普通のJK、実は異世界最強のお姫様でした〜みんなが私を殺したいくらい大好きすぎる〜

セカイ

文字の大きさ
3 / 984
第1章 神宮 透子のラプソディ

3 遥か上空の攻防

しおりを挟む
「あの、私は花園 アリスです。よろしく……」

 魔女を名乗る神宮 透子さんに対してなんて返していいかわからず、私は細々と自己紹介を絞り出す。
 そんな私を見て、彼女はいたずらっぽく笑った。

「よろしくね、アリスちゃん。私の方も透子って呼んで」
「う、うん……」
「とにかくどこかに降りましょう。話は落ち着いてから」

 そんな時だった。
 突然、炎のレーザーみたいな炎が、下の方から私たちの傍をかすめていった。
 凝縮された熱エネルギーが、夜空に打ち上がって雲を打ち払う。

「それで逃げ切ったつもりかよ!」

 振り返ると、私たちの後方から火の塊のようなものが飛んできていた。
 全身に炎を燃え上がらせた人間が、まるでミサイルのような勢いでこっちに飛んできている。
 それは紛れもなく、さっき私を襲った赤毛の男だった。

 私がその存在を認めたのとほぼ同時に、透子ちゃんの周りにサッカーボール大の水の球がいくつか現れた。
 かと思うと、すぐ様そこから濁流のような水の柱が放たれる。

 そのことごくは炎をまとった赤毛の男に命中したけれど、それは炎をかき消すどころか蒸発していく。
 全くもって効いていなかった。

「魔女風情が! 俺に敵うわけねぇだろ!」

 あっという間に距離を詰められた。
 透子ちゃんの水の攻撃を全て蒸発させた男は、水蒸気が立ち込める中、もう既に透子ちゃんの真横まで来ていた。

「アリスは返してもらうぜ!」
「渡すもんですか!」

 振るわれた剣を透子ちゃんは辛うじてかわして、代わりに蹴りを入れる。
 けれどそれも防がれて、今度は炎のぶつかり合いが始まった。

「透子ちゃん!」
「人の心配をしている場合?」

 気が付いた時にはもう遅くて、私は後ろからフードの女の人に羽交い締めにされた。
 そこまでの力強さは感じないのに、どうしても振りほどけない。

「あんまり暴れないの。落ちるよ」

 その声色は優しいのに、けれど決して私を放そうとはしなかった。

 目の前では、透子ちゃんと赤毛の男が一進一退の攻防をしている。
 いや、明らかに透子ちゃんの方が押されていた。

「大人しくついてくるのなら、あの子の命は保証する。このままだとあの子、死ぬよ」
「…………!」

 耳元で囁くように言われる。
 私を助けてくれた人が、私を助けようとして死んでしまう。
 そんなこと許されるわけない。それでいいわけがない。

 今会ったばかり。言葉を交わしたのも数えるほど。まだお互いの名前しか知らない。
 けれど彼女は私を助けてくれた。わけのわからない事態の中で、私を助けてくれた。
 そんな彼女が、私のせいで死んでしまうなんて、そんなの…………!

「わかった! わかったから! どこへでも付いて行くから! だから……だから、透子ちゃんを殺さないで!」

 私のせいで死んでしまうなんて、私を守ろうとして死んでしまうなんて、そんなのは嫌だ。
 私にそこまでの価値なんてない。誰かが犠牲になってまで生き残る必要なんて、私にはないんだから。

「馬鹿なこと言わないで!」

 赤毛の男の攻撃を辛うじて防ぎながら、透子ちゃんは叫んだ。
 こちらに背を向けている透子ちゃんの表情は伺えない。
 けれど、その声は怒りか、それとも悲しみか。確かに震えていた。

「そんな馬鹿なこと言わないで。あなたの命は、あなたの人生は、あなたのものなんだから。誰かのために諦める必要なんてない。あなたはあなたのために生きなさい。そのために私はあなたを守っているんだから!」

 剣が透子ちゃんの腕をかすめる。炎が服を焦がす。
 確実に押されながらも、透子ちゃんは決して引かなかった。

「私たちの命は誰にも侵されない。私たちはいつだって自由よ。誰になんと言われようと、否定されようと、拒絶されようと。私たちはここにいる。ここで生きている。だから絶対に、自分の意思を曲げたりしない」
「透子ちゃん…………」
「生きたいなら生きたいって言いなさい。帰りたいなら帰りたいって言いなさい。大丈夫。私、絶対死なないから」

 振り返ってニッコリと微笑む。
 その姿はまるで聖女のように穏やかで、女神のように温かだった。
 その背中に、縋り付きたくなってしまうほどに。

「魔女が講釈たれてんじゃねぇよ!」

 振り下ろされた業火をまとった双剣を、透子ちゃんは辛うじて透明な障壁のようなものを張って、防いだ。
 けれどそれすらも越えて伝わってくる高熱に、髪や服が燻っていく。

「どんなに偉そうにしてもな! お前らは生きてちゃいけねぇんだよ! 魔女は、死ななきゃいけねぇんだよ!」
「アリスちゃん、先に謝っとく────」

 吠える男を尻目に、透子ちゃんは儚い笑顔を浮かべて、言った。

「ごめんね」

 瞬間、私の乗っていた竹箒が跡形もなく消えた。
 フードの女の人は私を支えていたわけではなかったから、支えるものを失った私は、その腕をすっぽりと抜けてしまった。

 飛行機が飛ぶような、地上から遥かに高い夜の空で身一つとなった私は、声にならない悲鳴を上げながら落下していった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...