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第3章 オード・トゥ・フレンドシップ
54 夢の中の友達は
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まくらは眠ることが大好きな女の子でした。
夜に温かいベットに潜り込んで、お母さんに子守唄を歌ってもらいながら眠るのが好きでした。
お昼の暖かい日差しを受けながら、あ母さんの膝枕で眠るのも好きでした。
心地よく微睡む感覚が何とも言えず好きでした。
まだまだ小さな女の子でしたが、呑気で気ままなまくらは、そんな穏やかな時間が好きだったのです。
大好きな家族に囲まれて、優しいお母さんとお父さんとお姉さんに囲まれて。
平和な日々に浸りながら、何の不安もなく眠る時間が何より好きでした。
けれど、とある日のこと。
まくらはお父さんに連れられてどこともわからない森にやってきました。
幼いまくらは今まで街の外に出たことはありませんでした。
初めての遠出。けれどそれは華やかなものではなく、またお父さんの表情はとても険しいものでした。
まくらの手を握るお父さんの手の力は強く、まくらは痛いと悲鳴をあげました。
けれどお父さんはそんなまくらに見向きもしてはくれません。
いつもはとても優しいお父さん。けれど今日ばかりはまくらの言葉に耳を傾けてはくれませんでした。
どこにあるのかもわからない森の深くまでやってきて、お父さんはまくらを大きな木の根に座らせました。
お父さんが戻ってくるまでここでいい子にして待っていなさい。決してここから動いてはいけないよ。
まくらの肩を力強く掴んで鬼気迫る表情で言うお父さんに、まくらは黙って頷きました。
まだまだ幼いまくらにとって、お父さんの言うことは絶対なのです。
いい子いい子といつも褒められていたまくらは、お父さんとお母さんの言いつけはちゃんと聞く子なのです。
お父さんは一度も振り返らずに行ってしまいました。
決してまくらのことを見ようとはしませんでした。
まくらはただただ、そんなお父さんの背中を黙って見送りました。
だってお父さんは戻ってくると言ったのですから。ただいい子にして待っていればいいのです。
けれど、どんなに待ってもお父さんは戻ってはきませんでした。
数時間が経っても、次の日になっても、数日経っても、数週間、数ヶ月、数年経っても。
いつまで経ってもお父さんはおろか、誰も迎えには来てくれませんでした。
まくらはただ一人、どこかもわからぬ森の中で一人ぼっちでした。
一日が経った時点で、既にまくらは寂しさに耐えられませんでした。
まだまだ幼い少女であるまくらにとって、こんなにも長い時間一人でいたことは初めてなのです。
どうして自分がここに連れてこられたのかも、どうして誰も迎えに来てくれないのかもわからず、まくらはただ寂しさに涙を流しました。
何故ならまくらは、自分が魔女になったことを知らないのです。
自分が忌み嫌われる理由を知らないのですから、捨てられたことなど理解できるわけがありません。
けれど泣いていても誰も迎えに来てはくれません。
一人ぼっちで特にすることもなく、まくらはほとんどの時間を寝て過ごすようになりました。
眠っている時だけは、色んな不安や寂しさを忘れることができるからです。
なんでも叶う夢の中なら、まくらは一人ぼっちではないからです。
一人ぼっちの寂しさを、眠ることで誤魔化す日々がしばらく続いた頃のことでした。
微睡みの中、平穏な夢の中でまくらに語りかける声がありました。
ずっと長い間一人で過ごしてきたまくらにとって、その声は縋りたくなるほど優しく聞こえました。
けれどそれは本当の声ではありません。夢の中だけで聞こえる声です。
まくらは魔女。眠ることを好み、そして多くの時間眠って過ごしてきたまくらは、知らず知らずのうちに夢幻の魔法を身につけていました。
自分が眠って見る夢の中で思い描いたものを、幻として作り出してしまう魔法です。
一人ぼっちでずっと寂しかったまくらが望んでいたのは、ずっと一緒にいてくれる友達でした。
一緒に楽しく遊んでくれて、寂しい思いをさせないでくれるお友達が欲しかったのです。
なのでその語りかけてきた声は、まくら自身が魔法によって作り出した夢の中のお友達です。
「まくらちゃん、一緒に遊ぼうよ」
その子は自分をカルマと名乗りました。
夢の中でまくらが作り出したお友達カルマは、手を取り合っていつもまくらと遊んでくれるようになりました。
まくらが眠るといつも夢の中にはカルマがいて、にっこり笑って優しく抱きしめてくれるのです。
そしてまくらが目を覚ますまで、ずっと一緒に遊んでくれるのです。
夢の中だけのお友達。けれどずっと夢の中にいてくれるお友達。
まくらの願いが形になって生まれたカルマ。まくらの夢の中に住み続けるカルマ。
彼女はまくらの心の写し鏡のような存在でした。
夢の中、心の中に作り出したもう一人の自分。
幼い子供が一人遊びをする時に、自分自身でまるでそこにもう一人誰かがいるかのように振る舞うのと同じこと。
寂しい時間を一人で過ごすしかなかったまくらが作り出したお友達は、まくら自身が演じるもう一人の自分のようなものでした。
自分が魔女だということも、魔法が使えるということも知らないまくらにとって、それは全て無意識によるものでした。
だからまくらは知らないのです。夢の中にいる自分の友達が、自分が魔法によって作り出したもう一人の自分ということを。
それが夢の中だといっても、確かに存在するものだということを。
けれどまくらは寂しくなくなりました。それが一番大切なことだったのです。
それにまだまだ、まくらには知らないことがありました。
カルマはまくらが大好きでした。自分を作り出してお友達にしてくれたまくらのことが大好きでした。
まくらと遊ぶのが大好きで、こんな日々がずっとずっと続けばいいと思っていたのです。
けれど、まくらが森の中で迎えを待っている間、そこに誰も訪れることがなかったというわけではないのです。
同じように帰る場所をなくした魔女や、道に迷った旅人などが森の中を彷徨い、まくらを見つけて手を差し伸べることが何度かありました。
まくらに手を差し伸べ助けてくれる人がいるということは、まくらはもう寂しい思いをしなくていいということです。
まくらが寂しくないということは、寂しかったからこそ生み出されたカルマは用済みになってしまう。そう、カルマは考えました。
嫌でした。捨てられるのは嫌でした。必要とされなくなるのは嫌でした。
ずっとずっとまくらと遊んでいたい。そんな日々が続いて欲しい。
だってまくらと遊んでいる時が一番楽しいのだから。それを奪われたくはなかったのです。
このままでは、まくらの周りに人がいたら、いつかまくらは自分を必要としなくなる。
そう考えたカルマは、ずっとまくらが寂しい思いをしていればいいと考えるようになりました。
まくらの寂しさを癒すのは、自分だけでいいと。
なので、まくらが眠っている時に夢から現実に飛び出して、まくらの周りにいる人たちを殺してしまいました。
カルマは魔法で作られたもう一人のまくら。
夢の中で作られ夢の中で過ごしてきたカルマは、いつしかまくら本人よりも夢と眠りの魔法に長けるようになっていました。
なのでカルマはまくらが眠っている時に限り、現実へと飛び出し人を殺すことができるようになっていたのです。
まくらの側にいるのは自分だけでいい。
まくらの寂しさを紛らわすのは自分だけでいい。
自分の存在を脅かすものは全て排除してしまえばいい。
まくらの写し鏡として作り出されたもう一人の自分。
穏やかで弱気なまくらとは対照的に、カルマは過激で自己主張の強い存在でした。
はじめは邪魔者を排除するために殺していました。
もちろん今だって基本的な目的は変わりません。
けれどまくらと一緒に眠っているその人たちを一方的に殺していくうちに、カルマは人を殺すことに楽しみを覚えるようになってしまいました。
自分の存在を脅かす人を殺していたはずのなのに、いつしかその殺すという行為そのものも楽しみとなっていたのです。
けれどやっぱり一番楽しいのはまくらと遊んでいる時なのです。
だからカルマはいつも早々に殺しを片付けて、すぐさま何も知らないまくらと遊びました。
そんな日々がずっと続きました。
何年も続きました。夢の中でまくらとカルマは遊び、まくらに近寄るものがいれば眠っている間に殺す。
ついでに魔法で食べ物を集めておいて、まくらは目を覚ますと近くにあったもの食べていました。
そんな日々は、とある魔法使いがやってくるまで続いたのです。
カノンと名乗る魔法使いが森を訪れた時、まくらは眠っていました。
なのでその存在に気が付いたのはカルマでした。
カルマは少し前に、森に住まう人殺しの魔女、という噂を耳にしてやってきたワルプルギスの魔女に会ったことがありました。
とんがり帽子を被ってマントで身を包んだ魔女でした。
そこでカルマは色々な知識を得たのです。まくらは魔女のことすら知らない無知の少女だったので、多くのことはそのワルプルギスの魔女から聞きました。
そしてカルマはワルプルギスに入ることに決めました。そうすればもっと人を殺せると思ったからです。
なのでカルマは、魔法使いが自分の敵であるということを知っていました。
でも既にその魔法使いは死にかけで、殺しても楽しそうではありませんでした。
なのでカルマは無邪気そうなフリをして、その傷を治してあげることにしました。
死にかけの魔法使いを死なないギリギリまで治す。
その程度なら自分に襲いかかるほどの体力は戻らず、けれど少しは殺しがいがあるだろうと、そう踏んでのことです。
しかしカルマにとって計算外のことが起きました。
それはその魔法使いがまくらを守ろうとしたこと。そして魔法使いと魔女である自分の実力の差でした。
結局カルマは一度でその魔法使いを殺すことはできず、まくらは自分に寄り添ってくれる人を見つけてしまったのです。
けれどカルマはあくまでポジティブに、何度でも殺しにかかれると考えて、まくらが眠る度に襲いかかりました。
まくらを慈しむ彼女を欺くため、体は動かさずに、魔法で声を空から降らせて語りかけ、暗闇から攻撃を飛ばす戦い方をしました。
まくらがカノンに懐くほど、日に日に自分の存在が薄れていきます。
その恐怖と戦いながら、けれど殺しにかかっても決して死ぬことのないカノンとの殺し合いを、楽しいとも感じてまいした。
けれど、やっぱりどうしても、まくらには自分だけを必要として欲しかったのです。
他の誰かではなく、自分だけと遊んで欲しかったのです。
だからカルマは決めたのです。もう終わりにしようと。
殺し合いは楽しいけれど、一番楽しいのはまくらと遊ぶことだから。
カノンの心も体も殺し尽くして、またあの二人だけの日々に戻ろうと。
カルマはそう、決めたのです。
そしてその気持ちを、その全てをまくらは何も知らないのです。
自分が生み出したもう一人の自分。常に側にいて寂しさを癒してくれた友達。
一番近いはずなのに、一番遠いところにいた存在。
まくらは何も、知らないのです。
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まくらは眠ることが大好きな女の子でした。
夜に温かいベットに潜り込んで、お母さんに子守唄を歌ってもらいながら眠るのが好きでした。
お昼の暖かい日差しを受けながら、あ母さんの膝枕で眠るのも好きでした。
心地よく微睡む感覚が何とも言えず好きでした。
まだまだ小さな女の子でしたが、呑気で気ままなまくらは、そんな穏やかな時間が好きだったのです。
大好きな家族に囲まれて、優しいお母さんとお父さんとお姉さんに囲まれて。
平和な日々に浸りながら、何の不安もなく眠る時間が何より好きでした。
けれど、とある日のこと。
まくらはお父さんに連れられてどこともわからない森にやってきました。
幼いまくらは今まで街の外に出たことはありませんでした。
初めての遠出。けれどそれは華やかなものではなく、またお父さんの表情はとても険しいものでした。
まくらの手を握るお父さんの手の力は強く、まくらは痛いと悲鳴をあげました。
けれどお父さんはそんなまくらに見向きもしてはくれません。
いつもはとても優しいお父さん。けれど今日ばかりはまくらの言葉に耳を傾けてはくれませんでした。
どこにあるのかもわからない森の深くまでやってきて、お父さんはまくらを大きな木の根に座らせました。
お父さんが戻ってくるまでここでいい子にして待っていなさい。決してここから動いてはいけないよ。
まくらの肩を力強く掴んで鬼気迫る表情で言うお父さんに、まくらは黙って頷きました。
まだまだ幼いまくらにとって、お父さんの言うことは絶対なのです。
いい子いい子といつも褒められていたまくらは、お父さんとお母さんの言いつけはちゃんと聞く子なのです。
お父さんは一度も振り返らずに行ってしまいました。
決してまくらのことを見ようとはしませんでした。
まくらはただただ、そんなお父さんの背中を黙って見送りました。
だってお父さんは戻ってくると言ったのですから。ただいい子にして待っていればいいのです。
けれど、どんなに待ってもお父さんは戻ってはきませんでした。
数時間が経っても、次の日になっても、数日経っても、数週間、数ヶ月、数年経っても。
いつまで経ってもお父さんはおろか、誰も迎えには来てくれませんでした。
まくらはただ一人、どこかもわからぬ森の中で一人ぼっちでした。
一日が経った時点で、既にまくらは寂しさに耐えられませんでした。
まだまだ幼い少女であるまくらにとって、こんなにも長い時間一人でいたことは初めてなのです。
どうして自分がここに連れてこられたのかも、どうして誰も迎えに来てくれないのかもわからず、まくらはただ寂しさに涙を流しました。
何故ならまくらは、自分が魔女になったことを知らないのです。
自分が忌み嫌われる理由を知らないのですから、捨てられたことなど理解できるわけがありません。
けれど泣いていても誰も迎えに来てはくれません。
一人ぼっちで特にすることもなく、まくらはほとんどの時間を寝て過ごすようになりました。
眠っている時だけは、色んな不安や寂しさを忘れることができるからです。
なんでも叶う夢の中なら、まくらは一人ぼっちではないからです。
一人ぼっちの寂しさを、眠ることで誤魔化す日々がしばらく続いた頃のことでした。
微睡みの中、平穏な夢の中でまくらに語りかける声がありました。
ずっと長い間一人で過ごしてきたまくらにとって、その声は縋りたくなるほど優しく聞こえました。
けれどそれは本当の声ではありません。夢の中だけで聞こえる声です。
まくらは魔女。眠ることを好み、そして多くの時間眠って過ごしてきたまくらは、知らず知らずのうちに夢幻の魔法を身につけていました。
自分が眠って見る夢の中で思い描いたものを、幻として作り出してしまう魔法です。
一人ぼっちでずっと寂しかったまくらが望んでいたのは、ずっと一緒にいてくれる友達でした。
一緒に楽しく遊んでくれて、寂しい思いをさせないでくれるお友達が欲しかったのです。
なのでその語りかけてきた声は、まくら自身が魔法によって作り出した夢の中のお友達です。
「まくらちゃん、一緒に遊ぼうよ」
その子は自分をカルマと名乗りました。
夢の中でまくらが作り出したお友達カルマは、手を取り合っていつもまくらと遊んでくれるようになりました。
まくらが眠るといつも夢の中にはカルマがいて、にっこり笑って優しく抱きしめてくれるのです。
そしてまくらが目を覚ますまで、ずっと一緒に遊んでくれるのです。
夢の中だけのお友達。けれどずっと夢の中にいてくれるお友達。
まくらの願いが形になって生まれたカルマ。まくらの夢の中に住み続けるカルマ。
彼女はまくらの心の写し鏡のような存在でした。
夢の中、心の中に作り出したもう一人の自分。
幼い子供が一人遊びをする時に、自分自身でまるでそこにもう一人誰かがいるかのように振る舞うのと同じこと。
寂しい時間を一人で過ごすしかなかったまくらが作り出したお友達は、まくら自身が演じるもう一人の自分のようなものでした。
自分が魔女だということも、魔法が使えるということも知らないまくらにとって、それは全て無意識によるものでした。
だからまくらは知らないのです。夢の中にいる自分の友達が、自分が魔法によって作り出したもう一人の自分ということを。
それが夢の中だといっても、確かに存在するものだということを。
けれどまくらは寂しくなくなりました。それが一番大切なことだったのです。
それにまだまだ、まくらには知らないことがありました。
カルマはまくらが大好きでした。自分を作り出してお友達にしてくれたまくらのことが大好きでした。
まくらと遊ぶのが大好きで、こんな日々がずっとずっと続けばいいと思っていたのです。
けれど、まくらが森の中で迎えを待っている間、そこに誰も訪れることがなかったというわけではないのです。
同じように帰る場所をなくした魔女や、道に迷った旅人などが森の中を彷徨い、まくらを見つけて手を差し伸べることが何度かありました。
まくらに手を差し伸べ助けてくれる人がいるということは、まくらはもう寂しい思いをしなくていいということです。
まくらが寂しくないということは、寂しかったからこそ生み出されたカルマは用済みになってしまう。そう、カルマは考えました。
嫌でした。捨てられるのは嫌でした。必要とされなくなるのは嫌でした。
ずっとずっとまくらと遊んでいたい。そんな日々が続いて欲しい。
だってまくらと遊んでいる時が一番楽しいのだから。それを奪われたくはなかったのです。
このままでは、まくらの周りに人がいたら、いつかまくらは自分を必要としなくなる。
そう考えたカルマは、ずっとまくらが寂しい思いをしていればいいと考えるようになりました。
まくらの寂しさを癒すのは、自分だけでいいと。
なので、まくらが眠っている時に夢から現実に飛び出して、まくらの周りにいる人たちを殺してしまいました。
カルマは魔法で作られたもう一人のまくら。
夢の中で作られ夢の中で過ごしてきたカルマは、いつしかまくら本人よりも夢と眠りの魔法に長けるようになっていました。
なのでカルマはまくらが眠っている時に限り、現実へと飛び出し人を殺すことができるようになっていたのです。
まくらの側にいるのは自分だけでいい。
まくらの寂しさを紛らわすのは自分だけでいい。
自分の存在を脅かすものは全て排除してしまえばいい。
まくらの写し鏡として作り出されたもう一人の自分。
穏やかで弱気なまくらとは対照的に、カルマは過激で自己主張の強い存在でした。
はじめは邪魔者を排除するために殺していました。
もちろん今だって基本的な目的は変わりません。
けれどまくらと一緒に眠っているその人たちを一方的に殺していくうちに、カルマは人を殺すことに楽しみを覚えるようになってしまいました。
自分の存在を脅かす人を殺していたはずのなのに、いつしかその殺すという行為そのものも楽しみとなっていたのです。
けれどやっぱり一番楽しいのはまくらと遊んでいる時なのです。
だからカルマはいつも早々に殺しを片付けて、すぐさま何も知らないまくらと遊びました。
そんな日々がずっと続きました。
何年も続きました。夢の中でまくらとカルマは遊び、まくらに近寄るものがいれば眠っている間に殺す。
ついでに魔法で食べ物を集めておいて、まくらは目を覚ますと近くにあったもの食べていました。
そんな日々は、とある魔法使いがやってくるまで続いたのです。
カノンと名乗る魔法使いが森を訪れた時、まくらは眠っていました。
なのでその存在に気が付いたのはカルマでした。
カルマは少し前に、森に住まう人殺しの魔女、という噂を耳にしてやってきたワルプルギスの魔女に会ったことがありました。
とんがり帽子を被ってマントで身を包んだ魔女でした。
そこでカルマは色々な知識を得たのです。まくらは魔女のことすら知らない無知の少女だったので、多くのことはそのワルプルギスの魔女から聞きました。
そしてカルマはワルプルギスに入ることに決めました。そうすればもっと人を殺せると思ったからです。
なのでカルマは、魔法使いが自分の敵であるということを知っていました。
でも既にその魔法使いは死にかけで、殺しても楽しそうではありませんでした。
なのでカルマは無邪気そうなフリをして、その傷を治してあげることにしました。
死にかけの魔法使いを死なないギリギリまで治す。
その程度なら自分に襲いかかるほどの体力は戻らず、けれど少しは殺しがいがあるだろうと、そう踏んでのことです。
しかしカルマにとって計算外のことが起きました。
それはその魔法使いがまくらを守ろうとしたこと。そして魔法使いと魔女である自分の実力の差でした。
結局カルマは一度でその魔法使いを殺すことはできず、まくらは自分に寄り添ってくれる人を見つけてしまったのです。
けれどカルマはあくまでポジティブに、何度でも殺しにかかれると考えて、まくらが眠る度に襲いかかりました。
まくらを慈しむ彼女を欺くため、体は動かさずに、魔法で声を空から降らせて語りかけ、暗闇から攻撃を飛ばす戦い方をしました。
まくらがカノンに懐くほど、日に日に自分の存在が薄れていきます。
その恐怖と戦いながら、けれど殺しにかかっても決して死ぬことのないカノンとの殺し合いを、楽しいとも感じてまいした。
けれど、やっぱりどうしても、まくらには自分だけを必要として欲しかったのです。
他の誰かではなく、自分だけと遊んで欲しかったのです。
だからカルマは決めたのです。もう終わりにしようと。
殺し合いは楽しいけれど、一番楽しいのはまくらと遊ぶことだから。
カノンの心も体も殺し尽くして、またあの二人だけの日々に戻ろうと。
カルマはそう、決めたのです。
そしてその気持ちを、その全てをまくらは何も知らないのです。
自分が生み出したもう一人の自分。常に側にいて寂しさを癒してくれた友達。
一番近いはずなのに、一番遠いところにいた存在。
まくらは何も、知らないのです。
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