死が二人を分かたない世界

ASK.R

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魔界編:第4章 与太話

思惑

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 なぜ攻撃されているのか分からないまま、顔の位置まで到達したハルキさんの足を、両腕を構えて防いだ。

 軽く蹴られた程度であればそれで十分防げていた筈なのだけど、そこから更にハルキさんの足は僕を吹っ飛ばそうとする力を加えてきた。

 お、重い……っ!
 足元が砂利で踏ん張りが効かない!

 動けなくなるのであまり得策ではないけれど、右足の裏に魔力を集めて無理やり足元を固定して耐える。

 受け止めた腕と反対の手で、ハルキさんの足の強化を相殺すると強い衝撃が発生する。衝撃を跳躍に変えて少し遠くに着地したハルキさんは、楽しそうに口元を綻ばせた。
「噂通り、恐ろしく防御が速いですね」
「ハルキさん……これは」
 僕が話しかける時間も与えてくれないのか、ハルキさんが腕に魔力を集めて構えると、こちらに向かいながら振りかぶった。

 マズい、あれをまともに食らったら風穴が開く!
 焦って避けようとしたところ、足を固定していたのを忘れていて……動かない右足の靴が脱げて、僕は間抜けにその場でつんのめった。

 運良くハルキさんの攻撃を避けられて、転ばないように体勢を整える。ハルキさんはまだやめる気は無いらしく、攻撃力の高くなっているその手は再び僕に迫ってくる。

 "襲撃された時は相手を無力化すること"
 カズヤさんの言葉が頭に浮かんで、一週間叩きこまれたことを思い出す。
 危険な腕の強化は相殺する! 普通に相殺するとその衝撃でさっきみたいに逃げられるから、相殺と同時に捕まえる!

 ハルキさんの腕を捕まえながら相殺用の魔力を流し込むと、バチンッと強い衝撃が伝ってきて一瞬手を離しそうになる。
 逃さないようにぎゅっと握る力を強めて、背中側に腕をひねりあげてから地面に向けてハルキさんを押さえつけた。
「あいたたたっ! 降参です!」
「すみませんっ!」
 痛がる声に思わず手を放してしまったが、カズヤさんの前だとこれはめちゃくちゃ怒られるやつだ。

 制圧後こっちを油断させて逃げる、反撃に出ることはよくある事だから惑わされるなって、ここ一週間くらい耳ダコなくらい言われてた。でも相手はハルキさんなので、これは許してください……と、この場に居ない師匠に心の中で謝罪する。

「謝るのはこちらの方です、突然すみません」
 ハルキさんは立ち上がりながら服をパンパンッと払っている、この世界の仕様として床に転がっても汚れはしないのだけど……思わず服を払ってしまうのは人間時の性なんだろうか。

「維持部隊の副長からも、真里様を移籍させるように何度も申し入れがあったので……」
「カズヤさんから!?」
「魔王様からも私の判断で決めていいと言われておりましたから、試すようなことをしてすみません」
「そんな……!」
 ばつが悪そうにハルキさんが後ろ頭に手を当てていて、きっと仮面の下は困り顔なんだろうなって想像できてしまった。

「ハルキさん、もしかしてものすごく手加減してくれました?」
 直血で僕より悪魔歴の長いハルキさんが、こんな簡単に制圧させてくれるわけないよね?
「いえいえ、言ったじゃないですか……私は戦闘センスがないって。結構本気でしたよ? 一週間前の動きとは見違えるようですね」
 そういえば一週間前、僕はハルキさんに助けられたんだった……思い出すと申し訳なくて恥ずかしくなる。

「私は真里様の移籍を許可したいと思っているのですが」
「本当ですか!?」
「えぇ、管理課長とはよく話し合ってくださいね。時期はお任せします」
 嬉しい……嬉しい! 僕にもユキの手伝いができるんだ! 少しでもユキと一緒に居たいって下心も、もちろんあるんだけど。

 ユキにも伊澄さんにも相談せずに、こんな勝手に決めてもいいのだろうか……そういった不安は少しあったのだけど、この世界では自分の事を自分で決めるっていうのは大事な事だ。
 自分の意志で進む、強い想いは力になる、そうしなければユキの居る高みまで目指せない。

「あぁ、こんなに早く移籍になるなんて……私の人事の采配が悪かったということでしょうか」
 少しわざとらしく悲しそうな声でハルキさんが言うものだから、何が悪いのかもわからないまま"すみません"なんて謝ってしまった。
 確かに管理課に配属されてまだ二週間とちょっとだ、自分があの部署で何かを残せたのかと聞かれたら、何を成したと胸を張って言えることは無いかもしれない。

「冗談ですよ、そんな深刻な顔しないでください。真里様のおかげで私の目的は達成できましたので、感謝しているんですよ」
「ハルキさんの目的……?」
 そもそも僕が管理課に配属になった理由って、アナログ管理している書類をデータ化する事だったよね? それに関しては確かに、みんな放っておいても勝手に入力が進められるくらい慣れてきたみたいだけど……。
「えぇ、伊澄様と聖華様の長く続いた険悪な雰囲気は、真里様のおかげで払拭されましたから」
「もしかしてデジタル化導入の為って……建前だったんですか!?」
 眉をひそめて恐る恐る聞くと、ハルキさんはにっこりと笑顔を返してきた。ユキを慕っている聖華の傍に僕を置く……良くも悪くも絶対何か起こるのは間違いだろう、僕は特に何かをしたわけではないけど、それもハルキさんの計算の上!?

「伊澄様が抱える勢力は大きいですから、ユキ様に手綱を握っておいていただきたいので……あの方々に貸しは作れるだけ作っておいてくださいね」
「……なんか僕が思ってたより話が重かったです」
 魔界の勢力に関係する話だった……そうだよね、ハルキさんが伊澄さんと聖華の為に動くわけがなかった。

「二人への貸しとかはまぁ、置いておいて……僕は伊澄さんや聖華に困ったことがあれば、助けたいって思ってますから」
「えぇ、真里様はそれでいいんですよ」
 そういう勢力図とか派閥とか、僕にはよく分からないけど……貸し借りとか抜きで、僕は自分の知り合いくらい助けられるようになりたいと思う。直血でユキの眷属ってなると、これからはそう単純に考えていてはいけないのかもしれないけど。

「維持部隊への移籍も決まりましたし……一応魔王様へ挨拶に伺いますか?」
「え゛っ……」
「……そうあからさまに嫌そうなのは、如何なものかと思いますが」
 クスクスと可笑しそうに笑いながら、ハルキさんは前を向いて歩きだした。
「ついてきても、帰ってもどちらでも構いませんよ」
 背筋をピンと伸ばして後ろに手を組んで、綺麗な姿勢で足早に進むハルキさんに小走りでついて行った。

 石畳がなくなり白い玉砂利の上を音を鳴らしながら進むと、以前ユキや魔王様が集まっていたような小さめの建物の前に到着した。
 塗装のされていない無垢な色味の木造の建物、木の階段をハルキさんが上がりながら魔王様に声をかける。
「魔王様、真里様がご挨拶に……」
 言いかけてハルキさんがこちらを振り返った。

「逃げられました」
 その言葉に、僕は安堵した。会わなくて済んだ……あの物騒な人の傍でよく働けるなと、ハルキさんには正直感心する。
「いなくて安心しましたか? 私としては仕事を放って遊びに出かけられるのは、非常に困っているんですけどね」
 はーっ……と深いため息が気苦労を物語っているようだ、ハルキさんはハルキさんで悩みながら働いているらしい。
「覇戸部さんまで連れて行ってますね、あの人魔王様に言われるがままだから」
「ハルキさんも大変なんですね」
「えぇ、真里様が維持部隊へ移籍した際は、魔王様の捜索を依頼させていただきますね」
「……それは遠慮したいです」
 僕なんかじゃあの人を捕まえられる気がしないです。

 色々悩み事を解決してくれたハルキさんに深々と頭を下げて、僕は魔王様の直轄領を後にした。
 管理課へ帰るとすでにハルキさんから辞令の話が伝わっていたらしく、聖華が水臭いとか、なんで何も言わないで決めるんだとか、ワーワー怒っていた。たった二週間だったけど、僕が思っている以上に聖華が慕ってくれていて、この世界で初めての友達って言える存在になるのかな……なんて思った。
 
 管理課では僕の送別会と称して、一週間で4日ほど飲み会的な集まりが催された。僕は引き続きみんなの様子は見に来る予定だから、全然送別でも何でもない、多分みんなが飲み会したいだけだった。帰りが遅くなった日はユキが少し不機嫌で、そのご機嫌を取るのに結構苦労した。

 一週間後、僕は正式に治安維持部隊に移籍となった。僕は晴れてユキの部下になったのだ。
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