俺の学園ラブコメのヒロインは世界滅亡を目論むラスボスだった〜美少女たちによるハーレム異能恋愛バトル〜

セカイ

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第1章『多角的落恋地点の収束』

第16話 未琴先輩の来訪と膝枕 ① 37148

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「いつも一緒に帰ってるのに、今日はスタスタ行っちゃうんだもの。ひどいよ」

 驚きすぎて完全に固まっている俺に、未琴先輩は優しく非難の声を上げた。
 いつも通りの微笑はそのままだから、そこまで怒っているわけじゃないんだろうけれど、その深い瞳は少し拗ねているような気がしなくもない。

「す、すいません。ちょっとぼーっとしてて……」

 謝りながら改札を潜ってハッとする。
 確かにここ最近、俺はいつも未琴先輩と一緒に下校していた。
 お昼休みのお弁当タイム同様、ちゃんと約束をしたわけじゃないけれど、流れで暗黙の了解になったんだ。

 どうして俺はそんな大事なことを忘れていたんだろう。
 昇降口のところで姫野先輩に捕まって、振り回されたからかな……。

 ただ、俺よりも先に改札を潜っているのに、追いかけてきたってどういうことだ?
 どちらかというと俺の行動を見越して先回りしているみたいだけど……まぁ悪いのは俺だから言及する必要はないな。

「本当にすいません。何かお詫びしますので……」
「言ったね?」
「言ってしまいました」

 合流してすぐ誠心誠意謝罪する俺に、未琴先輩は不敵な笑みを浮かべた。
 その重い瞼の向こうにある瞳が、俺をズーンと深く見据える。
 笑みはいつもの柔らかいもののはずなのに、とても他意を感じる。
 きっと何かを企んでいらっしゃる。

「じゃあ、これからたけるくんのお家に行きます」
「そ、そこのカフェでまったりティータイムじゃダメですか? もちろん俺の奢りで」
「尊くんのお部屋に行きます」
「あの、オプション付け放題でいいんですけど」
「男の子が二言はダメだよね?」

 優しいトーンで決して譲らない未琴先輩に、俺が敵うはずもない。
 一見優しいお姉さんの風体なのに、一ミリも要求を曲げるつもりのない圧力が凄まじんだから。
 どうしてそこまで俺のうちに来たいのかはわからないけれど、俺にはそれを受けれることしかできなかった。

 親に未琴先輩を会わせたら何を言われるかわからないし、最悪腰を抜かして再起不能になってしまうかもしれない。
 それに俺みたいなそこら辺のつまらない男子高校生の部屋は、未琴先輩のような優雅なお方を迎えられる程小綺麗じゃないんだ。
 もしそうなるならば、事前に色々と準備をした上での万全な状態の時にしたかったんだけれど、今はそうも言っていられない。
 粗相をしてしまった俺は、未琴先輩の望みを叶えてあげるしないんだ。

 まさかこんなに早くお家訪問イベントが訪れるとは。
 一応俺たち、まだ付き合ってもいないのに。

 と言うわけで、俺たちは一緒に電車に揺られて俺の家を目指すことになった。
 急行電車で一駅、各駅でも五駅という割と近場に俺の家はある。
 いつもは俺が先に電車を降りて、その先の駅へと向かう未琴先輩を見送るんだけれど。
 使い慣れた最寄駅に未琴先輩と一緒に降り立つというのは、なかなか非現実的な感じを味わわされた。

 その後の道中も、いつもと同じ道のりのはずなのに、どうもふわふわと現実感がなかった。
 ただ家に帰っているだけのはずなのに、これから未琴先輩とイケナイところに行くような、そんな妙な背徳感のようなものがあって。
 どうしてもそわそわしてしまう俺に、未琴先輩は普段通りの静かな笑みで肩を並べていた。

 家にいる母さんには事前に、「帰りに人を連れて行く」とだけ連絡を入れておいた。
 事前にこのスーパー美人を連れて行くと言っておいた方が、母さんの精神衛生上はいいのだろうけれど、でもスマホの通知が騒がしいことになりそうだからやめた。
 俺たちを迎えた母さんは死ぬほどおったまげそうだけれど、まぁいいだろう。

「ここが尊くんのお家か」
「言っときますけど、別に面白いものは何もないですよ?」
「いいよ。君の部屋に入ってみたいだけだから」

 駅から徒歩十五分。住宅街に並ぶ一軒家の我が家に辿り着いた。
 どうしてそんなに俺の部屋に来たがるんだろうと思ったけれど、もし俺が未琴先輩の部屋に行っていいと言われれば、緊張しつつもめっちゃ行きたいと思ったから、まぁそういうことかと納得する。
 未琴先輩は表情こそ普段通りフラットな笑みだけれど、少しばかり楽しそうにしている気がした。

 そうして我が家へと未琴先輩を迎え入れてみれば、案の定母さんは彼女のことを見て変な声を上げた。
 まぁ、今までまるで女っ気のなかった息子が、こんな目を見張る美人を突然連れ帰って来れば当然の反応だ。
 友達を連れてくるのも久しくしていないし、珍しく人を連れてきて、それが女の子で、しかもド級の美人とくれば、母さんの対応キャパなんて軽く飛び越えるだろう。

 それでも、とても優雅で丁寧な挨拶をする未琴先輩に、ニコニコと柔らかく対応するのは流石大人だと思った。
 けれど所々に動揺が見えて、緊張と戸惑いを必死に抑えているのは明らかで。
 とりあえず母さんのボロが出る前に、ささっと二階にある自室に未琴先輩を通すことにした。

 けれどお茶とお菓子を取りに俺が下へと降りると、とんでもない形相の母さんに当然のごとく捕まった。
「どうして女の子を連れてくるって教えなかったの」とか、「どう騙くらかしてあんな美人を捕まえたんだ」とか、「あんな綺麗な子に見合うものなんて何も出せない」とか、まぁ大騒ぎ。

 鬼のように赤くなったり、かと思えばあたふたと青くなったり、とにかくしっちゃかめっちゃかで。
 ある程度焦るとは思ってたけれど、予想よりも遥かに動揺する母親の姿に、俺は少々傷ついた。
 確かに身の丈に合わない人だとは思うけれど、そこまで息子を卑下しなくてもいいだろうに。

 母さんは何もしなくていいからと言い放って、俺は適当にお茶たちを盆に乗せて二階に戻った。
 確かに俺も、未琴先輩に出涸らしの麦茶や安っちいお菓子を出すのは気が引けるけれど、でももう仕方がない。
 多分彼女が今日求めているのは別の部分だろうし、その辺りを格好つけるのは別の機会にさせて頂こう。

「尊くんの匂いがする」

 俺が部屋に戻るなり、ベッドに腰掛けていた未琴先輩はそう言った。
 あの未琴先輩がいつも俺が寝ているベッドに座っていると思うと、なんだか良からぬ妄想がムラムラと込み上げってきたけれど、なんとか邪念を振り払う。
 というか、この部屋そんなに匂いするのか? 女子は男より匂いに敏感らしいから、自分じゃ気づけないそれが彼女にはわかるのか。
 なんだか無性に気恥ずかしい。臭くないといいんだけど。

「た、大したものなくてすみません」
「気にしないで。私が急に押しかけたんだから」

 俺が机に盆を置くと、未琴先輩は首を横に振りながらベッドをポンポンと叩いた。
 隣に座れとの仰せらしい。俺の部屋で、俺のベッドでですか?

 とてもやましい気分になりながら、俺はご要望通りに隣にお邪魔した。
 隣り合うことはもう今まで何度もしてきたのに、自室という密室でベッドに一緒に座るというのは、なんだかとてもそわそわした。

「……何にもなくてつまらないでしょう。殺風景ですみません」
「ううん、よくわからないけど、男の子の部屋って感じがする。そっか、尊くんはいつもここで暮らしてるんだね」
「未琴先輩が来るってわかってたら、ちゃんと掃除とかしておいたんですけど」
「ちゃんと綺麗にしてるんじゃないかな。それに私は、普段通りの尊くんが見たかったから」

 何が楽しいのか、未琴先輩はゆったりと部屋を見渡している。
 俺は自分を隅々まで観察されているようで恥ずかしかったけれど、まぁ未琴先輩が退屈していないならいいかと安堵した。
 肩が触れ合いそうなほど間近に座って、静かな室内で未琴先輩の息遣いがよく聞こえる。
 さて、彼女はわざわざこんなところに来て何がしたいんだろうか。

「ねぇ尊くん」

 しばらく俺の部屋を観察してから、未琴先輩は徐に口を開いた。

「尊くんは、私にしたいこと、ある?」
「へ?」

 あまりも唐突な質問に、俺は度肝を抜かれて辺な声をあげてしまった。
 それは今何して遊ぶ?的な質問じゃ、ないよな……?
 俺が、未琴先輩に、したいこと。え、ここでってこと?

 ポカンとしつつも困っている俺に、未琴先輩は静かに微笑んだ。

「尊くん、今いやらしいこと考えてるでしょ。男の子だもんね」
「い、いや、そんなことは決して……!」

 特に非難の意味はなさそうに、けれど鋭い指摘が未琴先輩から飛んでくる。
 慌てて首をぶんぶんと振って否定したけれど、この状況下で考えるなという方が無理な話な気もする。
 男の部屋で男女二人、ベッドに一緒に腰掛けて。全くそういうことを意識しないなんて、そっちの方が不健全だ。
 でも一応体裁として、そんなことないと首を振らないわけにはいかない。
 けれど俺の返事に対して、未琴先輩は少し目を細めた。

「男の子としては軽々と肯定はできないんだろうけれど、女の子としては、否定されるのはそれはそれで嫌かもしれない」
「お、女心って難しいんですね……」
「そうだね。私もびっくり」

 ドギマギする俺に、未琴先輩はそっと頷いた。
 それってどういう意味なんですかと聞きたいけど、でも聞けるわけがない。

「だから、一緒に勉強しようか」
「えっと……あの、未琴先輩?」

 つんと、未琴先輩の肩が触れる。
 ただそれだけのことで、全身に甘やかな空気がゾクゾクと駆け抜けた。
 これは、俺は一体何を要求されてるんだ!?

「尊くんが私にしたいこと、私にされたいことは、何? こういう、二人っきりのところでしか、できないこと」

 囁くような未琴先輩の言葉が、俺の鼓膜をぐわんと揺らして頭を熱くする。
 そのささやかな笑みが、今は妙に色っぽく見えてしまって、俺の脳はフリーズしてしまった。
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