剣と竜の世界に生まれて〜田舎村の怪力娘。強すぎて戦場で武勲を挙げまくる〜

林美鈴

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第一章 爆速出世街道!蛮族を屠り、陰謀を砕き、巨人の王に認められるまで

第21話 騎士と騎士。最強を超えたその先へ。技巧の極致と規格外の破壊力。柔の檻を突き破り、真の最強が覚醒する

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 真実の間の審問会から数日。

 アーモンドの花弁が散る中、エトナ姫に見守られ、カミーユは素振りを行っていた。

 その剣は徐々に術理を備えており、剣士ローレンはもはや恐怖を覚えた。

「三日あれば刮目せよとは言うが、そのままの速度で成長するやつがあるか」
 剣士はカミーユの腰を木剣で叩き、姿勢を修正する。

 まだまだ教えることはあるが、真綿に水をかけたように、カミーユは剣術を吸収していった。

 そういった頃、カミーユ・ロラン男爵家へ、国王陛下の使者がいでました。

「偉大なる王。ゲオルグ・アレクセイ・プラソール陛下の御言葉を伝える。カミーユ・ロラン男爵。明日、国王陛下の御室へ参られよ」

 カミーユは流石に言葉を疑った。
 御室。後宮といえば、王家のものしか入れぬ場所である。臣下を喚ぶ所ではない。

 しかし、国王陛下の御言葉は重い。
 カミーユは、後宮への出仕を受け入れた。

 今回は、流石に従者フローラは連れては行けない。

 後宮へ呼ばれるということは、表には出せない話であるということだ。

「フローラ。従者フローラ。私は明日、王宮へ参ります。あなたはその間、私の館をよろしくお願いいたします」

 カミーユの言葉に、フローラは震えた。

 自らの主人から、緊張の色を感じ取ったのだ。

 だからとっさに言葉に出してしまう。

「カミーユ様。以前のように、お側にいることは叶いませんか」

 主人は、聡い従者の髪と頬を撫でる。茶色の癖毛が指に絡んだ。

「フローラ。心配いりません。夕刻には戻ります。待っていてください」

 フローラは主人の手に触れ、頭を下げる。

「はい。かしこまりました。カミーユ様」


 カミーユは、館に迎えに来た王宮の馬車に乗り込む。

 その馬車は簡素な装飾であり、馬車での登城を許された家来が使うものだった。

 決して貴族が乗るものではない。

 そのことからも、此度のお召しが、密やかなものであることを伺えた。

 それに合わせて、カミーユの衣装も、地味で質素な男装の剣士風の出で立ちである。

 このような姿で王の眼前に出ることは恥ずべきことだが、事態を考慮しフローラが選んだものだ。

 カミーユは、通用口から王宮へ入った。
 扉の中には家来が待ち受けており、カミーユを王宮の奥へと案内する。

 カミーユは自らの知らない通路を、自然と観察してしまう癖がある。いつ何時戦いになるかもしれない。

 これはカミーユの戦士として生き延びてきた性分であった。

 三十分は歩いただろうか。
 曲がりくねった通路を抜け、カミーユは大きな扉の前に立った。

 これが後宮への扉であろう。扉の両側には、屈強な女性の衛兵が見事な鎧姿で、槍を構えて立っている。

「カミーユ・ロラン男爵でありますか」

 衛兵の一人が口を利いた。その声は小さなものだった。

「はい。私がカミーユ・ロランです」

 カミーユもささやくように返事をする。

「剣をこちらへ」

 カミーユは剣帯を外し、衛兵に預けた。

 そして衛兵は、大きな扉を開け、カミーユを中に通す。

 扉の中は通路になっており、突き当りにまた、同じように大きな扉と、これまた両側には二人の衛兵が立っていた。

「カミーユ・ロラン男爵でありますか」

 先の扉と同じことを聞かれた。

「はい。私がカミーユ・ロランです」

 カミーユは答える。

 衛兵は大きな扉を開け、カミーユを中に通した。


 二つの扉を抜けたカミーユの目には、緑豊かな中庭の光景が入ってきた。

 季節は春。木々の花々はその姿を誇るように咲き盛り、新緑は瑞々しい光を放っている。

 中庭の周囲には回廊が巡らせられており、そこから部屋や、更に奥の通路へ続いているようだった。

「ロラン男爵であらせられますね」

 鋭く、射抜くような声を聞き、カミーユがそちらに振り返る。声の主は、気配なく、そこにいた。

「本日ご案内の責を賜りました。騎士クラリスです。御城に仕え、近衛の任にあたっております。よろしくお願いします」

 城仕えの騎士とは、一代限りの騎士であり、
 俸禄にて直接王に仕える身分である。

 つまり、彼女はそれだけの実績や実力があるに違いない。

 カミーユは、密やかな装飾を施された簡易な鎧を着こなす女騎士の、油断ならない様を見て、まるで大理石の彫刻のようだと思った。

「ロラン男爵」

 カミーユは再び声をかけられ、我に返る。

「失礼しました。私がカミーユ・ロラン男爵です。今日はよろしくお願いします。騎士クラリス」

 クラリスはカミーユに立礼する。

「早速ですが、御室へご案内させていただきます。よろしいでしょうか」
 クラリスの品の良い声が尋ねる。

「はい。よろしく頼みます」

 カミーユは騎士クラリスに先導され、後宮を行く。

 色鮮やかな後宮の通路を通り抜ける。
 通路の端々には、女性の衛兵が立ち並んでいる。

 カミーユは、王家の方と行き違うのではないかと思ったが、そのようなことは起こらなかった。

 そして、一際立派な扉の前に案内される。

 この扉の両側にも、衛兵が配されており、これらの者の実力は、疑うまでもないだろう。

「カミーユ・ロラン男爵が到着しました」

 騎士クラリスは衛兵に言葉を発する。

 衛兵は扉を開ける。騎士クラリスに先導され、カミーユは扉の中に入る。

 目の前にはさらに扉があり、その両側にはまた衛兵が配されていた。

 騎士クラリスが先程と同じやり取りをして、衛兵は扉を開ける。

 二つ目の扉の中は、応接室になっており、低いテーブルを囲んで、椅子が四脚据えられていた。

「ロラン男爵、こちらでお待ち下さい」

 騎士クラリスが椅子をすすめ、カミーユは座った。

 クラリスは続く扉の前に立つ侍女に近づき、カミーユの来訪を告げる。
 侍女は奥の扉へ入っていった。

 十分程待つと、奥の扉が開き、国王、ゲオルグ・アレクセイ・プラソールがカミーユの前に姿を現した。

 カミーユは即座に立ち上がり、立礼をする。

 国王はゆっくりと歩き、カミーユの眼前の椅子に座った。
 手を伸ばせば届きそうな距離であった。

「よくぞ来た。カミーユ卿。そなたも座られよ」

 カミーユは緊張の面持ちで椅子に座った。

「数日振りになろうか。カミーユ卿。エトナ姫のご様子はいかがか」

 国王は、巨人族の姫、エトナの身を案じた。

「はい。エトナ姫はご健勝であらせられます。されど、お国への望郷はあろうかと、ご察しいたします」

 国王は目を細める。

「で、あるか。カミーユ卿。話を変える」

 カミーユは王の心情を推し量る。

「はい。何なりと」

 王はカミーユを眼力で射抜く。

「カミーユ・ロラン男爵。そなたは、蛮族を打ち破り、先日も子爵の館からの脱出を果たした武のものである。そこでだ」

 王は言葉を切り、カミーユを見つめた。

「カミーユ卿。そなたの武芸。余に見せてはくれぬか」

 カミーユは驚くが、それは表情には出さない。

「かしこまりました。拙い技でお目汚しとなるやもしれませぬが。ご披露させていただきます」

 国王は少し愉快な表情を見せた。

「では、騎士クラリスと木剣での立ち会いを命じる。試合は余が見定める。これより中庭で行うこととする」

 カミーユは目礼する。騎士クラリスの表情は変わらなかった。

 こうして、御前試合が執り行われることとなった。

 カミーユとクラリスは中庭の中央に出る。
 国王は中庭に運ばれた床几に腰掛けた。

 舞台は中庭であり、回廊の様々な場所にいるの人々からも、その様子は眺められていた。

 カミーユとクラリスは木剣を手に取り、遠間に向き合う。

「お互い備えは良いな。では、始めよ」

 王の掛け声があった。

 カミーユは、クラリスの出方を伺う。

 カミーユは、このような立ち会いは剣士ローレンとしか行ったことがない。

 経験が不足していた。

 そして、騎士クラリスの構えは、ローレンと型は違っているが、それに勝るとも劣らない実力を感じさせた。

 クラリスは、カミーユが動かないと見ると、素早く踏み込み、剣の端を持った突きを繰り出してきた。
 その動きは疾く、見事なものであった。

 カミーユはその突きを木剣で打ち払う。
 十分に力の乗った打ち払いが、クラリスの体勢を崩した。

 そこで、カミーユは左手に回り込もうとする。
 クラリスの崩れた姿勢の背を打とう。そういった意図があった。

 しかし、クラリスはそのままの勢いで自然に前転する。
 回る間に剣を振るい、カミーユの脛を強かに打った。

 もし、クラリスの手に宝剣が握られていれば、カミーユの利き足は切断されていたかもしれない。
 それほどの一撃であった。

 尋常の勝負であれば、勝ち負けは明白である。

 されど、王から止める言葉は出なかった。

 クラリスは近間から飛び退き、カミーユとクラリスは再び遠間で相対した。

 次はカミーユが仕掛けた。
 先程のクラリスと同じように、踏み込みの突きを放つ。
 クラリスはそれを打ち払う。

 しかし、その後の結果が違っていた。
 クラリスの木剣は、カミーユの木剣に吸い付くように絡みつき、その動きを封じた。

 巻き技と言われる技法であった。

 クラリスはカミーユの剣を高々と上げ、隙の出来た喉元を軽く突く。

 まだ、王から止める言葉は出なかった。

 クラリスの剣の腕前は、このベラルーン王国でも抜きん出たものであった。
 最強との呼び声もあった。

 本格的に剣を習い始めて数週間のカミーユが敵うはずはなかった。

 カミーユの木剣は躱され、受け流され、絡め取られた。

 その度に、カミーユは強かに打たれた。
 カミーユの全身で、クラリスの木刀が打たないところは無くなった。

 しかし、王が止めることはなかった。

 カミーユが九十九回目を打たれた時だった。

 王が言を発する。

「カミーユ卿。遠慮をせずに戦え」

 王命が出た。
 カミーユはそれに従う。

 遠間に立ち向かうカミーユとクラリス。
 カミーユは自らの身体に流れる竜の血の魔力を全身に行き渡らせる。

 そして、左拳を全力で地面に叩きつけた。

 爆風が吹き荒れ、
 激しい地震が起きた。

 衝撃波があたりのものを吹き飛ばす。
 建物が歪む。
 中庭の地面が割れ、木々が倒れた。

 その割れ目の中央に、騎士クラリスがいた。

 騎士クラリスの足元の地面は液体のようなぬかるみになっていた。
 これは、大地が激しく揺れた時に起きる現象である。

 カミーユは駆け、大地に足首まで埋まったクラリスの胴を、木剣で薙いだ。

 手加減はしていたが、クラリスは水平に飛び、転がり、動かなくなった。

 衝撃波で倒れていた王は立ち上がり、言を発する。

「そこまで、両名よく戦った」

 騎士クラリスは昏倒していたが、なんとか立ち上がり、王の元に辿り着き、片膝をついた。

 カミーユも、片膝をつき首を垂れた。

 王は言葉を発する。

「カミーユ・ロラン男爵。巨人族の姫、エトナ姫を、お国に返すことを命じる。そなたとそなたの郎党、及び、騎士クラリスと共に、これを成すこと」

 カミーユは深く頭を垂れた。

「かしこまりました。御下命。必ず果たします」

 クラリスも遅れて頭を下げる。

「御下命、必ずや」

 王は話題を変える。

「此度の立ち会い、両名見事であった。褒美として金子を使わす。また、カミーユ・ロラン男爵には、紋章に竜の意匠を用いることを許す」

 竜の意匠。

 この国、ベラルーン王国において、その意匠を用いることができるのは、王家のものか、その親類。

 または、国で最も武芸の優れたもの。のみである。

 つまり、ゲオルグ国王は、カミーユの武力は、この国で最も優れていると認めたのだ。

 カミーユとクラリスは、再び頭を下げた。
 王は立ち上がり、御室へ帰って行った。

 それを見届け、カミーユは立ち上がった。
 クラリスは痛みのあまり地に倒れた。

 胴部、肋骨の骨折の恐れがあった。

「騎士クラリス」

 カミーユは声をかけ、クラリスの手を取り、抱き起こした。
 侍女に声をかけ、水の入った杯を取り寄せ、クラリスの口に含ませた。
 そして、自らに流れる竜の血から魔力を汲み上げ、クラリスに注ぎ込んだ。

「ロラン男爵」

 クラリスの骨折は治り、カミーユの名を呼んだ。

「お気は確かですか。騎士クラリス。立ち会い、ありがとうございました」

 カミーユは抱き上げた手を離し、クラリスを立たせた。

「お見苦しいところを。申し訳ありません。ロラン男爵」

 クラリスは頭を下げた。

「良いのです。騎士クラリス。案内を続けていただけますか」

 カミーユは、クラリスの心情を推し量り、その任を続けるよう促した。

「はい。出口までご案内いたします」

 そう言うと、クラリスは歩み出した。

 これが、騎士カミーユと騎士クラリスの出会いであった。
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