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第4章 死が二人を分断つとも
18 赤裸々
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二人で一緒に湯船に浸かる。
普通の一般家庭用の湯船だからそんなに大きくはないんだけれど、女の子二人で脚を曲げて向かい合えば入れないこともない。
水面の境が、晴香の丸い輪郭をなぞっている。
特に胸元の曲線をゆらゆらと描いている様は、羨望の眼差しを向けずにはいられなかった。
お湯に浸かっているだけなのに、この色気の差はいかがなものか。
「ねぇアリス、そっち行ってもいい?」
しばらくたわいもないお喋りをしていたら、晴香が不意にそう言った。
その意味するところがいまいちわからなかったけど、取り敢えずうんと頷いてみると、晴香はニコッと笑っておもむろに立ち上がった。
特に何を隠すこともなく、浴槽の縁に手をついて屈み気味に立ち上がるものだから、支えるものも遮るものもない胸が重力に伴って下を向いた。
それと共に見える無駄のない腰回りと、そこからなる大きすぎないお尻回り。そしてその先にはもちっと引き締まった太腿の隙間の奥が────
これはある種の暴力だ。
「よいしょっと」
私が幼馴染の裸体をまじまじと観察している間に、晴香はこちらに背を向けて、私の脚の間に挟まるように腰を落としてきた。
そういうことかと慌てて脚を広げて伸ばすと、狭い浴槽の中の狭い脚の間に晴香はすっぽりと収まって、その背中を私に預けてきた。
仕方ないから腕を回してやんわりと抱きしめてあげる。
もちもちとした感触とお湯の感触が相まって、晴香の抱き心地はだいぶ良かった。
ふわふわでとろとろだ。肌に吸い付くような感触を堪能するように、私は腕に少し力を入れて晴香の肩に顎を乗せた。
「…………」
しばらくは無言が続いた。
別に気まずさがあるわけでも恥じらいがあるわけでもない。
なんとなく、こうやって身を寄せ合ってそれに浸りたいと思っただけ。
晴香もきっと同じように思っているに違いなかった。
結局、ここまで晴香は特に話をしてこなかったな。
私に話があるはずなのに、切り出してくる気配がない。
私から聞いてもいいんだけれど、でもきっと晴香のペースの方がいいだろうし。
こういうのって難しい。気心知れた仲だけれど、でもやっぱりこういう時は気を使う。
今日はお泊まりだし、まだまだ話す機会はある。
晴香のタイミングで自分から話をしてくるまで待ってあげるのが一番かな。
今は、この呑気なひと時を楽しんでいればいいのかもしれない。
「ねぇアリス」
けれど、そんな私の気持ちを読んでいたかのように、晴香はいつもよりも少し暗めのトーンで口を開いた。
晴香のお腹の辺りで組む私の手に、そっと自らの手を乗せて。
肩に顎を預けたまま晴香の横顔を覗いてみれば、その面持ちには迷いが見えた。
「アリスに、話したいことがあるんだ」
「どうしたの? 何でも言ってごらん?」
眉を寄せておっかなびっくり口を動かす晴香に、私はわざと明るめに返した。
お風呂のせいで少し赤みが増した頰に反して、その瞳は弱々しかった。
「でも、アリス怒るかなって思って」
「え? 怒らないよ。多分」
「多分って、頼りないなぁ」
「だってまだ聞いてないもん。それとも、そんなに私を怒らせそうなことを告白するつもり?」
晴香は眉を寄せて困ったように笑う。
私は努めておどけて見せて、なるべく晴香が話しやすいように促した。
こうして裸の付き合いをしている時っていうのは色々話しやすくなるものだし、まさに赤裸々トークに持ってこいだ。
迷っているなら尚更、この機会を逃したらますます話しにくくなってしまう。
「うーん。多分怒るかなぁ。何でもっと早く言わなかったのって」
「そういう感じ? じゃあ先に怒っとく。何でもっと早く言わなかったの!?」
「ちょっとなにそれー」
ぎゅっと腕でその体を締め付けて語気を強めて言ってみると、晴香はケラケラと笑った。
それにつられて私も声を出して笑う。
「ほれほれ、早く言って楽になっちゃいなよ。何でも聞くよ?」
「うん。そうだね……」
ひとしきり笑ってから私が改めて促すと、晴香は静かに頷いた。
私の両手に被さるように手を重ねて、指を絡めてぎゅっと握ってくる。
その手は確実に震えていた。私の手を握っていても、その震えは収まっていない。
私は顎を乗せたまま晴香の顔に改めて目を向けた。
その表情には不安の色が差している。
赤く火照っていた頰からは赤みが抜け、どこか白みがかっている。
ぷくっとした唇をゆるく噛み締めた口元は、微かに戦慄いていた。
私は抱きしめることしか出来なくて、ただただその腕に力を込めた。
私の手を覆うその手の指の絡まりをしっかりと捕らえながら、それでいて晴香の身体を強く包む。
今は、これしか出来なかった。
少しの間迷うように口をパクパクさせて、けれど意を決したのかその瞳の揺れは止まった。
「アリス、私ね────」
ぴちゃんと水滴の垂れる小さな音以外ここにはない。
弱々しくも意思を固めた晴香の声だけが、この狭い浴室に響いた。
「私多分……近いうちに、死んじゃうんだ」
普通の一般家庭用の湯船だからそんなに大きくはないんだけれど、女の子二人で脚を曲げて向かい合えば入れないこともない。
水面の境が、晴香の丸い輪郭をなぞっている。
特に胸元の曲線をゆらゆらと描いている様は、羨望の眼差しを向けずにはいられなかった。
お湯に浸かっているだけなのに、この色気の差はいかがなものか。
「ねぇアリス、そっち行ってもいい?」
しばらくたわいもないお喋りをしていたら、晴香が不意にそう言った。
その意味するところがいまいちわからなかったけど、取り敢えずうんと頷いてみると、晴香はニコッと笑っておもむろに立ち上がった。
特に何を隠すこともなく、浴槽の縁に手をついて屈み気味に立ち上がるものだから、支えるものも遮るものもない胸が重力に伴って下を向いた。
それと共に見える無駄のない腰回りと、そこからなる大きすぎないお尻回り。そしてその先にはもちっと引き締まった太腿の隙間の奥が────
これはある種の暴力だ。
「よいしょっと」
私が幼馴染の裸体をまじまじと観察している間に、晴香はこちらに背を向けて、私の脚の間に挟まるように腰を落としてきた。
そういうことかと慌てて脚を広げて伸ばすと、狭い浴槽の中の狭い脚の間に晴香はすっぽりと収まって、その背中を私に預けてきた。
仕方ないから腕を回してやんわりと抱きしめてあげる。
もちもちとした感触とお湯の感触が相まって、晴香の抱き心地はだいぶ良かった。
ふわふわでとろとろだ。肌に吸い付くような感触を堪能するように、私は腕に少し力を入れて晴香の肩に顎を乗せた。
「…………」
しばらくは無言が続いた。
別に気まずさがあるわけでも恥じらいがあるわけでもない。
なんとなく、こうやって身を寄せ合ってそれに浸りたいと思っただけ。
晴香もきっと同じように思っているに違いなかった。
結局、ここまで晴香は特に話をしてこなかったな。
私に話があるはずなのに、切り出してくる気配がない。
私から聞いてもいいんだけれど、でもきっと晴香のペースの方がいいだろうし。
こういうのって難しい。気心知れた仲だけれど、でもやっぱりこういう時は気を使う。
今日はお泊まりだし、まだまだ話す機会はある。
晴香のタイミングで自分から話をしてくるまで待ってあげるのが一番かな。
今は、この呑気なひと時を楽しんでいればいいのかもしれない。
「ねぇアリス」
けれど、そんな私の気持ちを読んでいたかのように、晴香はいつもよりも少し暗めのトーンで口を開いた。
晴香のお腹の辺りで組む私の手に、そっと自らの手を乗せて。
肩に顎を預けたまま晴香の横顔を覗いてみれば、その面持ちには迷いが見えた。
「アリスに、話したいことがあるんだ」
「どうしたの? 何でも言ってごらん?」
眉を寄せておっかなびっくり口を動かす晴香に、私はわざと明るめに返した。
お風呂のせいで少し赤みが増した頰に反して、その瞳は弱々しかった。
「でも、アリス怒るかなって思って」
「え? 怒らないよ。多分」
「多分って、頼りないなぁ」
「だってまだ聞いてないもん。それとも、そんなに私を怒らせそうなことを告白するつもり?」
晴香は眉を寄せて困ったように笑う。
私は努めておどけて見せて、なるべく晴香が話しやすいように促した。
こうして裸の付き合いをしている時っていうのは色々話しやすくなるものだし、まさに赤裸々トークに持ってこいだ。
迷っているなら尚更、この機会を逃したらますます話しにくくなってしまう。
「うーん。多分怒るかなぁ。何でもっと早く言わなかったのって」
「そういう感じ? じゃあ先に怒っとく。何でもっと早く言わなかったの!?」
「ちょっとなにそれー」
ぎゅっと腕でその体を締め付けて語気を強めて言ってみると、晴香はケラケラと笑った。
それにつられて私も声を出して笑う。
「ほれほれ、早く言って楽になっちゃいなよ。何でも聞くよ?」
「うん。そうだね……」
ひとしきり笑ってから私が改めて促すと、晴香は静かに頷いた。
私の両手に被さるように手を重ねて、指を絡めてぎゅっと握ってくる。
その手は確実に震えていた。私の手を握っていても、その震えは収まっていない。
私は顎を乗せたまま晴香の顔に改めて目を向けた。
その表情には不安の色が差している。
赤く火照っていた頰からは赤みが抜け、どこか白みがかっている。
ぷくっとした唇をゆるく噛み締めた口元は、微かに戦慄いていた。
私は抱きしめることしか出来なくて、ただただその腕に力を込めた。
私の手を覆うその手の指の絡まりをしっかりと捕らえながら、それでいて晴香の身体を強く包む。
今は、これしか出来なかった。
少しの間迷うように口をパクパクさせて、けれど意を決したのかその瞳の揺れは止まった。
「アリス、私ね────」
ぴちゃんと水滴の垂れる小さな音以外ここにはない。
弱々しくも意思を固めた晴香の声だけが、この狭い浴室に響いた。
「私多分……近いうちに、死んじゃうんだ」
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