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幕間 疑心暗鬼
1 裏切り
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────────────
「只今戻りました」
ラブホテル『わんだ~らんど』のパーティールーム。ワルプルギスの魔女三人組の拠点。
厳かな足取りで戸を潜ったクロアは、律儀に帰還の言葉を述べた。
畳まれた黒い日傘を戸口に立て掛け、足取り軽く部屋へと上がる。
その表情は穏やかで、そしてどこか浮かれているように華やかだった。
目的はほぼ予定通り達成し、事態は着々と進行している。
姫君たるアリスの封印を解く日は目前に迫っている。
愛しき姫君の成長を促すことに成功したクロアは上機嫌だった。
「ん、おかえりー」
ルンルンと軽やかな足取りで部屋に入ったクロアを出迎えたのはアゲハだった。
身にまとうのは黒いヒラヒラのショーツ一枚のみというトップレスの状態で、大きなピンクのベッドにうつ伏せで寝転んでいた彼女は、少し気だるそうに首を動かして適当に言葉をこぼした。
透き通るような肌は暗めの照明の中でも白く光り、対照的なショーツを一際目立たせていた。
ベッドに寝転んでいたからか、短いプラチナブロンドの髪は少し乱れている。
「あらアゲハさん。レイさんはどちらへ」
「ちょっと前にどっか出かけたぁー」
クロアの問いにアゲハはおざなりに答え、寝返りを打って仰向けになった。
大きな膨らみを持つ胸部が何の恥じらいもなく晒され、質量を持ったそれは重力に従って左右に開くように偏った。
そんなあられもない姿を惜しみなく晒すアゲハに、クロアは眉をひそめた。
「何という格好をしているのですか、アゲハさん。もう少し恥じらいを持ってはいかがですか?」
「えー別に良くない? ここって本来、そーゆーことするトコでしょ?」
「そういう問題ではありませんよ。それとも、お楽しみの最中でしたか?」
「いやー? 別にそういう気分でもないけどさ。だって楽なんだもーん」
呆れて溜息をつきながら皮肉を言うクロアに、アゲハは更に体を伸ばして呑気に答えた。
僅かな動きにも、豊かに実った膨らみは敏感に揺れる。
まるで、その細身の体とは別に独立して存在しているかのように流動的だ。
それでもハリのある肌と肉は、その形をあまり崩すことなく存在感を放っている。
「てかさぁ。私よりクロアの方がお楽しみだったんじゃないのぉ?」
「わたくしですか? わたくしは別に何も……」
「随分好き放題やってたみたいじゃーん。私知ってんだからっ」
寝転んだままニヤリと意地の悪い笑みを浮かべてくるアゲハに、クロアは純粋に嫌悪感を抱いた。
子供が他人の弱みを握って脅そうとしているような、そんな意地の悪い視線だった。
「わたくしは特に恥ずべきことは何も。するべきことをして参ったまでですよ」
「ふーん。まぁ何でもいいけどさ。ほら、ちょっとこっちきなよ~」
「え────ひゃっ」
構っていてもあまりいいことにはならないだろうと、適当にあしらってその場を離れようとしたクロア。
しかし素早くムクッと起き上がったアゲハに腕を掴まれ、強引にベッドに引き倒された。
咄嗟のことに小さく悲鳴をあげながら、クロアはされるがままに倒れこんだ。
引き倒されたことで必然的にアゲハに覆い被さるような形になる。
すぐさま離れようとしたクロアだったが、アゲハがそれを許さなかった。
脚を大きく広げるとクロアの腰のあたりに素早く巻きつける。
そしてすぐさま腕も首に巻きつけて、勢いよく体を回した。
首尾よく動くアゲハにクロアは抵抗する暇もなく、あっという間に立場は逆転し、クロアが組み敷かれることとなった。
黒いドレスは乱れ、無造作に投げ出される。
カールした黒髪は大きく広がり、まるで墨をぶちまけたようだった。
覆い被さるアゲハの薄い金色の髪がクロアの顔を囲うように垂れる。
そしてたわわに実った二つの乳房は当然のごとく重力に従って下を向き、それに勝るクロアの胸に押し付けられ歪んでいた。
「クロアさぁ、大分アリスに入れ込んでるみたいじゃん。結構好き勝手、しちゃってんでしょ?」
「好き勝手とは心外でございますね。わたくしはただ、姫様のためになることをしているだけですよ」
クロアの頭の横に手をついて、まるでキスでもするように顔を近づけるアゲハ。
その顔はニヤニヤと意地悪く歪みつつ、どこか探るような眼差しを向けている。
対するクロアは飽くまで冷静に、余裕を保ったまま淡々と答えた。
「アリスのため、ねぇ。それはまぁいいけどさ。それって本当にワルプルギスのためになることなわけ?」
「何が、仰りたいのです……?」
クロアは目を細めて尋ね返した。
アゲハはニヤニヤと歪む口元を抑えることなく、更に顔を近づける。
鼻先同士が仄かに触れ合って、唇同士もまたお互いの潤いを感じる距離。
混じり合う吐息は温かく淫靡だった。
「私思うんだけどさぁ。クロアって何かアリスにちょーぞっこんじゃん? だからさぁ、やるべきこととか、アリスのためとか託つけて、自分のしたいようにしてるんじゃないのぉー?」
「………………」
不快そうに眉を寄せ、更に目を細めるクロア。
アゲハは愉快そうに口元を釣り上げ、頭をクロアの耳元に落とした。
甘い吐息が耳をくすぐり、クロアは少し身動いだ。
「もしかして、裏切ろうとか、考えちゃってたりして」
「…………!」
まるで愛を囁くような甘ったるい声で、息を吹き込むようにアゲハが囁いた。
クロアはカッと目を見開いて、アゲハの肩を掴んで強引に引き剥がす。
面白そうに笑みを浮かべるアゲハに、クロアはその黒い瞳を鋭く突き刺した。
「……アゲハさん。あまり滅多なことを言うものではありませんよ。第一、そんなことをして何になるというのです?」
「さーねー。私にはさっぱり。魔女が魔女を裏切る理由なんて、私にはこれっぽっちも思いつかないけどさ。でも、アンタならあるんじゃないかなーって思って。アリスのためとか言ってさ」
「確かにわたくしは姫様を愛おしく思っておりますが、だからといってワルプルギスに仇を成すつもりなどございません」
「ふーん」
不愉快極まりないと顔をしかめるクロアに、アゲハは気の抜けた相槌を打つ。
そしてのっそりとした動きで上体を起こし、乱れた髪を後ろへと搔き上げる。
クロアの腰のあたりに座り込んだ体勢で、まるで伸びをするように身体を反らしながらクロアを見下ろす。
その仕草が何とも懐疑的で、クロアは余計に気分を害した。
「そんなことを仰るのでしたら、アゲハさんの方こそ奔放が過ぎるように、わたくしは思いますけれど。先日の件も独断で失敗していましたし」
「私こそなんも得ないって。てか、クロアだって始祖様呼んじゃってたじゃん」
「あ、あれはわたくしのせいではありません。それに状況を鑑みても、姫様が自力で解決できる確信はありました。アゲハさんと一緒にしないでくださいな」
「ま、そーいうことにしてあげるよ」
不測の事態であった痛いところを突かれ、クロアは少し慌てながらも冷静に反論した。
アゲハはわざとらしくやれやれと肩を竦めて、何故か上から目線の言葉を投げかけた。
「………………」
それから少し沈黙が流れた。
お互い探るような視線を混じり合わせ、心の内を覗き込むように深々と突き刺す。
見下ろすアゲハと見上げるクロア。立場は正反対だが、状況は拮抗していた。
そして、クロアがポツリと沈黙を破った。
「いいでしょう。アゲハさんが私をお疑いなのならば、仲間としてしっかりとわかり合う必要がありますねぇ」
「ほーん。何するつもり?」
「やはりここは、楽しく戯れるのがよいかと」
クロアが温和な笑みを浮かべつつ、口元をねっとりと引き上げてそう言った瞬間だった。
ドス黒く醜悪な魔力がクロアから吹き出し、その下半身が蛸のそれに姿を変えた。
黒光りするねっとりとした八本の触手のような蛸の足。
それはクロアの腰に座り込むアゲハに向かって急激に伸び、体に巻きついた。
両腿にぐるぐると蛇のように絡みつき、胴を這うように撫で回す。
ハリよく実った乳房の間を掻き分けて、その形を型取り包み込むように張り付き撫でる。
そして顔まで伸ばした足先で、ねっとりと頬を撫でた。
「夜は長うございます。ゆっくりと、お互いを味わおうではありませんか」
「いーじゃん。受けて立つわ」
ねっとりと張り付くような蛸の脚でアゲハの顔を濡らしながら、クロアは甘い声で言った。
アゲハは全身に絡みつく触手のような蛸の脚に不快感を表すことなく、むしろ挑発を受けたて楽しげに笑みを浮かべた。
ニカっとアゲハが笑みを受けると、彼女もまた悪辣な魔力を吹き出し、白い彫刻のような背中から青く煌めく蝶の羽を生やした。
「たまには喧嘩も悪くないね。楽しく仲良くやろっか。ね、クロア」
蛹から出たばかりの蝶のように、目一杯羽を広げるアゲハ。
その巨大な羽は、ベッドごとクロアを包み込むように覆い被さる。
クロアは彼女の全身に蛸の脚をくまなく這わせながら、子供を転がすように微笑んだ。
青く煌めく揚羽蝶と、黒く絡みつく蛸。
二人の女は、殺気と淫靡に満ちた表情で、相手を食らいつくさんばかりに視線を交わらせた。
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「只今戻りました」
ラブホテル『わんだ~らんど』のパーティールーム。ワルプルギスの魔女三人組の拠点。
厳かな足取りで戸を潜ったクロアは、律儀に帰還の言葉を述べた。
畳まれた黒い日傘を戸口に立て掛け、足取り軽く部屋へと上がる。
その表情は穏やかで、そしてどこか浮かれているように華やかだった。
目的はほぼ予定通り達成し、事態は着々と進行している。
姫君たるアリスの封印を解く日は目前に迫っている。
愛しき姫君の成長を促すことに成功したクロアは上機嫌だった。
「ん、おかえりー」
ルンルンと軽やかな足取りで部屋に入ったクロアを出迎えたのはアゲハだった。
身にまとうのは黒いヒラヒラのショーツ一枚のみというトップレスの状態で、大きなピンクのベッドにうつ伏せで寝転んでいた彼女は、少し気だるそうに首を動かして適当に言葉をこぼした。
透き通るような肌は暗めの照明の中でも白く光り、対照的なショーツを一際目立たせていた。
ベッドに寝転んでいたからか、短いプラチナブロンドの髪は少し乱れている。
「あらアゲハさん。レイさんはどちらへ」
「ちょっと前にどっか出かけたぁー」
クロアの問いにアゲハはおざなりに答え、寝返りを打って仰向けになった。
大きな膨らみを持つ胸部が何の恥じらいもなく晒され、質量を持ったそれは重力に従って左右に開くように偏った。
そんなあられもない姿を惜しみなく晒すアゲハに、クロアは眉をひそめた。
「何という格好をしているのですか、アゲハさん。もう少し恥じらいを持ってはいかがですか?」
「えー別に良くない? ここって本来、そーゆーことするトコでしょ?」
「そういう問題ではありませんよ。それとも、お楽しみの最中でしたか?」
「いやー? 別にそういう気分でもないけどさ。だって楽なんだもーん」
呆れて溜息をつきながら皮肉を言うクロアに、アゲハは更に体を伸ばして呑気に答えた。
僅かな動きにも、豊かに実った膨らみは敏感に揺れる。
まるで、その細身の体とは別に独立して存在しているかのように流動的だ。
それでもハリのある肌と肉は、その形をあまり崩すことなく存在感を放っている。
「てかさぁ。私よりクロアの方がお楽しみだったんじゃないのぉ?」
「わたくしですか? わたくしは別に何も……」
「随分好き放題やってたみたいじゃーん。私知ってんだからっ」
寝転んだままニヤリと意地の悪い笑みを浮かべてくるアゲハに、クロアは純粋に嫌悪感を抱いた。
子供が他人の弱みを握って脅そうとしているような、そんな意地の悪い視線だった。
「わたくしは特に恥ずべきことは何も。するべきことをして参ったまでですよ」
「ふーん。まぁ何でもいいけどさ。ほら、ちょっとこっちきなよ~」
「え────ひゃっ」
構っていてもあまりいいことにはならないだろうと、適当にあしらってその場を離れようとしたクロア。
しかし素早くムクッと起き上がったアゲハに腕を掴まれ、強引にベッドに引き倒された。
咄嗟のことに小さく悲鳴をあげながら、クロアはされるがままに倒れこんだ。
引き倒されたことで必然的にアゲハに覆い被さるような形になる。
すぐさま離れようとしたクロアだったが、アゲハがそれを許さなかった。
脚を大きく広げるとクロアの腰のあたりに素早く巻きつける。
そしてすぐさま腕も首に巻きつけて、勢いよく体を回した。
首尾よく動くアゲハにクロアは抵抗する暇もなく、あっという間に立場は逆転し、クロアが組み敷かれることとなった。
黒いドレスは乱れ、無造作に投げ出される。
カールした黒髪は大きく広がり、まるで墨をぶちまけたようだった。
覆い被さるアゲハの薄い金色の髪がクロアの顔を囲うように垂れる。
そしてたわわに実った二つの乳房は当然のごとく重力に従って下を向き、それに勝るクロアの胸に押し付けられ歪んでいた。
「クロアさぁ、大分アリスに入れ込んでるみたいじゃん。結構好き勝手、しちゃってんでしょ?」
「好き勝手とは心外でございますね。わたくしはただ、姫様のためになることをしているだけですよ」
クロアの頭の横に手をついて、まるでキスでもするように顔を近づけるアゲハ。
その顔はニヤニヤと意地悪く歪みつつ、どこか探るような眼差しを向けている。
対するクロアは飽くまで冷静に、余裕を保ったまま淡々と答えた。
「アリスのため、ねぇ。それはまぁいいけどさ。それって本当にワルプルギスのためになることなわけ?」
「何が、仰りたいのです……?」
クロアは目を細めて尋ね返した。
アゲハはニヤニヤと歪む口元を抑えることなく、更に顔を近づける。
鼻先同士が仄かに触れ合って、唇同士もまたお互いの潤いを感じる距離。
混じり合う吐息は温かく淫靡だった。
「私思うんだけどさぁ。クロアって何かアリスにちょーぞっこんじゃん? だからさぁ、やるべきこととか、アリスのためとか託つけて、自分のしたいようにしてるんじゃないのぉー?」
「………………」
不快そうに眉を寄せ、更に目を細めるクロア。
アゲハは愉快そうに口元を釣り上げ、頭をクロアの耳元に落とした。
甘い吐息が耳をくすぐり、クロアは少し身動いだ。
「もしかして、裏切ろうとか、考えちゃってたりして」
「…………!」
まるで愛を囁くような甘ったるい声で、息を吹き込むようにアゲハが囁いた。
クロアはカッと目を見開いて、アゲハの肩を掴んで強引に引き剥がす。
面白そうに笑みを浮かべるアゲハに、クロアはその黒い瞳を鋭く突き刺した。
「……アゲハさん。あまり滅多なことを言うものではありませんよ。第一、そんなことをして何になるというのです?」
「さーねー。私にはさっぱり。魔女が魔女を裏切る理由なんて、私にはこれっぽっちも思いつかないけどさ。でも、アンタならあるんじゃないかなーって思って。アリスのためとか言ってさ」
「確かにわたくしは姫様を愛おしく思っておりますが、だからといってワルプルギスに仇を成すつもりなどございません」
「ふーん」
不愉快極まりないと顔をしかめるクロアに、アゲハは気の抜けた相槌を打つ。
そしてのっそりとした動きで上体を起こし、乱れた髪を後ろへと搔き上げる。
クロアの腰のあたりに座り込んだ体勢で、まるで伸びをするように身体を反らしながらクロアを見下ろす。
その仕草が何とも懐疑的で、クロアは余計に気分を害した。
「そんなことを仰るのでしたら、アゲハさんの方こそ奔放が過ぎるように、わたくしは思いますけれど。先日の件も独断で失敗していましたし」
「私こそなんも得ないって。てか、クロアだって始祖様呼んじゃってたじゃん」
「あ、あれはわたくしのせいではありません。それに状況を鑑みても、姫様が自力で解決できる確信はありました。アゲハさんと一緒にしないでくださいな」
「ま、そーいうことにしてあげるよ」
不測の事態であった痛いところを突かれ、クロアは少し慌てながらも冷静に反論した。
アゲハはわざとらしくやれやれと肩を竦めて、何故か上から目線の言葉を投げかけた。
「………………」
それから少し沈黙が流れた。
お互い探るような視線を混じり合わせ、心の内を覗き込むように深々と突き刺す。
見下ろすアゲハと見上げるクロア。立場は正反対だが、状況は拮抗していた。
そして、クロアがポツリと沈黙を破った。
「いいでしょう。アゲハさんが私をお疑いなのならば、仲間としてしっかりとわかり合う必要がありますねぇ」
「ほーん。何するつもり?」
「やはりここは、楽しく戯れるのがよいかと」
クロアが温和な笑みを浮かべつつ、口元をねっとりと引き上げてそう言った瞬間だった。
ドス黒く醜悪な魔力がクロアから吹き出し、その下半身が蛸のそれに姿を変えた。
黒光りするねっとりとした八本の触手のような蛸の足。
それはクロアの腰に座り込むアゲハに向かって急激に伸び、体に巻きついた。
両腿にぐるぐると蛇のように絡みつき、胴を這うように撫で回す。
ハリよく実った乳房の間を掻き分けて、その形を型取り包み込むように張り付き撫でる。
そして顔まで伸ばした足先で、ねっとりと頬を撫でた。
「夜は長うございます。ゆっくりと、お互いを味わおうではありませんか」
「いーじゃん。受けて立つわ」
ねっとりと張り付くような蛸の脚でアゲハの顔を濡らしながら、クロアは甘い声で言った。
アゲハは全身に絡みつく触手のような蛸の脚に不快感を表すことなく、むしろ挑発を受けたて楽しげに笑みを浮かべた。
ニカっとアゲハが笑みを受けると、彼女もまた悪辣な魔力を吹き出し、白い彫刻のような背中から青く煌めく蝶の羽を生やした。
「たまには喧嘩も悪くないね。楽しく仲良くやろっか。ね、クロア」
蛹から出たばかりの蝶のように、目一杯羽を広げるアゲハ。
その巨大な羽は、ベッドごとクロアを包み込むように覆い被さる。
クロアは彼女の全身に蛸の脚をくまなく這わせながら、子供を転がすように微笑んだ。
青く煌めく揚羽蝶と、黒く絡みつく蛸。
二人の女は、殺気と淫靡に満ちた表情で、相手を食らいつくさんばかりに視線を交わらせた。
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