普通のJK、実は異世界最強のお姫様でした〜みんなが私を殺したいくらい大好きすぎる〜

セカイ

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第0.5章 まほうつかいの国のアリス

19 もう一つの世界2

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「待って! アリスちゃん、待って────」

 後ろからレイくんが呼んでる。
 でも今のわたしは、とにかく帰らなきゃって気持ちでいっぱいで。
 だからレイくんに振り返ることよりも、とにかく足がタタタッと早く動いた。

 帰らなきゃ、帰らなきゃ、帰らなきゃ。
 はやく、ちゃんとおうちに帰らなきゃ。

『まほうつかいの国』はとっても楽しいところだし、レイくんもクロアさんも好き。
 ここにいることが嫌なわけじゃ、ぜんぜんないんだけど。
 でも、おうちにはちゃんと帰らなきゃいけないし、約束もやぶっちゃだめなんだ。

 だから今は、帰らなくちゃ。
 今まで気にならなかったことが信じられないくらい、今はお母さんやあられちゃんのことで頭がいっぱいになった。
 だからわたしは、一生懸命に走った。走って、走った。

 そして……。

「…………あれ?」

 いっぱいいっぱいになっていた頭がすこし落ち着いてきた時。
 気がつくとわたしは、深くて暗い森の中に一人でいた。

 高層ビルのように『そびえたつ』巨大な木はたっぷりと葉っぱをわさわさ広げてて、見上げてみると緑ばっかり。
 緑のじゅうたんを天井に広げたみたいで、お日様の光はほとんど入ってこない。だから、まだお昼のはずなのにすっごく薄暗かった。

 わたし、いつのまにこんなところまで来ちゃったんだろう。
 帰らなきゃって、そう思って『むがむちゅう』で走ってきたら、一人でよくわからないところに来ちゃったみたい。

「レイくん……? クロアさん……?」

 きょろきょろ見渡してみても、そこにはだれもいない。
 暗くて静かな森の中で、わたしはポツンと一人ぼっちだった。

 なんだか急に不安になって、とってもこわくなって。
 だから一回二人のところに戻ろうかなって、そう思ったけれど。
 でも振り返ってみたら、そこには私が今来たはずの道はなかった。

 そうだ、この森の植物たちは自由に動いちゃう。
 ここまでわたしが来た時は、きっとみんながよけて道を作ってくれたんだ。
 でもわたしが通りすぎた後は、またみんな好きなように場所を変えちゃった。だから、戻る道がなくなっちゃったんだ。

「どうしよう。どうやって帰ればいいんだろう」

 帰るって、どこに?
 一人で呟いてから、自分でそう思った。

 わたしの『帰る』はどこに?
 おうちに? それともあの神殿?
 わたし、どこに行けばいいの?

 わかんない。わかんない、わかんないよ。
 わたし、どうしたらいいの?

 いつもわたしの遊び場だった森のはずなのに、ここは暗くて静かで、なんだかとってもこわい気持ちになった。
 動物さんたちもいないし、なんだかちょっぴりさむい。
 どこに行ったらいいのかもわからないし、何をすればいいのかもわからない。

「うぅ……ここ、どこ? レイくん……クロアさん……。お母さん……あられ、ちゃん…………」

 どんどんどんどん、こわい気持ち、かなしい気持ちでいっぱいになってきた。
 一人ぼっちがさみしくて、何をどうしたらいいのか、そんなこと考えられなくなってきた。

 泣いちゃだめだって、泣いたって意味ないってわかってるのに、涙がポロポロこぼれちゃう。
 こわくて、かなしくて、さみしくて。

 わたしはその場にしゃがみ込んで、おひざを抱きしめた。
 ついさっきまでレイくんやクロアの声を聞かないで、ここまでタタタッと走ってこられたのに。
 今はもう一歩も動けなくなっちゃった。

 どこにどうやって行っていいのかわからない。
 どこに帰って、そのために何をすればいいのかわからない。
 わかんない。何にもわかんない。

 どうしてこうなっちゃったんだろう。
 もっとちゃんと、人の言うことを聞いていればよかったのかな。

 レイくんとクロアさんの言うことを聞かないで、ここまで走ってきちゃったから?
 それとも、あられちゃんにとめられたのに、レイくんと『まほうつかいの国』に来ちゃったから?
 そもそも、お母さんにいつも言われてるみたいに、寄り道をしないでまっすぐおうちに帰ってたらよかったのかな。

 このまま、ここでずっと一人だったらどうしよう。
 どこにも帰れなくて、だれにも会えなくて、ずっとずっとこの暗くてこわい森の中で一人ぼっちで生きていくことになったらどうしよう。

 お話してくれる人もいなくて、遊んでくれる人もいなくて。
 おばあちゃんになるまで一人ぼっちで、ずっとさみしい気持ちのまま生きていかなくなっちゃったら、どうしよう。
 もしそうなったらわたし、さみしくてずっとずっと泣いちゃうよ。
 そんなにたくさん泣いたら干からびちゃって、もっとずっと早くおばあちゃんになっちゃうかもしれない。

 そしたらもう、だれもをわたしをわたしだって気づいてくれなよ。
 もしだれかが探しに来てくれたって、わたしだって気づかなきゃ見つけてもらえない。

 どうしよう、どうしよう。
 そんなのいやだよぉ。

 嫌な想像ばっかりが頭の中をぐるぐる回って、わたしはとってもかなしい気持ちでいっぱいになった。
 涙はボロボロととまらなくて、わたしはわんわん声を出して泣いちゃった。

 泣いたってだれも助けてくれないのに。
 でもかなしくてぜんぜん涙がとまらない。

 一人ぼっちはいやだよ。さみしいよ……。

「────おやおやお嬢さん、お困りかい?」

 一人でわんわんしくしく泣いていた時、急に声が上から降ってきた。
 わたしはとってもびっくりして、おひざを抱きしめたまま飛び上がりそうになった。

 だって今ここはとっても暗くて、静かで、周りにはだれもいなかったから。
 木の影からおばけがワッて出てきそうな場所で、急に声が聞こえたものだから、心臓が口から出てしまいそうだった。

 びっくりした勢いで涙はピタッと止まった。
 本当におばけが出たんじゃないかって、そんなこわさでいっぱいになって、泣いてるどころじゃなくなっちゃった。
 だってここは『まほうつかいの国』。不思議がいっぱいなこの国じゃ、本当におばけがいたってぜんぜん変じゃないんだから。

「そんなに怖がらなくたっていいじゃないか。私はただ、お困りかい?って聞いただけだよ」

 また同じ声が聞こえた。
 よく聞くと、それは女の人の声だった。
 落ち着いて静かな女の人の声。

 わたしはおそるおそる、そーっと顔を上げて上を見回してみる。
 ずっと一人ぼっちだと思ってたけど、だれかいるのかな?
 だれかいるなら、わたしを助けてくれるかな?
 帰り道、教えてくれるかな?

「あの……だぁれ? どこにいるの?」
「おっとこれは失礼。ちょっと待っててね」

 わたしがおっかなびっくり聞いてみると、声はすぐに返事をした。
 するとそのすぐ後に、近くの木の枝の上で何かがポンと浮かび上がった。

 暗くてちょっぴり見えにくかったけど、でもたしかに、今まで何もなかったそこに何かが現れた。
 よく見てみると、なんだか人の足みたいなのが枝の上にのがわかった。
 ジーンズみたいなズボンが、引っかかってるんじゃなくて、座ってる。

 まるで中身が入っているみたいに座ってるズボンを見つめていると、今度はその上にたぼだぼしたトレーナーが現れた。
 それはもう完全に宙に浮いていて。でも、ズボンと一緒に見ると、まるで透明人間が服を着ているみたいだった。
 服があって木の上にすわってるみたいなのに、その中身が見当たらない。

 あまりにもヘンテコな光景に、頭の中はハテナマークでいっぱいになる。
 今までのこわさやかなしさ、さみしさはどっかにいっちゃって、その不思議な服たちのことが気になってしょーがなくなった。

 じーっと観察していると、ズボンの下にはスニーカーがポンと出て、トレーナーの上には女の人の長くて茶色い髪の毛だけが現れた。
 そして袖の先に手が出てきて、最後に髪の下に女の人の顔がパッと現れる。

 それは、お母さんと同じ年くらいの、大人の女の人。
 パーツごとにバラバラに、そんなヘンテコな登場をしたのは、なんだか普通の女の人だった。

「では改めて聞こうか。お困りかな、お嬢さん」

 枝の上に座ったまま、その人はニヤニヤと笑いながら言った。
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