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第3章 オード・トゥ・フレンドシップ
13 人探し
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「急にそんなこと言われても……」
とりあえず言葉を濁してみた。
今こうして話している分には別に悪い人じゃないのはわかるけれど、だからといって、じゃあ仲良くしましょうと二つ返事はできない。
けれどそんな私の返答に、アゲハさんはとても不満げだった。
ぐいっと眉を寄せてジト目で私を見る。
「えぇーなんでよ! いじわる! 私たち友達じゃん!」
「いや、そもそも私たち別に友達じゃ……」
「今なったでしょ! いーまー!」
もうめちゃくちゃだ。いつどのタイミングで友達になっていたんだろう。
私たちは昨日少し顔を合わせたくらいしかエピソードがない。
確か、むしろちょっとバカにされたはず。
それなのにどうしてアゲハさんはそんなにも馴れ馴れしいんだろう。
助けを求めて氷室さんを見てみたけれど、そもそも氷室さんの手に負える相手じゃない。
こういうハイテンションな人の相手をさせるのは流石に酷だろうし。
ポーカーフェイスの奥にそんな気持ちが見えた。
「そんなこと言われても……私たち今初めて喋ったじゃないですかぁ」
「それで十分じゃない? 喋ってこの子好きだなと思ったら友達! それ以外に何か必要?」
「いや、まぁ……はぁ……」
好かれるほど会話もしてない気がするけど、もう一々指摘しても仕方がないのかもしれない。
とにかくアゲハさんが友達だと思ったら、もう何が何でも友達らしい。
でも私たちって、もっとシリアスな関係だと思ってたんだけどなぁ。
「友達ってそういうものっしょ。別にそんな気負うものじゃないし。それともなに? アリスは友達ってもっと命がけ?」
いつのまにかお姫様から呼び捨てに変わっていることは最早突っ込まない。
友達が命がけかどうかはわからないけれど、私は信頼できる人と友達になりたいと思うし、友達になったら大事にしたいと思う。
人によってその価値観も違うとは思うけれど、私たちの間には大分落差があるように感じた。
「あーそういえばアリスは、友達のために戦うーとか言ってたっけ」
アゲハさんは思い出したようにそう言った。
その言葉はどこか投げやりというか、ちょっと気を抜いたような言い方だった。
「私は無理だなぁ、友達のためにとか。友達ってその場その場で楽しくするためのもんじゃん。そこまで深入りできないなぁ」
「私は友達を大切にしたいですから。友達が困ってたら助けたいと思います」
「ふーん」
私は理解できないけどまぁそれでもいいんじゃない?と暗に含んだ、適当な返答だった。
根本的に価値観が違うんだから、考え方だって違う。
アゲハさんの友達感に私が口を出すことじゃない。
「まぁ私はもっと気軽でいいと思うけどね。なるのもやめるのもさ」
とても軽快な笑顔で、とてもあっさりと言ってのける。
つまりアゲハさんにとってはそういうものなんだ。とても刹那的なもので、その時楽しければいいもの。
思い入れも肩入れも必要なくて、ただその瞬間を楽しく過ごせればいいもの。
きっとそれも間違ってはいないのかもしれないけれど、私はそれを寂しいと思ってしまう。
「まーまーそんな話はいいじゃん。私も楽しいお喋りに混ぜてよー」
明るく気軽に。この人懐っこさは、確かにすぐ人の懐に入っていけるんだろう。
アゲハさん単体を見ればそれを拒否する理由もなかった。
「もーわかりましたよー」
正直根負けだった。この人と友達感を言い合ってもキリがないし、それはきっとわかり合えない。
だからといって人としてわかり合えないわけじゃないし、仲良くできないわけじゃない。
ワルプルギスの魔女だからといって無下にするのも何か違う。
同じ魔女として個人的にこの人と関わっていくことは、それなりに益になるかもしれないし。
だから仕方なく、私は折れるしかなかった。どうしても拒む理由は見当たらなかったから。
「……花園さん」
氷室さんが不安げに私に呟いた。
その気持ちはわかるけれど、でも私はこの人のことをまだ何も知らないし、やっぱり突っぱねることはできない。
「大丈夫。ちゃんと最低限気をつけるからさ」
「…………」
安心させるために手をぎゅっと握る。
氷室さんはそれ以上なにも言わなかったけれど、でもその目はまだ不安を抱えていた。
私よりも私のことを心配してくれる友達の存在がとても頼もしかった。
「ほーらアリスもこう言ってるよ? 霰も仲良くしてね!」
「…………」
ニカッと屈託のない笑顔を向けられて、氷室さんは少しジトっとした目をした。
けれどアゲハさんはそんなことは全く気にしないで、もう仲良くなったことにしていた。
「それで、アゲハさんはどうしてこんな所にいるんですか? 私に用がなかったとしても、何かしてたんじゃないんですか?」
「ん? まぁ何かしてたってほどじゃないんだけどさ」
とりあえず話題を振った私に、アゲハさんはケロッと答えた。
「ちょっと人探し、みたいな。まぁもののついでなんだけどね。妹をさ、探してんの」
「妹さん?」
「そうそう。私がこっちに来る前からどっかいっちゃってさぁ。多分こっちの世界に来てると思うんだよねぇ。せっかくこっちに来たからさ、適当に探そうかなってさ」
あんまり深く気にしていなさそうにアゲハさんは言う。
妹さんが行方不明って、それ結構重大なことじゃないのかな。
「妹さんも魔女なんですか?」
「そうそう。私ら姉妹そろって魔女になっちゃってさ。まぁもう長いこと会ってないんだけどね。どこで何してるのやら」
やれやれと肩をすくめるアゲハさん。
当然だけれど、向こうの世界にも家族や兄弟はあるんだよね。
向こうには向こうの文化があって生活してる人がいる。
向こうの世界があるってことはわかっているし、私も少しだけ行ったけれど、いまいちその辺りのことがわかっていなかった。
『まほうつかいの国』がどういう国なのか。そしてその世界はどんな世界なのか。
でもきっと、どこに住んでいたって人は同じ人だから。
私たちと同じように色んなことを思ったり感じたりしている。
価値観は違ったりするかもしれないけれど、でも家族を思ったりする気持ちはそんなに違わないはず。
友達に関しては割と軽い考えのアゲハさんだけれど、妹さんのことは大事に思っているのかもしれない。
そう思ったらやっぱり悪い人には思えなかった。
とりあえず言葉を濁してみた。
今こうして話している分には別に悪い人じゃないのはわかるけれど、だからといって、じゃあ仲良くしましょうと二つ返事はできない。
けれどそんな私の返答に、アゲハさんはとても不満げだった。
ぐいっと眉を寄せてジト目で私を見る。
「えぇーなんでよ! いじわる! 私たち友達じゃん!」
「いや、そもそも私たち別に友達じゃ……」
「今なったでしょ! いーまー!」
もうめちゃくちゃだ。いつどのタイミングで友達になっていたんだろう。
私たちは昨日少し顔を合わせたくらいしかエピソードがない。
確か、むしろちょっとバカにされたはず。
それなのにどうしてアゲハさんはそんなにも馴れ馴れしいんだろう。
助けを求めて氷室さんを見てみたけれど、そもそも氷室さんの手に負える相手じゃない。
こういうハイテンションな人の相手をさせるのは流石に酷だろうし。
ポーカーフェイスの奥にそんな気持ちが見えた。
「そんなこと言われても……私たち今初めて喋ったじゃないですかぁ」
「それで十分じゃない? 喋ってこの子好きだなと思ったら友達! それ以外に何か必要?」
「いや、まぁ……はぁ……」
好かれるほど会話もしてない気がするけど、もう一々指摘しても仕方がないのかもしれない。
とにかくアゲハさんが友達だと思ったら、もう何が何でも友達らしい。
でも私たちって、もっとシリアスな関係だと思ってたんだけどなぁ。
「友達ってそういうものっしょ。別にそんな気負うものじゃないし。それともなに? アリスは友達ってもっと命がけ?」
いつのまにかお姫様から呼び捨てに変わっていることは最早突っ込まない。
友達が命がけかどうかはわからないけれど、私は信頼できる人と友達になりたいと思うし、友達になったら大事にしたいと思う。
人によってその価値観も違うとは思うけれど、私たちの間には大分落差があるように感じた。
「あーそういえばアリスは、友達のために戦うーとか言ってたっけ」
アゲハさんは思い出したようにそう言った。
その言葉はどこか投げやりというか、ちょっと気を抜いたような言い方だった。
「私は無理だなぁ、友達のためにとか。友達ってその場その場で楽しくするためのもんじゃん。そこまで深入りできないなぁ」
「私は友達を大切にしたいですから。友達が困ってたら助けたいと思います」
「ふーん」
私は理解できないけどまぁそれでもいいんじゃない?と暗に含んだ、適当な返答だった。
根本的に価値観が違うんだから、考え方だって違う。
アゲハさんの友達感に私が口を出すことじゃない。
「まぁ私はもっと気軽でいいと思うけどね。なるのもやめるのもさ」
とても軽快な笑顔で、とてもあっさりと言ってのける。
つまりアゲハさんにとってはそういうものなんだ。とても刹那的なもので、その時楽しければいいもの。
思い入れも肩入れも必要なくて、ただその瞬間を楽しく過ごせればいいもの。
きっとそれも間違ってはいないのかもしれないけれど、私はそれを寂しいと思ってしまう。
「まーまーそんな話はいいじゃん。私も楽しいお喋りに混ぜてよー」
明るく気軽に。この人懐っこさは、確かにすぐ人の懐に入っていけるんだろう。
アゲハさん単体を見ればそれを拒否する理由もなかった。
「もーわかりましたよー」
正直根負けだった。この人と友達感を言い合ってもキリがないし、それはきっとわかり合えない。
だからといって人としてわかり合えないわけじゃないし、仲良くできないわけじゃない。
ワルプルギスの魔女だからといって無下にするのも何か違う。
同じ魔女として個人的にこの人と関わっていくことは、それなりに益になるかもしれないし。
だから仕方なく、私は折れるしかなかった。どうしても拒む理由は見当たらなかったから。
「……花園さん」
氷室さんが不安げに私に呟いた。
その気持ちはわかるけれど、でも私はこの人のことをまだ何も知らないし、やっぱり突っぱねることはできない。
「大丈夫。ちゃんと最低限気をつけるからさ」
「…………」
安心させるために手をぎゅっと握る。
氷室さんはそれ以上なにも言わなかったけれど、でもその目はまだ不安を抱えていた。
私よりも私のことを心配してくれる友達の存在がとても頼もしかった。
「ほーらアリスもこう言ってるよ? 霰も仲良くしてね!」
「…………」
ニカッと屈託のない笑顔を向けられて、氷室さんは少しジトっとした目をした。
けれどアゲハさんはそんなことは全く気にしないで、もう仲良くなったことにしていた。
「それで、アゲハさんはどうしてこんな所にいるんですか? 私に用がなかったとしても、何かしてたんじゃないんですか?」
「ん? まぁ何かしてたってほどじゃないんだけどさ」
とりあえず話題を振った私に、アゲハさんはケロッと答えた。
「ちょっと人探し、みたいな。まぁもののついでなんだけどね。妹をさ、探してんの」
「妹さん?」
「そうそう。私がこっちに来る前からどっかいっちゃってさぁ。多分こっちの世界に来てると思うんだよねぇ。せっかくこっちに来たからさ、適当に探そうかなってさ」
あんまり深く気にしていなさそうにアゲハさんは言う。
妹さんが行方不明って、それ結構重大なことじゃないのかな。
「妹さんも魔女なんですか?」
「そうそう。私ら姉妹そろって魔女になっちゃってさ。まぁもう長いこと会ってないんだけどね。どこで何してるのやら」
やれやれと肩をすくめるアゲハさん。
当然だけれど、向こうの世界にも家族や兄弟はあるんだよね。
向こうには向こうの文化があって生活してる人がいる。
向こうの世界があるってことはわかっているし、私も少しだけ行ったけれど、いまいちその辺りのことがわかっていなかった。
『まほうつかいの国』がどういう国なのか。そしてその世界はどんな世界なのか。
でもきっと、どこに住んでいたって人は同じ人だから。
私たちと同じように色んなことを思ったり感じたりしている。
価値観は違ったりするかもしれないけれど、でも家族を思ったりする気持ちはそんなに違わないはず。
友達に関しては割と軽い考えのアゲハさんだけれど、妹さんのことは大事に思っているのかもしれない。
そう思ったらやっぱり悪い人には思えなかった。
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