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第3章 オード・トゥ・フレンドシップ
18 魔女を狙う魔女
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その事情をどこまで突っ込んで聞いていいものかわからなかった。
ワルプルギスと言われると、無関係とは言いがたい。
けれどワルプルギスの敵はあくまで魔法使いであって、魔女のまくらちゃんを狙う理由はわからなかった。
「そういえば自己紹介がまだだったな。アタシはカノン。まくらの姉貴分みたいなもんだ」
少し重たくなった空気を察したのか、ニカッと笑って女の子────カノンちゃんは言った。
ついさっきまでの切迫した空気とは一転した朗らかな展開に、少し出遅れながらも私たちもそれに倣った。
「私は花園 アリス。それでこっちは私の友達の……」
「……氷室 霰」
「おう、よろしく!」
なんとも豪快というか、大雑把というか。
さっきまで剣を向け合っていたとは思えない、さっぱりした挨拶になった。
「それでカノンちゃ────」
「アタシをちゃん付けで呼ぶな」
「カノンさんは……」
ナチュラルに名前を呼ぼうとしたら物凄い勢いで凄まれて、私は大人しく言い直した。
怖い。女の子とは思えないくらい怖かった。
まぁ確かにちゃん付けで呼ぶのが似合うかと言われたらちょっと悩むけれど、でも同年代の女の子だしいいと思ったんだけれど……。
「カノンさんは、まくらちゃんとずっとこっちで過ごしてるの?」
「まぁな。魔法があれば大抵のことには困らないし、こっちの世界に流れてくる魔女も少なくはないから、なんとかやってけるんだ」
そう答えてから、カノンさんはふと首を傾げた。
そして私の顔を腕を組みながら、まじまじと見ながら眉をひそめる。
「ちょっと待て。お前今、花園 アリスって言ったか?」
「え? うん……」
「それは消えた姫君の名だ。お前もしかして……」
瞬間緊張が走った。即座に氷室さんが身を乗り出す。
「待て待て。別にとって食ったりしねぇよ。でも、その反応を見る限り、姫君本人で間違いはないみたいだな」
カノンさんは警戒心を増した氷室さんをどーどーと諌めつつ、合点がいったという風に頷いた。
そこには敵意は感じられなかったけれど、でもカノンさんが何を思っているのかはさっぱりだった。
「道理でまくらが懐いてるわけだ。姫君が相手なら仕方ない」
「どういうこと?」
「魔女は姫君を感じるものだからな。お前の力に惹かれたんだろうさ」
それは初耳だった。魔女は私の力を感じる何かがあるってこと?
尋ねるように氷室さんを見ると、氷室さんはおずおずと頷いた。
「他の魔女にはない気配を、あなたは持っている。魔女なら、あなたを姫君と一目でわかる」
「それは知らなかった……」
でも言われてみればそうかもしれない。
私の過去をみんながみんな知っているわけじゃないんだし、じゃあ何で私をお姫様だと判断しているのかといえば、そういう感覚が頼りなのかもしれない。
ワルプルギスの人たちなんかは特に。
「ていうかカノンさん。私の名前って、向こうの世界では有名なの?」
「あったり前だろう。一国の姫君だぞ。お前ボケてんのか?」
「あ、いや、その……」
私は仕方なく簡単な経緯を話した。
といっても本当にざっくりとしたことを。だって私自身よくわかっていないし。
だから話せたことといえば、私はお姫様としての記憶と力を覚えていないということ。
そして魔女になってしまって、今は魔法使いに狙われていること。
カノンさんはふむふむと頷きながら素直に聞いてくれた。
「姫君が消えたことは知ってたが、まさか綺麗さっぱり忘れてるとはな。そこまでの話はアタシには入ってきてなかった」
「だから、今の私は基本的に役立たずなの」
「そんなことは、ない。あなたは私の力」
氷室さんが慰めるように私の肩に手を置いてくれる。
どちらかというと氷室さんの力を私が貸してもらっているような気がするけれど、でも『寵愛』で繋がっていることで氷室さんに力を貸せているらしいし、そう思っていてもいいのかな。
「そっちの話は大体わかった。大分込み入ってるみたいだなぁ。ま、こっちも人のこと言えねぇけど」
「その、カノンさんたちの話、聞いてもいい?」
私は恐る恐る尋ねた。
カノンさんたちはカノンさんたちで何かのっぴきならない事情がありそうだし、そこまで踏み込んでいいのかわからなかったけれど。
でも案外ケロリとケノンさんは頷いた。
「むしろ、こうして会った以上話しておいた方がいいかもな。もしかしたら巻き込んじまうかもしれない」
「どういうこと?」
「さっきも少し言ったけど、まくらはワルプルギスの魔女に狙われてるんだ。せっかくこっちの世界まで来たっていうのに、しつこく追い回されてる。なんとか今日まで凌いでるが、またいつ襲われるかわからねぇんだ」
大して気にしていなさそうに、カノンさんはあっさりと言った。
それ、結構一大事だと思うんだけれど。
「それ大丈夫なの? 安全なところに隠れた方が……」
「隠れるほどじゃない。というか隠れても仕方がない。それに凌ぐこと自体はそんなに大変じゃないんだ。ただ、襲ってくる時はいつも姿をハッキリと現さねぇんだ。厄介なところはそこだな。いつどこからどんな奴が襲ってくるかわからねぇんだ」
だったら尚更、まくらちゃんはこんな所で寝ている場合じゃないんじゃないの?
こんな暗くて人気のないところで無防備なんて無用心すぎる。
真っ向から襲ってこない敵なんて、どう対処していいのやら私にはさっぱりだった。
「でも、どうしてまくらちゃんは狙われてるの? 同じ魔女なのに」
「それはアタシにも未だにわからない。ただソイツはえらくまくらに執着してやがんだ。姿も現さなければ目的も明かさない。アタシが知ってんのはソイツの名前だけ」
溜息をつきながら、そして憎々しげにカノンさんは言った。
「ソイツの名前はカルマ。まくらがこうしてよく眠るようになった原因もソイツだ」
ワルプルギスと言われると、無関係とは言いがたい。
けれどワルプルギスの敵はあくまで魔法使いであって、魔女のまくらちゃんを狙う理由はわからなかった。
「そういえば自己紹介がまだだったな。アタシはカノン。まくらの姉貴分みたいなもんだ」
少し重たくなった空気を察したのか、ニカッと笑って女の子────カノンちゃんは言った。
ついさっきまでの切迫した空気とは一転した朗らかな展開に、少し出遅れながらも私たちもそれに倣った。
「私は花園 アリス。それでこっちは私の友達の……」
「……氷室 霰」
「おう、よろしく!」
なんとも豪快というか、大雑把というか。
さっきまで剣を向け合っていたとは思えない、さっぱりした挨拶になった。
「それでカノンちゃ────」
「アタシをちゃん付けで呼ぶな」
「カノンさんは……」
ナチュラルに名前を呼ぼうとしたら物凄い勢いで凄まれて、私は大人しく言い直した。
怖い。女の子とは思えないくらい怖かった。
まぁ確かにちゃん付けで呼ぶのが似合うかと言われたらちょっと悩むけれど、でも同年代の女の子だしいいと思ったんだけれど……。
「カノンさんは、まくらちゃんとずっとこっちで過ごしてるの?」
「まぁな。魔法があれば大抵のことには困らないし、こっちの世界に流れてくる魔女も少なくはないから、なんとかやってけるんだ」
そう答えてから、カノンさんはふと首を傾げた。
そして私の顔を腕を組みながら、まじまじと見ながら眉をひそめる。
「ちょっと待て。お前今、花園 アリスって言ったか?」
「え? うん……」
「それは消えた姫君の名だ。お前もしかして……」
瞬間緊張が走った。即座に氷室さんが身を乗り出す。
「待て待て。別にとって食ったりしねぇよ。でも、その反応を見る限り、姫君本人で間違いはないみたいだな」
カノンさんは警戒心を増した氷室さんをどーどーと諌めつつ、合点がいったという風に頷いた。
そこには敵意は感じられなかったけれど、でもカノンさんが何を思っているのかはさっぱりだった。
「道理でまくらが懐いてるわけだ。姫君が相手なら仕方ない」
「どういうこと?」
「魔女は姫君を感じるものだからな。お前の力に惹かれたんだろうさ」
それは初耳だった。魔女は私の力を感じる何かがあるってこと?
尋ねるように氷室さんを見ると、氷室さんはおずおずと頷いた。
「他の魔女にはない気配を、あなたは持っている。魔女なら、あなたを姫君と一目でわかる」
「それは知らなかった……」
でも言われてみればそうかもしれない。
私の過去をみんながみんな知っているわけじゃないんだし、じゃあ何で私をお姫様だと判断しているのかといえば、そういう感覚が頼りなのかもしれない。
ワルプルギスの人たちなんかは特に。
「ていうかカノンさん。私の名前って、向こうの世界では有名なの?」
「あったり前だろう。一国の姫君だぞ。お前ボケてんのか?」
「あ、いや、その……」
私は仕方なく簡単な経緯を話した。
といっても本当にざっくりとしたことを。だって私自身よくわかっていないし。
だから話せたことといえば、私はお姫様としての記憶と力を覚えていないということ。
そして魔女になってしまって、今は魔法使いに狙われていること。
カノンさんはふむふむと頷きながら素直に聞いてくれた。
「姫君が消えたことは知ってたが、まさか綺麗さっぱり忘れてるとはな。そこまでの話はアタシには入ってきてなかった」
「だから、今の私は基本的に役立たずなの」
「そんなことは、ない。あなたは私の力」
氷室さんが慰めるように私の肩に手を置いてくれる。
どちらかというと氷室さんの力を私が貸してもらっているような気がするけれど、でも『寵愛』で繋がっていることで氷室さんに力を貸せているらしいし、そう思っていてもいいのかな。
「そっちの話は大体わかった。大分込み入ってるみたいだなぁ。ま、こっちも人のこと言えねぇけど」
「その、カノンさんたちの話、聞いてもいい?」
私は恐る恐る尋ねた。
カノンさんたちはカノンさんたちで何かのっぴきならない事情がありそうだし、そこまで踏み込んでいいのかわからなかったけれど。
でも案外ケロリとケノンさんは頷いた。
「むしろ、こうして会った以上話しておいた方がいいかもな。もしかしたら巻き込んじまうかもしれない」
「どういうこと?」
「さっきも少し言ったけど、まくらはワルプルギスの魔女に狙われてるんだ。せっかくこっちの世界まで来たっていうのに、しつこく追い回されてる。なんとか今日まで凌いでるが、またいつ襲われるかわからねぇんだ」
大して気にしていなさそうに、カノンさんはあっさりと言った。
それ、結構一大事だと思うんだけれど。
「それ大丈夫なの? 安全なところに隠れた方が……」
「隠れるほどじゃない。というか隠れても仕方がない。それに凌ぐこと自体はそんなに大変じゃないんだ。ただ、襲ってくる時はいつも姿をハッキリと現さねぇんだ。厄介なところはそこだな。いつどこからどんな奴が襲ってくるかわからねぇんだ」
だったら尚更、まくらちゃんはこんな所で寝ている場合じゃないんじゃないの?
こんな暗くて人気のないところで無防備なんて無用心すぎる。
真っ向から襲ってこない敵なんて、どう対処していいのやら私にはさっぱりだった。
「でも、どうしてまくらちゃんは狙われてるの? 同じ魔女なのに」
「それはアタシにも未だにわからない。ただソイツはえらくまくらに執着してやがんだ。姿も現さなければ目的も明かさない。アタシが知ってんのはソイツの名前だけ」
溜息をつきながら、そして憎々しげにカノンさんは言った。
「ソイツの名前はカルマ。まくらがこうしてよく眠るようになった原因もソイツだ」
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