剣と竜の世界に生まれて〜田舎村の怪力娘。強すぎて戦場で武勲を挙げまくる〜

林美鈴

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第一章 爆速出世街道!蛮族を屠り、陰謀を砕き、巨人の王に認められるまで

第14話 愛ゆえの受難。鉄鎖を纏いてなお、最強騎士の魂は跪かない。

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 館にたどり着いた時、カミーユはまるでボロを纏ったような姿になっていた。

 剣で切られた服が崩れたのだ。

 しかし、カミーユは自らの服装を気にもせず叫んだ。
「フローラ、フローラ。無事ですか」
 返事はなかった。

 フローラは王宮の仮住まいに帰ったか。

 否。

 フローラはカミーユの帰りを待つと言った。彼女はカミーユと交わした約束を違えたことはない。

 門を開ける。鍵はかかっていなかった。

 カサリと音がした。扉の内側に、紙が一枚、ナイフで突き立てられていた。

「従者を救いたければ、運河脇の倉庫まで来ること」

 紙にはそのように書かれていた。

 カミーユは、館に入り、師を秘密の書斎に戻した。

 これから起こるであろうことは危険なことに違いなかった。
 小さな師をそのような目に会わせるわけにはいかない。

 小さなカワウソの師匠は黙っていた。弟子に起きた試練。
 これを師の力を借りることなく解決するように、試しているようだった。

 カミーユは新しい普段着に着替え、剣を佩き、夜の王都に駆け出た。

 王都の運河には荷揚げ場があり、倉庫が立ち並んでいる。
 夜は運河を行く船もなく、倉庫は静まり返っていた。

 カミーユは、物陰から倉庫の様子を探る。

 カミーユの聴力は常人をはるかに上回る。
 離れた距離でも、話し声と心音が二十以上聞こえる。

 話の内容は、暇を互いに嘆くものや、女、フローラに対してやましいことをしようと企むものだった。

 しかし、そんな下世話な話を、断ち切る声が聞こえる。

「静かにしろ。お前たち。閣下の意向はあくまで人質を丁重に扱うことだ。その命に逆らうものは、今ここで俺が切る」

「そんな。旦那。勘弁してくださいよ」

 旦那と呼ばれた声は、カミーユを打ちのめした剣士のものだった。

 やはり、かの剣士とフローラを拉致したものたちは、共謀していたのだ。

 カミーユはどうしたものかと考える。

 あの剣士がいなければ、一度に全員を相手にし、フローラを救うことも叶っただろう。

 けれども、その作戦は使えない。
 剣士に時間を稼がれ、フローラを人質に取られれば、カミーユにはなす術がないからだ。

 カミーユは被りを振った。考えていても仕方がない。

 すでにフローラは人質に取られているのだ。まずは相手の言う通りにするしかない。

 カミーユは、倉庫に向かって、ゆっくりと歩みを進めた。

「止まれ」
 倉庫の中から、カミーユに向かって声が放たれた。

 カミーユは歩みを止めた。

「剣を置いて、ゆっくりと中に入ってこい。いいか、ゆっくりとだ」

 カミーユは剣帯を外して剣を置く。
 命ぜられる通り、ゆっくりと倉庫の扉をくぐった。

 中は薄暗かったが、カミーユの瞳は暗がりも昼間のように明るく感じることができる。

 フローラが倉庫の片隅で後手に縛られている。
 意識はないようだが、小さな呼吸音が聞こえた。

 カミーユは安心し、残りのものどもを見た。

 港湾労働者とも、盗賊とも見られる男たちが、フローラを背に、カミーユを取り囲んでいた。

 男たちの中には、風変わりなものが二人いた。

 一人は剣士。先ほどカミーユが戦った相手だ。

 一人は魔法使い。魔法使いの証である杖を持ち、こちらの様子を伺っている。

 その魔法使いが口を開いた。

「カミーユ。カミーユ・ロラン男爵に相違ないな」

「はい。私がカミーユです」

 カミーユは魔法使いの目を見ないようにして答える。
 魔法使いの中には、瞳術。瞳の力で魔法を使うものがいると、聞いたことがあるからだ。

「よろしい。私の言うことを聞けば、その従者は自由にしよう」

 カミーユは、その言葉に嘘を感じなかった。
「良いでしょう。要求は何ですか」

 すると、数人の男たちが、台車に乗せた鎖を五人がかりで持ってきた。
 その先には、金属製の手枷と足枷が付けられている。

「まずはこれを身につけてもらおう。そして、我々が連れてゆく場所に、しばらく留まってもらうことになる」

 カミーユは手枷を見る。あの重たさはおそらく魔法の金属アダマンタイト。
 その重さは鉄の十倍となり、強度もそれ以上にある。

 カミーユは魔法使いに言葉を発する。
「わかりました。その前に、フローラと話をさせてください」

「良かろう。逃げようとすれば、まずはその従者が害されると思うように」
 魔法使いは、後ろの剣士に合図する。

 剣士はフローラの後ろに立った。

 カミーユはフローラを抱き寄せ、縄を千切った。

 そして、自らの血から魔力を汲み上げ、フローラに注ぎ込む。 
 フローラの血色が明るくなり、やがて目を覚ました。

「カミーユ様。ああ、カミーユ様」
 フローラは、カミーユの顔を見て涙を流す。

「フローラ。安心なさい。あなたの身は私が守ります」
 カミーユはフローラを抱きしめると、立ち上がった。

「私の手枷足枷と、フローラの解放。どちらを先にいたしましょう。私としては、フローラの解放を先に行っていただきたいです」

 フローラは開放された。
 もちろん、カミーユはここでフローラを抱きかかえ、逃亡を選択することも出来ただろう。

 しかし、カミーユがその選択をすることはない。
 カミーユは約束したのだ。鎖を身に着け、彼らの言う場所に赴くと。
 カミーユの心は、気高く、約束を違えることはないのだ。

 カミーユの堂々とした態度に、周囲の男たちは毒気を抜かれる。

「カミーユ卿。従者の解放後、大人しく手枷足枷を付けることを誓うか」
 魔法使いは言葉を放つ。

 魔法には、言葉が力を与えるものも数多い。

「誓います。さあ、フローラを解放しなさい」
 カミーユの態度は、気高く光に満ちており、悪党たちの心まで魅了しかけた。

「わかった。従者よ。どこへなりとも行くが良い」
 魔法使いはフローラに向かって言う。

 フローラは首を振ってカミーユに抱きついた。
「嫌です。フローラもお側におります」

 カミーユは厳しい視線で従者に命じる。
「いけません。フローラ。あなたは屋敷に戻り、引越しの手筈を進めなさい。私もすぐに戻ります」

 カミーユはそう言うと、従者を倉庫の扉から外に出した。
 フローラは、何度も振り返りながら、街へと歩んで行った。

 カミーユは男たちに振り返る。
「さあ、手枷と足枷を付けましょう。お手伝いが必要ですか」

 カミーユは、重たい金属でできた足枷を自ら付け、続いて手枷を支えて、男たちに閉じさせた。

「次はどこかへ移動するのでしたね。目隠しは必要でしょうか」

 場を仕切るカミーユに、魔法使いが口を挟む。

「ああ、そうだ。目隠しをして、荷車に乗り、付いてきてもらう」

 こうして、カミーユは、虜囚の身となった。

 しかし、悪党たちは猛獣を自ら迎え入れたことを、まだ知ることはなかった。
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