普通のJK、実は異世界最強のお姫様でした〜みんなが私を殺したいくらい大好きすぎる〜

セカイ

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第3章 オード・トゥ・フレンドシップ

61 氷の彫像

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 大量の氷柱が一点集中で地面に突き刺さっている。
 あの下敷きになっているであろうアゲハさんが無事だとはとても思えない。
 けれどアゲハさんは無敵かと思うほどに攻撃が通用しない。
 だから全く油断できなかった。

「……あなたは花園さんを」

 私を放した氷室さんは千鳥ちゃんに淡々と言った。
 自分はアゲハさんと戦うと前に乗り出す。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! アンタ本気でアイツと戦う気!? アイツはなのよ!? アンタも魔女ならそれくらいわかるでしょ!」
「……私は引けない」

 慌てて氷室さんの腕を掴む千鳥ちゃん。
 けれど氷室さんは動じることなく静かに答えた。

「どう考えても勝ち目ないわよ?」
「……問題ない。私には、花園さんが付いている」

 そっと胸に手を当てて、私に目を向けて薄く微笑む氷室さん。
 私たちは、私たちの心は繋がっている。私の存在が氷室さんの力になる。
 信じてる。だから、私は頷いた。

「……ったく、しょーがないわね。だったら、私も付き合ってあげるわよ」
「…………?」
「勘違いしないでよね! 私は自分のために戦うんだから! こんな所で死んじゃったら、何のためにこっちまで逃げてきたのかわからないじゃない」
「……別に、退がって花園さんの側にいてくれれば……」
「た、戦うって言ってんでしょ! それにアイツとは無関係じゃないし、アンタ一人に任せるわけにはいかないわ」

 キョトンとする氷室さんに、千鳥ちゃんはわーわーと喚いた。
 その手は震えている。怖いんだ。怖くないはずないんだ。
 千鳥ちゃんはアゲハさんを一目見た瞬間に逃げようとしたんだもん。

 それでも私たちを置いて一人で逃げようとはしない。私たちを見捨てるようなことはしない。
 自分が一番可愛いんだと言いながら、それでも私たちに最大限力を貸そうとしてくれている。

「あの、さ。一応確認しておくけど、私たち、友達でいいのよね?」

 恐る恐る、私の方を見ながら、けれど言葉にするのが恥ずかしいのか少し視線を外しながら。私に尋ねる千鳥ちゃん。

「もちろん。 とっくの昔に友達だよ」

 自信なさそうに尋ねてきた千鳥ちゃんに、私は自信満々に答えた。
 それを聞いた千鳥ちゃんは照れくさかったのか、ぷいと私に背を向けてしまった。自分から聞いてきたのに。

「な、なら、仕方ないわね。私だけ戦わないわけにもいかないし、仕方ないから、アンタのこと守ってあげる」

 こっちの顔は見ずに、けれど確かに私に向けて千鳥ちゃんは言った。
 その背中は弱々しいけれど、けれどその意思はたしかに伝わってきた。

「うん、ありがとう千鳥ちゃん。信じてる」

 臆病で保身的な千鳥ちゃん。そんな千鳥ちゃんが私のために戦ってくれると言っている。
 頼りにならないわけがない。信じないわけがない。
 守られてばかりの私だけれど、私という存在が少しでも力になれば。

 氷柱で埋め尽くされていた内側から、大きな蝶の羽が勢いよく飛び出してきた。
 さっき氷室さんによって貫かれていたはずなのに、それには一切の傷はなかった。

 飛び出した羽が大きく羽ばたくと、埋め尽くされていた氷柱の塊が吹き飛ばされた。
 そしてその中心からは、全くの無傷のアゲハさんが立ち上がる。
 全身ズタズタになっていてもおかしくないのに、まるで何事もなかったかのようにその姿は綺麗だ。

「いいねいいねアンタたち。これくらいしてくれないと面白くないよ」

 アゲハさんはニカっと笑う。
 まるで健全なスポーツに興じているみたいだった。
 スポーツマンシップに則ってしのぎを削り合っている相手を称えているような、そんな気軽さ。

「まさかアンタに一杯食わされるとはね、クイナ。アンタもちょっとは成長してんのかな?」
「うっさい! それにもう私はクイナじゃない。私は、千鳥よ!」

 千鳥ちゃんは震える手をぎゅっと握りしめて強く叫んだ。
 その姿にアゲハさんは目を丸くしてから、嬉しそうに微笑んだ。

「オッケーオッケー。じゃあ盛り上がってきたことだし、私ももう少し本気出すことにするよ。だからさ、あんまり簡単に死なないでよ?」

 その言葉と同時に蝶の羽が煌めいた。大きく広げられたサファイアブルーの蝶の羽。
 その模様はまるで瞳のようにも見えて、煌めく光も相まって、まるで生きているかのようだった。
 そしてその瞳のような模様の部分から、眩い光線のようなものが放たれた。

 千鳥ちゃんは大きく飛び跳ねてそれを避け、氷室さんは氷の壁を幾重にも張ってそれを防いだ。
 そして私の周りの障壁を張って、そっと私に目配せをしてからアゲハさんの元へと飛び込んでいく。

 蝶の羽からは絶え間なく光線が放たれる。
 まるでアニメのバトルシーンを見ているかのようだった。
 アゲハさんの羽から放たれる光線を辛うじて避ける二人。二人を捉えられなかった光線は地面や周囲を削り取っていく。

 放たれ続ける光線の隙間を縫うようにして氷室さんが懐に入る。
 その手には氷の剣が握られていて、至近距離から素早く斬りかかった。
 しかしアゲハさんの反応速度は凄まじく、氷の剣の刃がその身に届く前に手を伸ばし、剣を握る氷室さんの手首を掴んだ。

「遅すぎるぞ~」

 ニカっと気さくに笑ったかと思うと、空いた手を氷室さんの顔面にかざした。
 その手のひらには羽から放たれているものと同じ、光線のエネルギーが収縮していた。
 手首を掴まれて逃げ場のない氷室さんにゼロ距離の光線が放たれる、まさにその時。

 氷室さんに気をとられていたアゲハさんの背中に千鳥ちゃんが突撃した。
 電気をその身にまとったタックル。不意を突かれたアゲハさんは、氷室さんから手を放して態勢を崩した。
 そしてそれに追い打ちをかけるように千鳥ちゃんが手を向けると、何本もの稲妻がアゲハさん目掛けて落ちた。

「クイナァ!」
「千鳥だって言ってんでしょうが!」

 雷を振り払って声をあげるアゲハさんに、千鳥ちゃんは再度電撃を放つ。
 そしてそれに合わせて氷室さんも吹雪のような強烈な冷気を放った。

 触れるものを瞬時に凍らせる冷気。それはまるで迸る電撃諸共凍らせるかのように、瞬時に周囲の熱を奪った。
 アゲハさんの羽がパキパキと乾いた音を立てながら凍てついていき、その手足も徐々に自由を奪われていった。
 必死に何らかの抵抗をしようとしているアゲハさんだったけれど、魔法による抵抗のことごとくを千鳥ちゃんの電撃に阻まれる。

「何よこれ! 何で私が……! ああもう! 煩わしい!」

 身体の至る所が徐々に凍りついていき、幾度となく放てれる電撃がアゲハさんの意識を散らす。

「私が魔法で競り負けるわけ……! これが『お姫様』の力だっていうわけ!?」

 アゲハさんは一人喚く。憎々しげに氷室さんを睨むけれど、氷室さんは何も答えない。
 ただ強く、その冷気をもってアゲハさんを凍らせる。
 どんなに攻撃をしても、まるで効いていないみたいに無傷を貫くアゲハさん。
 けれど圧倒的冷気でその全身を凍らせられてはなす術もないのかもしれない。
 氷室さん一人が相手ならまだしも、千鳥ちゃんの絶え間ない攻撃に反撃や脱出の機会を阻まれている。

「私は……私がアンタたちなんかに負けたりなんか────!」

 最後は少し呆気なかった。
 叫びは途切れ、残ったのは氷の彫像のようになったアゲハさんの姿だけ。
 激しい戦いが嘘だったかのように、そこには静寂が広がった。
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