剣と竜の世界に生まれて〜田舎村の怪力娘。強すぎて戦場で武勲を挙げまくる〜

林美鈴

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第一章 爆速出世街道!蛮族を屠り、陰謀を砕き、巨人の王に認められるまで

第4話 理想の騎士を脱ぎ捨てて。傷跡の従者に甘えるカミーユ、百合ハーレムの原点

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 雪解けでぬかるむ街道を、二頭の騎馬がゆく。

 騎士カミーユと、従者フローラ。二人は王都モスカウに続く街道を進んでいた。

 王都までは十日ほどの行程になる。初春を迎え、道脇の緑は増し、若草の香りを感じる。

 カミーユとフローラは、街道沿いの村々の教会に泊まり、時には野営をしつつ、旅を続けた。

 フローラは、野営は何度も経験していたが、二人きりと言うと初めてのことだ。
 焚き火を見つめ、どこか心細さを感じた。

 春先とは言え、まだまだ朝夕は寒さが厳しい。
 フローラが主人の方を見ると、目が合った。

 カミーユは、まるで謎が解けたかのように、フローラに微笑んだ。

「まだ寒い時分ですものね。いらっしゃい。フローラ」
 カミーユはフローラを自らの寝床に招いた。カミーユの体には魔力の込められた血が流れており、たとえ冬の寒さでもその暖かさは失われない。

 初めは畏れ多いと、フローラは遠慮がちであったが、旅を続けるうち、今では大人しくカミーユに抱かれている。

 寝床では、普段と違う空気が流れ、フローラはカミーユに話をせがんだ。

 ただの村娘で、少し聡いだけで従者となったフローラと比べて、カミーユの経歴は俄かに信じられるものではなく、少女の好奇心を刺激した。

 カミーユは、どこからお話ししましょうか。と、この可愛い従者の望みに応えることにした。

 カミーユは従者の背中から抱きしめる。カミーユの温かな体温がフローラに伝わる。
「私は生まれた時、一人でした。周囲に誰もおらず、洞窟の中にいました」

 フローラはカミーユの体温を感じる。温かく溶けるような感覚に身を任せ、尋ねる。
「お一人で、ですか。それはどういうことでしょうか」

 カミーユは従者に答える。
「私は生まれた時の記憶を持っているのです。初めて目を開けた時、母も父もそこにはいませんでした」

 フローラは驚いたが、それは事実であろうと思った。自らの主人がその様な嘘を言うはずがないと知っているのだ。

 カミーユはフローラの癖のある茶色の髪の後ろ髪に口をつけてから、言葉を続ける。
「私は四つ足で歩き、その洞窟から離れました」

 フローラはカミーユの吐息に戸惑いながらも尋ねる。
「カミーユ様は、生まれてすぐに歩けたのですね」

 カミーユの右手がフローラの右胸に触れる。そこには僅かなためらいがあった。
「はい。そうです。外に出て、周囲は森で、時刻は夜のようでした。けれども、私にはその森が明るく見えました」

 フローラは身をねじらせ、カミーユに話しかける。
「カミーユ様は、その頃からお目が良かったのですね」

 カミーユは左腕でフローラの肩を抱いた。
「歩くと、村の灯が見えました。近づくと木戸があり、中から男性。司祭様が顔を見せたのです」

 フローラの吐息はカミーユの腕に当たる。
「その方が、カミーユ様の養父になられる司祭様ですね」

 カミーユはそのまま耳元でささやく。
「はい。私はカミーユと名付けられ、その司祭様の子となりました」

 フローラはくすぐったさに身を震わせながら尋ねる。
「カミーユ様は、生まれたその日のことを覚えて、いらっしゃるのですね」

 カミーユは目を伏せ、従者の肩を唇でなぞった。
「覚えています。その後すぐに立って歩いたことも、木剣を握ったことも」

 フローラには、主人の寂しさが感じられた。自身の首筋から伝わってきたのだ。
「それは、喜ばしいこと、では、なかったのですか」

 カミーユはかすれた声で話す。
「私は五歳になるころには、司祭であり、村一番の戦士でもある養父を、木剣を持って打ち倒しました。皆に喜んでほしかったのだと思います」

 フローラは自身に回されたカミーユの腕をさする。
「カミーユ様」

 従者に励まされ、カミーユは言葉を続ける。
「私のような子どもは、他にいませんでした。その後、私は戦士として、戦い続けることになったのです。そして、武勲により、騎士に叙されました。けれど」

 フローラは改めてカミーユの孤独を知った。
 後ろを振り向き、カミーユを抱く。
「カミーユ様。カミーユ様はお一人ではありません。フローラが、フローラがおります。ずっとずっと、近くにおりますから」

 カミーユはフローラを抱きしめ、服の上から右胸にキスをする。

 フローラが初陣の際、カミーユを庇って付いた傷が、フローラの右胸にはあった。

 当時のカミーユはまだ幼く、癒しの力を使いこなせず、傷跡が残ってしまったのだ。

 フローラは、最初から、身も心も、主人に捧げている。

「ありがとう。フローラ。これからもよろしく頼む」

 フローラはカミーユの頭を優しく抱きしめた。
 カミーユの孤独は溶かされ、徐々に身体に熱が宿る。

 カミーユはその指をフローラの指に絡ませ、身を起こした。

 組み伏せられたフローラは、カミーユの瞳を見上げ、カミーユのその長い睫毛に視線が吸い寄せられた。


 冷ややかな朝の空気がフローラを撫でる。
「おはようございます。フローラ。朝食をとって、出発いたしましょう」

 フローラは、寝過ごしたことに気づき、顔を真っ赤にして飛び上がった。
 そして、昨晩のことを思い出し、さらに顔を真っ赤に染めた。
 これ以上ない恥ずかしさを覚え、フローラは体が固まってしまった。

「フローラ。粥が冷めてしまいます。早く起きてください」

 フローラは後悔する。昨夜のことがあったとは言え、フローラは主人であるカミーユに、朝食の用意をさせてしまったのだ。

 そのことを詫びると、カミーユは笑って答えた。
「フローラは長旅は初めてでしょう。疲れが溜まるのは仕方のないことです。夕飯はお願いしますね」
 カミーユは微笑んで従者を見やる。

 フローラは、寝床にいる時のカミーユ様と、普段のカミーユ様は少し口調が違うなあ。と、主人の顔を惚れて見ていた。

「わかりましたか。従者フローラ」

「はい。わかりました。騎士カミーユ」

 そうして、二人はお互いに笑い合い。朝食をとった。

 こうして、騎士と従者、二人の旅は続いた。

 しかし、そんな二人の旅も、長くは続かなかった。
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