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1章 転生ガチャで始まる異世界スローライ フ!? ポンコツ神と無自覚最強の村暮らし
第2話「のんびり素材集め!……のはずがトラブルの予感?」
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ギルド登録も無事(?)に終わり、俺はリィナとともに村で数日間を過ごしていた。
異世界初日の怒涛の展開から一転、ここ数日は平和そのもの。
朝起きては焚き火で朝食を作り、昼は村の周囲で素材集めや探索、夜は星を見ながら焚き火と会話――。
「これぞ、スローライフ……!」
まさに俺が夢に描いていた異世界生活そのものだった。
――だが、そんな平和は、あまり長くは続かない。
「レクさん、今日は素材集めに行きませんか?」
リィナがいつものように弁当(中身:焼き草の実と干し肉)を抱えて、俺の部屋にやってきた。
「いいね。そろそろ素材集めにも慣れたいしな」
◇◇◇
森の奥、光が差し込む小道を進みながら、俺たちは草を刈ったり、薬草らしきものを探したりしていた。
「これって……使える草かな?」
「うーん、たぶんただの雑草ですね。ほら、薬草なら葉脈がもっと……」
リィナの解説が地味に役に立つ。貴族の娘なのに、サバイバル知識が豊富なのは意外だ。
「スキル使って“鑑定”できたらなぁ……」
ぼやいた瞬間、目の前に光の粒が浮かぶ。
───────────────
《スキル:鑑定眼》を習得しました
効果:見た対象の真価・属性・用途などを解析し、情報表示
───────────────
「おおっ!? 出た! 願ったら即スキル発動!!」
俺が草に手をかざすと――
【アイテム名】ドクヨモギ草
【ランク】D
【効果】食用不可。軽度の毒。手袋必須。
【備考】誤って食べると腹を下します
───────────────
「……うわ、あぶねっ!? これ、今まで素手で摘んでたぞ!?」
「ドクヨモギ草!? それ、触っちゃダメです!!」
リィナが慌てて水筒の水で俺の手を洗ってくれた。
「うわー……スキルなかったら今ごろ大惨事だったかも……」
スローライフ、なめたらアカン。
◇◇◇
その後も順調に素材集めをしていたが、森の奥に近づくにつれ、リィナの表情が曇り始めた。
「……なんか、変です。鳥の声が少ないし、空気が重い」
「そういえば……確かに静かだな」
そのとき、遠くの茂みから“がさっ”と何かが動く音がした。
「レクさん……もしかして、またトラブルの予感……」
「やめてくれ、今回は平和に終わるって信じてたんだぞ……」
俺たちは身を低くして、ゆっくりと音のする方へ向かっていった。
✳✳✳✳✳
茂みの奥――そこには、異様な気配を放つ“何か”がいた。
「……あれって……魔獣、ですよね?」
「……ああ。見たことなくても、ヤバいってのは直感でわかるな」
全身を黒い毛皮に覆われた獣。
熊よりもひと回り大きく、両目は赤く輝き、牙は鋭く濡れていた。
その異様な姿に、リィナの声が震える。
「あ、あれは……《暗黒狼(ダークウルフ)》! Eランク冒険者でも複数人で挑まないと危険な魔獣です!」
「Eランク複数……って、無理ゲーじゃんかそれ」
足音を殺して後退しようとした瞬間、ダークウルフと目が合った。
「ぐるるるるるっ……!!」
耳を伏せ、突進の姿勢に入る魔獣。
「くっ、逃げる暇ない――!」
───────────────
《スキル:反射神経強化》が発動しました
《スキル:衝撃波》が連動します
───────────────
「うおおおおっ!!」
反射的に拳を振り抜いた。
次の瞬間――爆風が炸裂し、周囲の木々がなぎ倒される。
だが、ダークウルフは吹き飛ばされながらも起き上がり、怒り狂ってこちらへ向かってきた。
「マジか、耐えるのかよあれ!?」
「レクさん、下がってくださいっ!」
リィナが叫び、両手を前に突き出した。
「……ルクス・スフェラ――光よ、集え!」
彼女の手のひらから、まばゆい光の玉が生まれる。
「光魔法!? リィナ、お前魔法使えるのか!」
「ちょっとだけですっ! でも今は、これで――!」
光の玉が空中で爆ぜ、閃光と共にダークウルフの目を眩ませた。
「ナイスッ!! その隙に……!」
俺は一気に魔獣との距離を詰め、体勢を低く構える。
───────────────
《スキル:筋力強化》《スキル:連撃》が同時発動
───────────────
「これでも喰らえぇぇぇっ!!!」
拳の連撃が魔獣の腹に叩き込まれ、ようやくダークウルフは動かなくなった。
「はぁ、はぁ……なんで、スローライフのはずなのに……」
「……でも、勝てましたね」
リィナがほっとした顔で笑う。
「お前、すごいな。魔法使えるとか、実はすごいお嬢様なんじゃ……」
「えっと……それは、また今度……」
✳✳✳✳✳
ダークウルフの死体を前に、俺とリィナはへたり込んだ。
「ふぅ……さすがにヤバかったな……」
「でも、レクさんの拳、すごかったです!」
「俺のスキル、なんか勝手に発動してる感あるけどな……」
とりあえず素材を回収しておこうと、魔獣の牙や毛皮を慎重に取り出す。
「ギルドに持ち帰れば、結構な報酬になるはずです」
「よし、袋に詰めて――って、うおっ!? な、なんだこれ!」
突如、目の前に風が渦巻き、小さな光の粒が集まり始めた。
渦の中心から、ふわりと舞い降りたのは――小さな少女のような存在だった。
長い銀髪、透き通るような羽衣。目は翠色に輝いている。
「……あれ、妖精?」
「いえ……精霊です。風の精霊……!」
リィナが呆然とつぶやく。
すると、少女の姿がこちらに微笑みかけてきた。
「転生者よ。あなたの魂の波動、風が感じました」
「……は?」
「私は風精霊、フェリア。あなたに契約を求めます」
「え、ちょ、いきなり!? えっ?」
───────────────
《スキル:精霊との契約》が発動しました
精霊“フェリア”との風属性契約に成功!
特殊効果:「風の祝福」取得
・移動速度+50%
・空中移動補助
・風属性魔法の使用が可能になります
───────────────
「うおおおお!? またスキルきたーーー!?」
「れ、レクさん……本当に、普通の人じゃないですよね……?」
フェリアがくすりと笑う。
「我が主よ、これよりあなたの風となりましょう」
「主とかやめて!? 俺、スローライフしたいだけだから!!」
しかし、すでに風は、俺のまわりに寄り添うように流れ始めていた。
✳✳✳✳✳✳
俺とリィナとフェリア――新たな風の精霊を伴って、俺たちは村へと戻った。
途中、フェリアはずっと俺の肩に浮かぶように座っていた。軽やかな風の精霊は、まるで猫のように気まぐれで、そして自由だった。
「主よ、あれは食用の草か?」
「これはただの雑草……いや、もしかしたらスキルで鑑定したら――」
「また始まった……」
リィナは苦笑しながら、俺たちのやり取りを見守っている。
◇◇◇
村に戻った俺たちは、ギルド支部で報告を行った。
「ダークウルフを……お前たちだけで討伐したのか?」
ギルド職員の目が点になる。そりゃそうだ、Eランク冒険者でも数人がかりの魔獣だ。
「うん。リィナが光魔法でサポートしてくれて、俺が殴って……最後はなんか色々スキルが暴走して……」
「色々すごすぎて訳がわからん……」
報酬として渡されたのは、銀貨15枚とギルドポイント大幅加算。
さらに、ギルドの掲示板には“新人レク、討伐成功”の文字が貼り出される。
「……なんで目立ってんの、俺?」
「いや、あれは目立ちますって」
「スローライフってどこに行ったんだよおおお……!」
◇◇◇
その日の午後。フェリアが俺の部屋で、部屋中の空気をクルクルとかき混ぜていた。
「我が主よ、換気完了。湿度も最適に整えておいた」
「おお……すげぇ。除湿器も空気清浄機もいらん……!」
風の精霊による【生活補助スキル】は、スローライフ志望者にとって夢のようだった。
「お湯の加減も調整できるぞ?」
「風って便利すぎん?」
その様子を見ながら、リィナがふと静かに言った。
「……レクさん、本当にすごい人ですね。最初に会ったときは、ちょっと変な人かと思ったけど……」
「え、変な人って思ってたの!?」
「ふふっ、でも……今は、ちょっと羨ましいなって。私にも、こんな出会いがあればよかったのにって……」
リィナの横顔が、少しだけ寂しそうだった。
✳✳✳✳✳✳
翌日――俺は決意した。
「畑を……作る!」
スローライフに欠かせないのは、やっぱり自給自足!
食料の確保と、ちょっとした充実感。それを満たすのが畑仕事だ。
「主よ、なぜ突然?」
「フェリア、俺はもう目立ちたくない。だから……地味に、静かに、土を耕したい!」
「風の力で耕せば、一瞬ですぞ?」
「それじゃ意味ねぇ!」
ということで、リィナにも協力をお願いし、村の片隅にある空き地を借りることになった。
◇◇◇
「レクさん、本当に畑なんて作るんですか?」
「本気だ。俺はこの世界で、農業系転生者になる!」
「……戦闘職じゃなかったんですか?」
「いや、違うんだ。戦うのは緊急時だけで、基本はのんびり、畑とスキルとたまに精霊!」
鍬を手に、土を掘る。耕す。汗が額を流れる。
「おぉ……! これが……スローライフの……実感……!」
「無駄に感動してますけど、腰を痛めないでくださいね」
リィナが日除けの布を俺にかけてくれる。
……そんな何気ないやり取りが、なんだか心地よかった。
◇◇◇
午後、作業の休憩中。
木陰で水を飲んでいると、リィナがポツリと口を開いた。
「……私、前はもっと遠くの町に住んでいたんです」
「うん?」
「父は騎士で、母は魔法使いで……。でも、ある日……町が魔獣に襲われて……」
その言葉に、フェリアがそっと風を揺らした。
「……リィナ」
「助かったのは、私と……旅商人の馬車で逃げてきた使用人だけでした」
リィナの瞳は、まっすぐだった。弱さじゃなく、静かな強さがそこにあった。
「それからは……ただ、“生きる場所”を探してたんです」
俺は、言葉もなく彼女の隣に腰を下ろした。
「ここなら、見つかるかもな」
「え?」
「スローライフってやつだよ。畑と、精霊と、魔法と……仲間と一緒に」
彼女は少しだけ、目を細めて笑った。
✳✳✳✳✳✳
畑作りが始まって三日目――。
俺の生活は、すっかり“朝・鍬・昼・休憩・夕方の風呂”というリズムに馴染んでいた。
「ふっふっふ……見ろ、リィナ。ついに芽が出たぞ」
「すごいですね、レクさん! これはニンジン……じゃなくて、“キャルロ草”です」
「野菜名が微妙にファンタジー!」
そんなのどかな日々の中、風の精霊・フェリアも“生活特化型”として活躍していた。
「主よ、本日の湿度は60%、午後から風向きが南東に変わります」
「なんか天気予報っぽいのキタ!?」
「予測スキル“風読み”を使っております」
畑に水をやるタイミングや、作業の時間配分までフェリアが調整してくれるため、作業効率が抜群に良い。
「このままいけば、今月中に初収穫いけそうですね」
「ふふっ、そしてそれを使って料理して……自給自足完成か……」
リィナと俺の間に、ささやかな満足感が広がっていた。
◇◇◇
その日、村の広場で“収穫祭の準備会議”が開かれていた。
「今年は雨が少なくて作物の育ちが遅くてな……」
「でも、レクさんの畑はすごいって噂ですよ!」
村のおばあちゃんたちに囲まれ、俺はなんか農業指南役になりかけていた。
「この草は、湿度に弱いですから、風通しを……」
「あらぁ、若いのに頼もしいねぇ」
――いや、俺、農業素人なんですけど!!
だがフェリアが横から耳打ちしてくれる情報が的確なので、つい“できる男”っぽくなってしまう。
◇◇◇
その夜。
「主よ、風の流れが不穏です」
「え?」
「北方から、低気圧の塊が接近中。魔素濃度も高い……」
「……つまり?」
「明日の午後、局地的な“魔素嵐”が予想されます」
――スローライフ、再び試練の予感。
✳✳✳✳✳✳✳
翌日、午後――空は重たい灰色に染まり、不気味な風が吹き始めた。
「……フェリアの言ったとおりだな。これが“魔素嵐”……」
「はい。通常の嵐とは違い、魔力を帯びた風が植物や建物、さらには人間の体調にも悪影響を及ぼします」
リィナが真剣な表情で説明する。
村人たちは家に閉じこもり、外には誰もいない。俺たちの畑も、強風に煽られていた。
「ダメだ、このままじゃ……せっかく育てた作物が……!」
「我が主よ。風の力を使い、一定時間、防御障壁を展開できます。ただし、魔素密度が上昇すれば……」
「やるしかない!」
───────────────
《風障壁:フェリア・バリア》展開中
持続時間:30分
防御対象:作物・土壌・周辺空間
───────────────
「すげぇ! 風の壁で畑が包まれてる!」
「ですが、風圧が上がってきています……ッ!」
そのとき――俺の胸の奥が、ジリリと熱を帯びた。
「っ……なんだ、この感じ……?」
───────────────
《ユニークスキル:風鎮(ふうちん)》発現の兆し
契約精霊との親和度上昇により、風属性統御力が高まっています
───────────────
「新スキル、きた……!?」
「レクさん……!」
風の奔流の中、俺は前へと歩き出す。
「風よ……俺の声、聞こえるか?」
「……主よ。今、風はあなたを中心に集まりつつあります」
「なら……この風ごと、抑えてやる!」
───────────────
《ユニークスキル:風鎮》発動
効果:周囲半径50mの風属性魔素を沈静化
副効果:植物への浸透回避・結界補強
───────────────
風が、静まった。
嵐の中心で、俺たちは立っていた。
畑も、村も――無事だった。
◇◇◇
「……本当に、スローライフがしたかったんですけどね」
「ふふっ。でも、あなたのおかげで……守れましたよ」
リィナの微笑みに、フェリアの風が心地よく吹いた。
「次こそは、平和な日常……頼むぞ……?」
異世界初日の怒涛の展開から一転、ここ数日は平和そのもの。
朝起きては焚き火で朝食を作り、昼は村の周囲で素材集めや探索、夜は星を見ながら焚き火と会話――。
「これぞ、スローライフ……!」
まさに俺が夢に描いていた異世界生活そのものだった。
――だが、そんな平和は、あまり長くは続かない。
「レクさん、今日は素材集めに行きませんか?」
リィナがいつものように弁当(中身:焼き草の実と干し肉)を抱えて、俺の部屋にやってきた。
「いいね。そろそろ素材集めにも慣れたいしな」
◇◇◇
森の奥、光が差し込む小道を進みながら、俺たちは草を刈ったり、薬草らしきものを探したりしていた。
「これって……使える草かな?」
「うーん、たぶんただの雑草ですね。ほら、薬草なら葉脈がもっと……」
リィナの解説が地味に役に立つ。貴族の娘なのに、サバイバル知識が豊富なのは意外だ。
「スキル使って“鑑定”できたらなぁ……」
ぼやいた瞬間、目の前に光の粒が浮かぶ。
───────────────
《スキル:鑑定眼》を習得しました
効果:見た対象の真価・属性・用途などを解析し、情報表示
───────────────
「おおっ!? 出た! 願ったら即スキル発動!!」
俺が草に手をかざすと――
【アイテム名】ドクヨモギ草
【ランク】D
【効果】食用不可。軽度の毒。手袋必須。
【備考】誤って食べると腹を下します
───────────────
「……うわ、あぶねっ!? これ、今まで素手で摘んでたぞ!?」
「ドクヨモギ草!? それ、触っちゃダメです!!」
リィナが慌てて水筒の水で俺の手を洗ってくれた。
「うわー……スキルなかったら今ごろ大惨事だったかも……」
スローライフ、なめたらアカン。
◇◇◇
その後も順調に素材集めをしていたが、森の奥に近づくにつれ、リィナの表情が曇り始めた。
「……なんか、変です。鳥の声が少ないし、空気が重い」
「そういえば……確かに静かだな」
そのとき、遠くの茂みから“がさっ”と何かが動く音がした。
「レクさん……もしかして、またトラブルの予感……」
「やめてくれ、今回は平和に終わるって信じてたんだぞ……」
俺たちは身を低くして、ゆっくりと音のする方へ向かっていった。
✳✳✳✳✳
茂みの奥――そこには、異様な気配を放つ“何か”がいた。
「……あれって……魔獣、ですよね?」
「……ああ。見たことなくても、ヤバいってのは直感でわかるな」
全身を黒い毛皮に覆われた獣。
熊よりもひと回り大きく、両目は赤く輝き、牙は鋭く濡れていた。
その異様な姿に、リィナの声が震える。
「あ、あれは……《暗黒狼(ダークウルフ)》! Eランク冒険者でも複数人で挑まないと危険な魔獣です!」
「Eランク複数……って、無理ゲーじゃんかそれ」
足音を殺して後退しようとした瞬間、ダークウルフと目が合った。
「ぐるるるるるっ……!!」
耳を伏せ、突進の姿勢に入る魔獣。
「くっ、逃げる暇ない――!」
───────────────
《スキル:反射神経強化》が発動しました
《スキル:衝撃波》が連動します
───────────────
「うおおおおっ!!」
反射的に拳を振り抜いた。
次の瞬間――爆風が炸裂し、周囲の木々がなぎ倒される。
だが、ダークウルフは吹き飛ばされながらも起き上がり、怒り狂ってこちらへ向かってきた。
「マジか、耐えるのかよあれ!?」
「レクさん、下がってくださいっ!」
リィナが叫び、両手を前に突き出した。
「……ルクス・スフェラ――光よ、集え!」
彼女の手のひらから、まばゆい光の玉が生まれる。
「光魔法!? リィナ、お前魔法使えるのか!」
「ちょっとだけですっ! でも今は、これで――!」
光の玉が空中で爆ぜ、閃光と共にダークウルフの目を眩ませた。
「ナイスッ!! その隙に……!」
俺は一気に魔獣との距離を詰め、体勢を低く構える。
───────────────
《スキル:筋力強化》《スキル:連撃》が同時発動
───────────────
「これでも喰らえぇぇぇっ!!!」
拳の連撃が魔獣の腹に叩き込まれ、ようやくダークウルフは動かなくなった。
「はぁ、はぁ……なんで、スローライフのはずなのに……」
「……でも、勝てましたね」
リィナがほっとした顔で笑う。
「お前、すごいな。魔法使えるとか、実はすごいお嬢様なんじゃ……」
「えっと……それは、また今度……」
✳✳✳✳✳
ダークウルフの死体を前に、俺とリィナはへたり込んだ。
「ふぅ……さすがにヤバかったな……」
「でも、レクさんの拳、すごかったです!」
「俺のスキル、なんか勝手に発動してる感あるけどな……」
とりあえず素材を回収しておこうと、魔獣の牙や毛皮を慎重に取り出す。
「ギルドに持ち帰れば、結構な報酬になるはずです」
「よし、袋に詰めて――って、うおっ!? な、なんだこれ!」
突如、目の前に風が渦巻き、小さな光の粒が集まり始めた。
渦の中心から、ふわりと舞い降りたのは――小さな少女のような存在だった。
長い銀髪、透き通るような羽衣。目は翠色に輝いている。
「……あれ、妖精?」
「いえ……精霊です。風の精霊……!」
リィナが呆然とつぶやく。
すると、少女の姿がこちらに微笑みかけてきた。
「転生者よ。あなたの魂の波動、風が感じました」
「……は?」
「私は風精霊、フェリア。あなたに契約を求めます」
「え、ちょ、いきなり!? えっ?」
───────────────
《スキル:精霊との契約》が発動しました
精霊“フェリア”との風属性契約に成功!
特殊効果:「風の祝福」取得
・移動速度+50%
・空中移動補助
・風属性魔法の使用が可能になります
───────────────
「うおおおお!? またスキルきたーーー!?」
「れ、レクさん……本当に、普通の人じゃないですよね……?」
フェリアがくすりと笑う。
「我が主よ、これよりあなたの風となりましょう」
「主とかやめて!? 俺、スローライフしたいだけだから!!」
しかし、すでに風は、俺のまわりに寄り添うように流れ始めていた。
✳✳✳✳✳✳
俺とリィナとフェリア――新たな風の精霊を伴って、俺たちは村へと戻った。
途中、フェリアはずっと俺の肩に浮かぶように座っていた。軽やかな風の精霊は、まるで猫のように気まぐれで、そして自由だった。
「主よ、あれは食用の草か?」
「これはただの雑草……いや、もしかしたらスキルで鑑定したら――」
「また始まった……」
リィナは苦笑しながら、俺たちのやり取りを見守っている。
◇◇◇
村に戻った俺たちは、ギルド支部で報告を行った。
「ダークウルフを……お前たちだけで討伐したのか?」
ギルド職員の目が点になる。そりゃそうだ、Eランク冒険者でも数人がかりの魔獣だ。
「うん。リィナが光魔法でサポートしてくれて、俺が殴って……最後はなんか色々スキルが暴走して……」
「色々すごすぎて訳がわからん……」
報酬として渡されたのは、銀貨15枚とギルドポイント大幅加算。
さらに、ギルドの掲示板には“新人レク、討伐成功”の文字が貼り出される。
「……なんで目立ってんの、俺?」
「いや、あれは目立ちますって」
「スローライフってどこに行ったんだよおおお……!」
◇◇◇
その日の午後。フェリアが俺の部屋で、部屋中の空気をクルクルとかき混ぜていた。
「我が主よ、換気完了。湿度も最適に整えておいた」
「おお……すげぇ。除湿器も空気清浄機もいらん……!」
風の精霊による【生活補助スキル】は、スローライフ志望者にとって夢のようだった。
「お湯の加減も調整できるぞ?」
「風って便利すぎん?」
その様子を見ながら、リィナがふと静かに言った。
「……レクさん、本当にすごい人ですね。最初に会ったときは、ちょっと変な人かと思ったけど……」
「え、変な人って思ってたの!?」
「ふふっ、でも……今は、ちょっと羨ましいなって。私にも、こんな出会いがあればよかったのにって……」
リィナの横顔が、少しだけ寂しそうだった。
✳✳✳✳✳✳
翌日――俺は決意した。
「畑を……作る!」
スローライフに欠かせないのは、やっぱり自給自足!
食料の確保と、ちょっとした充実感。それを満たすのが畑仕事だ。
「主よ、なぜ突然?」
「フェリア、俺はもう目立ちたくない。だから……地味に、静かに、土を耕したい!」
「風の力で耕せば、一瞬ですぞ?」
「それじゃ意味ねぇ!」
ということで、リィナにも協力をお願いし、村の片隅にある空き地を借りることになった。
◇◇◇
「レクさん、本当に畑なんて作るんですか?」
「本気だ。俺はこの世界で、農業系転生者になる!」
「……戦闘職じゃなかったんですか?」
「いや、違うんだ。戦うのは緊急時だけで、基本はのんびり、畑とスキルとたまに精霊!」
鍬を手に、土を掘る。耕す。汗が額を流れる。
「おぉ……! これが……スローライフの……実感……!」
「無駄に感動してますけど、腰を痛めないでくださいね」
リィナが日除けの布を俺にかけてくれる。
……そんな何気ないやり取りが、なんだか心地よかった。
◇◇◇
午後、作業の休憩中。
木陰で水を飲んでいると、リィナがポツリと口を開いた。
「……私、前はもっと遠くの町に住んでいたんです」
「うん?」
「父は騎士で、母は魔法使いで……。でも、ある日……町が魔獣に襲われて……」
その言葉に、フェリアがそっと風を揺らした。
「……リィナ」
「助かったのは、私と……旅商人の馬車で逃げてきた使用人だけでした」
リィナの瞳は、まっすぐだった。弱さじゃなく、静かな強さがそこにあった。
「それからは……ただ、“生きる場所”を探してたんです」
俺は、言葉もなく彼女の隣に腰を下ろした。
「ここなら、見つかるかもな」
「え?」
「スローライフってやつだよ。畑と、精霊と、魔法と……仲間と一緒に」
彼女は少しだけ、目を細めて笑った。
✳✳✳✳✳✳
畑作りが始まって三日目――。
俺の生活は、すっかり“朝・鍬・昼・休憩・夕方の風呂”というリズムに馴染んでいた。
「ふっふっふ……見ろ、リィナ。ついに芽が出たぞ」
「すごいですね、レクさん! これはニンジン……じゃなくて、“キャルロ草”です」
「野菜名が微妙にファンタジー!」
そんなのどかな日々の中、風の精霊・フェリアも“生活特化型”として活躍していた。
「主よ、本日の湿度は60%、午後から風向きが南東に変わります」
「なんか天気予報っぽいのキタ!?」
「予測スキル“風読み”を使っております」
畑に水をやるタイミングや、作業の時間配分までフェリアが調整してくれるため、作業効率が抜群に良い。
「このままいけば、今月中に初収穫いけそうですね」
「ふふっ、そしてそれを使って料理して……自給自足完成か……」
リィナと俺の間に、ささやかな満足感が広がっていた。
◇◇◇
その日、村の広場で“収穫祭の準備会議”が開かれていた。
「今年は雨が少なくて作物の育ちが遅くてな……」
「でも、レクさんの畑はすごいって噂ですよ!」
村のおばあちゃんたちに囲まれ、俺はなんか農業指南役になりかけていた。
「この草は、湿度に弱いですから、風通しを……」
「あらぁ、若いのに頼もしいねぇ」
――いや、俺、農業素人なんですけど!!
だがフェリアが横から耳打ちしてくれる情報が的確なので、つい“できる男”っぽくなってしまう。
◇◇◇
その夜。
「主よ、風の流れが不穏です」
「え?」
「北方から、低気圧の塊が接近中。魔素濃度も高い……」
「……つまり?」
「明日の午後、局地的な“魔素嵐”が予想されます」
――スローライフ、再び試練の予感。
✳✳✳✳✳✳✳
翌日、午後――空は重たい灰色に染まり、不気味な風が吹き始めた。
「……フェリアの言ったとおりだな。これが“魔素嵐”……」
「はい。通常の嵐とは違い、魔力を帯びた風が植物や建物、さらには人間の体調にも悪影響を及ぼします」
リィナが真剣な表情で説明する。
村人たちは家に閉じこもり、外には誰もいない。俺たちの畑も、強風に煽られていた。
「ダメだ、このままじゃ……せっかく育てた作物が……!」
「我が主よ。風の力を使い、一定時間、防御障壁を展開できます。ただし、魔素密度が上昇すれば……」
「やるしかない!」
───────────────
《風障壁:フェリア・バリア》展開中
持続時間:30分
防御対象:作物・土壌・周辺空間
───────────────
「すげぇ! 風の壁で畑が包まれてる!」
「ですが、風圧が上がってきています……ッ!」
そのとき――俺の胸の奥が、ジリリと熱を帯びた。
「っ……なんだ、この感じ……?」
───────────────
《ユニークスキル:風鎮(ふうちん)》発現の兆し
契約精霊との親和度上昇により、風属性統御力が高まっています
───────────────
「新スキル、きた……!?」
「レクさん……!」
風の奔流の中、俺は前へと歩き出す。
「風よ……俺の声、聞こえるか?」
「……主よ。今、風はあなたを中心に集まりつつあります」
「なら……この風ごと、抑えてやる!」
───────────────
《ユニークスキル:風鎮》発動
効果:周囲半径50mの風属性魔素を沈静化
副効果:植物への浸透回避・結界補強
───────────────
風が、静まった。
嵐の中心で、俺たちは立っていた。
畑も、村も――無事だった。
◇◇◇
「……本当に、スローライフがしたかったんですけどね」
「ふふっ。でも、あなたのおかげで……守れましたよ」
リィナの微笑みに、フェリアの風が心地よく吹いた。
「次こそは、平和な日常……頼むぞ……?」
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なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~
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異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
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※小説家になろう様にも掲載しています。
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詳細は近況ボードをご覧ください。
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