死が二人を分かたない世界

ASK.R

文字の大きさ
89 / 191
魔界編:第5章 維持部隊

恋バナと唐揚げ

しおりを挟む
 ルイさんが連れて来てくれたのは定食屋だった。
 紙に手書きのメニューを壁に貼っているような、本当に商店街とかにある小さなお店って感じで、中に入ると炊いたご飯や味噌汁の匂いがして……とたんに、空かないお腹が鳴るような気がした。

「俺、煮魚定食ねー! 真里はゆっくり決めていーよ!」
「あ、僕は唐揚げ定食で」
 あいよーっと奥からお店の人の声が聞こえてきた。ルイさんは店の一番奥の4人掛けの席に座った、店内は僕たちの他にお客さんはいなかった。

「チョイスが若いねー! 大盛りにしなくていーの?」
「あー……あんまり食べるとユキが嫌がるので」
「はぁーん……」
 食事は魔力回復の一つだ、僕の体に他人の魔力が入るとユキは少し妬くのだ。その辺の諸々を今お察しされたような気がして、言わなきゃよかったと後悔した。

 ルイさんは僕を若いとか言うが、正直見た目だけならどう見てもルイさんの方が若い。なんせ見た目年齢は14歳だ、身長はそんなに変わらないのが少し切ないけど……。
「ここの店出てくるまで少し時間あるから、一本吸っていい?」
「えっ……は、えっ!?」
「あ、ごめん。タバコきらい?」

 ルイさんがテーブルの端に置いてあった灰皿に伸ばした手を、少し引くようにして止まった。
 ルイさんの外見だけだと完全にアウトだ! ただし、中身は40歳手前なのだ……精神年齢的にはおかしくない。

「いえ、父が吸っていたので平気です……っていうか、ルイさんってタバコ吸うんですね」
「事務所じゃ吸わないけどねー……ユキが臭いって嫌がるからさ」
 だろうな……ユキは普通の人より鼻がいいから。

 ルイさんが煙草に火を付けて僕から顔を背けてフーッと煙を吐いた、いつもニコニコしている表情は真顔で、とても14歳には見えないし正直カッコいい。そしてルイさんのタバコは殆ど臭いが無くて煙たくもなく、不快感はほぼゼロだった。

「オレが吸ってるのは現世のと違ってほとんど臭く無いし、依存性もないから……普段は吸わなくてもへーきなんだけどね、ちょっとストレス感じると欲しくなんだよねー」
「それって生前からの……」
「あー、癖になっちゃってんだろーなぁ」
 その発言はアウトです。生前は吸っちゃダメな年齢ですよ!

 ルイさんの金髪の髪色と複数のピアスが生前からのものなら、当時はなかなかヤンチャしてたと見受けられる。
 そんなヤンチャな見た目と定食屋と恋バナが、どれも全く結びつかないのだけれど……。
「あの、ルイさん今日ここに来たの……恋バナって」
「そー! 真里に聞きたい事があってさ!」
 ルイさんは足を組みながら灰皿に灰を落とす。はぁーと軽いため息をついたところを見ると、何かに悩んでいる様子だ、もしかしてカズヤさんの事だろうか?

「あのさ、真里とユキって恋人同士だよね?」
「あっ……えっと、た……ぶん?」
「なんで疑問形?」
 恋人同士かと改めて言われるとむず痒い。それに僕の中ではユキはもう恋人というより、これからずっと長い年月を共に過ごす伴侶のような、相棒のような……そして幼馴染の友でもあるからして……恋人という言葉はあまりしっくりとこない。

「まぁいいや、それって……その、どっちから告白したのかなって……聞きたくて」
 だんだん声が小さく、僕から顔を背けるようにしながら言うルイさんは、完全に照れている。
「うーん……改めて付き合ってくださいみたいな告白は……してないと思いますけど」
「えっ……しなくても恋人になれんの!?」
「どうでしょう、たぶん僕たちはちょっと特殊だと思います」
 うぅ、参考にならなくてすみません……。

「直血の契約をするときに、ユキからプロポーズみたいな事はしてもらいましたけど」
「ぶっ飛ばしすぎだろ……」
「改めて言われると、そうですね」
 一般的な恋愛観で指摘されると、ちょっと可笑しくなってくる、確かに僕たちは飛ばし過ぎかもしれない。

「っていうか……ルイさんが好きなのってカズヤさんですよね?」
「へっ……!?」
 ルイさんは口に運ぼうとした煙草を、ポロッと灰皿の上に落とした。

「え、なんで……ユキから聞いた!?」
「いやぁ……聞かなくてもわかるくらい顔に出てますよ」
 鍛錬中も事務所でも、熱い視線をカズヤさんに向けているルイさんは本当に分かりやすい。

「もしかして、まだ告白もしてなかったんですか!?」
「——っ! だって、だって……ほら男同士だし! 色々あるだろ!」
 確かに……これが多分一般的な感覚だ。僕の周りは同性であることを全く気にしていない人が多過ぎる、まぁ僕もそれに感化されているのは間違いないけど。

 しかし……そうか、ルイさんは告白もまだなのか……でも傍目から見てもカズヤさんがルイさんに好意があるのは明らかだ。

「告白すればいいじゃないですか」
 絶対OK貰えますよ、付き合いの浅い僕でも分かる程度に自信を持っていいと思います。
「無理だ! だってオレ……子供扱いされてんだもん!」
「えっ……」
「もうここに来て24年、中身は38だぞ! なのにカズヤはいつまでたってもオレを子供扱いするんだ……告白なんてしたら、絶対笑われる!」
 ええ~っ! そんな事ないと思うけど……。

 二人が同じ空間に居る時は、カズヤさんもなかなか愛情に満ちた視線をルイさんへ送っている。
 あの顔がただの庇護欲とは僕には思えないんだけど……もしかして当事者は分からないものなのだろうか。
「カズヤは子供好きだから……オレに優しくしてくれるけど、いつまでも過保護で、オレの事一人前になったって思ってくれないし、巡回も絶対付いてくるし!」
 それはルイさんと一緒にいたいだけなのでは……?

 さっきから言いたい事は山ほどあるが、僕から言ってもいいものかは難しいところだ。ルイさんが好かれている事は見るからに明らかだけど、カズヤさんに直接聞いて確かめたわけではないし……。

「逆に好かれてるなって思う事はないんですか?」
「あ、あるよ……二人の時にこう、指を絡ませてきたり……されたけど」
 ええええっ!? それってもう確定じゃないかな、むしろそこまでやっといて告白しないの? もしかしてカズヤさんかなりの奥手なんだろうか。

 対面に座っているルイさんは耳まで顔を赤くして、恥ずかしそうに両手で顔を隠している。
 そんな姿は中身が38歳だとは思えないほどウブで可愛らしく、こんな反応をされたらカズヤさんが躊躇してしまうのも無理はない。

「おまちー! 煮魚定食と唐揚げ定食ね」
 そんなタイミングで店主さんが定食を運んできた、顔はニヤつきを抑えるような表情で、僕と目が合うと慌てて表情を取り繕った。
「ごゆっくりー!」
 必死で笑顔を作った店主さんの気持ちは理解できる、可愛いもんねルイさんのこの反応は。

「冷めないうちに食おーぜ!」
「そうですね、いただきます」
 両手を合わせてお盆の上を確認すると、唐揚げと添えられたキャベツ、白いほかほかのご飯に味噌汁、小鉢には肉じゃがと小皿にたくあん。よだれが出るほど美味しそうな香りがする!

「あーもーなんでこんな恥ずかしいんだろ! 女の子とエッチする時でも、こんな恥ずかしい事なかったのに」
 唐揚げにかじりついた僕は、その発言に極太の槍が心臓を貫いた様な衝撃を受けた。
 その見た目で非童貞……だと!? いやでもそうだよね、中身は38歳だもんね……このヤンチャっぷりからすると生前に捨ててしまった可能性さえある。

 同じくらいの身長で見た目年齢も近いから、勝手に同族意識が働いていた。僕はユキと一緒にいる限りこのまま童貞を貫くことになるわけで……別にいいんだけど、別にいいんだけどさ!

「どー? ウマイっしょ? ここの塩唐揚げ!」
「はい、すごく美味しいです」
 唐揚げはちょっぴり心の涙の味がした。

 途中動揺はしたけど、このお店は好きな味だった。ユキとも来れたらいいけど、きっとユキは外でご飯はしないだろうな……。
「本当美味しかったです」
「だろー? オレのオススメの店! また来ようなー!」
 自分の事のようにニコッと喜ぶルイさんは、裏表がなくて本当に可愛らしい人だ。

「今日は連れてきてくれてありがとうございます、あの……」
「んー?」
 僕が言うべきか悩んで一瞬言葉に詰まると、ルイさんが先を促してくれる。

「カズヤさんは……真剣なルイさんを笑ったりしないと思います、だから……」
「うん、そうだね……でもオレはまだ勇気が出ないよ」
 ルイさんの俯いた顔は少し元気がない、きっと二人には僕が知らない色々な事があるんだろう。

 ルイさんは元々女性が好きみたいだし、カズヤさんも生前は奥さんとは死別したと本人から聞いた。
 それだけでも二人が乗り越える壁は高そうだ、今の関係が壊れるくらいなら……そう思うかもしれない。

 なにも役に立つ様な話が出来ず、ルイさんに申し訳ない気持ちのままそれぞれの帰路についた。
 僕がルイさんと同じ状況だったら、僕はユキに告白出来るだろうか……同じように勇気が持てないかも。

 だって僕は夢の中で、一度もユキに好きだと告白できなかったのだから。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

一軍男子と兄弟になりました

しょうがやき
BL
親の再婚で一軍男子と兄弟になった、平凡男子の話。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

処理中です...