル【精霊共鳴】が進化します》
↓
《新スキル獲得:【大地との契約(アース・リンク)】》
──スキル効果:精霊と完全なリンクを結ぶことにより、土属性の加護を常時受ける。
──副効果:精霊との共鳴状態中、地中把握/地耐性大幅上昇/支援術の展開速度上昇。
---
「これは……」
まるで、今までよりもはるかに深く、精霊たちの“声”が聞こえるような感覚。
地面の下に眠る水脈、鉱石、虫の巣――すべてが、僕に語りかけてくるようだった。
そしてロゥナが微笑む。
「おめでとう、レク。これで、私たちは本当にひとつになれたわ」
彼女の声が、まるで大地そのものの響きのように、優しく包み込む。
だがその時――
――グラリ、と大地が揺れた。
「!? な、なんだ――」
突然、神殿全体が大きく軋み始める。
ロゥナの顔が強張った。
「まずい……! 契約によって、神殿の“封印”が解け始めてるの! このままだと――」
神殿が、崩れる!?
✳✳✳
神殿の壁面がミシミシと音を立て、天井からは細かな砂粒が降り始める。
ロゥナの視線が厳しくなる。
「封印が解かれたことで、神殿の“維持魔法”が限界を迎えつつあるわ。ここを急いで離れなければ!」
僕はすぐに反応した。
「よし、撤退だ! ロゥナ、出口は――」
「ついてきて!」
ロゥナが大地のマナを操るようにして、手をかざす。すると床の一部がスライドし、地下通路のような抜け道が現れた。
「ここはかつて精霊たちが使っていた“緊急の道”。普通は閉ざされてるけど、契約者なら通れるわ」
僕とカイ、そして精霊たちがその道へと足を踏み入れると、すぐに上方で天井が崩れ落ちる音が響いた。
(ギリギリだった……!)
通路は狭く、所々に古びた装飾や精霊文字が刻まれていた。
息を切らしながら走り続けるうち、次第に揺れはおさまり、地上から差し込む淡い光が見えてくる。
ロゥナが立ち止まり、振り返った。
「……本当は、あの神殿を残しておきたかった」
「ロゥナ……」
彼女の目はどこか、寂しそうだった。
「あの場所は、精霊たちにとっての“記憶”だったの。だけど、もう過去には縛られない。あなたと契約できた今、新しい道を進める」
僕は無言で頷いた。
そして、光の差す先へと駆け出す。
――光の向こうに、新たな旅が待っている気がしたからだ。
* * *
地上に出ると、空はもう夕焼け色に染まりかけていた。
風が吹き抜け、遠くの草原に精霊の羽のような光が舞う。
そんな中で、ロゥナがそっと手を掲げた。
「私の“精霊核”を、あなたに預けるわ」
手の中に現れたのは、琥珀色に輝く小さな結晶。レクが受け取ると、それは光の粒となって彼の胸元へ吸い込まれていった。
――契約、完了。
その瞬間、またシステムメッセージが浮かび上がる。
---
《精霊核:ロゥナ(土属性)獲得》
《精霊契約Lvが上昇しました》
《新スキル【大地の加護】を獲得しました》
──効果:土属性スキル使用時の消費MP減少、耐久補正上昇
──副効果:精霊“ロゥナ”の支援スキルが常時展開可能に
---
「これで……あなたは、私の“真なる契約者”」
ロゥナの声が、夕焼けに溶けるように響く。
レク・エルディアスと精霊・ロゥナ。
二人の絆が、ここで強く結ばれたのだった――。
✳✳✳
翌朝。
僕たちは小高い丘の上で朝日を眺めていた。
神殿の崩壊から一夜。ロゥナとの正式な契約も果たし、今は静かな時間が流れている。地中の大地がほんのりと温かく、土属性のマナが穏やかに流れているのが感じられた。
「ようやく、一区切りついたって感じだな」
隣でそう呟いたのはカイ。手に持ったパンをかじりながら、どこか満足そうな顔をしている。
「それにしてもさ、土の精霊って、こんなに……なんつーか、ちゃんと人間っぽいんだな。もっと無口で冷たいのかと思ってた」
「ふふ。失礼ね、カイ」
ロゥナが微笑みながら立ち上がる。
「土の精霊は、本来“命を育む者”よ。静かで、地味で、あまり目立たない。でも、根を張って守り続けるのが私たちの本質なの」
「……なんか、いいな」
僕はそんな会話を聞きながら、ロゥナから得たスキル【大地の加護】の効果を改めて確認する。ステータスウィンドウに意識を向けると、システムメッセージが表示された。
---
《スキル【大地の加護】詳細》
分類:パッシブスキル
効果1:土属性スキルのMP消費-25%
効果2:耐久力+15%/物理防御+10%
効果3:支援スキル【地纏の守り】が常時展開(物理被ダメージ軽減)
---
支援スキルの地纏(ちまとい)の守りが地味にありがたい。これ、戦闘の安定感が段違いになる。
(精霊との契約って、すごい……)
僕がしみじみと感動していると、ロゥナがふと空を見上げて呟いた。
「でも……まだ足りないわ」
「え?」
「この世界の“歪み”は、もっと深いところにある。精霊の神殿に封印されていた情報、それを探る必要があるわ」
僕はすぐに理解した。
「……精霊の記憶だね。禁忌とされた戦争の記憶」
ロゥナが静かに頷く。
「それを知るためには、他の精霊たちとも繋がらなければならない。かつて共に戦った、仲間たちのもとへ」
その言葉を聞き、僕の胸にまたひとつ火が灯った。
風の精霊・セフィア。水の精霊・セリューナ。そして土の精霊・ロゥナ。
彼女たちが口をそろえて言う“失われた記憶”と“精霊戦争”の真相。
それを明らかにするための旅は、まだ始まったばかりだ。
✳✳✳✳
「ところで、次の目的地って決まってるの?」
小さな焚き火を囲みながら、ルゥリィがぽつりと尋ねた。
僕は空を見上げて、深く息をつく。
「うん。セフィアからの手紙に書いてあった。次に向かうべきは……“風鳴く丘”の向こう、“精霊界への扉”がある場所だって」
「“風鳴く丘”? なんだか詩的な名前ね」
ロゥナが目を細めた。
「懐かしい場所……あそこには、風の精霊たちの古巣があったはずよ」
その時、僕の脳裏にふと浮かんだ映像がある。
あの、転生時に神様から見せられた「ガチャ演出」の最中に一瞬だけ挟まった、謎の“風がうねる高台”のような景色。
(……もしかして、あの場所?)
「向かってみよう、“精霊界への扉”に。今なら、ロゥナの加護もあるし、危険地帯を抜けるルートも開けるはずだ」
「異議なし!」
カイが元気よく手を挙げ、ルゥリィもにこやかに頷いた。
「私も行くわ。ロゥナと話して、もっと精霊のこと、知りたくなったの」
ロゥナは驚いたように目を見開いたが、すぐに柔らかな笑みを浮かべた。
「……ありがとう。あなたたちと一緒にいられるなら、それだけで嬉しい」
「さて……出発前にもう一度、装備とスキルを見直しておこうか」
僕は立ち上がり、再びステータスウィンドウを開いた。
---
《スキル進化通知》
スキル【精霊の加護:土】が【精霊リンク・ロゥナ】に進化しました。
▼効果変化
・土属性魔法の効果上昇(中)
・【土耐性+25%】追加
・【精霊リンクスロット:1】開放
新スキル【精霊リンク】が開放されました。
---
(……新しい枠ができた!?)
僕は驚きとともに確認する。
---
《精霊リンク》
説明:契約した精霊と精神的接続を深め、連携技やサポートスキルの発動を可能にする。
現在のリンク:ロゥナ
効果:戦闘中、一定確率で【自動防御:大地の盾】が発動
---
(なるほど……これが、精霊との“深化”か)
ただ契約するだけじゃなくて、心を通わせていくことで強くなる――。
冒険者というより、まるで“絆を紡ぐ旅人”みたいだ。
僕は思わず、ふっと笑っていた。
✳✳✳✳✳
「出発は明日の朝がいいな。まだこの神殿跡も不安定だし、休息はしっかり取っておこう」
そう言って皆に声をかけると、カイが伸びをしながらうなずいた。
「このあたり、夜の冷え込みも強いしな。ロゥナの魔法で土の壁とか作ってもらえると助かる」
「任せて。風を防げるような土壁を展開してあげる」
ロゥナが指先をすっと動かすと、地面から優しい弧を描いた土の壁がにょきりと生えてきた。焚き火の熱が逃げず、寒さを防いでくれる、まるで土のドームのようだ。
「すごい……。土の魔法って、こういう使い方もあるんだ」
ルゥリィが目を輝かせると、ロゥナは少し得意げな表情を浮かべた。
「精霊魔法は、戦うだけのものじゃない。大地は生きていて、守り、包み、支えてくれる。レクが選ばれたのは、そういう心があるからだと思うわ」
「そう……なのかな」
自信があるとは言い難いけど、そんなふうに言われると、少しだけ誇らしい気持ちになる。
その夜、焚き火の明かりに包まれながら、僕たちは交代で見張りをしつつ眠りについた。
――そして、夜が明ける。
神殿跡の奥、契約の間を出た僕たちは、古びた石碑の前に立っていた。
それは“精霊の碑”と呼ばれるもので、かつて各属性の精霊と契約を交わした者の記録が刻まれているという。
「レク。あれ……名前が浮かんでる」
ルゥリィが小声で言った。僕が視線を移すと、石碑の表面にうっすらとした光の文字が浮かび上がっていた。
---
【新たな契約者:レク・エルディアス】
・契約精霊:風、土(ロゥナ)
・契約段階:リンク進行中
・評価:安定進行、特異認定中
---
「……特異、認定?」
僕が首をかしげると、ロゥナが淡々と口を開いた。
「それは、精霊界の意思による判断。あなたの存在が通常の契約者と異なっていて、未来に干渉する力を持つと判断された時、刻まれる称号よ」
「つまり、“ちょっと変わったやつ”ってことか……」
思わず苦笑する僕に、ロゥナは少しだけ、くすりと笑った。
「ええ、でも――悪い意味じゃないわ」
「うん、そうだね」
その碑を背に、僕たちは神殿を離れる。
次に向かうは、“風鳴く丘”。セフィアが待つ地――風の記憶が眠る場所。
✳✳✳✳
神殿を後にした僕たちは、山を越えて南西の風鳴く丘を目指すことにした。
道中、ロゥナの作った浮遊石板(フローティングボード)に乗って移動することになり、なんだかRPGの乗り物イベント感がすごい。
「わああああ! 浮いてるううう!」
ルゥリィが叫びながら両腕を広げ、まるで空を飛んでいるかのように風を受けていた。
「この土の魔法、めちゃくちゃ便利だな……」
カイが呟くと、ロゥナが胸を張って答える。
「フローティング・アース。土と風の複合属性魔法。今のレクだからこそ制御できるのよ」
「え、俺がこれ操ってるの!?」
「ええ。契約者の魔力で浮かんでいるから、意識を切ると落ちるわよ?」
「いやそれ、早く言ってよ!!」
わちゃわちゃしたやりとりの中、空を滑るように進む魔法の板。風が心地よく、緑の草原がどこまでも広がっていた。
その時だった。
空気が、変わった。
ピン、と張り詰めるような気配。風が止み、一瞬の静寂。
すると、前方の丘の上に――ふわりと、白い影が現れた。
「……風、の精霊?」
僕が小さく呟くと、その影はまるでこちらを誘うように、軽やかに宙を舞った。
まるで――「来い」と言っているかのように。
「レク。あれはセフィアよ。風の精霊」
ロゥナがそっと囁いた。
「風鳴く丘に、私たちを導いているのね」
セフィア。僕が最初に出会った、風の精霊。その姿を、こうしてもう一度目にするとは思わなかった。
「……行こう。次の試練が、待ってる」
僕はそう言って、浮遊石板の先へと意識を集中させた。
風が、また吹き始める。
次なる試練は――風の地へ。
---
土の擬似精霊兵との戦いが終わった今、そこに残るのは、ただただ荘厳な沈黙だった。
崩れた瓦礫の間から差し込む光が、土の精霊――ロゥナの姿を優しく照らしている。
彼女は、ぼんやりと空を見上げていた。
「……思い出したの。全部じゃないけど、大事なところは」
その声は、どこか晴れやかで――でもほんの少し、寂しさを帯びていた。
「ロゥナ……」
僕は一歩、彼女に近づく。
セリューナとセフィアも、そっと後ろから見守っている。
ロゥナは、土の神殿の奥にある大地の紋章へと視線を向けた。
その紋章は、戦いの余波にもかかわらず、まるで守られていたかのように美しく、ひときわ鮮やかに輝いている。
「私……この神殿の守護者だったの」
彼女の言葉に、僕は思わず息を呑む。
「精霊戦争の最中、私たちは“記憶”を後の時代に託すために、それぞれの祠や神殿に“核”を残した。
でも……その記憶さえも、やがて消えてしまったの」
精霊としての存在そのものが曖昧になり、封印されたこの神殿の中で、擬似精霊兵としての力と混ざりながら眠り続けていたのだろう。
「でもね、レク。あなたが来てくれたから、私は“私”を思い出せた。あなたの“大地を感じる力”が……私を呼び戻したの」
ロゥナの瞳がまっすぐに僕を見つめる。
「だから、今度こそ――」
彼女は僕の手を取り、ゆっくりと自分の胸元へと導いた。
そこには、小さな輝きが宿っていた。
「これが……私の“精霊核”」
土の精霊の証。
精霊と人間が“真の契約”を結ぶときに、精霊が自ら差し出す魂の一部――それが精霊核。
僕はその温かな光に、自然と手を伸ばした。
「いいの? 僕なんかで……」
「あなたじゃなきゃ、意味がないの。――レク、契約して?」
その言葉に、僕は力強く頷いた。
「……うん。こちらこそ、よろしく。ロゥナ」
次の瞬間、神殿全体が淡く光に包まれた。
これは――精霊との“契約の儀式”が始まる前兆。
大地が、応えている。
✳✳✳
大地が脈動するような震えと共に、神殿の空気が一変した。
足元に刻まれた土の紋章が、まるで生きているかのように脈打ち、淡い光を放ち始める。
ロゥナの手の中で輝く“精霊核”は、鼓動に合わせて共鳴していた。
――これは、“精霊契約”の儀式。
「レク。あなたに問います」
突如として、空間に響くロゥナの声が変わる。
それは彼女自身のもののようでありながら、どこか神聖な力に満ちた響きを帯びていた。
「あなたは、この世界を感じ、大地を愛し、生命を護る者となりますか?」
「……はい。誓います」
そう答えた瞬間、僕の身体に熱が流れ込んだ。
いや、熱じゃない。これは――“力”そのもの。
土のマナが、僕の体内に注がれていく。
周囲の空気が、次第に重厚になっていくのが分かる。
「では、精霊の名において、契約を結びましょう」
ロゥナの両手が、僕の胸に触れる。
土のマナが、僕の中でうねり、形を変えていく。
その瞬間、目の前にシステムメッセージ風の文字が浮かび上がった。
---
《契約進行中……》
《土の精霊・ロゥナとのリンクを確認》
《契約条件:精神耐性判定、元素親和率確認》
《条件クリア》
《ユニークスキル【精霊共鳴】が進化します》
↓
《新スキル獲得:【大地との契約(アース・リンク)】》
──スキル効果:精霊と完全なリンクを結ぶことにより、土属性の加護を常時受ける。
──副効果:精霊との共鳴状態中、地中把握/地耐性大幅上昇/支援術の展開速度上昇。
---
「これは……」
まるで、今までよりもはるかに深く、精霊たちの“声”が聞こえるような感覚。
地面の下に眠る水脈、鉱石、虫の巣――すべてが、僕に語りかけてくるようだった。
そしてロゥナが微笑む。
「おめでとう、レク。これで、私たちは本当にひとつになれたわ」
彼女の声が、まるで大地そのものの響きのように、優しく包み込む。
だがその時――
――グラリ、と大地が揺れた。
「!? な、なんだ――」
突然、神殿全体が大きく軋み始める。
ロゥナの顔が強張った。
「まずい……! 契約によって、神殿の“封印”が解け始めてるの! このままだと――」
神殿が、崩れる!?
✳✳✳
神殿の壁面がミシミシと音を立て、天井からは細かな砂粒が降り始める。
ロゥナの視線が厳しくなる。
「封印が解かれたことで、神殿の“維持魔法”が限界を迎えつつあるわ。ここを急いで離れなければ!」
僕はすぐに反応した。
「よし、撤退だ! ロゥナ、出口は――」
「ついてきて!」
ロゥナが大地のマナを操るようにして、手をかざす。すると床の一部がスライドし、地下通路のような抜け道が現れた。
「ここはかつて精霊たちが使っていた“緊急の道”。普通は閉ざされてるけど、契約者なら通れるわ」
僕とカイ、そして精霊たちがその道へと足を踏み入れると、すぐに上方で天井が崩れ落ちる音が響いた。
(ギリギリだった……!)
通路は狭く、所々に古びた装飾や精霊文字が刻まれていた。
息を切らしながら走り続けるうち、次第に揺れはおさまり、地上から差し込む淡い光が見えてくる。
ロゥナが立ち止まり、振り返った。
「……本当は、あの神殿を残しておきたかった」
「ロゥナ……」
彼女の目はどこか、寂しそうだった。
「あの場所は、精霊たちにとっての“記憶”だったの。だけど、もう過去には縛られない。あなたと契約できた今、新しい道を進める」
僕は無言で頷いた。
そして、光の差す先へと駆け出す。
――光の向こうに、新たな旅が待っている気がしたからだ。
* * *
地上に出ると、空はもう夕焼け色に染まりかけていた。
風が吹き抜け、遠くの草原に精霊の羽のような光が舞う。
そんな中で、ロゥナがそっと手を掲げた。
「私の“精霊核”を、あなたに預けるわ」
手の中に現れたのは、琥珀色に輝く小さな結晶。レクが受け取ると、それは光の粒となって彼の胸元へ吸い込まれていった。
――契約、完了。
その瞬間、またシステムメッセージが浮かび上がる。
---
《精霊核:ロゥナ(土属性)獲得》
《精霊契約Lvが上昇しました》
《新スキル【大地の加護】を獲得しました》
──効果:土属性スキル使用時の消費MP減少、耐久補正上昇
──副効果:精霊“ロゥナ”の支援スキルが常時展開可能に
---
「これで……あなたは、私の“真なる契約者”」
ロゥナの声が、夕焼けに溶けるように響く。
レク・エルディアスと精霊・ロゥナ。
二人の絆が、ここで強く結ばれたのだった――。
✳✳✳
翌朝。
僕たちは小高い丘の上で朝日を眺めていた。
神殿の崩壊から一夜。ロゥナとの正式な契約も果たし、今は静かな時間が流れている。地中の大地がほんのりと温かく、土属性のマナが穏やかに流れているのが感じられた。
「ようやく、一区切りついたって感じだな」
隣でそう呟いたのはカイ。手に持ったパンをかじりながら、どこか満足そうな顔をしている。
「それにしてもさ、土の精霊って、こんなに……なんつーか、ちゃんと人間っぽいんだな。もっと無口で冷たいのかと思ってた」
「ふふ。失礼ね、カイ」
ロゥナが微笑みながら立ち上がる。
「土の精霊は、本来“命を育む者”よ。静かで、地味で、あまり目立たない。でも、根を張って守り続けるのが私たちの本質なの」
「……なんか、いいな」
僕はそんな会話を聞きながら、ロゥナから得たスキル【大地の加護】の効果を改めて確認する。ステータスウィンドウに意識を向けると、システムメッセージが表示された。
---
《スキル【大地の加護】詳細》
分類:パッシブスキル
効果1:土属性スキルのMP消費-25%
効果2:耐久力+15%/物理防御+10%
効果3:支援スキル【地纏の守り】が常時展開(物理被ダメージ軽減)
---
支援スキルの地纏(ちまとい)の守りが地味にありがたい。これ、戦闘の安定感が段違いになる。
(精霊との契約って、すごい……)
僕がしみじみと感動していると、ロゥナがふと空を見上げて呟いた。
「でも……まだ足りないわ」
「え?」
「この世界の“歪み”は、もっと深いところにある。精霊の神殿に封印されていた情報、それを探る必要があるわ」
僕はすぐに理解した。
「……精霊の記憶だね。禁忌とされた戦争の記憶」
ロゥナが静かに頷く。
「それを知るためには、他の精霊たちとも繋がらなければならない。かつて共に戦った、仲間たちのもとへ」
その言葉を聞き、僕の胸にまたひとつ火が灯った。
風の精霊・セフィア。水の精霊・セリューナ。そして土の精霊・ロゥナ。
彼女たちが口をそろえて言う“失われた記憶”と“精霊戦争”の真相。
それを明らかにするための旅は、まだ始まったばかりだ。
✳✳✳✳
「ところで、次の目的地って決まってるの?」
小さな焚き火を囲みながら、ルゥリィがぽつりと尋ねた。
僕は空を見上げて、深く息をつく。
「うん。セフィアからの手紙に書いてあった。次に向かうべきは……“風鳴く丘”の向こう、“精霊界への扉”がある場所だって」
「“風鳴く丘”? なんだか詩的な名前ね」
ロゥナが目を細めた。
「懐かしい場所……あそこには、風の精霊たちの古巣があったはずよ」
その時、僕の脳裏にふと浮かんだ映像がある。
あの、転生時に神様から見せられた「ガチャ演出」の最中に一瞬だけ挟まった、謎の“風がうねる高台”のような景色。
(……もしかして、あの場所?)
「向かってみよう、“精霊界への扉”に。今なら、ロゥナの加護もあるし、危険地帯を抜けるルートも開けるはずだ」
「異議なし!」
カイが元気よく手を挙げ、ルゥリィもにこやかに頷いた。
「私も行くわ。ロゥナと話して、もっと精霊のこと、知りたくなったの」
ロゥナは驚いたように目を見開いたが、すぐに柔らかな笑みを浮かべた。
「……ありがとう。あなたたちと一緒にいられるなら、それだけで嬉しい」
「さて……出発前にもう一度、装備とスキルを見直しておこうか」
僕は立ち上がり、再びステータスウィンドウを開いた。
---
《スキル進化通知》
スキル【精霊の加護:土】が【精霊リンク・ロゥナ】に進化しました。
▼効果変化
・土属性魔法の効果上昇(中)
・【土耐性+25%】追加
・【精霊リンクスロット:1】開放
新スキル【精霊リンク】が開放されました。
---
(……新しい枠ができた!?)
僕は驚きとともに確認する。
---
《精霊リンク》
説明:契約した精霊と精神的接続を深め、連携技やサポートスキルの発動を可能にする。
現在のリンク:ロゥナ
効果:戦闘中、一定確率で【自動防御:大地の盾】が発動
---
(なるほど……これが、精霊との“深化”か)
ただ契約するだけじゃなくて、心を通わせていくことで強くなる――。
冒険者というより、まるで“絆を紡ぐ旅人”みたいだ。
僕は思わず、ふっと笑っていた。
✳✳✳✳✳
「出発は明日の朝がいいな。まだこの神殿跡も不安定だし、休息はしっかり取っておこう」
そう言って皆に声をかけると、カイが伸びをしながらうなずいた。
「このあたり、夜の冷え込みも強いしな。ロゥナの魔法で土の壁とか作ってもらえると助かる」
「任せて。風を防げるような土壁を展開してあげる」
ロゥナが指先をすっと動かすと、地面から優しい弧を描いた土の壁がにょきりと生えてきた。焚き火の熱が逃げず、寒さを防いでくれる、まるで土のドームのようだ。
「すごい……。土の魔法って、こういう使い方もあるんだ」
ルゥリィが目を輝かせると、ロゥナは少し得意げな表情を浮かべた。
「精霊魔法は、戦うだけのものじゃない。大地は生きていて、守り、包み、支えてくれる。レクが選ばれたのは、そういう心があるからだと思うわ」
「そう……なのかな」
自信があるとは言い難いけど、そんなふうに言われると、少しだけ誇らしい気持ちになる。
その夜、焚き火の明かりに包まれながら、僕たちは交代で見張りをしつつ眠りについた。
――そして、夜が明ける。
神殿跡の奥、契約の間を出た僕たちは、古びた石碑の前に立っていた。
それは“精霊の碑”と呼ばれるもので、かつて各属性の精霊と契約を交わした者の記録が刻まれているという。
「レク。あれ……名前が浮かんでる」
ルゥリィが小声で言った。僕が視線を移すと、石碑の表面にうっすらとした光の文字が浮かび上がっていた。
---
【新たな契約者:レク・エルディアス】
・契約精霊:風、土(ロゥナ)
・契約段階:リンク進行中
・評価:安定進行、特異認定中
---
「……特異、認定?」
僕が首をかしげると、ロゥナが淡々と口を開いた。
「それは、精霊界の意思による判断。あなたの存在が通常の契約者と異なっていて、未来に干渉する力を持つと判断された時、刻まれる称号よ」
「つまり、“ちょっと変わったやつ”ってことか……」
思わず苦笑する僕に、ロゥナは少しだけ、くすりと笑った。
「ええ、でも――悪い意味じゃないわ」
「うん、そうだね」
その碑を背に、僕たちは神殿を離れる。
次に向かうは、“風鳴く丘”。セフィアが待つ地――風の記憶が眠る場所。
✳✳✳✳
神殿を後にした僕たちは、山を越えて南西の風鳴く丘を目指すことにした。
道中、ロゥナの作った浮遊石板(フローティングボード)に乗って移動することになり、なんだかRPGの乗り物イベント感がすごい。
「わああああ! 浮いてるううう!」
ルゥリィが叫びながら両腕を広げ、まるで空を飛んでいるかのように風を受けていた。
「この土の魔法、めちゃくちゃ便利だな……」
カイが呟くと、ロゥナが胸を張って答える。
「フローティング・アース。土と風の複合属性魔法。今のレクだからこそ制御できるのよ」
「え、俺がこれ操ってるの!?」
「ええ。契約者の魔力で浮かんでいるから、意識を切ると落ちるわよ?」
「いやそれ、早く言ってよ!!」
わちゃわちゃしたやりとりの中、空を滑るように進む魔法の板。風が心地よく、緑の草原がどこまでも広がっていた。
その時だった。
空気が、変わった。
ピン、と張り詰めるような気配。風が止み、一瞬の静寂。
すると、前方の丘の上に――ふわりと、白い影が現れた。
「……風、の精霊?」
僕が小さく呟くと、その影はまるでこちらを誘うように、軽やかに宙を舞った。
まるで――「来い」と言っているかのように。
「レク。あれはセフィアよ。風の精霊」
ロゥナがそっと囁いた。
「風鳴く丘に、私たちを導いているのね」
セフィア。僕が最初に出会った、風の精霊。その姿を、こうしてもう一度目にするとは思わなかった。
「……行こう。次の試練が、待ってる」
僕はそう言って、浮遊石板の先へと意識を集中させた。
風が、また吹き始める。
次なる試練は――風の地へ。
---
30
あなたにおすすめの小説
転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?
スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。
女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!?
ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか!
これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~
北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。
実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。
そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。
グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・
しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。
これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。
しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。
『ハズレスキルだ!』
同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。
そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる