剣と竜の世界に生まれて〜田舎村の怪力娘。強すぎて戦場で武勲を挙げまくる〜

林美鈴

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第一章 爆速出世街道!蛮族を屠り、陰謀を砕き、巨人の王に認められるまで

第16話 敬意を込めた一撃。最強の「閃光」を、騎士は奇襲で葬る

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 カミーユは牢獄の看守の扉を蹴り開けた。

 ちょうど扉のそばにいた看守が、哀れにも開いた扉に片腕を挟まれ、その腕を潰される。

「なんだ貴様」

 もう一人の看守が話す途中、カミーユは、自らの掌を叩きつける。

 看守の胸が凹み、体が水平に飛ぶ。
 それは看守部屋の向かいの扉まで飛び、それを粉砕する。

 扉の向こうには、上へ登る階段が見えた。

「ユマ、皆様。階段を登るのは少し待ってください。私が安全を確保いたします」

 カミーユは、階段を登る。

 階段の上の部屋は、倉庫になっているようだった。

 倉庫を出ると、明るい廊下が広がっている。窓があり、今は昼間のようだ。

 廊下には立派な絨毯が敷かれ、壁には見事な風景を描いたタペストリーが飾られている。

 少し先にはテーブルが置かれ、名品と思われる白い壺が鎮座していた。

 廊下の先から、兵隊が駆けつけてくる。十人はいるだろうか。牢獄の争いの音を聞きつけたに違いない。

 兵隊たちは、カミーユの姿を見ると、槍を構えて駆けてきた。

 カミーユはかがみ込み、絨毯を握りしめる。

 そして、神速でそれを後ろに引く。

 兵隊たちは皆、絨毯に足を引かれ、仰向けに倒れ、鎧がけたたましい音を鳴り響かせた。

 カミーユは兵隊たちに向かって疾駆し、兵隊が取り落とした槍を拾う。

 そして、拾った槍の穂先で兵隊たちの脛を切りつける。
 足を脛当てごと切り裂かれた兵隊たちは悲鳴をあげ、転げ回った。

 更に兵隊たちが向かってくる。その数二十数名。

 カミーユは、槍の中程を握ると、肩の上に構え、振り下ろす。

 槍が音を超えて飛び、兵士の鋼鉄の胸当てを貫く、後ろの兵士の胸当ても貫き、そのまた後ろの兵隊の右腕をも吹き飛ばす。

 槍の穂先が廊下の壁に突き刺さり、衝撃波が生き残った兵たちを打ち据えた。

 カミーユは、脛を切られ、足元に転がる兵から、槍をさらに取り上げる。
 そして、また投げる。

 これを八度ほど繰り返すと、廊下の兵士は皆倒れ、動かなくなった。

 廊下の階段の上から、新たな兵隊が駆けつけて来る。
 カミーユは、残った槍を構えて、兵隊たちに向かって駆け出した。


 一方その頃、階下のけたたましい物音を聞き、ビスタニオ子爵は慌てていた。

「いったい何が起きた。何故誰も知らせに来ない」

 剣士ローレンは、冷ややかな声で答えた。

「そりゃ、あれですよ。カミーユ卿じゃないですかね。皆殺しにされてるんですよ。誰も知らせに来やしませんよ」

 ローレンは、カミーユの戦闘力を思い出し、身を震わせる。

「何故そんなことをする。私は子爵だぞ。逆らうことなど、許されないのだぞ」

 ローレンは子爵の声を聞き流す。

「そうだ。お前だローレン。高い金を払っているんだ。カミーユを切ってくるのだ」

 ローレンはため息をつく。

「俺はプロです。受けた仕事は必ずやり遂げます。ですが、その仕事は無理です。俺の剣ではカミーユ卿に刃が立ちません」

 ローレンは言葉を続ける。

「カミーユ卿が化け物なのか、それとも神のご加護でもあるのか。いくら切りつけても皮膚に傷一つ、つかんのです。話にならんでしょう」

 ビスタニオ子爵は珍しく考え込んだ。

「ならば、ローレン。そなたに我が家宝である宝剣岩徹しを預ける。カミーユを討ち取るのだ」

 ローレンは欲が出た。

 岩徹しといえば、岩をもバターのように切り取る魔剣である。

 それであれば、カミーユを切ることも叶うかもしれない。
 ローレンも、カミーユと一度引き分けになったことが胸につかえており、決着をつけたかったのだ。

「わかりました。閣下。宝剣を貸していただけるなら、カミーユ卿を切って来ますよ」

 ビスタニオは、顔を真っ赤にして叫ぶ。

「本来、貴様などが触れることも叶わぬ我が家の宝なのだからな。そのこと、忘れるでないぞ」

 ローレンは、肩をすくめて答える。

「はいはい。わかりました。剣を早く渡してください。カミーユ卿は今にもここに来るかもしれませんよ」

 ローレンは、ぐずぐずしているビスタニオを急かした。


 ビスタニオ子爵の館の一階は血の海となっていた。
 一階に来る兵隊をみな倒したカミーユは、二階に続く階段へ向かった。

 階段に足をかけた時、上階から閃光が煌めいた。

 カミーユは先ほど拾った兵士の剣で、その一撃を防いだ。
 剣が半ばで切り飛ばされ、カミーユは驚き、見上げる。

 あの夕刻の剣士だった。

 騎士、カミーユは問う。

「あなたは、私を止めるのですか」

 剣士、ローレンは答える。

「先ほどそうなった。カミーユ卿。お命頂戴する」

 剣士は宝剣を握り、だらりと下げた。

「名前を伺ってもよろしいですか」

 カミーユは足で蹴り上げ、兵隊の剣を手に取る。

「ローレン。ただの剣士だ」

 そう言うと、ローレンは階段を降り、刹那、袈裟斬りにカミーユに切り掛かった。

 カミーユは、宝剣に自身の剣を沿わせ、勢いを殺してそれを受け流した。

 ローレンは剣を正眼に構え、更に切り掛かった。

 横に薙ぐ、躱される。

 胸を突く、受け流される。

 首を刈る、屈まれる。

 逆袈裟に切り上げる、剣を添えられ、軌道を僅かにずらされる。

 ローレンの持つ宝剣岩徹しは、カミーユの皮膚に触れることはなかった。
 カミーユは、剣術を使っていた。

「化け物め」

 ローレンの口から、思わず言葉が漏れた。

 カミーユは、あの日、ローレンが使った剣術を、見て覚えていたのだ。

 ローレンは、更に精妙な剣術を放つ。
 このような技、故郷を出てから使うことなどなかった。

 虚を実と思わせ、実を虚と思わせる。
 眼前に迫ると思われた剣は足を薙ぎ、カミーユの足を切り裂く。

 小手を打つと思われた剣は面を打ち、カミーユの額に傷をつける。

 人は、額に僅かでも剣先が通れば、死に至る。

 しかし、カミーユは手傷を負いつつも、反撃をしてくる。

 ローレンの刃は、カミーユの体を滅多切りにした。

 カミーユは傷だらけになりつつも、倒れることはなかった。

「化け物め」

 ローレンは、先ほどと同じ言葉を口にした。

 カミーユの体力は、自身とは比べ物にならない。
 ローレンは、時間をかければ己が負けると悟った。

 剣戟の隙をついてカミーユの膝を蹴り、距離を取る。

 次の一撃を最後にする。

 剣士は、自身の覚える最速の技に全てをかける。

 秘剣刀投げ。

 中空に放られた刀すら両断する必殺の剣。

「これでしまいだ。カミーユ卿」

 明らかな上段狙い。しかし、その間合いに入れば、何者をも両断するだろう。

 カミーユも上段に構える。この戦いの終焉を感じた。

 カミーユがジリジリと前に出る。
 ローレンがそれを待ち構える。

 刹那、カミーユの体が膨れ上がり、ローレンは上段を振り抜いた。

 それは最速の剣であった。

 しかし、カミーユの頭が割れることはなかった。

 最速の剣を躱したカミーユは、ローレンの剣を上から撃ち落とした。

 高い音が鳴った。

 ローレンの持つ宝剣と、カミーユの持つ剣が共に半ばで断ち折れていた。

 ローレンは、力を使い果たした様子で呟いた。
「なんだよ今のは。殺気が飛んできたぞ」

 ローレンは、焦げた自身の前髪を弄りながら尋ねた。

 どこか、飄々とした様子の剣士に、カミーユは素直に答える。

「熱の魔法を飛ばさせていただきました。剣術だけでは敵わないと思いましたので」

「魔法まで使うのかよ。そう言う大事なことは教えておいてくれよな」

 ローレンは、折れた宝剣を手放し、腕を組んだ。

「どうするね。殺すかい」

 どこか爽やかな問いだった。

「教えてください。あなたほどの剣士が何故、悪辣な子爵の味方をなさるのですか」

 ローレンは胡座をかいて考え込んだ。本当に、答えが見つからない様子だった。

「わからない。剣を求められた。俺はそれに答えた。強いものと戦えると思った。それだけだ」

 カミーユは、この剣士に興味が湧いた。

「問います。あなたは無辜の民を切ったことはありますか」

「山賊になって襲って来たものを切ったことはある。そいつらはもしかしたら、無辜の民とやらだったのかもしれん。他に覚えはない」

 どこまでも真っ直ぐな答えだった。

「わかりました。子爵の居所はわかりますか。案内してください」

「切らないのかい」

「あなたの剣は切りました。それで切ったこととします」

 カミーユは、この剣士が悪人でないと感じた。
 切ることは出来なかった。

 こうして、騎士カミーユと、剣士ローレンは、共に子爵の元へ向かうこととなった。
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