剣と竜の世界に生まれて〜田舎村の怪力娘。強すぎて戦場で武勲を挙げまくる〜

林美鈴

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第一章 爆速出世街道!蛮族を屠り、陰謀を砕き、巨人の王に認められるまで

第8話 侯爵の誤算。騎士を囲い込むはずが、母も娘も恋という檻に囚われる

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 ハイアン侯爵家に騎士カミーユが逗留して一週間。王宮への出仕は明日へ迫っていた。

 従者フローラは憤りの言葉を吐いた。
「直ちに出仕することとあったのに、こんなに待つなんて、おかしいです。カミーユ様」

 カミーユは、静かに、しかし厳しく従者を窘める。
「フローラ。国王陛下はご多忙なのです。けっしてそのような事を口にしてはいけません」
 フローラは身を縮こまらせ、主人の言葉を受け入れた。

 一週間の侯爵邸の逗留。その間、ロザリア・ハイアン侯爵令嬢は、騎士カミーユを側から離すことはなかった。

 カミーユの王宮への出仕を明日に控えた夜半においても、それは変わることはない。

「カミーユ。やっぱり、あなたと寝ると温かいわ。確か、魔力のせい。だったかしら」
 寝衣姿のロザリアは、カミーユに抱きつきながら話した。
「はい。ロザリア様。村の賢者は私の体には竜の血が流れていると申します」
 ロザリアは鈴の音のような声で笑う。
「ああ、可笑しい。じゃあ、私はカミーユにがぶりと食べられてしまうかもしれないのね」

 カミーユは少女が安心して笑っている姿を見て微笑む。
「もし私が竜になったら、背に乗せて差し上げます」
「ふふ、約束よ。カミーユ」
 ロザリアはカミーユの手を握り、目を閉じた。

 翌朝、カミーユは男装の礼服に身を包み、髪を整えていた。
「タイはもう少しボリュームをもたせたほうが良いわ」
 侍女を押しのけ、ロザリアが鏡の前に割り込んだ。
「お嬢様、そのようなことは私どもが」
 侍女が、困り顔で呟く。
「そうね。お前を困らせたいわけではないのよ。でも、タイの形は直してね」

 それから何度もロザリアの横槍が入るも、カミーユの仕度がようやく整う。

 そして、カミーユは、つい先ほど、領地から邸宅へ到着した当主。サラ・ハイアン侯爵への挨拶へ向かう。

 私兵に伴われ、応接室に入ったカミーユは、侯爵閣下に片膝をつき、頭を垂れた。

「ナイト・カミーユ・オヴ・クリンと申します。侯爵閣下。長きにわたり御邸に留まる事を許していただき、光栄の極みでございます」

 ハイアン侯は、カミーユに告げる。

「久しぶりですね。騎士カミーユ。あなたは覚えていないかも知れないけれど、十歳のあなたを騎士に推挙したのは私だったのよ」
 サラ・ハイアンは、悪戯っぽく笑った。

「それは。私、田舎者ゆえ、存じ上げておりませんでした。誠に申し訳ございません」
 カミーユは、慌て、さらに深く頭を下げた。

「良いのです。騎士カミーユ。若年のあなたには苦労をかけたと思います。見事役目を果たし、嬉しく思います」

「もったいなきお言葉、身に余る名誉です」

 カミーユは、この女性、サラ・ハイアンは自身を試しているのだと思った。

「顔を上げなさい。騎士カミーユ」
 サラ・ハイアンは、カミーユに命じた。

 カミーユはサラに顔を向ける。十人もの子供を産んだにも関わらず、サラの美貌は今なお輝いていた。

「騎士カミーユ。まるでつぼみが綻んだようですね。あなたの成長を嬉しく思います」
 サラはカミーユの全身を見つめる。それは熱情の瞳であった。

 サラは口調を変える。子を案じる母の口調だ。

「よくロザリアを助けてくれました。母として礼を言います」
「はい、お家の方々全てをお救いできず、申し訳ございません」
「良いのです。それに、手引きした者も、ようやく分かってきました」

 カミーユの体に緊張が走る。
「それはまことに。いえ、そのような事、私などに」
 お家の名誉に関わる事である。一介の騎士の聞いて良い話ではない。

「良いのです。騎士カミーユ。私はあなたを身内と思っています。あなたもそう思う事を期待します」

 サラの言葉に、カミーユは困惑した。それほどの好意を持ってもらう由来を思いつかないのだ。

「騎士カミーユ。先ほども言いましたが、あなたを騎士に推挙したのは私です。あなたの現在に対して、私は身内として、責任を感じています」
 サラは言葉を続ける。

「此度の褒賞についても、私から陛下へ口添えさせていただきました。私やロザリアの騎士として、これからも尽くして欲しいのです」

 なんとも直接的な勧誘であった。カミーユは、自らの王都での派閥の有り様を求められているのだ。

「私の剣は、国王陛下のものです。その御心に沿うのであれば、侯爵閣下の意に従います」

 カミーユは国王の名を出した。この国、ベラルーン王国の権威である国王に、カミーユも当然、剣を捧げている。

 サラはそんなカミーユを見る。その瞳は熱情を帯びており、カミーユに色香を匂わせた。
「警戒しなくても大丈夫です。私、サラ・ハイアンは国王派の忠臣です。国王陛下の意のままに働きます」

 サラは満足したように微笑んだ。
「さあ、もう出立の時間ですわね。騎士カミーユ、あなたは従者と共に我が家の馬車に乗って王宮へ向かいなさい」

 カミーユはうなずいた。

「ありがとうございます。ハイアン侯爵閣下。御恩は決して忘れません」
 カミーユは鞘に入ったままの剣を突き出した。

「あなたに剣の忠誠を」

 サラは熱に浮かされたような瞳で、満足そうに微笑んだ。

 こうして、騎士カミーユはこの母子に剣を捧げ、忠誠を誓うこととなった。

 そして、カミーユは、陰謀渦巻く王都の権力闘争に巻き込まれることとなる。
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