普通のJK、実は異世界最強のお姫様でした〜みんなが私を殺したいくらい大好きすぎる〜

セカイ

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第3章 オード・トゥ・フレンドシップ

57 落雷

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「え? なに? なんなの? なんなのかな? 意味わかんない意味わかんないもー意味わかんない!!!」

 金切り声を上げるカルマちゃん。
 ぐしゃぐしゃと頭を掻きむしって喚き散らしていた。

「あーーもーーテンションただ下がりだよぉ。カルマちゃんやる気無くすなぁ。カッコつけちゃってさ。そのままポッキリ折れちゃってれば楽だったのに」

 今度はダラリと脱力して呻くカルマちゃん。
 感情の起伏があまりにも激しい。

「せっかくずっと頑張ってサプライズ仕掛けたのにさ、そんな簡単にヤル気出されちゃたまんないよ、カルマちゃん的にはさ。まぁもういいや。カノンちゃんはもうつまんないしさ、サクッと殺してそれでおしまいにしよ」

 二つの鎌がカルマちゃんの両脇で宙に浮かんで、ゆっくりクルクル回る。
 死神が持つような命を刈り取るその鎌は、とても不気味で不吉だった。

「二人まとめて、カルマちゃんが殺してあげる。安心して? すぐにお姫様も送ってあげるからっ!」
「来るぞ霰!」

 私に向けられた時と同じように、二つの鎌は高速に回転して二人目掛けて弧を描いて放たれた。
 二人に対してそれぞれ放たれる鎌。カノンさんはそれを木刀で弾き飛ばして、氷室さんは氷の壁を張って軽々と防いだ。

 けれど弾かれた鎌たちは空中で軌道を戻して再び二人に襲いかかる。
 何度弾かれ、何度防がれようと、鎌はまるでそれに意思があるかのように何度も何度も二人に対して襲いかかった。

「くそっ……! これじゃキリがねぇぞ!」
「退がって」

 繰り返し迫る鎌にカノンさんが息を荒らげて言った時、氷室さんが一歩前に身を乗り出した。
 二つの鎌が氷室さんを挟み込むように回転しながら迫る。
 けれど氷室さんは冷静にその側につけてそれぞれ手を向けた。

 そして、鎌が氷室さんを両断さんと眼前まで迫った瞬間、氷室さんの目の前だけが冷却された。
 その一定空間だけが凍らされて、そこに到達していた鎌も巻き込まれるように凍てついた。
 勢いも破壊力も、その全てを圧倒する凍結という停止だった。
 突如現れた氷の塊に鎌は埋もれ、完全に氷漬けとなっていた。

「ナイスだ!」

 その脇からカノンさんが飛び出す。狙いは一直線にカルマちゃん。
 武器である鎌を失った隙を狙って特攻する。
 魔法で加速させた高速の移動であっという間にその距離を詰め、容赦なく木刀を振るった。

「もーカノンちゃんは容赦ないなぁ~」

 けれどカルマちゃんはそれをひょいとかわす。
 カノンさんによる木刀の追撃も、その身のこなしだけで軽やかに逃れていく。

「この身体はまくらちゃんのものだよ? そんな乱暴なもので叩いから可哀想だと思わないの?」
「そ、それは……!」
「はーい隙あり~!」

 まくらちゃんの名前を出されてカノンさんが怯んだその一瞬の隙間に、カルマちゃんのマントの陰から新しい鎌が飛び出した。
 咄嗟にそれを木刀で受け止めるカノンさんだったけれど、不意打ちの攻撃に少し後退した。

「……私は容赦しない」

 けれどその穴を埋めるように氷室さんが飛び込んだ。
 カノンさんに意識を向けていたカルマちゃんは氷室さんの強襲に対応できず、氷室さんが横から放った氷のハンマーの一撃をまともに受けて吹き飛んだ。

「ひっどいな~。あなたもまくらちゃんのお友達なんじゃないの?」
「それとこれとは、別」
「うわ~つめたーい」

 冷静に告げた氷室さんの言葉に、カルマちゃんはあっけらかんと答えた。
 重い一撃が入ったようだったけれど、カルマちゃんは平然と立ち上がる。

「すまねぇ霰」
「今の彼女は敵。手を緩めていたら敵わない」
「……ああ、お前の言う通りだ」

 カノンさんは項垂れた。
 確かに氷室さんの言うことは正しい。冷静に考えればそれが正しい。
 でもカノンさんにとってそれは、なかなか簡単に折り合いをつけられない問題でもある。

 確かに今表面に出てきているのは敵であるカルマちゃんだけれど、その身体の本来の持ち主はまくらちゃんなんだから。
 カルマちゃんを攻撃するということは、即ちまくらちゃんを攻撃することに繋がってしまう。
 カノンさんには大分酷なことだ。

「んふふ。いいよいいよ。迷って迷ってーん。迷ってる間にカルマちゃんが殺してあげるからっ!」
「くそ……!」

 苦々しい表情を浮かべながら、カノンさんは木刀を構え直す。
 迷いたくても迷っている暇なんてない。
 まくらちゃんを助けるためには、カルマちゃんを倒すしかないんだ。

「さてと、そんじゃ私たちも始めるとする?」

 そんな中、私の傍でふわふわと浮かんでいたアゲハさんが気軽にそう言った。

「え……?」
「え? じゃないでしょ? メインは私たちでしょーが。あっちはおまけ。そもそも私がアンタに用あったわけだしね」

 そうだった。カルマちゃんのことに気を取られて忘れていた。
 アゲハさんの目的は私から強引に力を引き出すこと。
 あっちの戦いを待つ道理なんてないし、むしろ私が一人になっていた方が好都合なんだ。

「そんな怯えた目しないでよ~。ぞくぞくしちゃうじゃん」

 私を見下ろすアゲハさんは恍惚の笑みを浮かべた。
 でも、そうだ。怯えていたって始まらない。
 二人は今カルマちゃんと戦っているんだ。私も自分の身くらい自分で守らないと。
 私ではアゲハさんを倒すことはできないだろうけど、何とか自分の命くらい繋ぎ止めないと。

 私は意を決して立ち上がり、宙に浮かぶアゲハさんを見上げた。
 そんな私をアゲハさんは嬉しそうに見下ろす。

「いいよいいよその調子。ただただ私が一方的に虐めても、それじゃあ意味ないもんね」

 ただただ楽しそうに。結局これもアゲハさんにとっては退屈凌ぎに過ぎないのかもしれない。
 待機に飽きて、動きのない状況に退屈して、それで何かしたくなっただけなのかもしれない。

 でも、そんな理由で私の平穏を脅かされたんじゃたまったものじゃない。
 私はここで、今までと変わらない日常を過ごしていたいんだから。
 大好きな友達と一緒に、掛け替えのない平和な日々を。

「それじゃ、簡単にへこたれないでね? 私、手加減って苦手だからさ」

 サファイアブルーの蝶の羽を大きく広げて、アゲハさんが今まさに私に攻撃を仕掛けようとした、その瞬間だった。

「んぎゃーーーーーーーー!!!」

 なんとも間抜けな悲鳴と共に、私とアゲハさんの間に雷が落ちた。
 どこからともなく落下した雷。けれどそれは普通の落雷ではなくて、どこか遠くから放たれた電撃のようだった。

 唐突な落雷の閃光に一瞬視界を奪われる。
 けれど、それはすぐに収まって、雷が落ちた所、私たちの間にあるものが見て取れた。

「ったくいきなり何すんのよ! 人が気持ちよく寝たってのに! 死ぬかと思ったじゃない!」

 そこには、地面に間抜けな格好でひっくり返っていた千鳥ちゃんがいた。
 どこかから不意に突き落とされたみたいな格好で、一人文句を喚き散らしながら起き上がっている。

「千鳥、ちゃん……?」
「……? あれ、アリス。アンタなんでこんな所に……」

 突然現れた金髪ツインテールの友達に私が思わず声をかけると、こっちの存在に気付いていなかったようで素っ頓狂な声を上げた。

「……もしかして夜子さんめ、私にアリスの手伝いをしろってことじゃ────」
「あっれー? 誰かと思ったらクイナじゃ~ん。アンタこんな所にいたんだ~」

 嫌な予感とばかりに千鳥ちゃんが顔を引きつらせた時、アゲハさんが声高々にそう言った。
 その声にすぐさま振り返った千鳥ちゃんは、アゲハさんのことを見つめ、この世の終わりのような顔をした。

「急にいなくなったから心配してたんだぞ~。私の可愛い妹ちゃん」
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