死が二人を分かたない世界

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真里編:第2章 別れ

過去の告白

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※この回と次回まで子供が虐待されているシーンを含みます、苦手な方はご注意ください。


 おそらく僕はひどく怯えた顔をしていたんだろう。

「安心しろ、処女はお楽しみにとっておくから」
「んん~~っ!」
 その発言は全然安心できない! フォローになってない!

 ユキの顔が近づいて来て、目を瞑って身構えたら……あれ? 何も起きない? と片目を開けたところで額にキスされた。
 強めに口を塞いでいた右手はゆるめられた後、僕の頬に移動して来た。その後眉間、こめかみ、鼻の頭とキスされて、正直僕は困惑した、その仕草だけで伝わってくる程の愛情に困惑したんだ。

「ユキ……?」
「なんだ、物足りなくなったか」
 絆されそうになった一瞬、意地悪な表情と同時に、ユキの冷たい左手がシャツの中に入り込んできて、思わず体が跳ねた。
「あ、だめ! いやだ!」
 頬から左肩に移動した手を必死で押し返すが、全く効果がない! そんな抵抗をしている間に胸の突起をきゅっとつままれた……!

「いやだって言ってるだろ!」
 あまりにも腹が立ったので、思いっきり腹を蹴り上げた。

「ぐぅっ! 真里ひどい……」
「ひどいのはそっちだろ! この淫魔!」
「色々教えてやったじゃないか、少しくらい触らせてくれてもいいだろ、正当な対価だ」

 涙目で腹を押さえる犬耳の悪魔、ざまあみろ! なんでいつもいつも、こんなんじゃ僕がユキの事、素直に好きになれ……いやおかしい、好きにならなくていいだろ! 

 大事な話をしようと思ってたのに、イタズラされて話の腰を折られてしまった……。
 さっきの話からすると、ユキは僕があの女を"殺したいほど憎んでる"と見込み、スカウトに来たワケで。確かに、あの女の事は憎いとは思う……思っていた、もちろん今も憎くないわけではない、けど……。

「ユキは僕があの女……生みの親を憎んでいると思って、僕のところに来たんだよね」
「そうだな、真里を魔界に連れていくには、命を懸けてくれるのが一番早い、できれば殺してくれと願ってくれると楽でいいな!」
 "命に関わる対価は命だけ"いつも直球だな、もっと騙したり誘導したりすればいいのに……そういうところがきっとユキの魅力なんだろう。

「じゃあ、僕がどれだけ今の両親に感謝してるかは知ってる?」

 ユキが驚いた表情をしている、悪魔というのは憎しみの感情に敏感で、それ以外の感情を失念してしまうのだろうか。
 人間は憎しみだけで出来ているわけではない。僕の資料を見たと言っていたけれど、文字の羅列だけでは確認できない、そこに僕の感情が伴っている事をユキに知って欲しいと思った。

「ユキは僕の事調べてきたなら、知ってるとは思うんだけど……僕の話を聞いてくれる?」

 まっすぐで人を騙そうともしてない悪魔相手に、僕は真正面から対峙したいと思った。
 ただ、この話は僕の中で一番辛かった時期の話だから……不安を少しでも和らげようと、僕はユキの左手を両手で握った。

ーーーーー

 僕は物心ついた頃には母親と二人暮らしだった、家の中はゴミだらけ、昼間はいつも一人で外にいた。夜仕事に出る母親が昼間眠れるように、外に追い出されていたからだ。
 寒いから出たく無い、暑いから行きたくないと言えば、殴る蹴るで僕はボロボロになった。

 夜も一人で家にいた、蛍光灯が切れていたのか、それとも電気が止められていたからか……家の中はすぐ暗くなる。仕事で母親が居ない、暗い寂しい怖い、毎日長い夜だった。

 朝仕事から帰った母親が、1日1食の食事を一緒に食べるのが唯一の楽しみだ。食べ終わったらすぐに部屋から追い出され、仕事で気に食わないことがあった日は憂さ晴らしで殴られた。

 風邪をひいて熱が出た日も、お腹が痛い日も、母親が僕に付き添うことはなかった、もちろん病院なんて連れて行ってもらったことは一度もない。
 しかしそれが僕の日常だ、僕にとってはこれが"普通"で"あたりまえ"だった。

 6歳になった頃、母親はとうとう2、3日に1度しか帰ってこなくなり、僕はお腹を空かせたまま、1人町内をフラフラと歩いていた。

 お風呂にもあまり入っていないから、服も体も汚いし、愛想も無いし、大半の大人は関わりたくなかったのだろう、目が合っても声をかける人なんて居ない。
 昼間に僕が公園に立ち寄れば、僕より小さい子供の母親たちが、逃げるように子供を連れて家へ帰った。夕方になって小学生が公園に来るようになると、今度はいじめられて僕が追い出される。
 子供が遊ぶための公園は、僕にとっては楽しいものではなかった。だからいつも道端を歩いたり、一人で虫を取ったりして遊んでいた……取った虫を入れるカゴも無いのに。

 ある雨の日、いつものように傘も持たず、いろんな建物で雨宿りをしながら僕は徘徊していた。雨が弱くなった隙にと前も見ずに駆け出して、女の人とぶつかってしまった。

 ひっくり返って水溜りで濡れた僕を見て、その人は何度も謝ってきた。はじめて自分と真正面から話してくれる人が居て、その時はどうしていいかも分からず、ただ目を丸くして女の人を見つめていた。
 その人は僕の手を引いて自分の家に連れて行ってくれた、お風呂に入れてくれた。盛大にぐぅと鳴った腹の音を聞いて、一緒にご飯を食べさせてくれた。とても嬉しかった、とても暖かかった、それが今の母さんだ。

 それから僕はお腹が空いてはその家に入り浸った。その家には子供が居なかったからか、夫婦揃って僕を可愛がってくれるようになった。
 二人は僕にいろんなはじめてをくれた、絵本も読んでもらったし、ぬりえやお絵かきだってさせてくれた、おやつも食べさせてくれたし、一緒にお昼寝もした。
 はじめて褒められて、はじめて撫でられて、はじめて抱きしめてもらって、はじめて上から来る大人の手が怖くないと思った、人の暖かさを教えてもらった……。

 しかしそんな日々が長く続くわけがなかったのだ。
 僕が知らない綺麗な服を着ている事や、2、3日に1度の食事にも関わらず前よりも元気な事を、母親に気づかれないわけがなかった。
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