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第2章 正しさの在り方
37 生き人形
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「最高だろう、俺のクリスティーンは」
D7が悦に入った笑みで言った。
「美しく力強く、そして何者にも侵されない。俺の愛しきクリスティーン。アンタらみたいな魔女じゃあ、天地がひっくり返っても敵わねえよ」
確かにクリスティーンは、他のドールとは一線を画していた。
それはその力強さもさることながら、人形としてのクオリティにもあからさまな差があった。
他のドールは所詮人形で、どんなに綺麗に着飾っていても、見れば一瞬で人形とわかる。
洋服屋さんにいるマネキンのような、人の形を模しただけの違うもの。
けれどクリスティーンは、忠実に人間を再現されている。
確かにその体は人工物だけれど、限りなく人間に見えるように作られていた。
まるで誰かを再現しているかのように。
「他の傀儡とはわけが違う。我が愛しきクリスティーンは、今ここにこうして生きているんだからな」
「生きている……?」
氷室さんが眉をひそめた。
確かにそれは、引っかかる言葉だった。
傀儡を、人形を生きていると表現するのは、どうも違和感がある。
「アンタらには、この鼓動がわからないのか? この温もりがわからないのか? この美し声がわからないのか?」
わからない。クリスティーンは人形だった。
どんなに精巧に作られていても、やっぱり人形だ。
どんなによく見たとしても、そこにあるのは無機質な作り物の姿だけなんだから
「タ────」
美しいとはとても言い難い、まるで壊れたスピーカーから出るような掠れた声が、クリスティーンの口から溢れる。
「タ────タス────タスケ────」
口を縦にカタカタと動かしながら、その奥から掠れた声が響く。
元はもしかしたら、綺麗な女性の声だったのかもしれない。
でもどうしても、その声は不鮮明でうまくは聞き取れない。
けれどクリスティーンは、壊れたレコードのように繰り返し繰り返し、なにかを口にし続ける。
「タスケテ────タスケテタスケテタスケテタスケテタスケテ────タスケ────」
「────っ!」
ようやく聞き取れたその言葉に、私たちは戦慄した。
壊れたその美しい声は、ただひたすらに悲痛の言葉を繰り返していた。
傀儡であるはずの人形が、ひたすらに助けを求める言葉を並べている。
「喚くなクリスティーン!」
そこで初めて、D7はクリスティーンに向かって荒い声を上げた。
しかしすぐにその表情は柔らかいものに変わる。
「助けなんていらねぇだろ? 俺たちはいつだって一緒だ」
「タスケ────」
「大丈夫だクリスティーン。大丈夫だ」
優しく諭すD7。
何が大丈夫なのか。私にはさっぱりわからない。
カタカタと戦慄くクリスティーン。
その様子はとてもじゃないけれど普通じゃない。
まるでホラー映画のような、不気味な光景に私は思わず身じろいだ。
「アンタさ、その人形は一体なんなの?」
「クリスティーンは人形じゃねぇ!」
善子さんの質問に、D7は突然激昂した。
顔を醜く歪めて、吐き捨てるように叫んだ。
「クリスティーンは俺たちとなんら変わらねぇ。心臓が脈打ち、血が通ってる。俺たちと同じように生きている。操り人形に過ぎない傀儡とは、わけが違うんだよ!」
「あなた、まさか……」
氷室さんはあくまで冷静に、けれど信じられないものを見る目でクリスティーンとD7を見た。
信じられない、あってはならないという目で。
「彼女の中には、人間の心臓が────」
「タスケテ────!!!」
突如として、クリスティーンが二人に向かって飛び掛った。
大きく跳び上がったクリスティーンの四肢がぐんぐんと伸びて、二人の周囲に突き刺さる。
まるで二人に覆いかぶさるようになったクリスティーンの口からは、先程善子さんに浴びせたような光線が放たれようとしていた。
「同じ攻撃は受けないよ!」
今まさに光線を放とうとするクリスティーンの口目掛けて、善子さんもまた光のレーザーみたいなものを放った。
二つの光線がクリスティーンの口元でぶつかり合って、眩い光の爆発と衝撃で満ちた。
目がくらむほどの光の炸裂の中、氷室さんもまた大きく跳び上がってクリスティーンの懐に入っていた。
「あなたの動力がその中にある心臓なら、それを動かなくするまで」
氷室さんがクリスティーンの胸に手を押し当てた瞬間、まるで液体窒素につけられたように瞬く間に凍りついた。
しかし、その時は既に胴体から四肢と頭部は切り離されていた。
「…………!」
自分のパーツを切り離したクリスティーンは、落下する頭部を氷室さんに向け、耳を劈く奇声を上げた。
そのけたたましい悲鳴に氷室さんが身じろいだ隙に、追撃を免れたクリスティーンはバラバラのまま落下した。
そして地面に落下したパーツは各々勝手に動き出して胴体の元に集結する。
その時もう既に、その胴体は凍結を打ち破っていた。
まるでフィギュアのように、外れたパーツが組み合わさって元の形に戻る。
その光景はとてもじゃないけれど、やっぱり人とは思えない。生きているなんて思えない。
その姿も在り様も、化け物とでも形容した方がよっぽど理にかなっていた。
D7が悦に入った笑みで言った。
「美しく力強く、そして何者にも侵されない。俺の愛しきクリスティーン。アンタらみたいな魔女じゃあ、天地がひっくり返っても敵わねえよ」
確かにクリスティーンは、他のドールとは一線を画していた。
それはその力強さもさることながら、人形としてのクオリティにもあからさまな差があった。
他のドールは所詮人形で、どんなに綺麗に着飾っていても、見れば一瞬で人形とわかる。
洋服屋さんにいるマネキンのような、人の形を模しただけの違うもの。
けれどクリスティーンは、忠実に人間を再現されている。
確かにその体は人工物だけれど、限りなく人間に見えるように作られていた。
まるで誰かを再現しているかのように。
「他の傀儡とはわけが違う。我が愛しきクリスティーンは、今ここにこうして生きているんだからな」
「生きている……?」
氷室さんが眉をひそめた。
確かにそれは、引っかかる言葉だった。
傀儡を、人形を生きていると表現するのは、どうも違和感がある。
「アンタらには、この鼓動がわからないのか? この温もりがわからないのか? この美し声がわからないのか?」
わからない。クリスティーンは人形だった。
どんなに精巧に作られていても、やっぱり人形だ。
どんなによく見たとしても、そこにあるのは無機質な作り物の姿だけなんだから
「タ────」
美しいとはとても言い難い、まるで壊れたスピーカーから出るような掠れた声が、クリスティーンの口から溢れる。
「タ────タス────タスケ────」
口を縦にカタカタと動かしながら、その奥から掠れた声が響く。
元はもしかしたら、綺麗な女性の声だったのかもしれない。
でもどうしても、その声は不鮮明でうまくは聞き取れない。
けれどクリスティーンは、壊れたレコードのように繰り返し繰り返し、なにかを口にし続ける。
「タスケテ────タスケテタスケテタスケテタスケテタスケテ────タスケ────」
「────っ!」
ようやく聞き取れたその言葉に、私たちは戦慄した。
壊れたその美しい声は、ただひたすらに悲痛の言葉を繰り返していた。
傀儡であるはずの人形が、ひたすらに助けを求める言葉を並べている。
「喚くなクリスティーン!」
そこで初めて、D7はクリスティーンに向かって荒い声を上げた。
しかしすぐにその表情は柔らかいものに変わる。
「助けなんていらねぇだろ? 俺たちはいつだって一緒だ」
「タスケ────」
「大丈夫だクリスティーン。大丈夫だ」
優しく諭すD7。
何が大丈夫なのか。私にはさっぱりわからない。
カタカタと戦慄くクリスティーン。
その様子はとてもじゃないけれど普通じゃない。
まるでホラー映画のような、不気味な光景に私は思わず身じろいだ。
「アンタさ、その人形は一体なんなの?」
「クリスティーンは人形じゃねぇ!」
善子さんの質問に、D7は突然激昂した。
顔を醜く歪めて、吐き捨てるように叫んだ。
「クリスティーンは俺たちとなんら変わらねぇ。心臓が脈打ち、血が通ってる。俺たちと同じように生きている。操り人形に過ぎない傀儡とは、わけが違うんだよ!」
「あなた、まさか……」
氷室さんはあくまで冷静に、けれど信じられないものを見る目でクリスティーンとD7を見た。
信じられない、あってはならないという目で。
「彼女の中には、人間の心臓が────」
「タスケテ────!!!」
突如として、クリスティーンが二人に向かって飛び掛った。
大きく跳び上がったクリスティーンの四肢がぐんぐんと伸びて、二人の周囲に突き刺さる。
まるで二人に覆いかぶさるようになったクリスティーンの口からは、先程善子さんに浴びせたような光線が放たれようとしていた。
「同じ攻撃は受けないよ!」
今まさに光線を放とうとするクリスティーンの口目掛けて、善子さんもまた光のレーザーみたいなものを放った。
二つの光線がクリスティーンの口元でぶつかり合って、眩い光の爆発と衝撃で満ちた。
目がくらむほどの光の炸裂の中、氷室さんもまた大きく跳び上がってクリスティーンの懐に入っていた。
「あなたの動力がその中にある心臓なら、それを動かなくするまで」
氷室さんがクリスティーンの胸に手を押し当てた瞬間、まるで液体窒素につけられたように瞬く間に凍りついた。
しかし、その時は既に胴体から四肢と頭部は切り離されていた。
「…………!」
自分のパーツを切り離したクリスティーンは、落下する頭部を氷室さんに向け、耳を劈く奇声を上げた。
そのけたたましい悲鳴に氷室さんが身じろいだ隙に、追撃を免れたクリスティーンはバラバラのまま落下した。
そして地面に落下したパーツは各々勝手に動き出して胴体の元に集結する。
その時もう既に、その胴体は凍結を打ち破っていた。
まるでフィギュアのように、外れたパーツが組み合わさって元の形に戻る。
その光景はとてもじゃないけれど、やっぱり人とは思えない。生きているなんて思えない。
その姿も在り様も、化け物とでも形容した方がよっぽど理にかなっていた。
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