死が二人を分かたない世界

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魔界編:第6章 拠り所

知らない話

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 まだ何も言っていないのに、聖華が誇らしげにしている。僕は閲覧制限を破る裏技を聞いたわけだけど、その自信ありげな顔は期待してもいいのだろうか。

「そもそも管理課に在籍してるだけで、ある程度の閲覧が許可されてるのよ」
「え、そうなの!?」
「だいたい直血なんだから、アタシなんかより閲覧の許可範囲が広いんじゃない?」
 そんな事全然知らなかった……そりゃそうか、管理課は色んな人のデータの入力、修正をやってるわけだし、直血は色んな特権があるみたいだし……自分に何ができるのか、一度調べた方がいいかもしれない。

「つまり真里が閲覧制限で見れない人って事でしょ? そんなのユキさんの情報って事よね……どう!? アタリでしょ!」
 ドヤ顔で腕を組んで誇らしげにする聖華に、なんだ……その確証があったからあんな自信に満ちた顔をしていたのかと笑ってしまった。
「あぁ、アタリだよ……それで? 見る方法は?」
「あったらとっくに私が見てるっての!」

 そっか、そりゃそうだよね……何となくそんな気はしてた。
「そもそもユキさんの情報を記載した書類があるのかさえ、怪しいとアタシは思ってるのよ……なにせ、誰もユキさんの本名さえ知らないんだから」
「……そっか、そうだったね」
 僕と魔王様以外は知らないんだったな、ユキの諱を……。二百年ユキと過ごした聖華に対してはじめて優位に立てたような気がして、思わずニヤァと自分でも分かるくらい口角が上がった。

「え……ウソ、まさか知ってるの!? ユキさんの名前」
「どーかなぁ」
 本名は雪景、幼名は雪鬼丸だよ……フフッ思わずニヤニヤしてしまう。
「どうやって教えてもらったの!? 本当に!? 教えなさいよ!」
 何せ僕たちは6歳の時からの幼馴染だからね! 口に出して優越感に浸りたいところだが、そんな事のために僕だけしか知らない特権を手放すはずもない。

「はぁ……ユキさんって本当に真里に本気よね。確かにいい奴だし? アタシだって好きだけど……未だに謎だわ」
 聖華の言い草はいちいち刺さる、確かに夢で会っていたという前提条件がなければ、ユキは僕なんて歯牙にもかけないかもしれない……。

「僕も謎だよ……」
 言葉が刺さって痛い胸の辺りをさすると、聖華が少し狼狽えるようにあたふたした。
「……なっ、アンタは堂々としてなさいよっ! 自信なさげにしてたらユキさんに失礼でしょ!」
 これは慰めてくれてるんだろうか? 君っていいヤツだな……ヘコましたのも聖華だけど。でも言ってる事はもっともだ、あんなに好きだと体現してくれているのに、自信を無くすなんて情けない。

「ユキさんあんなに傍目から見てても分かるくらい緩んでて……最近はトゲが無くなったって言うか、鋭さがないと言うか、そんな状態だし?」
「確かに、デレデレだよね」
 ここにくる前も甘えるようにデレてたし、可愛かった。僕としてはもっとめちゃめちゃに甘やかしてあげたいけど……。

「丸くなりすぎて、正直アタシからすると面白くないっていうか……ユキさんって少し冷たくてサディスティックなとことか! 琴線に触れたら全てを壊してしまいそうな、危ない感じがいいのよね!」
 聖華は両手を顔の前で組んでくねくねしている。ユキが僕以外の人に対して、冷ややかにしているのもサディストな部分もわからなくも無い。けど意外と世話焼きだし、威張ったりしないし、基本は優しいと思う。
 ましてや全てを破壊するなんて乱暴なイメージ、僕はユキに対して持ち合わせてはいない。

「また暴れ回ってくれないかなぁ……」
 そういえばユキは15、6年大人しくしていたって言ってたな……。
「ユキってそんなに暴れてた過去があるの?」
 素朴な疑問として聖華に問いかけると、また聖華はオーバーリアクションで目を見開いて見せた。

「真里って本当何も知らないよね!」
「うん、だからユキの事もっと知りたくて来たんだけど……」
 頬をポリポリかくように困って見せると、聖華はまたドヤ顔を作って両腕を組んでいる。

「百年前の事件の時なんて凄かったんだから!」
 百年前……前にもその単語出てきたような? 事件というだけあって、何か大きな出来事があったんだろうか。

「どんな事件だったの?」
「魔王様への反発、一斉蜂起が起こったの。それこそ表の大通り全てを、北の黒門から南の門まで人が埋め尽くすくらい」
 北の門から南の門までは8キロくらいある、これを埋め尽くす人の数なんて尋常じゃない。僕からすれば魔王様は恐怖の対象だ、あのプレッシャーを前にして反発できる人達がそんなにもいた事に、まず驚きを隠せない。

「それにキレたユキさんが、通りにいた全員を輪廻に送って人口が8割くらい減ったって噂なんだけどね!」
「えぇっ!?」
 魔界の人口8割減っ!? それをユキがたった一人で……規模が大きすぎて意味がわからない。

「ユキさんと親しくしてた子達も容赦なく全員……その時建物も沢山壊れちゃって、大急ぎで修繕したせいで街の中心部は一階建しかないんだけど、あははっ凄すぎて笑っちゃうわよね」
「それだけの出力が出せるだけの魔力量って事だよね……」
 今までざっくりとユキがNo.2で、すごく強くて……って印象しかなかったけど、そんなのもう規格外過ぎるんじゃないだろうか。一般の悪魔達とは次元が違う、それこそ魔王を体現しているような……。

「何言ってんの、真里も同じくらいの魔力量なんでしょ?」
「——っ!」
 頭がクラッとした、そうだ……僕とユキの魔力量は同じくらいだって言われてたじゃないか! 回復を意識しなくても魔力が切れそうになった事なんて一度もない、ユキと一緒に居るから満ち足りてるせいだと思ってた。

「いつまでもアタシ達みたいな一般人と仲良くしてないでさ、とっとと雲の上の人になっちゃいなよ。そしたらアタシだって仕方なかったって……思えるじゃない」
「……ユキだってみんなと仲良くやってるよ?」
「モノの例えよッ!! 察しなさいよッ!」

 ギャンッと吼えた聖華をまぁまぁと宥めた。聖華の言いたいことは分かるけど、そんな事を言われても僕とユキの魔力量が同じくらいなんて信じられないっていうのがまず一番で……次にユキみたいに上手く魔力を扱えるようになるには、まだまだ僕は力不足で当分期待には応えられそうにないのが現状だ。
 そもそも諦めるも何も、最近伊澄さんと仲良くやっている口が何を言ってるんだって話だ。

「二人で魔界を締めちゃえばいいじゃない、そしたら治安も今よりよくなるかもよ!?」
「うーん……そんな単純な事かな?」
 自警団みたいな治安維持部隊の二人が強いからと言って、そんな簡単に治安が良くなるとは思えないけど……。
「むしろ今は緩んでるのよ、最近はユキさんが静かだから特に……」

 そういえばユキも舐められてるって言ってような気がする……"鬼もどき"なんて現れ始めたのも、少なからず影響が出ているのかもしれない。僕のせいでユキが丸くなりすぎて、それで治安に悪影響が出ているなんてのはとんでもない話だ。
 僕はただユキと一緒に同じ時間を過ごせればいいだけなのに、ユキや僕の立場というのはもっと視野を広げていなければいけないらしい。

「僕がどうこうというのは置いておいて、聖華の話も一理あると思う……ユキと話してみるよ」
「あ、アタシが言ってたってのは言わないで! でしゃばるなって怒られちゃうから!」
「了解」
 怒られるのも覚悟のうえで、こうやって色々助言をくれる聖華には感謝だ。ついでにもっと色々聖華から聞き出したい、なんせ二百年ユキとの付き合いがあるわけだから聞ける情報は聞いておかなければ。

「他にユキの昔の話で気になってるのとか、なんかないの?」
「あー……ユキさんが死後二百年くらい現世をウロウロしてたって話なら聞いたことあるけど……そんなのもうとっくに真里に話してるよね?」

 なにそれ、初耳だ……やっぱりユキは僕に過去の話をしてくれない。そう思うと胸の奥がチクリと痛んで、そして僕の知らないことを知っている聖華に理不尽にも嫉妬してしまう自分が居るんだ……。
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