普通のJK、実は異世界最強のお姫様でした〜みんなが私を殺したいくらい大好きすぎる〜

セカイ

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第6章 誰ガ為ニ

133 ふざけないで

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 千鳥ちゃんの絶叫に合わせて、彼女がまとっている電気がバチバチと弾ける。
 言葉の力強さを表すように押し広げられた両翼は、電気の輝きによって黄金に輝く。

 その小さな体を覆い尽くさんばかりの鳥の翼。
 それを背負う姿は紛れもなく、転臨をした魔女。
 アゲハさんたちと同じ、異形に身をやつした者の姿だ。

 そのおぞましさ、醜悪さ、気持ち悪さは今までも感じていた。
 でも、肩を並べていたさっきまでと違い、今こうして殺意を向けられ相対していると、よりそれを色濃く感じた。
 まるで、目の前の人が千鳥ちゃんではない別の誰かのように思えてしまうほどに。

 千鳥ちゃんは本気だ。
 私を殺すこと、それそのものに迷いはない。
 その心はもう決まってしまっている。

 でもその涙は彼女が苦しんでいる証だ。
 自らが決めた覚悟に、自身の心が悲しんでいる。
 そんな姿を見せられて、どうして戦うことができるだろう。

 私には、無理だ。

 それでも、千鳥ちゃんは私に渾身の殺意を向けてくる。
 抗わなければ、死ぬだけだ。

「ふざけないで……!」

 押し潰さんばかりの殺気に怯んでいた時。
 そう叫んだのは、氷室さんだった。
 私の身体を支えてくれていた氷室さんが、私より身を乗り出して声を上げた。

「……ふざけないで。あなたはアリスちゃんの友達なのに。なのにあなたは……あなたは、アリスちゃんの気持ちを……!」
「霰……」

 それは今まで見たことのない姿だった。
 いつも冷静沈着で、滅多なことでは表情を崩さない氷室さん。
 クールなポーカーフェイスの氷室さんが、少しではあるけれど、顔を歪めて声を荒げている。

 千鳥ちゃんもやや面食らったようで目を見開いていた。
 けれどその言葉の重みを受け止めるように、唇を結んで見返す。

「そんなこと、許さない。アリスちゃんが許しても、私は……!」
「氷室さん────!」

 瞬間、氷室さんが私を放して飛び出した。
 それを受けて千鳥ちゃんは更にまとう電気の出力を上げ、迎え撃とうと身構える。
 ロード・ケインは一人すっと後ろに下がっていた。

「アタシも、同じ気持ちだ……!」

 咄嗟のことに止める間も無く、伸ばした手が空振った。
 そんな私の脇でカノンさんもまた身を乗り出した。

「今までが裏切ってなくても、今アリスの気持ちを踏みにじったことには変わりねぇ。その性根、叩き直してやる!」
「カノンさん!」

 言うが早いか地を蹴るカノンさん。
 強化された脚力で瞬時に氷室さんの後に続く。

「いや~! これには流石のカルマちゃんもドン引きですなぁ~! あれ、でも前のカルマちゃんも似たようなことしたことがあるようなないようなぁ……まぁ今のカルマちゃんとは違うから知りませ~ん! とりあえずカルマちゃんはおこですよー!」
「ちょっと、カルマちゃんまで!」

 一人能天気気味な声を上げつつ、それでも不機嫌さが滲み出たカルマちゃんもまた、渦中へと飛び込んでしまった。
 みんなダメージは大きいはずなのに、私の為に怒っくれている。

 でも、嫌だ。千鳥ちゃんがみんなと戦うのなんて嫌だ。
 みんなみんな友達なのに、いがみ合って傷つけ合うなんて間違ってる。

「みんな、だめーーーー!!!」

 嫌なのに、私には叫ぶことしかできなかった。
 足が前に進まない。立っているだけでやっとだ。
 とてもあそこには飛び込めない。
 千鳥ちゃんとなんて、戦えない。

 そんな私の叫びなんて、届かなかった。
 醜悪な気配を撒き散らす人ならざる千鳥ちゃんに、三人は飛び掛かる。

 転臨を果たした千鳥ちゃんの実力は格段に上がっていて、三人相手でも引けを取ってはいない。
 ものともしない姿勢に、三人は一切の容赦もなく千鳥ちゃんに攻撃を叩き込んでいた。

「嫌だ、だめだよそんなの……私たちみんな、友達なのに、こんなこと……」

 私の大切な友達が戦っている。
 私を殺そうとしている千鳥ちゃんと、私の為に怒り、守ろうとしてくれている三人が。
 ついさっきまで肩を並べていたみんなが。楽しく笑い合っていたみんなが。
 今私の為に殺し合っている。

 あぁ、私は何をやっているんだろう。
 泣きながら私を殺すと言った千鳥ちゃん。
 私よりも私の為に怒ってくれるみんな。
 その気持ちはみんな私へ向けてくれているもの。
 私がこんなところで、へこたれていて良いわけがない。

 じゃあどうするべきだろう。
 勇気を持って、気持ちを奮い立たせて千鳥ちゃんと殺し合う?
 裏切り者だと割り切って、自分の身を、みんなを守る為に千鳥ちゃんと戦う?
 もう彼女は敵なんだと、そう区切りをつけて。

 いや、私にはそんなことはできない。
 千鳥ちゃんを、あの千鳥ちゃんを見限って、切り捨てて割り切ることなんてできない。
 だって、千鳥ちゃんの気持ちは私から離れていない。
 千鳥ちゃんは今でも尚、私のことを友達だと思ってくれている。

 それはその涙を見なくたってわかる。
 だって、この心がまだ繋がってるんだ。
 私たちの心は、まだ友達として深く繋がっている。
 私の心がそれを強く感じている。

 なら、千鳥ちゃんは敵じゃない。敵なわけがない。
 考えが合わず、気持ちがすれ違っていたとしても、根底の気持ちは変わっていない。
 私たちはまだ、お互いを想い合う友達なんだ。

 だとすれば、私にできることはなんだろう。
 ここで一人縮こまっていること?
 友達の殺し合いを眺めていること?

 違う。

 相手が敵じゃなくて友達なら、怖くなんかない。
 縮こまる必要なんてない。迷う必要なんてない。
 例え矛を交えるとしても、恐れる必要なんてない。
 私たちがお互いを想い合っていれば。

 深呼吸をして、取り落とした『真理のつるぎ』を拾い上げる。
 強くその柄を握ってみれば、私の気持ちに応えるように、吸い付くように手に馴染んだ。

 戦う。私は千鳥ちゃんと戦う。
 でも私がするのは殺し合いじゃない。
 憎いから戦うじゃない。障害を打ち倒すんじゃない。

 相手は敵ではなく友達だ。
 ならこれは、喧嘩だ。

 気持ちが噛み合わなくて口論して、それでもどうにもならなくて、取っ組み合いの喧嘩をするようなものだ。
 お互いにわかり合いたいと思っているから、相手を大切に思っているから。
 だからこそぶつかり合う、これは喧嘩だ。

 友達でも、意見が食い違えば喧嘩になる。
 相手のことが好きだからこそ、喧嘩になるんだ。

 だから私がこれからするのは、千鳥ちゃんとわかり合う為の喧嘩だ。

 みんなは苛烈な戦いを繰り広げている。
 転臨によって強力になった千鳥ちゃんは、三人の猛攻で傷付きつつも、その異常なほどの再生能力で物ともせずに対抗している。

 凍ろうが砕かれようが切りつけられようが。
 千鳥ちゃんは再生を繰り返し、傷をなかったことにしながら戦い続けている。
 見ていられない、とても無惨な光景だった。

「やれやれ。クイナ、君も裏切るのか。本当にそんな度胸があったなんてね」

 そんな中、退がっていたレイくんが溜息をついて言った。
 猛攻繰り広げる渦中に目を向け、冷たい視線で。

「アリスちゃんを殺すなんてこと、万に一つも許しはしない。それだけは許さない。君が魔法使いの側につくと言うのなら、僕も容赦しないよ」

 そして黒尽くめが跳ねた。
 強力な脚力で戦いの最中へと飛び込んでいく。

 だめだ。このままじゃだめだ。
 こんなめちゃくちゃな、力任せな戦いはだめだ。

 この戦いは、千鳥ちゃんとの戦いは、私がするべきなんだ。
 私が、千鳥ちゃんに向き合うべきなんだ。
 だからこのままじゃ、だめだ……!

 レイくんが千鳥ちゃんへと迫る。
 カルマちゃんの大鎌が千鳥ちゃんへと振り下ろされる。
 カノンさんの木刀が喉元へ向けて強烈な突きを放っている。
 氷室さんの氷の槍が、その胸に風穴を空けんと撃ち込まれる。

 その全てを打ち払うべく、極光の如き雷撃が千鳥ちゃんから炸裂する。

 それを目にした瞬間、私は飛び出した。
 だめなんだ、こんなこと。

 友達同士での殺し合いなんて。
 ただ憎しみあって、怒りあって、ただ力をぶつけ合う戦いなんて。
 私はそんなこと、友達にして欲しくない。

 千鳥ちゃんがみんなを傷付けるところを見たくなんてない。
 私の為に怒るみんなが、千鳥ちゃんを攻め立てるところなんて見たくない。
 こんなの私は、嫌なんだ────!

「やめろぉぉおおおお!!!!!」

 無我夢中。深いことは考えられない。
 飛び出した私は、気が付けば渦中の真上に跳び上がっていた。
 残された時間は刹那。私は力の限り『真理のつるぎ』を振り下ろした。

 それぞれの攻撃が触れ合うほんの一瞬前。
 私が間に叩き込んだ衝撃が全ての攻撃を掻き消した。

 白く煌く『真理のつるぎ』の魔力がその場を埋め尽くし、私はみんなの間に着地する。
 唐突な乱入に全員が停止し、全ての視線が私に突き刺さった。

 私はそれを一身に受け、抱き留め、みんなを強く見渡した。
 そして最後に千鳥ちゃんの目を真っ直ぐ見据える。

「千鳥ちゃん。私たち二人でケリをつけよう。他の誰も、手出しなんてさせない」

 私の据わった声に、その場のみんなが息を飲むのが聞こえた。
 そんな中、私と千鳥ちゃんは二人、強く見つめ合った。
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