剣と竜の世界に生まれて〜田舎村の怪力娘。強すぎて戦場で武勲を挙げまくる〜

林美鈴

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第一章 爆速出世街道!蛮族を屠り、陰謀を砕き、巨人の王に認められるまで

第35話 女泥棒ユマの雇用。そして女侯爵サラは、騎士カミーユへの愛に身を焦がす

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 巨人の国、ガルヘルムを発ったカミーユたち一行は、道中難も無く、無事にベラルーン王国領内へたどり着いた。

 すでに季節は初夏を終えようとしており、カミーユと兵たちに汗が浮かんだ。

 カミーユは、騎士クラリスと従者フローラ、そして兵たちに休憩を告げた。

 気温が高くなると、馬の疲労が激しくなる。無理をするのは禁物であった。

 カミーユはワゴンの御者を務める従者フローラに問う。

「フローラ、ワゴンは重たくありませんか。馬たちの疲労は如何程ですか」

 カミーユはワゴンを心配していた。

 巨人族の先代の父王ゾンネ、およびカミン王から、多数の金銀財宝を賜っていた。
 その中には貴重なミスリル、魔法の金属も含まれている。
 これらの重量で、四頭立ての大きなワゴンも、重たく傾いて見えた。

 従者フローラは答える。

「馬たちは問題なく引いてくれています。ただ、車軸にかかる重量が心配です。王都まで保つか、微妙な様子です」

 カミーユは考える。フローラがそう言うのであれば、間違いなく車軸に負担がかかっているのだろう。
 できれば、次の村で新たな馬車を見つけ、重量を分散させたいところであった。

「わかりました。フローラ。次の村で、荷馬車を探してみましょう」

 カミーユはそう答えた。

 次の村に着いた。ちょうど行商人が来ており、カミーユたちは食料などを買い求めた。

 すると、行商人の馬車の御者台に、見知った顔をみつけた。

「ユマ。曲がり指のユマではありませんか。久しぶりですね。お元気でしたか」

 ユマはカミーユを見て胸を弾ませる。しかしそれを隠し、苦々しく答えた。

「元気は元気、大元気さ。だがね。こちとら王都の悪人どもを裏切ったって言う悪名が流れてね。ほとぼり冷めるまで、しけた御者暮らしさ」

 ユマはカミーユに振り向きそう答える。そして、補給する兵たちが、銀貨、金貨ではなく、金の延べ棒を切り取って支払いをしている様を見かける。

「カミーユ。あんたら、懐が随分と温いようだね」

 カミーユは素直に答える。

「はい。巨人の国ガルヘルムの王よりの賜り物がございます」

 ユマは、傾いたワゴンを見る。

「随分傾いてるね。賜り物のせいかい。あれじゃ王都までもたないんじゃないのか」

 カミーユは困り顔で答える。

「はい。困っているところなのです」

 ユマは得心し、ニヤついた。

「この馬車を使うといい。安心しな。アタシが商人と話をまとめる」

 そう言うと、ユマは御者台を降り、忙しそうに商品を取り扱う行商人の元へ向かった。

「おい。おっちゃん。そんな忙しないことしなくていいぜ。あの騎士さんが、馬車ごと買い取ってくれるってよ」

 ユマは兵の持つ金の延べ棒をいつの間にか手にしており、それを差し出した。

「そら、これだけあれば十分だろう。あんたには生まれつきの足がある。馬車がなくてもそれだけ懐が温けりゃ、また仕事道具を揃えても、十分お釣りが出る額だ」

 商人は喜び、馬車を譲る交渉はすぐに済んだ。
 カミーユは、ユマの行動力に感嘆した。

「こっちの御者はアタシに任せな。料金は弾んでもらうがね。あの、金の延べ棒一本だ」

 御者では一生手にすることはない大金である。

 だが、カミーユは応じる。

「わかりました。ユマ、御者をよろしくお願いします」
 こうして、ユマを加えた一行は、王都への旅を続けた。

 道中、ユマは治安が良く、大きな馬車二台が停められる場所を素早く確保し、一行が安心して泊まれる宿に案内する。

 料金も適切に交渉し、こちらが大金を持っていることを悟らせない。

 宿の食事は温かく美味であり、寝台は清潔で柔らかかった。

 翌朝、朝食の際に話を聞くと、荷馬車の夜番を交替で務める兵たちに、夜食と温かなお茶の差し入れもあったらしい。

 カミーユは、自らよりも年下に見えるユマの、その様な手際の良さに舌を巻いた。

 旅の道中、カミーユはユマの操る馬車に近づいた。

「ユマ。お話があります」


「なんだいカミーユ。今日の道行なら、夕方には村に着くさ」

 ユマは馬を巧みに操りながらそっけなく答える。
 しかし、内心は、カミーユに語りかけられて、喜びを感じている。

 カミーユは、それを了解し、言葉を続ける。

「ユマ。あなたはならず者から狙われ、ほとぼりが冷めるまで、御者などをしていると言いました。それはあなたの本意ですか」

 ユマはつまらなそうに答える。

「まさか。アタシは面倒ごとに巻き込まれて、食うに困って田舎にいるだけさ。こんな生活、いつまでも続ける気はないね」

 カミーユは、得心して言葉を発した。

「ユマ。あなたはロラン男爵家、私、カミーユ・ロランの元で働く気はありませんか」

 ユマ内心を隠し、笑い飛ばす。

「カミーユ。悪いものを食わせた覚えはないが、どうかしてるぜ。アタシは鍵師。もっと簡単に言えば泥棒だ。そんな泥棒を貴族様が雇うなんて、ありえないだろ」

 カミーユは答える。

「ユマ、あなたはビスタニオ子爵の牢獄で、手枷を外された後、私を助けず、あなたの幻の魔法で一人で逃げることもできたはずです。その方が安全だったでしょう。けれども、あなたはそうはしなかった。約束通り、私の枷を外してくれた。私はあなたに気高さを感じています」

 ユマは黙っている。自分に気高さがあるなどと考えたこともなかった。

「そして、我が家には人材が足りません。特に、あなたのように内に外にと気を配ることが出来る優秀な人材が。ユマ、どうか我が家に仕えてはくださいませんか」

「カミーユ。あんた、イカれてるって言われるだろう」

 カミーユは答える。

「寡聞にして、その様な言葉をよく知りません。恐ろしい。あたりの意味でしょうか」

 ユマは答える。

「そうさね。アタシはあんたが恐ろしいよ。アタシは殺しや人攫いはしていない。だが、人のものを盗むことに躊躇は無いよ。泥棒なんだ。根っからのね」

 カミーユは微笑んで答える。

「ユマ。ですが、あなたはそうしない。私たちの荷物に手を出さない。私との契約を守ってくれているのです。ユマ、私はあなたを信頼しています」

 ユマは頭を掻きむしった。

「ああ、もう、わかったよ。これ以上寒イボが出そうなことを言わないでくれ。わかった。あんたの家でやっかいになる。ただし、賃金は一日につき金貨五枚だ。あと、アタシの身元の保証も頼むよ」

 腕の良い職人の賃金が、金貨一枚から、良くて二枚である。ユマのような少女に金貨五枚は破格の待遇である。

「わかりました。ユマ。ありがとうございます。改めて、これからよろしくお願いします」

 カミーユは微笑んだ。

 やっぱイカれてんぜ。ユマは独り呟いた。
 その顔は熱く、そっぽを向いて隠した。


 その様な旅が続き、カミーユたち一行は王都へ辿り着いた。

 王都へ入ったカミーユは、すぐに手紙を書き、王宮とハイアン侯爵家に使いの者を出した。

 カミーユの帰還を知らせ、巨人の国ガルヘルムと友好関係を結べたこと、エトナ姫を娶る事になったことを伝えねばならなかった。

 カミーユが館で二人の師、剣士ローレンと大魔道師ゴダールに帰還の挨拶をしていると、すぐにハイアン家と王宮から、返事を持った使いのものがやってきた。

 カミーユはまず、王宮からの手紙を確認する。
 それは、すぐさま、日を跨がず、国王陛下の元へ参じよとの内容だった。

 カミーユは続いて、ハイアン家からの手紙を確認する。
 それはサラ・ハイアン侯爵本人の文字で書かれていた。

 カミーユはサラの冷たくしなやかな指先を思い出した。

 手紙の内容は、これも簡潔に、ハイアン家への来訪を求めるものだった。


 カミーユは、取り急ぎ旅の埃を落とし、男装の礼服に着替え、王宮へ向かう事にした。
 サラの手紙は気になったが、王命に抗じるわけにはいかなかった。

 ロラン男爵家の紋章、振り返る竜の紋章を付けたクーペ。一頭立ての二輪馬車で、カミーユは王宮へ向かった。

 王宮へ着くと、すぐさま家来が現れ、王宮の小さな応接室へ連れて行かれた。

 速やかに衛兵が扉を開く。中には中央に机と周囲に六脚の椅子が並べられていた。

 そこには、国王陛下、ゲオルグ・アレクセイ・プラソールが既に座っていた。
 その側には、王都に入ってすぐに別れた騎士クラリスが立っている。

「礼は良い。すぐに椅子に座るのだ」

 王はそう発し、カミーユは家来が引いた椅子に座った。

「ロラン男爵。此度の働き、誠に見事であった。余はそなたの様な忠臣を持つことを誇る」

 カミーユは恐縮し、椅子に座ったまま頭を下げる。

「事が事であるゆえ、この様な場所での会話となる。許せよ。さて、まずはエトナ姫の返還を無事に遂げたこと、見事であった」

 王は言葉を続ける。

「更には、巨人の国、ガルヘルムと言うのだな。その王子の戴冠を武によって助けた件、我がベラルーン王国の国益に叶う事大である」

 王は言葉を続ける。カミーユの功績が大きすぎた。

「加えて、巨人の国ガルヘルムのエトナ姫との婚約を果たしたと聞いた。これで我がベラルーン王国と、ガルヘルム国との同盟は強固なものとなろう」

 王はようやく一息ついた。

「ロラン男爵。これらについて、誤りは無いな」

 カミーユは答える。

「はい。我が剣に誓って、それらの出来事に誤りはございません」

 王はうむむと唸る。カミーユ・ロラン男爵に期待し、巨人の国に送り出したが、これほどの功績を上げるとは、予想外の事であった。

「ロラン男爵。細かな褒章については後回しとする。まず、そなたには伯爵への昇爵を与える。他国の姫を娶るのであれば、最低でもこの爵位は必要であろう。また、此度の働きを鑑みれば、それに見合う十分な偉業となる」

 カミーユは首を垂れる。

「正式な昇爵の下命は、明日の謁見の間にて、諸侯たちを集めた上で行う」

 カミーユは言を発する。

「かしこましました。陛下」

「では、下がって良い。旅の疲れを癒すが良い」

「はい。御心、ありがとうございます」

 カミーユは王の前から辞した。
 騎士クラリスは微動だにせずに立っていた。


 王宮を出たカミーユは、すぐにクーペに乗り込んだ。

「ハイアン侯爵家へ向かう様、願います」

 カミーユは御者に命じた。
 サラ・ハイアン侯爵の王都の屋敷は、王宮のすぐ側にある。

 カミーユは馬車を降り、ハイアン家の家来の案内を受け、サラの執務室に入った。

 サラは執務室の窓からの明かりを受け、顔は影となり、表情はよく見えなかった。カミーユは自然と、自身の明かりを見通す目を使いそうになったが、まずは礼と挨拶を行うこととした。

 その前に、サラはコツコツと小気味の良い足音を響かせてカミーユに近づいた。

 そして、思い切りその頬を張った。

 無論、カミーユに痛みは無い。しかし、その衝撃は激しくカミーユに響いた。

「後見人の私に話なく、婚約したことはこれで許します。カミーユ卿。王宮で話したこと、全て誠ですね」

 カミーユは片膝を付き答える。

「はい。国王陛下の前で誓ったこと、全て真実に違いありません」

 サラはカミーユを睨みつける。

「わかりました。立ちなさいカミーユ」

 立ち上がったカミーユの首を、サラの両腕が抱いた。

「カミーユ。あまり無茶をしないで。私はあなたの後見人だけれども、あなたを愛する女でもあるのよ」

 カミーユはサラの腰に手を回した。そして口付けを交わす。

「ハイアン侯爵閣下。私に過ぎたるお言葉、ありがとうございます」

 サラはカミーユの首に巻いた腕の力を強める。

「サラと呼んで。そうで無いと、このままあなたを締め殺して、私も死ぬかもしれないわよ」

 カミーユはサラの背を抱きしめた。

「サラ、勝手なことをして申し訳ありませんでした。家に使いの者を出していただけますか」

 カミーユはサラに、ロラン家への使い。自らがハイアン侯爵家へ泊まることを伝える者。を頼んだ。

 こうして、カミーユはサラに許され、サラとともに寝ることとなった。
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