パワハラ女上司からのラッキースケベが止まらない

セカイ

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第11話 パワハラのわけ

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 その後俺たちが部屋に戻ると、桃木さんたちは何事もなかったように業務を再開した。
 俺が話しかけても、さっきのことは夢でも見ていたのかと思うほどに、今まで通りの彼女たちで。
 俺は女というものの怖さを痛感させられた。表と裏があり過ぎる。

 椿原部長と確実に二人で飲みに行くため、俺はあえてまた残業をすることにした。
 部長から指示された仕事が残っていると言えば、みんな関わろうとはしない。
 定時を過ぎると、俺と椿原部長以外の全員はすぐに帰ってしまった。

 帰り際の桃木さんをチラリと盗み見してみると、なんだか椿原部長に対してアイコンタクトを送っているように見えた。
 もしかしたら先日のしくじりを挽回しておけというプレッシャーなのかもしれない。
 こういう俺の気づかないところで、女性社員同士の陰のあれこれが今までも色々あったのだと察せられる。

 一応一時間ほどは仕事をしてから、俺と椿原部長は連れ立って退社し、先日と同じ居酒屋へと向かった。
 出迎えてくれたのは先日の女子大生で、コイツらまた来たよという目で見られてしまった。
 正直それもあってここには来にくかったんだけれど、落ち着いて話をするには個室に案内してもらいやすいこの店が最適だったんだ。

「草野くん、私……」

 先日と同じ個室で最初のビールが届いた後。
 会社を出てここまで全く口を開かなかった椿原部長がおずおずと切り出した。
 何を言うつもりかはわかなかったが、しかし俺は余計な話題を挟むつもりはなかった。

「実は椿原部長にお見せしたいものがありまして」

 俺が単刀直入にそう言うと、椿原部長は特に反論することなく口を噤んだ。
 それを了承と受け取って、俺はスマホをテーブルに出し、さっき撮影したばかりの動画を再生した。
 流れたものを目にした椿原部長は顔からサッと血の気を引かせ、恐る恐る俺の方を見た。

「草野くん、これ……」
「今日偶然出くわしてしまいまして、咄嗟に撮ったものです」

 聞くに耐えない言葉が流れる動画を止め、俺は頷く。
 椿原部長はとても気まずそうに目を泳がせ、声にならない言葉を漏らした。

「嫌なものをお見せしてしまってすいません。でも、確認したくて」
「確認って……」
「椿原部長。他のみなさんから、虐められていたんですか……?」
「ッ────」

 俺のはっきりした言葉に息を飲む椿原部長。
 けれど流石と言うべきか、萎縮してしまうようなことはなかった。
 小さく頷き、そして薄く笑みを浮かべる。

「ええ、そうね……笑っちゃうでしょ、あなたとしては」
「いえ……。驚きはしましたけど、そんな風には思いませんよ」

 自分もまた被害者だったというのもあるが、虐められていた椿原部長をざまあみろとは思わない。
 だからといって可哀想だと同情するわけでもないが、この件に関して部長を非難するつもりはない。

「ただ、話を伺いたくて。桃木さんたちの話を聞くに、椿原部長の俺への……その、今までの態度は、みなさんに強要されてたってことで、いいんでしょうか」
「ハッキリ言っていいわ。あなたへのパワハラ、嫌がらせとか、でしょ。そうね。それを言い訳にするつもりはないけれど、でも彼女たちにそうするよう言われていたのは確かよ」

 俺があえてぼかした言葉を椿原部長はしっかりと口にし、そして肯定した。
 その態度は今日一日の大人しかった雰囲気とはまた違い、自分の行動に責任を持った大人の風格のようなものを感じた。
 桃木さんたちとの関係が俺にバレたことで、覚悟というか、何か吹っ切れたのかもしれない。

「でも、どうしてですか? 椿原部長がみんなにいじめられる理由なんて……」
「明確な理由はもちろん私もわからない。ただ始まったのは三年前。桃木さんが入社してからだったわ」

 椿原部長曰く、こういうことらしい。
 昔は部署内の社員たちとは、仲良しとは言わずとも良好な関係で仕事をしていた。
 椿原部長はそもそも強気でプライドが高めなので、衝突することがなくはなかったが、人間関係に軋轢を生むようなことはなかった。
 しかし桃木さんが入社してから部署内の空気が一変し、気がつけば彼女が他の社員たちを味方につけ、部長は孤立するようになっていった。

 それからは多勢に無勢。社内での地位はあまり意味をなさなかった。
 無視や指示を聞かないのは可愛いもの。直接的な嫌がらせも沢山あったようだ。
 それが女性だけの部署内、密室空間の中で堂々と行われていたという。

 けれど椿原部長はそれを告発することができなかった。
 部下から集団で嫌がらせを受けているという告白は、自らの管理能力の低さを示すことになるからだ。
 部長という立場であるからこそ、椿原部長はその事実をひた隠しにするしかなかった。
 きっとそれは、桃木さんたち先輩方も含んだ上でしていたんだろうと想像できる。

「……経緯はわかりましたけど、やっぱり釈然としませんね。どうしてそんな……」
「色々と考えられるわよ。なんにしても、私が気に食わなかったんでしょう。女同士のいじめなんて、きっかけはくだらないものよ」

 訝しむ俺に、椿原部長はそう嘆息した。
 長らく女子だけの生活を送ってきた部長にとっては、こういうことは慣れっこなのだろうか。
 自分が当事者じゃなくても、色々見てきているのかもしれない。

 そういえば何かで見たことがある。女のいじめは容姿で始まることが多いとか。
 それは不細工だとか太っているとか、下に見た方面もそうだが、極端に容姿が整っていたり、男にモテるような人もまたそういう対象になるとか。

 完全に想像でしかなけれど、だとすれば椿原部長が美人だったりスタイルが良かったり、そういう部分がきっかけになったのだろうか。
 加えて能力の高さや、それらからくる自尊心の強い性格などが癪に触ったりした、とか。
 優秀が故に、目立つが故に忌避される。そういうことだろうか。

「だから、あなたを追い出そうとしていることだって、そう大した理由ではないと思うわ」

 俺が自分なりに状況を飲み込もうとしていると、椿原部長はそう続けた。

「多分、今まで女性だけで回っていた環境に変化が出るのが嫌だったんでしょう。男性が一人環に入るだけで、空気はガラリと変わるからね」
「そ、そういうものですか……」
「男性はわからないでしょうけどね」

 ぽかんとする俺に、椿原部長は苦笑いを浮かべた。
 言いたいことはわからないでもないが、ハッキリとした実情は俺には把握できていない。
 素直に聞き入れるしかなかった。

「あなた個人に何か問題があったわけじゃないと思うわ。ただ、その環境の変化がやりにくかっただけ。だから私に追い出すように言ってきたんでしょうね」
「なるほど……自分たちが直接俺を虐めるんじゃなくて、わざわざ椿原部長にさせたのは……」
「それはもちろん、自分の手は汚したくなかったからでしょうね。あなたは私と違って告発をするリスクがあるし、それにやっぱり男性だから表面上はいい顔をしておきたかったんでしょう。実際、あなた自身には大分愛想良くしていたみたいだし」
「そして何か問題が起きた場合は、全部その責任を部長に取らせる、と……」

 俺がそう続けると、椿原部長は「そうよ」と頷いた。
 推測の部分は多いけれど、俺が出くわした陰口の内容と照らし合わせれば、おおよそ間違っていないだろうと思われる。
 未だにあの優しい桃木さんがこんな腹黒いことをしていたことが受け入れがいけれど、でも事実なのだ。
 女って怖いと、改めて思わせられる。

「事情は大体わかりましたけど、でもどうしてパワハラだったんですか? 椿原部長の立場なら、人事評価とか色々正攻法で俺を貶めたり、追い込んだりできそうなものですけど」
「それはその……またちょっと別の事情というか……」

 会社側の都合で退職を促すのはそう簡単なことではないというけれど、パワハラという問題行動よりは確実性があるように思える。
 俺のそんな疑問に椿原部長は申し訳なさそうに眉を寄せた。

「あなたの採用には、社長の新方針が絡んでるのよ」
「え? 社長、ですか?」
「悪く捉えないでほしいんだけれど、あなたが、じゃないの。男性の雇用を増やそうっていうことでね」

 気遣いながら話を進めるなんて珍しいと思ったが、きっとこれこそが本来の椿原部長なのかもしれない。

「うちってずっと女性ばっかりだったから。やっぱりそれって、いじめだけじゃないけれど、どうしても独特の空気感になってしまうのよ。だから新しい風を入れて会社をよりよくするためにも、もっと積極的に男性を増やしていこうということになって。その一人目があなただったの」
「な、なるほど……でもそれだとどうして……?」
「第一号のあなたの採用が失敗ということになると、今後その方針を続けていくのが難しくなるでしょう? そうなると、今後の運営に支障をきたす可能性がある。よっぽど明確な問題点がない以上、あなたを人事的にどうにかすることはできなかったのよ」

 大人の事情だなぁ、とまだまだ若造の俺はちょっと他人事のように思ってしまった。
 しかしそういった事情を桃木さんたちも把握していたならば、男を排除したい彼女たちとしては、男が自ら逃げ出す実例を作ることで方針を頓挫させよう、なんて魂胆もあったのかもしれない。そういう連想はできた。

「なんにしても────」

 俺が自分なりに理解を進め頷いたところで、椿原部長は改まって言った。

「色々言い訳を話してしまったけれど、具体的にあなたにどう接するかは私自身の判断だった。きっかけがどうあれ、あなたを苦しめたのは私自身の責任よ。本当に、申し訳ないと思っているわ」
「椿原部長……」

 そう素直に謝られてしまうと、なんだか文句も言いにくい。
 確かに言う通り、部長自身のやり方で俺は沢山責め立てられたわけだけれど、今となってはどうしてもその背景を鑑みてしまう。
 理由があれば人を傷つけて良いということではない。仕方がなかった、とも思わない。
 けれど、椿原部長もまた虐げられた側の人間だと思うと、強く責めることはできなかった。
 だって、状況が違えば俺もそうなっていたかもしれないから。

 いや、ある意味それをしてしまいそうなところまでいっていた。
 いかされていた。桃木さんたちによって。

「椿原部長に対して思うところがないとは言いません。ただ、この件に対して責めを負うべきは、やっぱり桃木さんたちだと思うんです」
「それは、でも……」

 俺がそう答えると、椿原部長は複雑そうな顔をした。
 しかし俺は構わずに続ける。

「確かに、普段のパワハラに関しては部長自身の判断も含んでたでしょうけど。でも、先日のことはその……動画での桃木さんが言っていた通り、なんですよね?」
「…………」

 椿原部長は顔を強張らせ、しかし小さく頷いた。
 進展しない状況に業を煮やした桃木さんたちの暴挙。
 部長に俺を誘惑するよう促し、望まぬ一夜を過ごさせ、その罪を俺になすり付けようという、いじめの枠を超えた行き過ぎた行為だ。

 もしあのハニートラップが椿原部長自身の意思ならば、俺はただの被害者だ。
 けれど、それは強要されたものなのだから、本来行為を望んでいない部長に迫った俺もまた、結果的に加害者になってしまう。
 まんまとそれに乗っかってしまいそうになった俺としては、余計に部長を責めることはできないんだ。

「私こんなんだから、色仕掛けとか全然わからなくって。桃木さんたちには、草野くんを二人きりで飲みに誘って酔い潰れれば、後はあなたがいいようするだろうって、そう言われたの。その通りにはしたけれど、でも正直怖かったわ。いえ、あなたにこんなこと言っても、失礼だけれど……」
「いいえ、そんな……」

 改めて酷いことをさせるな、と思いつつ違うことが引っかかる。
『色仕掛けとか全然わからなくって』ってことは、やっぱり普段のラッキースケベは無自覚ということなのか?
 話を聞いていて、あれも俺を惑わせたりする一環として指示されたものなのかな、とか考えていたんだけれど。

 いや、今そんなことを考えている場合ではないんだけれど。でも聞き逃すことはできなかった。
 だってつまりは、俺の前で酔い潰れたという行動以外は、全て椿原部長の自然な所作だったということなのだから。
 やっぱりその点に関しては、元の推測通り、不慣れからくる距離感の取り間違いということなんだろう。
 あと考えられるとしたら、パワハラをすることを意識し過ぎて、他のことへの注意が抜けていた、とか?

 なんにしても、あれだけは謀《はかりごと》ではなかったということだ。
 それはなんというかまぁ、よかった、と思った。

「とにかく、このままは良くないと思います」

 思考が余計な方向へいってしまったの切り替えて、俺は言った。

「────ちゃんと対処しないと」
「でも……」

 椿原部長の反応はあまり芳しくない。
 弱気とは違うだろうが、やはり部下からの虐めの事実の露見は、小さな会社とはいえキャリアに関わるからだろう。

「大丈夫です。椿原部長が思っているようなことは起きないようにする考えがあります。ただ、それには部長の協力が必要なんです」
「私の……」

 椿原部長は少し不安げな表情を浮かべたが、しかし興味は持ってくれたようだった。
 俺がざっくりと計画を説明すると、少し考えてから、それならと頷いてくれた。

「それでその、部長のことをお守りする代わりにと言ったらあれですが、一つお願いがありまして……」
「お願い?」

 これからの方針が決まったところで、俺はおずおずと言った。
 光明が見えてきてからか、椿原部長は素直に耳を傾けてくれる。

「なぁに? あなたと違って私は加害者側でもあるし、あなたへの謝罪の意味でも、できることは聞くわ。ただその……この間できなかったことを、とかだとちょっと……」
「い、いいえ、そういうことではなくて……!」

 最後の方は尻すぼみにゴニョゴニョと言う椿原部長に、俺は慌てて首を振った。
 ホッと安心する部長だったけれど、俺がそのお願いを伝えると、訝しげにグッと眉をひそめた。

「それが、お願い? あなた、本気?」
「はい、まぁ。それに俺たちがこれからしようとしていることの、ダメ押しにもなると思うんですよ」
「まぁそういうことなら……」

 納得できているようなできていないような、少し怪しい感じではあるけれど。
 しかし椿原部長は「わかったわ、約束する」と了承してくれた。

「ありがとうございます。じゃあ、計画を詰めていきましょうか」

 そうして俺と、ちょっと怪訝さを拭えていない椿原部長は、これからについて話し合いを進めた。
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