18 / 25
第二章 ひょっとして、いい人?
08 心に決めた人
門番さんの話によれば、アンデッドが現れたのは壁の外を少し行った森の中であるらしい。少年はそこで野草を摘んでいたところを突然囲まれて、命からがら逃げ出してきたそうだ。
野草摘みには彼一人で出向いていたらしく、彼以外に証人はいないわけだけど、少年の腕に残った噛み痕を見てしまうと、彼の証言を疑う気にはなれなかった。
「今は丁度、街の衛兵隊が出払っていたところでして……もしよければ聖騎士様のお力を借りられないかと……」
たどたどしく言葉を紡ぎながらもその後すぐさま「もちろん、お礼は致しますので!」と続ける彼からは、随分と誠実な印象を受ける。
今向かい合って話しているのは私の方だけれど、フェリクス様もそろそろ少年の治療を終えるころであるはずだ。正直、わざわざ頼まれなくたって、断る理由なんて無いように思えるけれど……
「断る」
「えっ、どうしてですか!?」
予想と真逆の一言に、私は思わず声を上げてしまう。本来なら、門番さんが尋ねるべきことだったかもしれないけれど、それでも我慢はできなかった。
「今は休職中だと言っただろう。それに、正確な敵の数もわからないのに、一人で突っ込んでいくなんて無謀が過ぎる」
「……あなたなら、アンデッドごときに遅れをとったりしないはずでは?」
記憶の中のフェリクスはただのアンデットが数十……いや、もしかすると数百体束になってもかなわない程の達人だった。目を覚ました直後の攻防から察するに、その腕が落ちているとは考えづらい。
「それでも、危険は冒せない」
「その決断が、誰かを危険にさらすとしても?」
「だとしても、俺には関係のないことだ」
だから、私にはわかる。一連の彼の発言が、本来の意図を隠すための詭弁であるということが。今の彼は、なんらか別の理由をもって、アンデットの討伐をしぶっているということが。
「フェリクス様」
だから、私は少し卑怯なやり方で彼に聞く。
「あなたは、誰の味方なんですか?」
それは、十年前の護衛時代、戦う理由を見失いそうになった彼に、何度も何度も尋ねた質問。私の勘違いでなければ、彼の心構え、そう大きく変わってはいないはずだ。
「……俺は、心に決めた人の味方だ」
この受け答えも、いつも通り。心の底から納得したわけではないだろうけど、ひとまず折れてはくれたらしい。
「だったら、悩む必要もないのでは?」
私がそう続けると、彼は苦々しい表情を浮かべて目を逸らした。
「……俺が行っている間、あんたはどうするんだ」
「え、私ですか?」
「ああ。街に残すにしたって、丸腰で置いていくわけにもいかないだろ」
「あー……なるほど?」
意外な理由だったけれど、聞いてみれば確かに納得だ。一応今の私はそれなりに令嬢らしい身なりを整えてしまっている上に、大した護衛もつけていない。
そんな身なりの女性が一人で街中を出歩けばどうなるか、私だって長きにわたる護衛生活の中で、理解しなかったわけじゃない。
でもそれなら、なおさら単純な話じゃないかな?
「でしたら門番さん、この辺りに衛兵団の詰所があるはずですよね?」
「は……はい。もちろんありますが……」
「待てエルカ。何を考えてる」
フェリクス様も私の意図を察したらしく、治療を終えた少年の方から私の方へ詰め寄って来ている。彼も一応尋ねてはいるけれど、大体察しはついているんだろう。
「でしたら、いくらか武具を貸してください。私と彼で、アンデットたちを殲滅してきますので」
簡単な話。私が一人でいるのが心配だっていうのなら、最初から二人でいればいいだけの話ですよね?
野草摘みには彼一人で出向いていたらしく、彼以外に証人はいないわけだけど、少年の腕に残った噛み痕を見てしまうと、彼の証言を疑う気にはなれなかった。
「今は丁度、街の衛兵隊が出払っていたところでして……もしよければ聖騎士様のお力を借りられないかと……」
たどたどしく言葉を紡ぎながらもその後すぐさま「もちろん、お礼は致しますので!」と続ける彼からは、随分と誠実な印象を受ける。
今向かい合って話しているのは私の方だけれど、フェリクス様もそろそろ少年の治療を終えるころであるはずだ。正直、わざわざ頼まれなくたって、断る理由なんて無いように思えるけれど……
「断る」
「えっ、どうしてですか!?」
予想と真逆の一言に、私は思わず声を上げてしまう。本来なら、門番さんが尋ねるべきことだったかもしれないけれど、それでも我慢はできなかった。
「今は休職中だと言っただろう。それに、正確な敵の数もわからないのに、一人で突っ込んでいくなんて無謀が過ぎる」
「……あなたなら、アンデッドごときに遅れをとったりしないはずでは?」
記憶の中のフェリクスはただのアンデットが数十……いや、もしかすると数百体束になってもかなわない程の達人だった。目を覚ました直後の攻防から察するに、その腕が落ちているとは考えづらい。
「それでも、危険は冒せない」
「その決断が、誰かを危険にさらすとしても?」
「だとしても、俺には関係のないことだ」
だから、私にはわかる。一連の彼の発言が、本来の意図を隠すための詭弁であるということが。今の彼は、なんらか別の理由をもって、アンデットの討伐をしぶっているということが。
「フェリクス様」
だから、私は少し卑怯なやり方で彼に聞く。
「あなたは、誰の味方なんですか?」
それは、十年前の護衛時代、戦う理由を見失いそうになった彼に、何度も何度も尋ねた質問。私の勘違いでなければ、彼の心構え、そう大きく変わってはいないはずだ。
「……俺は、心に決めた人の味方だ」
この受け答えも、いつも通り。心の底から納得したわけではないだろうけど、ひとまず折れてはくれたらしい。
「だったら、悩む必要もないのでは?」
私がそう続けると、彼は苦々しい表情を浮かべて目を逸らした。
「……俺が行っている間、あんたはどうするんだ」
「え、私ですか?」
「ああ。街に残すにしたって、丸腰で置いていくわけにもいかないだろ」
「あー……なるほど?」
意外な理由だったけれど、聞いてみれば確かに納得だ。一応今の私はそれなりに令嬢らしい身なりを整えてしまっている上に、大した護衛もつけていない。
そんな身なりの女性が一人で街中を出歩けばどうなるか、私だって長きにわたる護衛生活の中で、理解しなかったわけじゃない。
でもそれなら、なおさら単純な話じゃないかな?
「でしたら門番さん、この辺りに衛兵団の詰所があるはずですよね?」
「は……はい。もちろんありますが……」
「待てエルカ。何を考えてる」
フェリクス様も私の意図を察したらしく、治療を終えた少年の方から私の方へ詰め寄って来ている。彼も一応尋ねてはいるけれど、大体察しはついているんだろう。
「でしたら、いくらか武具を貸してください。私と彼で、アンデットたちを殲滅してきますので」
簡単な話。私が一人でいるのが心配だっていうのなら、最初から二人でいればいいだけの話ですよね?
あなたにおすすめの小説
幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない
ラム猫
恋愛
幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。
その後、十年以上彼と再会することはなかった。
三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。
しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。
それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。
「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」
「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」
※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。
※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
妹の学費欲しさに身代わりとして後宮に入ったら王太子からの思わぬ溺愛が待ち受けていました
西瓜酢昆布
恋愛
妹の学費のため主人の身代わりとして後宮に入ることとなったミミ
目立つことなく入宮期間を乗り切りあと一週間で後宮から出られるというタイミングで王太子宮から使いの者がやってきた、なんと本日お渡りがあるという連絡だった。
果たして身代わりであるミミは無事に後宮から出られるのか。
死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について
えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。
しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。
その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。
死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。
戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
悪役令嬢になったようなので、婚約者の為に身を引きます!!!
夕香里
恋愛
王子に婚約破棄され牢屋行き。
挙句の果てには獄中死になることを思い出した悪役令嬢のアタナシアは、家族と王子のために自分の心に蓋をして身を引くことにした。
だが、アタナシアに甦った記憶と少しずつ違う部分が出始めて……?
酷い結末を迎えるくらいなら自分から身を引こうと決めたアタナシアと王子の話。
※小説家になろうでも投稿しています
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
一夜限りの関係だったはずなのに、責任を取れと迫られてます。
甘寧
恋愛
魔女であるシャルロッテは、偉才と呼ばれる魔導師ルイースとひょんなことから身体の関係を持ってしまう。
だがそれはお互いに同意の上で一夜限りという約束だった。
それなのに、ルイースはシャルロッテの元を訪れ「責任を取ってもらう」と言い出した。
後腐れのない関係を好むシャルロッテは、何とかして逃げようと考える。しかし、逃げれば逃げるだけ愛が重くなっていくルイース…
身体から始まる恋愛模様◎
※タイトル一部変更しました。