普通のJK、実は異世界最強のお姫様でした〜みんなが私を殺したいくらい大好きすぎる〜

セカイ

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第2章 正しさの在り方

9 女たらしの人たらし

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 結局お弁当を食べる時間はなくて、私はお腹を空かせながら午後の授業を受ける羽目になってしまった。
 晴香も創も、ギリギリに帰ってきた私に何か言いたげではあったけれど、今朝のことがあったからか、何も言ってはこなかった。本当に申し訳ない。

 授業の合間に、氷室さんに簡単に屋上であったことを話してみたけれど、正直特に実ることもなかったし、反応は芳しくなかった。
 相変わらずのクールで無表情な氷室さんが、実際のところ何を思っているのかはわからない。
 多分氷室さんは、レイくんが私に危害を加えるつもりはないというのも、あんまり信じてはいないと思う。
 私だってまだ、全面的に信用できたわけじゃないし。

 善子さんのことも少し話してみたけれど、氷室さんはこの学校に他にも魔女がいることなんて元から知っていたみたいだし、善子さんのことを知らないわけだから、それもあまり反応はなかった。
 氷室さんにとって、他の魔女のことはあまり気にすることじゃないのかもしれない。
 私は少なくとも、この学校にいる魔女とは交流があったほうがいいんじゃないかとは思うんだけど。

 そして放課後。
 これまたいつもは二人と下校するのを断って、善子さんとの待ち合わせに向かった。
 三年生用の昇降口で善子さんは待っていた。
 私に気がつくと、いつもと変わらない軽やかな笑みで手を振ってきた。

 善子さんに付いて空き教室に入る。
 そこは校庭に面してして、部活が始まる前の生徒たちがわらわらと集まっていた。
 善子さんは窓側の席に腰掛けて、私もそれに倣って近くの席に座る。
 しばらく、窓から校庭を眺めていた。サッカー部の中に、正くんの姿が見える。
 サボリ魔の正くんが部活に出てるなんて珍しいなと思ったところで、今日は練習試合だと言っていたことを思い出した。

「私が魔女になったのは、中学一年生の頃なんだ」

 ポツリと、善子さんはゆっくりと話し始めた。
 窓の外に目を向けながら、思い出すようにどこか儚く。

「つまり、魔女としても私はアリスちゃんの先輩ってわけだね」
「全然気付かなかったです。そんなの……」
「アリスちゃんはまだなりたてでしょ? 慣れれば、魔女の魔力を感じ取れるようになるよ」

 でも言われてみれば、今日善子さんに会った時、その雰囲気に違和感を覚えた。
 それは善子さん自身になにか変化があったわけじゃなくて、少なからず私がその、魔女の気配を感じていたからなのかもしれない。

「それにしても、嫌なところ見られちゃったなぁ。驚いたでしょ。ごめんね」
「いいえ。確かに、善子さんが誰かにあんなに怒ってるところは初めて見ましたけど」
「アイツは……なんていうか特別。もちろんよくない意味でね。なんて言うか、因縁ってやつ?」

 えへへと頭を掻きながら、善子さんは努めて明るく言った。
 私にはわからないけれど、それでも善子さんとレイくんの間には、只ならぬ確執があることは理解できた。
 それは大分デリケートそうに見えたし、深くは突っ込んじゃいけないかもしれない。

「それにしても、私も驚いたよ。急に学校の中でアイツの魔力を感じたと思って飛び込んでみたら、アリスちゃんが居たんだもん。今朝、アリスちゃんが魔女になってたことに気づいた時も驚いたけどさ。ダブルパンチだよ、まったく。アリスちゃんは、アイツとどう言う関係?」
「なんというか、私にもよくは……会ったのは今日が初めてなんです。レイくんの方から唐突に会いに来て」
「相変わらず、わけのわからないことを……」

 善子さんは難しい顔をして唸った。
 その表情を見るに、よっぽどレイくんのことを嫌っているみたいだった。
 いつもあんなに優しい善子さんからは、とても想像できない態度だ。

「でも大丈夫? アイツに惚れちゃったりしてない? アイツ、見たとおりの女ったらしだからさ」
「べ、別に大丈夫ですよ。何にもありません!」
「ふーん。ならいいけどさ。アイツ顔はいいからねぇ。どこぞの女役者の男役かってくらい、顔決まってるからさ。あの顔にやられる女子も多いのよこれが」

 まぁ言っていることはわかるけれど。
 あの綺麗な顔にあの言動だと、好きになってしまう子もいるだろうな。
 問題はレイくんが、どこまで本気でそれをしているかなんだけど。

「まぁ先輩のアドバイスとしては、アイツと関わらないのがおすすめ。多分ロクなことにならないから」
「善子さんが言うのなら、そうなのかもしれないですけど。でも、そこまで悪い人の印象はなかったですけど……」
「そこなのさ!」

 善子さんは私をビシッと指差して叫んだ。
 何故だかものすごく力が入っている。

「問題はそこなんだよ。アイツ、人当たりはいいんだよ。おまけにあの顔だからね。みんなすーぐ信用しちゃう。女ったらしの人たらし。私もまんまと騙されて……」
「もしかして善子さん、前はレイくんのこと好きだったですか?」
「血、違う違うちがーう!」

 善子さんは慌てて首をブンブンと振った。首が引きちぎれんばかりに。
 そこまで全力で否定しなくても……。

「確かに、最初の頃アイツのことを信用していたけど、決して私は、好きになったりなんかしてないよ。あんな奴のこと好きだったとしたら、それは私の人生での汚点だね!」
「そこまで言わなくても……」

 誰かを好きになること自体は、決して悪いことじゃないと思うけれど。
 それでも善子さんは、断固としてそれを否定するのでした。

「とにかく、アイツとは付き合わないこと。次会ったら走って逃げなさい。全力でね。私だったら、あっかんべーしてお尻ペンペンしてやるね」
「流石にそれはちょっと可哀想……」

 その光景を想像して少しく可笑しくなる。
 全力で煽る善子さんと、それでも余裕の笑顔を浮かべてそうなレイくんが、簡単に想像できてしまう。
 多分結果は、想像するまでもないんだろうな。
 あの飄々としたレイくんに真正面から対抗しようとしても、こっちが消耗してしまうだけだし。

 でも善子さんがここまで言うのだから、きっとレイくんが何か酷いことをしたのは本当だと思う。
 少しおふざけが混じっているのは、善子さんがそういう明るい人だからだけど。でもその酷評自体は本物だった。
 私がわからなかったレイくんの一面を、善子さんは知ってる。
 その真剣さは確かに伝わってきた。
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