普通のJK、実は異世界最強のお姫様でした〜みんなが私を殺したいくらい大好きすぎる〜

セカイ

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第4章 死が二人を分断つとも

52 海よりも深い愛

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 雨宮あめみや 晴香はるかという少女にとって、幼馴染は生きがいでした。
 アリスと創という二人の幼馴染。幼少からの親友は、彼女の生きる糧でした。
 二人と過ごす時間が何よりも大好きで、二人が笑うのが何よりも嬉しいと彼女は思うのです。
 そしてとりわけ同性のアリスに対しては、その思い入れはより深いものでした。

 晴香は一般的に、誰にでも思いやりがある優しい女の子だと思われていました。
 もちろんそれは間違いではありません。
 彼女は生来、他人を思いやることのできる豊かな心を持つ女の子です。
 けれど誰にでもそれができると言うことは誰にでも平等ということで、それはつまり特別が存在しないということ。
 晴香はそうではありません。

 晴香にとっての特別は、幼馴染であるアリスと創。
 彼女が持つ本来の優しさや思いやりは二人に向けて発揮されるものであり、他の人に向けられるそれは飽くまでほんの触りに過ぎないのです。

 晴香は親愛なる幼馴染に、溢れんばかりの愛を注ぐ女の子でした。
 常に慈しみ思いやり世話を焼く。
 二人に寄り添い続けることが晴香にとっての愛であり、それが彼女の幸せでした。
 大切な幼馴染が幸せに生きているということに、心からの幸福を感じることができる女の子でした。

 二人が幸せならば、楽しいのならば、喜んでくれるのならば、晴香はそれで満足だったのです。
 時には疎ましく思われるような世話を焼くこともあったでしょう。
 時にはそれとなく窘める時もあったでしょう。
 でもそれは、全て二人の幸福を思えばこそであり、それこそが彼女の幸福だったのです。

 晴香は二人の幸せのためならば何でもできる。
 それは、五年前の夏のあの時も同じでした。

「私に、その役目を任せてください」

 五年前の夏の夜。まだ小学六年生で十一歳の晴香は、一瞬の迷いもなく言いました。
 自身にホーリーと名乗ったその女性にまっすぐと向いて。

 そこは晴香の家の晴香の部屋。
 自室でくつろいでいた晴香の元に、いきなり白いローブをまとった女性が現れて、アリスにまつわる突拍子も無い話を彼女に聞かせたのでした。
 はじめは戸惑いと疑いの気持ちで聞いていた晴香でしたが、ホーリーの切迫した表情から、それは紛れも無い真実だと読み取りました。
 それに第一、がそんな嘘をつくとは思えなかったのです。

「でもね、晴香ちゃん。私が勝手に話した手前こう言うのもなんだけれど、あなたが背負う必要はないことよ。この役目を受けてくれるということは、あなたは遠く無い未来死んでしまう。そんなリスク、あなたが背負う必要なんて……」
「でも、私にしかできないから、こうやって話したんですよね?」

 幼い子供に理屈を突きつけられて、ホーリーは眉を寄せました。
 そうなのです。鍵を守るための条件を満たすのは、もう晴香しかいないとホーリーは考えていました。
 だからこそ無理を押して全てを話したのです。
 しかし同時に深い罪悪感に駆られた彼女は、それを拒否して欲しいとも思っていました。

 アリスの記憶と力を封じている鍵を隠し守るため。
 一人を守るために一人に死ねと言っている、自分の残酷さと理不尽さをよく理解していたからです。
 鍵を守るのも永遠の話ではありません。アリスの心がそれを受け入れるまでに成長した時には、それは解放され還らなければならないのですから。
 それがつつがなく行われるためには、アリスが成長するまでの間だけ守ることができる、数年で朽ちる魔女が必要だったのです。
 つまり、それは晴香に数年のうちに死ねと言っていることと同じなのです。

 そしてそれを全て理解した上で、この幼い少女はその役目を担いたいと言うのです。

「それでアリスが救われるのなら、アリスが幸せになれるのなら、私は喜んでその役目を引き受けます」

 それは、まだ十年と少しの時間しか生きていない子供の言葉とは思えませんでした。
 しかし晴香の目には確かに、アリスのことを想う気持ちが込められていました。

「けれど、これは賭けのようなものなのよ。もし最適の時まで鍵を守り通すことができて、万事つつがなく彼女が全てを受け入れることができたとしても、その先が上手くいくとは限らないの。そうしたら、晴香ちゃんの頑張りは無駄になってしまうかもしれない」
「でも、今私がそれを守らないと先に進まないんですよね? だったら、私はやりますよ」

 理不尽な提案と要求をしたホーリーよりも、限りある死を受け入れようとしている晴香の方がよっぽど迷いがありませんでした。
 大の大人と年端もいかない少女。その立場は、滑稽なほどに逆転していたのです。

「どうしてそこまでできるの? あなたにメリットなんてないのに」

 ホーリーが尋ねると、晴香はニコッと微笑んで答えました。

「メリットはあります。私がそうすることでアリスが幸せになれるのなら、私にとってそれ以上のことなんてないんです。アリスの幸せが、私の幸せですから」

 ホーリーはその言葉に返す言葉が浮かびませんでした。反論も否定も、できませんでした。
 元々晴香しかいないと思っていた彼女は、もう晴香のその言葉に甘える以外の選択はできなかったのです。
 年端もいかない少女に、自ら死を選ばせることに並々ならぬ罪悪感を覚えながら、けれどより大切に想うもののために、ホーリーは一人の少女を犠牲にすることを選んだのです。
 そして晴香はそれを、一片の曇りもない覚悟で受け入れたのでした。

 それは献身でもなく、自己犠牲でもなく、純然たる愛情ゆえの選択でした。
 それは思いやりや正義感などといったわかりやすい動機ではなく、自分よりもアリスのことを大事に思ってしまう衝動的な感情だったのです。
 それは幼馴染を、アリスを想う並々ならぬ愛ゆえの選択でした。

 晴香に迷いはなく、そして後悔もありませんでした。
 心の底から、アリスの幸せを願っていたのです。
 アリスと一緒にいたいと思う自身の感情よりも、アリスが救われる未来を大切に思ったのです。

 それに何より、、と思った矢先にそんな話を聞かされては、守ってあげたいと思わないわけがなかったのです。
 もうアリスを失いたくないと、平穏な日々を過ごして欲しいと、そう思わないわけがなかったのです。
 そのためならば、何だってすると思わないわけがなかったのです。

 その心は海よりも深い愛に満ちていて、いつまでもアリスの心に寄り添うのです。
 雨宮 晴香が選んぶ道は、常に二人の幼馴染の希望が輝く道なのです。
 そしてその傍にいることこそが、彼女の幸せなのでした。



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