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第2章『みんなアタシの運命の人』
第7話 有友と初デート ③ a-1
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個室のソファは短くて、寝転がると脚が伸ばせない有友は、膝を曲げて立てている。
だから余計にむちっとした太ももとの距離が近くて、そちらに目を向けたら意識を奪われてしまいそうだった。
「いいよって、言われてもだな……」
この期に及んでヘタレた俺は、剥き出しの太ももを前にして二の足を踏んだ。
許可されたといっても、わーいありがとうと飛びつけるほど俺には甲斐性がないんだ。
そんな俺を、有友が指の隙間からジトッと見上げてくる。
「もぅ、なにビビってんのさ。触りたかったんでしょ? ずっと見てたくせに」
「いや、なんていうか、本当にいいのかなぁって」
「いいっていっじゃん。ほーらー」
「…………」
促した手前引けないのか、有友はぐいぐいと攻めてくる。
自分だってちょっと恥ずかしそうなのに。
いざ触ったら嫌がられる、なんてオチはないだろうけど、妙にドキドキしてなかなか手が出せない。
「……そういえば、まだちゃんと聞いてなかったけどさ」
ヘタレな俺は、ここへきて話題を変えることを試みた。
まぁでも、これから有友ともっと関係を進めていくにあたって必要な確認だ、と内心言い訳をしながら。
「有友はその、俺のことが、好き……なんだよな」
「う、うん……なにさ、急に」
「いやだから、なんだかんだとちゃんと聞いてなかったな、と……」
未琴先輩を中心としたドタバタの中、三人まとめて明かされて、実はそのままだった。
会話の流れや展開で、もうその事実は確定のこととして進められてきたけど、個々人からそれをハッキリと伝えられたわけじゃない。
こうしてデートをしたり、ただの友達としては過剰なスキンシップをしているから、嘘偽りでないとわかっているけど。
でもなんていうか、俺が有友たちとちゃんと向き合うためには、その事実を本人に確認したかった。
だってやっぱり、普通に考えればみんなが俺なんかを好きになってくれるとは思えない。
ただの友達、先輩後輩止まりの関係で、そこから先に進むような魅力が俺にあるとは思えないんだ。
「何で俺のことを好きになってくれたのかとか、知りたいなと思ってさ」
「そ、そんなこと言われてもなぁ……」
有友はそう呻くと、俺の腹側に顔を向けた。
ついでに垂れた金髪で顔を覆って隠してしまう。
「そう言われると、はっきりこれっていうのはないかも。気がついたら、いつの間にか好きになってたって感じかな」
「そ、そんなもんなのか」
「そりゃ理由がある恋だってあるだろうけど。でも、直感的なものだってあるよ。仲良くなって、その延長で、みたいな」
有友はもぞもぞとそう言って、そして少しするとクルッと上を向き直した。
それから両手をぐんと上に押し上げて、俺の下顎をぐいぐい押してきた。
「あーもー変なこと言わせないでよー! 恥ずいじゃん! あっち向いてろー!」
「バ、バカ、やめろ……!」
照れ隠しなのかそうギャンギャンと騒ぎ、有友はひとしきり俺を攻撃してきた。
けれどしばらくしたら飽きたのか、彼女が手を下ろした時には、その顔は平時の笑みを取り戻していた。
「うっしーってさ、アタシたちが初めて話した時のこと、覚えてる?」
調子を取り戻した有友が、ケロッとそう切り出してきた。
ぐいぐい押された顎をさすりながら頷く。
「学年上がって割とすぐだったよな。その時も確か、手伝いを頼まれた気がする」
「そうそう。先生に荷物整理をうちの部で手伝って言われてさ。結構重いものとかあるらしいし、男手を探してた時~」
俺の素早い回答に、有友は嬉しそうに笑った。
「まさかお前みたいなギャルに声かけられるとは思わなかったし、それがボランティア部の活動だとはもっと思わなかったよ。あれ、俺が後ろの席だったからだろ?」
「いやー実は、あの時うっしーに声掛けたの、十番目くらいだったんだよねー」
「……もうそれ、本当に誰でもいいやってやつじゃねーか」
「まぁ、正直そう。手っ取り早く声かけられそうな男友達はぱぱっと断られちゃってさ。もうこの近い席の男子でいいやーって」
「いいけどさ。でもなんていうか、どことなくショックだな、その消去法」
ごめんごめんと笑いながら告白する有友に、俺は微妙な溜息をついた。
別に一番に必要とされなかったとムクれるつもりはないけれど、その適当加減は少し寂しい。
こいつなら頼りになりそう、というくらいの動機であって欲しかった。
「でも結果的にはそれがうっしーでよかったよ。嫌な顔なんて全然しなかったし、それからも色々と手伝ってくれたしさ」
「それはお前の人柄がいいからだよ。有友が気のいいやつだから、俺もたまのことだしいいかって思えたんだ」
「おぉ、急に褒めるなぁ……」
俺が正直な感想を述べると、有友はもにょもにょと口をすぼめた。
実際、声を掛けてきたのが有友みたいな竹を割ったようなやつじゃなきゃ、ボランティア活動の更に手伝いなんて、きっと適当な理由をつけて断っていたと思う。
話を聞いてもいいかな、手を貸してもいいかなと、そう思わせるのは、彼女の朗らかさ故だ。
「んー、まぁそんな感じでさ。一緒に部活やったり、それからよく喋るようになったりしてるうちに、一緒にいるの楽しいなーって思って。それが、気がついたら好きって気持ちに、なってたんだと思う!」
また段々とモジモジしながらも、それを勢いで誤魔化して話す有友。
けれど俺の顔をまっすぐ見ることはできないのか、視線は明後日の方に飛ばしている。
「アタシ、今まで出会った人たちはみーんな、アタシの運命の人だって思ってんだ。施設に入って一緒に暮らすようになった子たちとか、面倒を見てくれる先生たちとか、もちろんたくさんの友達も。アタシの人生に必要な、大切な存在だって。でもその中でも、あの時適当に選んだ相手がうっしーだったのが、とびっきりの運命だったらなぁ、なんて……思ったり……」
勢いよく喋っていたせいで余計なことまで口走ってしまったのか、最後は一気にフェードアウトしていった。
それと反比例するように有友の顔はまた赤くなり、すぐさま手で覆われてしまった。
それを聞かされた俺も何だか恥ずかしくなってしまって、しばらくお互いに無言が続いてしまった。
まさか有友がそういう風に思っていたなんて。
普段雑多に明るい彼女からは想像できない健気な思いに、余計にドキドキが増してしまった。
場を掻き回す適当な軽口が思いつかない。
太ももに乗った彼女の頭の重みが、とても大きく感じられた。
「……そ、そういえば昨日さ」
二人して気恥ずかしくなって気まずくなった空気を払拭すべく、強引に話題を逸らす。
そもそも話題を逸らすための会話だったのに、もう何が何だかわからない。
「有友がデートに誘ってくれた時────未琴先輩もだったけど────他の二人は特に割ってこなかったよな。あれって、何か示し合わせてたりしてたのか?」
「あぁ、うーんとね……」
俺の不自然な話題変えにツッコむことなく、有友は顔から手を外して応えた。
「示し合わせってほどじゃないんだけど。でもアタシたちって、言っちゃえばみこっち先輩と三対一だからさ。邪魔し合うのは非効率なんだよね」
「極論、未琴先輩に取られなきゃいいからか」
「そそ。もちろん、突き詰めれば個人戦なんだけどさ。でもアタシたちで脚を引っ張り合って、そこをみっこち先輩に掠め取られちゃ元も子もないっしょ?」
「まぁ確かに」
徐々に調子を取り戻した有友が、また流暢に話し出す。
確かにあの状況で安食ちゃんと姫野先輩も名乗り上げてきていたら、かなりカオスだっただろうな。
しかもそれが事あるごとに行われたらと考えると、女子に囲まれると浮かれてなんていられない。
「それにそもそも、こうやってバトルを組んだ以上、あんまりあからさまな妨害もね。みんなで邪魔し合って誰も何もできません、っていうのもそれはそれでお話になんないし。それに女のドロドロをうっしーに見せつけて、もれなくドン引きされたらもう最悪じゃん?」
「確かに、みんなのキャットファイトを目の当たりにはしたくないなぁ……」
血で血を洗う異能力バトルじゃないにしても、みんなが明らかに険悪に争うのは嫌だ。
そういう意味では女子同士の暗黙の了解的な距離感は、俺にしてもありがたい。
俺の渋い顔を見て、有友は明るく笑った。
「ま、そういう感じの、ライバル同士の協力体制、みたいな? だからこれからも、うっしーにはそういう迷惑はかけないと思うから安心して。まぁそれでもみんなライバルではあるから、多少は何かあるかもだけど」
「一応覚悟はしてるよ。それに、こんな俺のことを好きって言ってくれるんだから、多少困ったってお釣りがくるくらいだよ」
「んじゃーたっぷり困ってもらおうかなっ。恋する乙女の苦悩を知ってもらわないと」
そう言ってカラカラと笑う有友に、俺も釣られて笑顔になる。
俺たちのこの関係は、そもそもは世界を守るためなんて壮大なところから始まってる。
でもこうして過ごしている時間の中では、そんなこと全く感じられなくて。
有友と一緒にいられることが楽しいと、そう単純に思えた。
「────さて、流石にもう覚悟は決まったっしょ」
しばらくそうして笑い合っていると、急に有友がそう言った。
突然何のことだと首を傾げる俺に、彼女はムーっと眉を寄せた。
「ほら、脚。いいって言ってんだから、早く触りなよ」
「あっ…………」
すっかり忘れていた。けれど彼女はしっかり覚えていた。
そもそも俺は、有友の脚を触っていいという現実から目を背けるために、あれやこれやと話題を転がしていたんだ。
でも、もう逃げられない。有友は大分状況に慣れたのか、もう平然と俺を見上げて監視してきているし。
その瞳は、乙女に恥をかかせるなと強く訴えかけていて、これ以上この場を凌ぐことはできなさそうだった。
「わ、わかった。じゃあ、僭越ながら……」
覚悟を決めて手を伸ばす。
下から見上げてくる視線をグサグサと感じながら、彼女のツルッと綺麗な脚に目と手を向けて。
いやでもやっぱり、と気が引けそうになって────と思っていたら、俺の指はもう有友の太ももにつーっと触れていた。
「ちょ、ちょっとぉ……触り方、ヤラシィ……」
「ご、ごめん……!」
そっと触ろうとしたらかなりのソフトタッチになってしまって、有友は変な声を上げながら身を捩った。
そのリアクションでまた俺の頭はパンクしそうになったけど、もうここまできたんだからとそのまま手を滑らせる。
もちっと、けれど滑らかな手触りが手の平に広がって、俺の心に一瞬でザワザワと興奮の波がたった。
「……ねぇうっしー。今どんな顔してアタシの脚触ってるか、解説あげよっか」
「後生だから勘弁してくれ。何でもする」
「そ。じゃあ、もっと虐めさせてね」
何とも恐ろしい言葉を放った有友の顔を、とてもじゃないけれど見られない。
わざわざ解説されなくても、この心地いい柔肌を味わっている俺の顔が、どんだけヤバいかはわかってるからだ。
でもきっと、今までの有友の様子を見てみれば、彼女もきっと平常ではないように思える。
だから俺をからかって誤魔化そうとしているんだ。
そうとわかってはいるけれど、だからといって下を見て、その顔を観察してやるほど俺も意地悪にはなれない。
ヘタレてここまで遅らせてしまったことだし、今回は潔く彼女のからかいを受けるしかない。
そう覚悟しながら、それでも全神経を脚に置いた手に集中させていた、その時。
突然、有友が脚パタンと閉じて、二つの太ももが俺の指をたぷっと挟んだ。
「ッ────!」
すべすべとした肌に、適度な柔らかさと引き締まった弾力を持つ太ももが、優しくも力強く俺の手を捕らえている。
その感触の心地よさたるや、ただ触れている時とは比べ物になんてならなくて、もう脳の処理が追いつかなかった。
「もう、うっしーったらちょースケベな顔してる。かーわいっ」
そうやって真下でカラカラと笑う有友の声すら、今の俺にはとても遠く感じた。
▲ ▲ ▲ ▲
だから余計にむちっとした太ももとの距離が近くて、そちらに目を向けたら意識を奪われてしまいそうだった。
「いいよって、言われてもだな……」
この期に及んでヘタレた俺は、剥き出しの太ももを前にして二の足を踏んだ。
許可されたといっても、わーいありがとうと飛びつけるほど俺には甲斐性がないんだ。
そんな俺を、有友が指の隙間からジトッと見上げてくる。
「もぅ、なにビビってんのさ。触りたかったんでしょ? ずっと見てたくせに」
「いや、なんていうか、本当にいいのかなぁって」
「いいっていっじゃん。ほーらー」
「…………」
促した手前引けないのか、有友はぐいぐいと攻めてくる。
自分だってちょっと恥ずかしそうなのに。
いざ触ったら嫌がられる、なんてオチはないだろうけど、妙にドキドキしてなかなか手が出せない。
「……そういえば、まだちゃんと聞いてなかったけどさ」
ヘタレな俺は、ここへきて話題を変えることを試みた。
まぁでも、これから有友ともっと関係を進めていくにあたって必要な確認だ、と内心言い訳をしながら。
「有友はその、俺のことが、好き……なんだよな」
「う、うん……なにさ、急に」
「いやだから、なんだかんだとちゃんと聞いてなかったな、と……」
未琴先輩を中心としたドタバタの中、三人まとめて明かされて、実はそのままだった。
会話の流れや展開で、もうその事実は確定のこととして進められてきたけど、個々人からそれをハッキリと伝えられたわけじゃない。
こうしてデートをしたり、ただの友達としては過剰なスキンシップをしているから、嘘偽りでないとわかっているけど。
でもなんていうか、俺が有友たちとちゃんと向き合うためには、その事実を本人に確認したかった。
だってやっぱり、普通に考えればみんなが俺なんかを好きになってくれるとは思えない。
ただの友達、先輩後輩止まりの関係で、そこから先に進むような魅力が俺にあるとは思えないんだ。
「何で俺のことを好きになってくれたのかとか、知りたいなと思ってさ」
「そ、そんなこと言われてもなぁ……」
有友はそう呻くと、俺の腹側に顔を向けた。
ついでに垂れた金髪で顔を覆って隠してしまう。
「そう言われると、はっきりこれっていうのはないかも。気がついたら、いつの間にか好きになってたって感じかな」
「そ、そんなもんなのか」
「そりゃ理由がある恋だってあるだろうけど。でも、直感的なものだってあるよ。仲良くなって、その延長で、みたいな」
有友はもぞもぞとそう言って、そして少しするとクルッと上を向き直した。
それから両手をぐんと上に押し上げて、俺の下顎をぐいぐい押してきた。
「あーもー変なこと言わせないでよー! 恥ずいじゃん! あっち向いてろー!」
「バ、バカ、やめろ……!」
照れ隠しなのかそうギャンギャンと騒ぎ、有友はひとしきり俺を攻撃してきた。
けれどしばらくしたら飽きたのか、彼女が手を下ろした時には、その顔は平時の笑みを取り戻していた。
「うっしーってさ、アタシたちが初めて話した時のこと、覚えてる?」
調子を取り戻した有友が、ケロッとそう切り出してきた。
ぐいぐい押された顎をさすりながら頷く。
「学年上がって割とすぐだったよな。その時も確か、手伝いを頼まれた気がする」
「そうそう。先生に荷物整理をうちの部で手伝って言われてさ。結構重いものとかあるらしいし、男手を探してた時~」
俺の素早い回答に、有友は嬉しそうに笑った。
「まさかお前みたいなギャルに声かけられるとは思わなかったし、それがボランティア部の活動だとはもっと思わなかったよ。あれ、俺が後ろの席だったからだろ?」
「いやー実は、あの時うっしーに声掛けたの、十番目くらいだったんだよねー」
「……もうそれ、本当に誰でもいいやってやつじゃねーか」
「まぁ、正直そう。手っ取り早く声かけられそうな男友達はぱぱっと断られちゃってさ。もうこの近い席の男子でいいやーって」
「いいけどさ。でもなんていうか、どことなくショックだな、その消去法」
ごめんごめんと笑いながら告白する有友に、俺は微妙な溜息をついた。
別に一番に必要とされなかったとムクれるつもりはないけれど、その適当加減は少し寂しい。
こいつなら頼りになりそう、というくらいの動機であって欲しかった。
「でも結果的にはそれがうっしーでよかったよ。嫌な顔なんて全然しなかったし、それからも色々と手伝ってくれたしさ」
「それはお前の人柄がいいからだよ。有友が気のいいやつだから、俺もたまのことだしいいかって思えたんだ」
「おぉ、急に褒めるなぁ……」
俺が正直な感想を述べると、有友はもにょもにょと口をすぼめた。
実際、声を掛けてきたのが有友みたいな竹を割ったようなやつじゃなきゃ、ボランティア活動の更に手伝いなんて、きっと適当な理由をつけて断っていたと思う。
話を聞いてもいいかな、手を貸してもいいかなと、そう思わせるのは、彼女の朗らかさ故だ。
「んー、まぁそんな感じでさ。一緒に部活やったり、それからよく喋るようになったりしてるうちに、一緒にいるの楽しいなーって思って。それが、気がついたら好きって気持ちに、なってたんだと思う!」
また段々とモジモジしながらも、それを勢いで誤魔化して話す有友。
けれど俺の顔をまっすぐ見ることはできないのか、視線は明後日の方に飛ばしている。
「アタシ、今まで出会った人たちはみーんな、アタシの運命の人だって思ってんだ。施設に入って一緒に暮らすようになった子たちとか、面倒を見てくれる先生たちとか、もちろんたくさんの友達も。アタシの人生に必要な、大切な存在だって。でもその中でも、あの時適当に選んだ相手がうっしーだったのが、とびっきりの運命だったらなぁ、なんて……思ったり……」
勢いよく喋っていたせいで余計なことまで口走ってしまったのか、最後は一気にフェードアウトしていった。
それと反比例するように有友の顔はまた赤くなり、すぐさま手で覆われてしまった。
それを聞かされた俺も何だか恥ずかしくなってしまって、しばらくお互いに無言が続いてしまった。
まさか有友がそういう風に思っていたなんて。
普段雑多に明るい彼女からは想像できない健気な思いに、余計にドキドキが増してしまった。
場を掻き回す適当な軽口が思いつかない。
太ももに乗った彼女の頭の重みが、とても大きく感じられた。
「……そ、そういえば昨日さ」
二人して気恥ずかしくなって気まずくなった空気を払拭すべく、強引に話題を逸らす。
そもそも話題を逸らすための会話だったのに、もう何が何だかわからない。
「有友がデートに誘ってくれた時────未琴先輩もだったけど────他の二人は特に割ってこなかったよな。あれって、何か示し合わせてたりしてたのか?」
「あぁ、うーんとね……」
俺の不自然な話題変えにツッコむことなく、有友は顔から手を外して応えた。
「示し合わせってほどじゃないんだけど。でもアタシたちって、言っちゃえばみこっち先輩と三対一だからさ。邪魔し合うのは非効率なんだよね」
「極論、未琴先輩に取られなきゃいいからか」
「そそ。もちろん、突き詰めれば個人戦なんだけどさ。でもアタシたちで脚を引っ張り合って、そこをみっこち先輩に掠め取られちゃ元も子もないっしょ?」
「まぁ確かに」
徐々に調子を取り戻した有友が、また流暢に話し出す。
確かにあの状況で安食ちゃんと姫野先輩も名乗り上げてきていたら、かなりカオスだっただろうな。
しかもそれが事あるごとに行われたらと考えると、女子に囲まれると浮かれてなんていられない。
「それにそもそも、こうやってバトルを組んだ以上、あんまりあからさまな妨害もね。みんなで邪魔し合って誰も何もできません、っていうのもそれはそれでお話になんないし。それに女のドロドロをうっしーに見せつけて、もれなくドン引きされたらもう最悪じゃん?」
「確かに、みんなのキャットファイトを目の当たりにはしたくないなぁ……」
血で血を洗う異能力バトルじゃないにしても、みんなが明らかに険悪に争うのは嫌だ。
そういう意味では女子同士の暗黙の了解的な距離感は、俺にしてもありがたい。
俺の渋い顔を見て、有友は明るく笑った。
「ま、そういう感じの、ライバル同士の協力体制、みたいな? だからこれからも、うっしーにはそういう迷惑はかけないと思うから安心して。まぁそれでもみんなライバルではあるから、多少は何かあるかもだけど」
「一応覚悟はしてるよ。それに、こんな俺のことを好きって言ってくれるんだから、多少困ったってお釣りがくるくらいだよ」
「んじゃーたっぷり困ってもらおうかなっ。恋する乙女の苦悩を知ってもらわないと」
そう言ってカラカラと笑う有友に、俺も釣られて笑顔になる。
俺たちのこの関係は、そもそもは世界を守るためなんて壮大なところから始まってる。
でもこうして過ごしている時間の中では、そんなこと全く感じられなくて。
有友と一緒にいられることが楽しいと、そう単純に思えた。
「────さて、流石にもう覚悟は決まったっしょ」
しばらくそうして笑い合っていると、急に有友がそう言った。
突然何のことだと首を傾げる俺に、彼女はムーっと眉を寄せた。
「ほら、脚。いいって言ってんだから、早く触りなよ」
「あっ…………」
すっかり忘れていた。けれど彼女はしっかり覚えていた。
そもそも俺は、有友の脚を触っていいという現実から目を背けるために、あれやこれやと話題を転がしていたんだ。
でも、もう逃げられない。有友は大分状況に慣れたのか、もう平然と俺を見上げて監視してきているし。
その瞳は、乙女に恥をかかせるなと強く訴えかけていて、これ以上この場を凌ぐことはできなさそうだった。
「わ、わかった。じゃあ、僭越ながら……」
覚悟を決めて手を伸ばす。
下から見上げてくる視線をグサグサと感じながら、彼女のツルッと綺麗な脚に目と手を向けて。
いやでもやっぱり、と気が引けそうになって────と思っていたら、俺の指はもう有友の太ももにつーっと触れていた。
「ちょ、ちょっとぉ……触り方、ヤラシィ……」
「ご、ごめん……!」
そっと触ろうとしたらかなりのソフトタッチになってしまって、有友は変な声を上げながら身を捩った。
そのリアクションでまた俺の頭はパンクしそうになったけど、もうここまできたんだからとそのまま手を滑らせる。
もちっと、けれど滑らかな手触りが手の平に広がって、俺の心に一瞬でザワザワと興奮の波がたった。
「……ねぇうっしー。今どんな顔してアタシの脚触ってるか、解説あげよっか」
「後生だから勘弁してくれ。何でもする」
「そ。じゃあ、もっと虐めさせてね」
何とも恐ろしい言葉を放った有友の顔を、とてもじゃないけれど見られない。
わざわざ解説されなくても、この心地いい柔肌を味わっている俺の顔が、どんだけヤバいかはわかってるからだ。
でもきっと、今までの有友の様子を見てみれば、彼女もきっと平常ではないように思える。
だから俺をからかって誤魔化そうとしているんだ。
そうとわかってはいるけれど、だからといって下を見て、その顔を観察してやるほど俺も意地悪にはなれない。
ヘタレてここまで遅らせてしまったことだし、今回は潔く彼女のからかいを受けるしかない。
そう覚悟しながら、それでも全神経を脚に置いた手に集中させていた、その時。
突然、有友が脚パタンと閉じて、二つの太ももが俺の指をたぷっと挟んだ。
「ッ────!」
すべすべとした肌に、適度な柔らかさと引き締まった弾力を持つ太ももが、優しくも力強く俺の手を捕らえている。
その感触の心地よさたるや、ただ触れている時とは比べ物になんてならなくて、もう脳の処理が追いつかなかった。
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