剣と竜の世界に生まれて〜田舎村の怪力娘。強すぎて戦場で武勲を挙げまくる〜

林美鈴

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第一章 爆速出世街道!蛮族を屠り、陰謀を砕き、巨人の王に認められるまで

第2話 タブロの戦い。吹雪から仲間を守った慈悲の手が、蛮族を蹂躙する瞬間

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 カミーユは、村を見下ろす小さな丘にたどり着いた。

 吹雪はすでに止み、村の幾つかの建物からは火の手が上がっていた。

 タブロ村は、三十戸ほどの家を持つ村だ。周囲には柵が設けられている。

 カミーユの耳に争いの喧騒が聞こえる。
 村人たちはバリケードを築き、蛮族たちと戦っていた。

 丘の上で耳を澄ます。カミーユの聴力は並の人間を大きく上回る。

「壊せ、壊せ、壊せ。村人なんて蹴散らせ」
「突け、突け、突け。蛮族共を近づけるな」

 村人と蛮族の叫び声が聞こえる。まだ戦局は拮抗している様子だった。

 村人は、少数の男たちが、槍や三つまたをバリケードの間から突き出している。

 蛮族たちは手に槍や斧を持ち、バリケードを崩そうと襲いかかっている。

 蛮族の数は百を超えるほどで、このままではいずれ、バリケードは破られてしまうだろう。

 カミーユは村に馬首を向け、タブロ村を取り囲む蛮族たちに向かって駆け出した。

 木材の焦げる匂いと、僅かな血の匂い。村人と蛮族の叫び声。村の中央からは子供の泣き声も聞こえる。

 刃と刃がバリケードを挟んで激しくぶつかる。

 そんな中、蛮族たちに、馬上で抜刀したカミーユが迫る。

 蛮族たちは自らの背後に迫る馬蹄の音に振り返る。

 突進する騎馬の姿に一瞬たじろぐが、一騎駆けであることを確認すると、蛮族は騎士、カミーユを嘲り、槍を振り上げて迎え撃つ。

 蛮族たちは慢心する。百の味方がいるのだと。

 カミーユは蛮族たちが構える槍に向かって疾駆する。

 そして、愛馬を跳ねさせ、蛮族たちの槍を躱し、一人の蛮族を馬蹄で踏みつけ、昏倒させる。

 蛮族の群れの只中に入ったカミーユは、愛馬を駆けさせたまま、蛮族たちを見据える。

 そして、自らの身体に流れる血に満たされた魔力を感じ、それを体中にめぐらせる。

 カミーユが纏う鎧の下で、その魔力によって全身の筋肉が隆起する。

 この力は村の賢者によると、隔世遺伝により、カミーユの体の血が、竜の血として発現したものだという。

 ミシリと、カミーユが握る剣の柄から音が鳴る。木製の柄がその握力に悲鳴を上げる。

 刹那、その筋力が爆発した。

 音よりも疾く閃いた剣が、蛮族の首を一度に数個切り飛ばす。

 カミーユの愛馬は蛮族たちの間を巧みに駆け、主であるカミーユを次の獲物に誘導する。

 カミーユは再び剣を振り抜く。両断された蛮族の上半身が二つ空に舞った。

 そのまま騎馬は駆け続け、剣が幾度も振り抜かれる。蛮族の群れの中に血煙が上がる。

 カミーユに切られた蛮族が二十人を超える頃、彼女が振り抜いた剣が、高い音をたて、その真ん中で断ち折れた。

 鋼の剣が、カミーユの筋力に耐えきれなかったのだ。

 蛮族たちはカミーユに恐れをなし、円陣を組むように距離を取っていた。

 しかし、剣が折れたことを好機と見、蛮族の族長が叫ぶ。

「突け、突け、突け。あの騎士を突き殺せ」

 周囲にいた十数人の蛮族たちは、騎士に向かって、一斉に槍を突き出した。

 カミーユは見事な甲冑を身に着けている。

 しかし、そんな鎧でも関節の隙間はある。

 その僅かな隙間、カミーユの脇の下に、蛮族の槍の穂先が一つ滑り込んだ。

 その時、鉱物を叩いたような澄んだ音が鳴り響いた。

 カミーユは、折れた剣を手放す。鎧の隙間に入った槍の穂先を右腕で挟み込み、ひねって振り回す。

 槍の石突き側がゴウと風を立ててうなり。周囲の蛮族たちを打ちのめす。

 蛮族たちは内臓を潰され、頭蓋を割られ、飛んでいった。

 カミーユは奪った槍を構え直し、その中頃を握り、肩の上に持ち上げ、投げつける。

 音を置き去り、槍の軌跡がまっすぐに伸びる。

 その先には、先ほど声を上げた蛮族の族長がいた。

 蛮族の族長の胸に大穴が開き、背後の蛮族三人の体も貫いてゆく。

 ここに至り、蛮族たちの士気はくじかれ、散り散りに逃げ始めた。

 カミーユは村人たちに向き直る。

「私は騎士カミーユ。諸君らの身を守りに来たものだ。村長はおられるか」

 凛とした声を発し、バリケードの向こうの村人たちを見渡す。

 バリケードの向こう、槍や三つまたを持ったタブロ村の男衆は、先ほどの騎士カミーユの戦いぶりを見て、呆然としている。

 カミーユは再び声を発する。
「重ねて言う。村長はおられるか。また、怪我人はいないか」

 ハッとした男が、カミーユの声に応える。

「村長は、村の中にいます。怪我人は、槍で刺されたものと、火傷したものが十人ほどおります。村長と、一緒の建物です」

 男は言葉に詰まりながらも、騎士カミーユの問いに答えた。

「なるほど、蛮族たちはもう戻っては来ないでしょう。障害物を取り除いても問題ありませんか」
 村人たちは顔を見合わせる。

「それと、怪我人の元に案内していただけますか。私が診ます。安心してください」

 そう言うと、騎士カミーユは兜を外す。

 編み込んだ金髪が流れ、十代半ばの美しい少女の顔が現れる。
 その表情は微笑み、村人たちを安堵させた。

「は、はい。ありがとうございます。今、バリケードは除けますので」

 村人は周囲の男衆に声をかけ、木材を退けようと手をかける。

「怪我人をすぐ診たいと思います。離れてください」

 カミーユはそう言うと下馬し、バリケードに手をかける。

 大の男三人がかりで運んできた木材を、カミーユは片手で次々と取り除いていく。

 そうして村の中に入ったカミーユは、再び村人たちに微笑んだ。

「それで、怪我人はどちらにいらっしゃいますか」

「はい。こちらです。えっと、カミーユ様」
 カミーユの怪力に恐れをなした村人たち。

 その中から、一人の若者が前に出て、カミーユの案内を買って出た。

 戦の狂騒が去った直後ではあるが、若者はカミーユの美しい顔に赤面してしまう。

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

 お礼を言うカミーユに、村人はさらに顔を赤くする。
 カミーユは愛馬の手綱を取り、村の中央へ案内される。

 村の中央には集会所があり、槍を持った老人が数人立っていた。

 カミーユを案内した若者が村人たちに声をかけ、カミーユは集会所の中へ迎え入れられた。

 集会所の中は、村の避難所となっていた。女子供、老人たちが集まり、寄り添っていた。

 集会所の片隅には、毛布が敷かれ、包帯を巻いた怪我人たちが寝かされていた。
 痛みが酷いのか、うめき声が途絶えることはなかった。

 カミーユの姿が集会所のランプに照らされると、村長らしき恰幅の良い壮年の男性が、立ち上がった。

「騎士様。村長のクルガンと申します。蛮族たちを追いやってくださったようで、まことにありがとうございます」

 カミーユは胸に手を当て、正式な仕草で立礼する。

「ナイト・カミーユ・オブ・クリン。近隣にあるクリン村を治める騎士です。貴方がたを救いに参りました。まもなく私の兵たちも到着します。安心してください」

 その凛々しい姿に、村の女性達から溜息がもれた。

「怪我をした方たちを診せていただいてもよろしいですか。私は怪我を癒やす心得がございます」

 カミーユは村長に申し出る。

「なんと。ありがとうございます。是非お願いいたします」

 カミーユは怪我をした者たちのそばに寄り、その手を取り、血に塗れた患部に触れた。

「騎士様。お手が汚れます」

 カミーユは瞳を閉じて、自らの血から魔力を汲み上げ、患部に当てた手に集中させる。

「大丈夫です。少し、このままで」

 カミーユの手から注がれた魔力は、村人の腹の傷口を塞ぎ、内臓の損傷を治してゆく。

「騎士様。これは」

 カミーユは優しく微笑んだ。

「傷はもう大丈夫です。もう少し養生していてください」

 こうして、カミーユは怪我人の傷を癒やしていく。

 全ての怪我人の手を取り、優しく語りかけ、その傷を塞いで、癒やしたのだ。

 しばしあり、集会所の扉が開き、村人と兵隊たち、それに従者フローラが入ってくる。

「カミーユ様。ご無事ですか」
 フローラがカミーユに駆け寄る。

「よく来ましたフローラ。私も村人も無事です」

 カミーユは、子供を抱き、女性たちに声をかけ、励ましていた。

 カミーユは、特に、少女や女性たちから、抱かれるのをせがまれている。

 これは、カミーユへ恋に落ちた者たちであろう。

 フローラは自らの主君が自然と発する
 女性を落とす魅力に頭を押さえた。

「フローラ。あなたは村人たちの介護をお願いします」

 カミーユは従者フローラに命じる。

 そして、今度は副官ヘブナーを見遣る。

「ヘブナー。あなたたちは蛮族たちの追討をお願いします」

「はい。しかし、村の入口を見ましたが、相変わらずの剛力。これはまた、武名が上がりますな」

 ヘブナーは戦いの痕跡から、騎士カミーユの戦いぶりを想像し、苦笑した。

「ヘブナー。私は命じました。蛮族の追討を、私もすぐに後を追います」

 騎士カミーユは、揶揄する部下を窘めた。

 無論、カミーユはその間も、女性たちを抱いていた。

 フローラは主君のそのような姿を見て、内心穏やかではなかったが、村人たちの介護を続けた。

 ヘブナーは騎士の命に従い、集会所を退出し、兵を取りまとめ、蛮族を追った。
 
 しばしあり、カミーユは女性たちに別れを告げ愛馬に跨がる。

 そして、従者フローラを伴い、すぐにその後を追う。

 村の女性達は、名残惜しそうにカミーユに手を振り続けた。

 この戦いは後に「タブロの戦い」と呼ばれ、蛮族にとっては最後の組織的な争いであった。

 そして、カミーユの一騎駆けの伝説とともに、語られることとなる。

 これが、騎士カミーユの日常であった。

 しかし、その日常に変化が訪れることを、未だカミーユは知ることはなかった。
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