死が二人を分かたない世界

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魔界編:第3章 お仕事

憂い事

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 ハルキさんは最後まで魔王様のフリをやり通した。
 街の人たちに伝えていた通りに、魔王様のフリをして"湯気まつり"に向かったのだ。普段遠目から見る機会さえ殆どない魔王様に、街の人たちは大いに盛り上がっていた。

 みんな騙されてますよ、本物は笑顔なだけでそんなに愛想よくないですよ。

 ハルキさん曰く、魔王様のイメージアップキャンペーンらしい、確かにそんなの本物がやる筈もない。

 僕たちは魔王様扮するハルキさんの護衛を暫くしてから、ユキの作った転移陣で4人で少し離れた人のいない区画へ飛んだ。
 そこでやっと魔王様の見た目を解いて、ハルキさんはいつもの白髪に近い薄い髪色とスーツ姿に戻った。僕は初めてハルキさんの素顔を見た、ユキから死んだ時の年齢は26歳だと聞いていたけど、ずっと若く見える顔立ちの左のこめかみには……大きく酷い傷跡があった。
 何も言わずにいつもの上半分の狐面を着けると、ハルキさんのその致命傷である傷が綺麗に隠れる。

「お疲れ様でした、お二人のお陰で順調に事が進みました」
 ご機嫌に両手を合わせたハルキさんは、今日の仕事に満足がいったようだった。

「結局一人だけだったな、あの鬼化の現象……気が大きくなるところがある様だし、今後も出てくるかもしれんな」
 ユキが頭を抱える様にしてため息をついたが、ハルキさんは見えている口元で笑顔を作る。
「こちらで調査チームを組みますので、何かあったらまた協力して下さい……お二人はこの後祭りに戻るのでしょう?」
 
 僕は温泉街にも興味があるし、お祭りにも行きたい……ソワソワしながらユキを見上げると、少し笑って頷いてくれた。
「では、私たちはここで……」
「いいなぁ、私も行きたかったな」
 ハルキさんに顔を寄せる様に、突然目の前に現れた全身真っ黒のその人は、ハルキさんの顎を撫であげながらクスクスと笑っていた。
 ハルキさんが変装を解除するのと入れ替わるように、今度は本物が現れた。

「なっ……! 来ないでくださいと言ったじゃないですか!」
「何かアクシデントがあったようだね」
 今度はハルキさんの向かいに居たユキへと手が伸びた、前に流している長い横髪を手で下まで撫でながら……いつもの何を考えているのかわからない笑顔を作る。

「無事でよかった」
「当たり前でしょう」
 ユキはフンッと鼻を鳴らすように息巻いている、触って当たり前、触られて当たり前みたいなこの関係に、僕としてはモヤモヤするのを隠せない。
「覇戸部も、いい事があったみたいだね……えらく上機嫌じゃないか」
 ……え? いつも通りのしかめっ面にしか見えませんけど!?

 魔王様は一通り自分の眷属である三人に声をかけて、僕と目線を合わせてきた。
「真里……君がそれを受け入れるなら、ユキと離れる覚悟をしなければいけないよ」
「えっ……」
「抗いなさい」
 魔王様はそう言って僕の胸を指で突いた、これ……前にも……!

「魔王様!」
 ユキが魔王様の手を取って、僕の胸からその指を引き離した。
「その方が私も楽しいからね」
 クスクスと口元だけ笑うその表情は、己の眷属である三人を見る目とは明らかに違っていた。好いてほしいなんて思ってないし、僕の事をあまり良く思っていないのも理解してる……ただこうも扱いが違うと、傷つかないわけではない。

「ユキ、私の城まで陣を開いてくれるかい?」
「……はぁ、わかりました」
 ユキが三人の足元に転移陣を展開する。
「そうだ、私は近々現世に上がる予定だから君もついておいで」
「えっ……!」
 一方的に言いたいことだけを言って、嵐のように魔王様は去っていった。本気で何しに来たんだあの人……。

「魔王様が言ってた言葉の意味が分からなかったんだけど、どういうこと?」
「……俺にもわからん、あの人は時々俺たちとは別次元の話をしてくるからな」
 本当にユキは分からなかったのだろうか? ユキは時々都合の悪いことをはぐらかしたりするから……内容が内容なだけに、僕には魔王様の発言は無視できるものではなかった。

「僕がユキと離れる覚悟って……」
「俺たちがお互い離れたくないと思ってれば、大丈夫……だろ?」
「……うん」
 ユキが僕の手を指を絡めるように握って、空いた右手でこめかみから耳の裏までを指先で撫でる。くすぐったい、ユキに触られると嬉しい。

「帰ってからってハルキは言ってたが……キスしてもいい?」
「うん」
 一応周りに誰もいないのか確認して、ユキに向かって目を瞑った。ユキが僕の頭を右手で引き寄せて、手を繋いだままキスした……誰もいない静かな路地裏で、少し気恥ずかしい気もする。
 ユキが引き寄せた僕の後頭部を、グッと掴んで唇が半ば強引に開かれた。舌を差し入れられて、裏側を舐められて、吸われて……外でこんなキスされたら、困る!

「あっ……ユキ、これ以上は」
「もう少し……もう少しだけだから」
 ユキが濃厚なキスを再開させながら、頭に回していた手を首筋から鎖骨と撫で下ろしてきて……さっき魔王様が突いた僕の胸の中心を、何度も何度も撫でる。
 もしかして魔王様に何かされてた!? そんな不安が過ぎって、お陰で僕はもたげそうな興奮は一瞬で冷めた。

「は……ぁ、ユキ……? そこに何かあった?」
「ん? あるよ、ここに」
 そう言ってユキが指先で服ごしで弾いたのは、僕の胸の突起で……!
「ひゃうっ!?」
「敏感になってるな……キスだけで乳首立てて、可愛い」
「もうっ!」
 これ以上外でエッチな事をされるのは本気でまずい、このまま流されて外で……なんて絶対嫌だ!
 思わず片腕で自分を抱いて、さっき弾かれたそこを隠した。本当に立ってるのが腕に当たって……もう本当恥ずかしい。
「ははっ、可愛い! 恥ずかしそうに隠すのに、手は離さないんだな?」
 ユキがまだ僕と繋いだままの手をギュッと握る。

「離さないよ……ユキと手を繋ぐの好きなんだから」
「——っ! 真里……可愛すぎて食べてしまいたいな、昨日繋いだままシたみたいに……」
 ユキが僕を抱き寄せて、耳元で熱い吐息をかけるように囁く。ゾワゾワっと背中になにか走って、腰が砕けそうになって……これはまずい。
 どうにもユキはさっきから、外でコトに及ぼうとしている気がする!

「ユキ、お祭り終わっちゃうよ」
「……んー、……そうだな、行くか」
 少しわざとらしく困った声色で伝えると、ユキが長い間を開けて少し残念そうに返事する。外でなんて絶対無理だから、僕としては一安心である。

 お祭り会場になっている通りに出ると、引き続き簡単な出店みたいなものが並んでいて、そこには色んな食べ物やくじ引きなんかが並んでいた。
 現代の屋台みたいにカラフルな看板ではなく、みんなテーブルを適当に並べて、提灯や電球で少し装飾したような手作り感溢れるお祭りだ。
 全部で30軒程の屋台の規模だったけど、魔王様が来たことで街は活気付いたようだった。

 僕たちが会場に戻ると、楽しそうにあれやこれや渡してきてくれて、支払いしたい事を伝えても、いらない持っていけと半ば無理やりに手渡された。

 殆どが食べ物で、定番のりんご飴、かき氷、綿菓子はもちろん、団子やら饅頭やら、ゆで卵やら謎の串やら……とにかくたくさん貰った。

 悪魔の体は満腹にならない、何故なら食べたものは胃に入るのではなく、体に入った時には魔力になって吸収されるからだ。生きてる時は量が食べられない体質だったけど、満腹にならないなら正直いくらでも入る。

 もらう食べ物を全てその場で完食していたら、次々と手渡されていって……両手は食べ物でいっぱいで、温泉街を散策中の今に至る。

「ハハハッ! 屋台の食べ物網羅したんじゃないか?」
「ユキは要らないの? ひとつも食べてないけど」
「俺は食事には興味ないからな」
 そういえばユキとの生活が始まってもう一週間以上経つけど、食事らしい食事はしなかったかもしれない……お腹が空かないからさして気にもしなかった。

「真里こそ、こんなに食べるなんて知らなかったぞ? 今まで口寂しかったんじゃ無いか?」
「そんなものなのかと思ってたよ、ユキは食べるのが嫌いなわけじゃ無いんだよね?」
「食事は魔力補給の一環だからな、俺の場合食べる労力の割に回復しないから摂らないってだけだ、酒はむしろ好きだが」
 くいっとお猪口を飲むフリをして笑うユキにドキッとした、そっか……お酒好きなんだ! 知らなかった……大人だ!

 ユキの場合全体の魔力量が多すぎて、他人が作った料理の回復量じゃたかが知れてるんだろうな……。

「ねぇユキ……僕が作ったら食べてくれる?」
「真里が?」
「うん、ユキの為にたっぷり魔力込めるからさ!」
「それは……真里も一緒に食べていいって事か?」
「なんでそうなる……あっ」
 そうだった! たくさん魔力を込めると快感になっちゃうんだった!

「楽しみだなぁ! 真里の手料理!」
「違うっ! そう意味じゃ無いから!」
 ユキと手を繋いで、たわいもない話をしながら歩く、それだけでも僕にとっては幸せで……。

 ユキと離れる覚悟なんて、出来るわけない。
 あの言葉が、僕の中でずっと胸に引っかかっていた。
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