俺の学園ラブコメのヒロインは世界滅亡を目論むラスボスだった〜美少女たちによるハーレム異能恋愛バトル〜

セカイ

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第2章『みんなアタシの運命の人』

第2話 明日はどっちとデートする? ①

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 四万回以上同じ四日間を繰り返していたらしい未琴先輩を止めてホッとしたのも束の間、飛び込んできたボランティア部の三人が恋愛バトルをやろうと言い出して。
 世界の時間が巻き戻るというマクロな問題と、少女たちが俺を奪い合うという非現実的ながらも高校生らしいミクロな問題が混じり合った、そんな金曜日の昼休み。

 そんなドタバタがあり、かつそれが世界の趨勢すうせいを担う出来事だったとしても、俺たちが一介の高校生である現実は変わらない。
 というわけで俺たちはその後、見事恋愛バトル開始の宣言がなされたその後、普通に何事もなく午後の授業に臨まなければならなかった。

 けれどもちろん、当然の如く、普段にも増して授業に集中できるわけがなかった。
 特殊能力だの世界の滅亡だの、そして未琴先輩が悪の組織の親玉で、この世界に於けるラスボスだの。
 そんな非現実的でファンタジーなことが実際にあるものだと理解してしまって、それだけだって俺の脳みそはいっぱいいっぱいだっていうのに。

 そこへきて今度は、俺に交友のある女子たちがこぞって俺を好きだと、未琴先輩から奪い取るんだと意気込むこの展開。
 ようやく未琴先輩の怒涛の攻めに慣れてきたかなと思っていたけれど、こうも予測もできないような事態が続くと、感情を追いつけるのがかなり難しかった。
 実はこれは壮大なドッキリ、いや単なる俺の夢の中の出来事……夏の暑さに頭をやられた俺の幻覚幻聴なんじゃないかと、そう思いたくなってくる。

 でもどうやらこれは現実のようで。
 嬉しいのやら困ったやら気恥ずかしいやら。
 俺は自らの感情に整理をつけられないまま放課後を迎えた。
 そしてまぁ当たり前のように有友に引きづられて、ボランティア部の部室に押し込まれたんだ。

「とりあえず、うっしーくんには正式にうちの部員になってもらおうかな」

 こじんまりとした部室に連れ込まれた俺に、姫野先輩が早速言った。
 安食あじきちゃんと共に俺がやってくるのを待ち構えていたらしい彼女は、俺が部屋に入るなりにっこりと笑った。

「これからもっともっと親睦を深めて、私たちの誰かを好きになってもらうには、少しでも一緒の時間を過ごした方がいいでしょ? 一緒に汗を流したり、助け合ったりすれば自然と距離も縮まるだろうしね」
「は、はぁ……」

 部屋の中央に置かれた長机と、それに沿って並べらたパイプ椅子。
 有友はその一つに俺を座らせて、自らはすぐ右側にどかっと腰を下ろす。
 安食ちゃんはちょこちょこと左側を押さえて、姫野先輩は向いに陣取った。
 なんだかあっという間に包囲されてしまった。

「うっしー、そんなに固くなんなくてもいいってー。別に今まで通り、楽しくしてればいいんだよ」
「いやまぁ、ボランティア部に入るのはこの際別に構わないんだけどさ。なんていうか、未だに俺、現状を受け入れられてないんだけど……」

 ニシシと歯を剥き出しにして笑う有友は、いつもと変わらずエネルギッシュで眩しい。
 でも俺は、とんとん拍子に進んでいく展開に目が回りそうなんだ。
 未だはてなマークを飛ばし続けている俺の半袖ワイシャツの袖を、安食ちゃんが控えめに摘んだ。

「突然のことですみません、うっしー先輩。私たちも少し慌てていたので、こんないきなりになってしまって。でも、お昼に言ったことは全部本当のことなんです」
「みんなが、俺のことを好きだってことも……」

 自分で言っていて恥ずかしくなりながらも尋ねると、安食ちゃんはコクコクと頷いた。
 はっきりとそう反応しながらも、視線を下げて更に小さくなろうとしている様は、少女の奥ゆかしい所作に見えた。
 その様子を窺えば、ハッタリやその場凌ぎで口にしたわけではないように思える。

「まさかそんな風に思ってもらえてるとは思ってなくて、ってか今でも信じられなくて。どうしても戸惑いが隠せないというか……」
「うっしーくん鈍感だもんねぇ。まぁ私たちもこんなことにならなきゃ、こんないきなり言おうとは思ってなかったから、若干の準備不足はあるんだけどねん」

 机の上で腕を組んで、姫野先輩は俺を覗き込むように眺めてくる。
 腕と机に乗りそうなその豊満な胸と、くりっと煌めく瞳の上目遣いが暴力的だ。

「でも神楽坂 未琴が君にアプローチを仕掛けてる以上、私たちも色んな意味で放っておくわけにはいかなくなっちゃったからさ。もう大々的にぶちまけちゃおってことになったの」
「寝耳に水で、俺の心臓がもちませんよ……でもやっぱり、本気ってことなんですよね?」
「とーぜん」

 ニコッと屈託のない笑顔を浮かべる姫野先輩の愛らしさに、思わず心臓を撃ち抜かれそうになる。
 元々可愛い人だとは思っていたけれど、好意を向けられていると認識してその笑顔を見ると、今までの何倍もドキドキしてしまう。
 思わず照れそうになった俺に、安食ちゃんが続けた。

「私たちは、元々うっしー先輩のことが好きだったので、それを形にすることで神楽坂 未琴の目的を破れるのなら、一石二鳥という考え方はあります。でもこういう形になってしまいましたけど、私たちはそれぞれちゃんとうっしー先輩と、その、お近づきになりたいと思ってます」
「あ、ありがとう……でもその、本当にそれで未琴先輩を止めることに繋がるのかな。俺はそこが、いまいちよくわかってなくて。その……恋愛バトルっていうのが、本当に効果あるのか……」
「あると、私たちは思ってます。うっしー先輩に対する執着がかなり強いということは、今回のことでよくわかったので」

 さっきみんなが言っていた理論だ。
 未琴先輩は俺を手に入れるまでは世界を滅ぼさない。だから手に入れさせなければ世界はとりあえず滅ばない。
 確かに同じ四日間を何万回も繰り返していたんだから、そうそう諦めたりはしないだろう。
 それこそ、俺がこっぴどく拒絶の意を示したりしない限りは。

「でも、それってかなり持久戦というか、その場凌ぎな気がしないか? もし万が一俺がその……この中の誰かを選んだとしても、それだけじゃ未琴先輩が諦めるとは思えないし……」
「まぁ確かに、そこはうっしーの言う通りなんだよね。ぶっちゃけこれは、必要な防衛策だけど、でも時間稼ぎみたいな部分がおっきーの」

 俺が疑問を呈すると、有友がふにゃりと頷いた。
 前髪を持ち上げているせいで、寄せた眉が綺麗な額と一緒によく見える。

「世界滅亡を止めるには足りないし、神楽坂 未琴を倒せるわけじゃない。言っちゃえばただ遅らせてるだけ。でもとりあえずはそれでいいんだよ。アタシたちは基本監視役だからさ」
「まるで実働隊がいるような口振りだけど……」
「そ。アタシたちは非戦闘員で、『インフルエンサー』たちとぶつかってきた、戦える人たちは他にいるの。まぁこれまでのあれこれの中で減ってきちゃってはいるんだけどさ。神楽坂 未琴に対する実際の対抗はそっちの分野なんだよ。だからアタシたちは、それができるまでの時間稼ぎをするって感じかな」
「そ、そうか……」

 特殊能力を使って世界を脅かそうとする悪の組織があって、それに対抗する正義の能力者たちがいる。
 ならばそこに戦闘行為的なものがついて回るのは当然で、そっちを主に据えている奴らもいるということか。
 この三人は戦わないタイプっぽくて、その点に関しては安心だけど、でもそうやって未琴先輩に対して物騒なことを考えている人たちがいるってことなんだ。
 思わず渋い顔をしてしまった俺に、有友は「まーまー」と微笑んだ。

「安心してって言うのも変だけど、ぶっちゃけ神楽坂 未琴には全然歯が立ってなくて、今んとここっちサイドの全敗なんだ。だからまぁ、あの人は強すぎるから、そうそう危険なことにはなんないよ」
「そう、なんだ……」

 未琴先輩に敵対する立場のみんなの前で思いっきり安堵はできないけれど、でも少しホッとしなくもなかった。
 けれどそれはつまり裏を返せば、世界を脅かしている悪の親玉に、誰一人として敵わないということだ。
 世界が滅亡の危機に晒されているということに関しては、まだいまいち実感が湧いていないけど。
 でも改めて、未琴先輩の底知れない強大さを理解した。

「だからこそこうやって、本来表に出ない私たちが絡め手で彼女を牽制してるって、そういうこと。まぁもちろん、私たちの個人的な事情もあるんだけどね」

 必死に現状を理解しようとして頭を捻っている俺に対し、姫野先輩は落ち着いた口調で言う。

「でもうっしーくんは、あんまり気にせず普段通りにしてくれていいよ。こういう事情は、君には直接的に関係のある話じゃないし」
「とりあえず、わかりました。でも、ということは。このボランティア部の三人は、未琴先輩を監視するためにこの学校に潜入してるってことなんですか? 俺が知るみんなは、仮の姿、みたいな……」
「ううん、逆だよ。私たちがたまたま彼女が通う高校にいたから、そのまま監視係になっただけ。『感傷的心象エモーショナルの影響力・エフェクト』なんて力を持ってるけど、私たちもそもそもはただの高校生だからね」
「そっか、それはよかった」

 ついつい安堵の息を吐く。
 これから恋愛関係になるかどうかは別として、俺が知る今までのみんなが偽りじゃなくてホッとしてしまった。
 未琴先輩を監視するためだけに学校に潜り込んで、これは仕事だから付き合いだって仮のものです、なんて言われたらやっぱり寂しいから。

「まぁでも、このボランティア部は体よく私たちが集まる、隠れ蓑みたいな感じですけどね」

 何故か俺の肩をよしよしと撫でながら、安食ちゃんがそうポツリと言った。

「別にボランティア部である必要はありませんでしたし、もっと言えば別に部活に入っている必要もなかったですから」
「確かにぶっちゃけ、たまたま今年で部員ゼロになって廃部寸前だったから、アタシたち三人でこっそりいやすいって、そんな理由だったねー」

 安食ちゃんのぶっちゃけ話に、有友がケラケラと笑いながら賛同する。
 ボランティアをするような奴らは慈善的な精神に満ち溢れていると思っていたけれど、どうやらそうではないらしい。
 ちょっぴりマジかという顔をしてしまった俺に、姫野先輩が慌てて声を上げた。

「い、一応ちゃんとした理由はあるし、活動だってしっかりしてるよ? 『感傷的心象エモーショナルの影響力・エフェクト』は心の持ちようが大切なの。強い心は豊かさから生まれるから、沢山の人に触れ合って温もりを分け与えるこの活動は、ちゃんと意義があるんだからね!」
「わかってます、ちゃんとわかってますから。部の活動をしっかりやっているのは、俺それなりに見てきてるんで」

 少しムキになってプリプリと言う姫野先輩に、俺は笑いながら答えた。
 ちゃんとやってなきゃ、元々なんの関係もなかった俺なんかを手伝いに呼ばないだろうし。
 もちろん隠れ蓑的な意味はあるんだろうけど、みんな真面目にやっていることを俺は知ってる。

「なら、いいけどさ────だからそういう意味も含めて、うっしーくんには入部して欲しいの。単純に人手が増えると助かるしね。もちろん、神楽坂 未琴よりも優位に立ちたいってのもあるけど」
「まぁ、はい。わかりました」

 そう言って姫野先輩は俺の方にススっと入部届を滑らせてきた。
 なんか流れや勢い感が否めないけれど、でもまぁこの部活に入るのは構わないか。
 そもそも意味があって何も部活に入っていなかったわけじゃないし。

 それに、俺に好意を寄せてくれている女の子たちに囲まれての部活動、とういうシチュエーションに魅力を感じてしまう部分もある。
 未琴先輩の猛アプローチを蔑ろにするつもりはないけれど、でもこの子たちと過ごす日々も楽しそうだ。
 そう思って、後は特に深く考えることなく入部届を受け取った、その時だった。

 ガチャっと部室の扉が開いて、未琴先輩が顔を覗かせた。
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