剣と竜の世界に生まれて〜田舎村の怪力娘。強すぎて戦場で武勲を挙げまくる〜

林美鈴

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第一章 爆速出世街道!蛮族を屠り、陰謀を砕き、巨人の王に認められるまで

第36話 乙女たちと迎える晴れやかなる日。伯爵位の叙勲。それは公爵、そして神へと続く階段の一足

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 もう何度目だろうか、カミーユはサラ・ハイアン侯爵の寝室で目を覚ました。
 サラはまだ眠っており、カミーユの腕の中にいる。

 サラの白い体には赤い花のような跡が残っており、カミーユはそれを愛おしく撫でた。

 カミーユはサラを起こさないように寝台を離れ、いつもの絨毯の上で座禅を組み、瞑想する。
 カミーユの瞑想は、師ゴダールの教えに従い、自らを無にすることを目的としていた。

 自らと周囲との境界線をなくすことで、瞑想が解けた際には、自らの力をどこまでも大きく。逆にどこまでも小さくできるようになるのだ。

 しかし、カミーユはなかなか師ゴダールのようにはいかず。道半ばであった。

 サラが起き出し、侍女の持ってきた紅茶の香りが漂う頃、カミーユは瞑想から目覚めた。

 侍女から服を受け取り、身につける。サラはまだ寝惚けた様子で、カミーユの姿をぼうっと見ている。

 カミーユはサラの頬を撫で、覚醒へと導く。サラはカミーユの手に頬をこすりつけ、ようやく立ち上がった。

 今日は陞爵の下命をいただく晴れの場である。
 カミーユはそれに相応しい、紫を基調とした雅な男装の礼服に身を包む。
 ハイアン侯爵家には、カミーユの身丈に合わせた様々な服が揃っていた。

 サラも後見人として、カミーユに負けず劣らず雅なドレスに身を包んだ。
 その色は桃色で、髪はウェーブをかけて流した。サラの豪奢な顔にそれらはよく映えた。

「行くわよ。カミーユ」

 サラはカミーユに声をかけた。名前で呼び会えるのは部屋の中だけだ。

「はい。行きましょう。サラ」

 二人は部屋を出て、馬車に乗り込む。

 馬車が王宮につくと、カミーユとサラは一時離れ離れとなる。

 サラ・ハイアン侯爵と、カミーユ・ロラン男爵には、大きな身分の差があり、控えの間が別になっている。

 カミーユは、下級貴族の控えの間で、先に待っていたフローラと合流する。

「カミーユ様。ご無事でしたか」

 フローラは、まるで戦場に出た主人が帰ってきたかのようにすり寄ってきた。

「フローラ。何も心配はありません。無事です。それよりも、家は問題ありませんか」

 カミーユは、抱擁と口づけで応え、旅から帰ってすぐに空けてしまった館のことを尋ねた。

「はい。お家は問題ありません。侍女さんたちの力で、今ではお屋敷は鏡のように磨かれています」

 カミーユは、フローラの言葉に安堵する。やはり、家を任せるに、フローラほどの適任者はいない。

「ユマなどはどのように過ごしていますか」

 カミーユは新たに加わった配下のことを尋ねた。

「はい。専用の部屋を用意し、そこに入っていただきました。一度だけ、寝台が上等すぎるという苦情を受けましたが、夜が明けると納得していただけたようでした」

 カミーユは、フローラの答えに満足した。

 そうして、カミーユとフローラは控えの間で待った。

 フローラは相変わらず綺羅びやかな装飾を見つめ続けていた。
 カミーユが、上級貴族の控えの間は、こことは比べ物にならないほど豪華なはずだ。と伝えると、フローラは想像もつかないと驚いていた。

 そして、以前訪れたときと同じように、お茶菓子を食べさせ合い、カミーユとフローラは久しぶりに戯れていた。

 ノーム、妖精の作った仕掛け時計が一時間を数える頃、王宮の家来がカミーユを呼びに来た。

「では、フローラ。待っていてくださいね」

「はい。カミーユ様。お待ちしております」

 カミーユは謁見の間に入る。左右に貴族が並び、正面に王族が座る。

 王族は、以前カミーユと舞踏会で踊った、王女アナスタシア・アレクセイ・プラソール殿下、それと、王弟ミハイル・アウドムラ・プラソール殿下、その息子の王甥リヒャルト殿下である。

 カミーユは中央に歩む。
 その短い間、王女アナスタシアと視線を交わす。

 その硬い視線に運命を感じ、カミーユは王女の冷たい瞳を見つめる。
 王女も、カミーユに熱い瞳を見つめる。

 やがて、カミーユは中央にたどり着き、片膝を付いて頭を垂れた。
 貴族たちも、立礼の構えを取った。

 十分程時が過ぎた。

「偉大なる王にして、我が国の威信。ゲオルグ・アレクセイ・プラソール陛下。御入来」

 衛兵の声が響き渡る。

 扉が開き、国王ゲオルグが入室する。
 国王は威厳に満ち、ゆったりとした足取りで歩み、玉座に座った。

「面をあげよ」

 王がそう言い放つと、貴族たちは王に顔を向けた。続いてカミーユも、膝をついたまま顔を向ける。

 カミーユは王を見つめる。玉座の王は威厳に溢れており、その深い皺の一つ一つが、重ねた知恵と経験を思わせた。

「ロラン男爵よ」

 王は言葉を発した。皆に緊張が走った。

「過日の巨人の国、ガルヘルムでの親善活動。誠に見事であった。これにより、そなたは国難を取り除き、我が国に安寧をもたらした」

 国王陛下はカミーユを褒める。

 リヒテンハイム公を始めとする。王弟派閥の貴族たちは歯噛みする。
 なお、サラ・ハイアン侯爵は王女派閥の筆頭であった。

 そのサラ・ハイアンの子飼いの男爵が褒め称えられる様は、王弟派閥の貴族たちにとって、面白いものではなかった。

「加えて」

 国王陛下は言葉を続ける。

「ガルヘルム国にて、先日即位されたカミン王。この姉上にあたられるエトナ王女。このエトナ王女と、ロラン男爵はただいま婚約関係にある。これもまた、両国の発展に寄与すること大である」

 貴族たちはざわめく。エトナ姫とカミーユの婚約のことは、ごく一部のものしか知り得ないことだった。

「また、先に述べた、カミン王の即位。この即位の儀式にもロラン男爵は大いに寄与し、先王ゾンネより、感謝の意を伝えられている」

 稀に見る王のお褒めの言葉が続き、貴族たちに動揺が広がる。

「よって、カミーユ・ロラン。その功績大にして、留まることがない。これら功績をもって、カミーユ・ロランよ。そなたに伯爵の地位を授ける」

 小声ながら、流石に貴族たちの悪言が聞こえる。

「一つ飛ばしで伯爵など、聞いたことがない」

「あの女の子飼い故、課題に評価されておるのだろう。陛下の目を曇らせる女狐め」

「巨人の国だの何だのと、嘘か真かしれたものではない」

 サラ・ハイアン侯爵率いる王女派は、栄光の時を得たりと、したり顔だ。

「カミーユ・ロラン伯爵よ」

 国王陛下が声を張る。貴族たちの悪言は静まった。

「加増、褒賞については追って伝える。改めて言う。此度の功績。余は嬉しく思う。大義であった」

 カミーユは頭を垂れた。

 王は玉座を立った。退出する様子であった。
 カミーユは頭を深く下げ、王の退出を待った。

 王の気配が消え、顔を上げると、王女殿下。アナスタシアと再び目が合った。
 アナスタシアはずっと顔を伏せていたが、視線だけは、あの舞踏会の夜のように、カミーユを見つめていた。

 王族の退出が始まる。王女アナスタシアも席を立つ。
 見つめ合った時間は十秒もなかっただろう。カミーユの脳裏に、物憂げな王女の氷の瞳が焼き付いた。

 王族が退出する前、王家の退出の扉の前で、小さな騒ぎがおきた。
 カミーユは、自然とその声を拾う。領地での略奪を知らせているようだった。

 衛兵の声が響く。

「諸卿らは、そのまま待つようにと、国王陛下の御言葉である」

 王族たちは座席に戻り、貴族たちは立礼を取り、カミーユは膝をついたまま頭を垂れていた。

 一分もたたぬ内に、国王が再び入来した。衛兵の叫びはなかった。

 国王は素早く玉座に座った。

「皆のものに告げる。先程、早馬により、ブログダン帝国の国境侵犯の報せがあった。複数の村々が襲われ、略奪も起きている。主だった諸侯らは軍議を行うため、会議室へ参内のこと。カミーユ・ロラン伯爵。そなたも来るように。残りの者たちは、控えの間で待機すること」

 こうして、カミーユ・ロランは伯爵となった。時を同じくして、後に王国に吹き荒れる戦火の、最初の火種が灯った。
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