普通のJK、実は異世界最強のお姫様でした〜みんなが私を殺したいくらい大好きすぎる〜

セカイ

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第6章 誰ガ為ニ

52 カルマとまくら

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「カノンさんたちも、良ければ一緒に来てもらえる? 色々話を聞きたいし」

 手を引いて千鳥ちゃんを立たせてから私が顔を向けると、カノンさんはうんうんと頷き返してくれた。

「あぁ勿論だ。話さなきゃいけねぇこともあるしな」

 立ち上がる足取りにもう不安定なところはなく、サクッと元気よく足を伸ばすカノンさん。
 僅かに眉を寄せながらもニカッと元気よく笑う。

「氷室さんも一緒に来てくれると嬉しいんだけど、大丈夫?」
「もちろん」

 尋ねると氷室さんは若干食い気味に頷いた。
 変わらぬポーカーフェイスの中で、その瞳は行かないわけがないと訴えていた。
 その態度に、改めてすごく心配をかけてしまっていたんだと実感した。

 といっても、氷室さんは聞かずとも一緒に来てくれるだろうとわかっていた。
 それでも念のためと思って尋ねたのだけれど、杞憂だったみたい。いやむしろ余計だったかも。

「よし、じゃあカルマ。お前はそろそろ引っ込んでろ」
「えー! 何でそんなこと言うのー! カルマちゃんだってみんなとわいわいガヤガヤお喋りしたいんだけどぉ~?」

 腰に手を当ててビシッと言ったカノンさんに、カルマちゃんが頰を膨らませて抗議した。
 引っ込んでろって、先に帰ったろってこと? どこに帰るのかは知らないけれど。
 夜子さんの所に行くのに、カルマちゃんの同伴はよくないってことかな。

「何でもクソもあるか! そもそもお前の役目は戦うことただけだろーが。それが終わったんだから大人しく引っ込んでろ!」
「カノンちゃんのけちんぼー! そうやって人のことこき使っちゃってさぁ。いいもーん。カルマちゃん疲れたから寝るしぃ! ふて寝してやるもんね! ふんっだ!」

 ガミガミと目くじらを立てるカノンさんにカルマちゃんはぷいと顔を背けて、唇を尖らせてあからさまに不貞腐れた顔をした。
 そして私の方を向くとニッコリとしながらよたよたと近寄ってきた。

「と言うわけでぇ、意地悪カノンちゃんがああ言ってるから、カルマちゃんは一足先にお寝んねするね~。お姫様、ちゃ~んとキャッチしてねん」
「え? キャッチ?」

 私の目の前まで寄ってくると、カルマちゃんは屈託のない笑みでニパッと笑う。
 その笑顔と言葉が意味する所が全く理解できなくて、私は首を傾げるしかない。

「そうそう。お姫様がぎゅーってしてくれてたら、きっと喜ぶからさ。ってことで、おやすみ~」
「え、ちょっと────」

 私の不理解などどこ吹く風。カルマちゃんは一方的にそう言うと、目を瞑って急に倒れこんできた。

 寝るって今ここで!?
 咄嗟のことに私は慌てて千鳥ちゃんから手を放して、倒れこんでくるカルマちゃんをガバリと受け止めた。
 中学生程の小柄な身体は私の腕の中にすっぽりと収まって、完全に力を抜いて身を委ねてくる。

 何とか抱きとめてその顔を覗き込んでみると、穏やかな表情ですーすーと寝息を立てている。
 普段は奇想天外で奇天烈で破天荒な言動で正気を疑うカルマちゃんだけれど、寝姿だけは見た目通りの子供っぽさだった。

「ここで寝ちゃうなんて、よっぽど疲れたのかな。まぁ、頑張ってくれたもんね」

 こうして抱いていると本当にただの子供みたいで、私はそのふわふわな茶髪の頭をそっと撫でた。
 その時、カルマちゃんの体からボワンと白い煙が吹き出した。
 マジックの演出のような、漫画やアニメのコミカルな変身シーンのような、体を覆い尽くす煙。

 突然のことに目を白黒させていると、その煙はあっという間に晴れた。
 そして煙が払われた先にいたのは、マントにボンテージという際どく奇抜な格好の女の子ではなく、ボーダー柄のラフなワンピースを着た子供っぽい女の子だった。
 私の腕に収まったまま、ふざけた煙の演出と共に姿が一瞬で変わった。

 この姿は、もしかして……。

「…………あ、アリスお姉ちゃんだぁ!」

 そしてゆっくりと目を開けて、その子は私を見上げた。
 私のことに気付くと太陽のように燦々とした笑顔を浮かべて、自分の腕で私の身体にしがみついてきた。
 私は何が何だかわからず目を泳がせることしかできない。

「アリスお姉ちゃん! まくら、役に立った?」
「あの、えっと……」
「おう、役に立ったぞ。アタシも沢山助けられた」

 私の身体を揺すりながら尋ねてくるその言葉になんて返せばいいのか困っていると、やってきたカノンさんが助け舟を出してくれた。
 まくらと自称したその子の頭をぐしゃりと撫でてやる。

 まくら。この子は今自分のことをまくらと言った。
 そして私のことはアリスお姉ちゃんと。
 カルマちゃんからは決して出てこない単語だ。
 それにこの落ち着いて少し幼げな姿は、まくらちゃんらしいと言えばらしい。

 顔や体格、基本の体そのものは全く同じだからわかりにくいけれど、今のこの子はまくらちゃんなんだ。
 でも、一体何がどうなったらこうなるの……?

「あー、なんつーか、細かいことはまた後で説明する。とりあえず、今のコイツはちゃんとまくらだ」

 クシャクシャとまくらちゃんの頭を撫でながら、カノンさんは気まずそうに頰を掻きながら言った。
 私だけではなく、千鳥ちゃんや氷室さんも今起きた突拍子のない出来事に驚いているようだった。
 そんな私たちを順繰り見ながら、カノンさんは苦笑いを浮かべる。

 色々聞きたいことはあるけれど、きっと込み入った話になりそうだし、言う通り後にするべきだよね。

「とっても助かったよ。ありがとう、まくらちゃん」
「ほんと? よかった!」

 笑いかけると、まくらちゃんは更に笑顔を輝かせて私にぎゅっと抱き着いてきた。
 程なくしてカノンさんに引き剥がされたまくらちゃんは、名残惜しそうに私を見つめながらカノンさんの手をぎゅっと握った。

「さ、じゃあまずはみんなで夜子さんの所に行こっか。ね、千鳥ちゃん」

 まだ意気消沈気味の千鳥ちゃんに笑いかけて、その手を握る。
 千鳥ちゃんは力なく笑みを浮かべながらも、私にしっかり目を向けて頷いてくれた。

 精神的に大分こたえているようだけれど、完全に参ってしまっているわけでもなさそうだった。
 後でゆっくり話を聞いてあげよう。もちろん、千鳥ちゃんが話したいと思っていればだけれど。

「…………」
「……? 氷室さん、どうかした?」

 そんな私たちをジッと見つめている視線に気が付いて尋ねてみると、氷室さんはすぐに目を逸らして小さく首を横に振った。
 突っ込んで聞いてみようかとも思ったけれど、ポーカーフェイスで沈黙を保つ氷室さんは何事もなさそうにしている。

 ちょっぴり不思議な気もしたけれど、あんまり気にし過ぎても仕方ないかな。
 だからとりあえず私は、空いている方の手で氷室さんの手を取った。

「じゃ、行こっか!」

 氷室さんのポーカーフェイスがほんの少しだけ緩んだ気がした。
 私の気のせいかもしれないけれど。
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