剣と竜の世界に生まれて〜田舎村の怪力娘。強すぎて戦場で武勲を挙げまくる〜

林美鈴

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第一章 爆速出世街道!蛮族を屠り、陰謀を砕き、巨人の王に認められるまで

第13話 夕焼けの剣客。怪力の限界と達人の閃光。カワウソ師匠は胸の谷間で結末を見届ける

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 サラ・ハイアン侯爵閣下と、御息女ロザリアは、カミーユが引越しの手配の日々を過ごすうちに、一旦、領地に帰る事となった。

 朝、春の日差しに街が目覚める頃の市門。カミーユは侯爵閣下を見送りに出た。

「引っ越しが終わって、落ち着いた頃に遊びに行くわ。絶対に行くから。待っていなさいよ」
 ロザリアは、人目があるにも関わらず、カミーユに抱きつき叫んだ。

「光栄です。レディ・ロザリア。その際は目一杯のおもてなしをさせていただきます」
 カミーユはロザリアの体を優しく離すと、手の甲に口付けした。

「分かればいいのよ」
 ロザリアは赤くなり、大人しく馬車に乗り込んだ。

「娘が迷惑をかけるわね」
 サラ・ハイアン侯爵が、カミーユに詫びた。

「とんでもない。嬉しいことです。それに、閣下の御息女であらせられますから」
 カミーユは、サラの手も取り、その甲に口付けする。

「カミーユ。私が不在の間、身の回りに気をつけなさい」
 カミーユは面をあげることなく、手を取り続けた。

「私の王都での商売敵が、次はあなたの事を狙っているかもしれません」
 カミーユは、顔を上げて答える。

「侯爵閣下におかれましては、道中お気をつけて」
 サラは頷くと、馬車に乗り込んだ。

「お二人とも、どうかお気をつけて」
 カミーユは、馬車が見えなくなるまで見送った。


 カミーユが自身の館に戻ると、フローラが声を張っていた。

「そちらの荷物は一旦物置に。そちらの棚は台所です。そのベッドは客間のものなので、二階の二つ目の部屋にお願いします」

 フローラは次々と指示を出す。

 こういう仕事にも向いているのだな。と、カミーユは思った。

「あ、カミーユ様。お帰りなさいませ。その、申し訳ないのですが、館の方は私が手配いたしますので、カミーユ様は、近くのお店で、お茶など楽しんでいただけると幸いです。長居していただいても構いません。やることはたくさんありますから。ここでお待ちしています」

 カミーユは、すげなく追い払われてしまった。
 手持ち無沙汰のカミーユは、従者フローラの言う通り、館を離れた。

 今日は師匠が必要だと言っていたものを、買い出す日にしよう。

 カミーユは、服の胸元を開け、小さな師匠の頭を出させた。
「御師様。今日は時間がございます。御師様のおっしゃられた、道具や書籍、薬草を購入に参りたいと思います」

 カミーユの師は相変わらず尊大な態度で答える。
「うむ。大魔導師ゴダールに相応しい品々を集めるのだぞ、カミーユよ」


 そして買い物の時間は過ぎ、日も落ちる時刻となった。

「御師様。薬草がほとんど揃って良かったですね。道具も注文できましたし、書籍は取り寄せてもらうことが出来そうです。カイネン卿の魔物大百科だけは、古い本で印刷物がなく、写本を探すしかないと言われましたので、時間がかかるかもしれません」

 カミーユは、自らの師であるこの小さく可愛いカワウソに、道具の収集具合について説明する。

「うむ。一日の仕事としては上出来であろう。良き働きをしたな。褒めて使わす」
 カワウソの小さな小さなおててが、カミーユの顎に触れる。

「これから、魔法の技術を叩き込むゆえ、覚悟すること」

 カミーユにとって、大魔導師ゴダールは、養父以来の師となる。
「はい。よろしくお願いします。御師様」

 弟子と師匠が、夕刻の狭い街路を歩いていると、パタリと人通りが途絶えた。

 カミーユは違和感を感じ、胸の隙間に師匠を押し込む。

 刹那、カミーユの背後を鋭い斬撃が襲った。

 カミーユは躱すことが出来ず、刃とカミーユの皮膚がぶつかる音。鉱物がぶつかったような高い音が鳴り響いた。

 カミーユの背後には、抜き身の長剣を携えた男が立っていた。剣を構えることはなく、ダラリと剣を下げている。

 カミーユの感覚に警告が響く。この男は危険であると。

「あなたは何者ですか」

 返事の代わりに斬撃が放たれた。カミーユは自らの魔力を込めた抜刀で、その一撃を下から打ち上げた。

 カミーユが戦った今までの相手であれば、今の一撃で手首を痛めるか、良くても剣を手放していた。

 しかし、男の剣は飛ばず、手首を痛めた様子もなかった。

 男はそのまま剣を滑らせ、カミーユの右手を切った。再び鉱物を叩いたような高音が響き渡る。
 切られたカミーユの手は、真珠色に発光しており、傷一つなかった。

「着込みの類ではないか」
 男は初めて言葉を発した。特徴の薄い男の顔に似合った、平凡な声であった。

 カミーユは長剣を横薙ぎに振るう。剣先は音速を超え、衝撃波があたりのゴミを吹き飛ばす。
 しかし、男はカミーユの剣に自らの剣を添え、僅かに軌道を逸らし、自らは剣の下に潜り込んだ。
 そして、カミーユの剣が戻るわずかな間に、カミーユの脛を切り付ける。再度、高音があたりに響く。

 カミーユは体勢が沈んだ男に向かって、袈裟がけに切り付ける。
 男は体を前に進ませ、カミーユの斬撃を、自ら剣を背負うようにして受け流した。
 そして、カミーユの膝を蹴り、反動で体を引き起こし、再び剣をだらりと下げて直立した。

 カミーユは混乱していた。

 自らの前に立ち、白刃を構え、立ち続ける存在。
 そんなものに、自分は出会ったことがなかった。

 横に薙ぐ、躱される。

 胸を突く、受け流される。

 首を刈る、屈まれる。

 逆袈裟に切り上げる、剣を添えられ、軌道を僅かにずらされる。

 カミーユの攻撃は、ことごとく躱され、受け流され、その度にカミーユは切られた。

 カミーユは無傷であったが、精神的な衝撃は計り知れないものであった。

「獣の剣」
 男が再び言葉を発した。呟くようであり、カミーユに聞かせるためのものではなかった。

 すると、男は自ら先手を取ってカミーユに切りつけた。

 カミーユは、男の刃を体で受け、返す刀で自らも剣を振るった。

 カミーユが振るう剣の先には男はおらず。
 カミーユは滅多斬りにされた。

 刃で体は切られなかったが、徐々に打ち身ができ、体に痛みが走り始めた。

 男のあまりの剣戟に、カミーユは両手で体を覆い、その剣を受けた。もう、反撃をする気にはなれなかった。

 幾たび剣が振るわれただろうか。男はカミーユから離れた。
 男の剣は、刃が欠け、まるでノコギリのようになっていた。

「潮時か」
 男は呟くと、ボロボロの剣を鞘に納め、カミーユを後に残し、立ち去った。

 カミーユは呆然と立ち尽くした。

 剣術とは、これほどのものなのか。
 自らの剣は、棒切れを振るうに等しいものであったのか。

 そんなカミーユに、師の言葉が発せられる。

 カミーユが両手で剣戟を防いだため、カミーユの胸の間にいた小さなカワウソは、無傷であった。

「戦いは引き分けであった。しかし、相手が攻めてきた理由を考えねばならぬ。相手はなぜ引いた。相手が得たものは何であるか」
 カミーユは師の言葉を反芻した。太陽はとうに沈み、夜の帷が辺りを包んでいた。

「フローラ」

 カミーユは自宅においたままの従者の名前を呟いた。そして全力で疾走した。

 男の剣戟でボロボロになった衣類が、カミーユが走るたび、あたりに飛び散った。

 こうして、カミーユは夜の王都を疾駆した。
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