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第0.5章 まほうつかいの国のアリス
28 わがままな女王様4
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真っ赤な、とても真っ赤な人だった。
わたしを見下ろすその人は、頭の先から爪先まで真っ赤だった。
血みたい赤黒い髪の毛は、上に向けて長くのびてる。
まるでロウソクに灯った火みたいに。
そしてそこにはさらに、ぎらぎら光るルビーでできたティアラが乗っかっていた。
目も真っ赤だし、口紅も真っ赤。
少し動きにくそうだけど、『ごうせい』に着飾ったドレスも真っ赤で、クツも真っ赤。
何から何まで真っ赤な女の人が、そのキッと釣り上がった目をわたしに向けて、とってもこわい顔で睨んでくる。
お母さんよりもずっと年上の、とってもキレイなスラッとしたおばさん。でもものすごく『ふきげん』そうな顔のせいで、キレイな顔は『だいなし』だった。
こわくて逃げ出したくなったけど、でもわたしは勇気を振り絞って女王様を見上げた。
だって、あまりにも女の子がかわいそうだったから。
「どうしてそんなひどいことするの? 女王様なら、もっとみんなにやさしくしてよ!」
「ちょ、ちょっと! ダメだよアリス!」
アリアが『かんだかい』声を上げてわたしの足に飛びついた。
ぐいぐいと足を引っ張られるけれど、わたしはそれでも女王様に向かって目を向け続けた。
だってこんなの絶対おかしいもん。
女王様はえらい人なのに、女の子にひどいことをするなんて絶対まちがってる。
だからわたしは、こわくてたまらなかったけれど、でもがんばって女王様に向かった。
「……お前が何者かは知らないが、私が何なのかは心得ているだろう? そして、私に逆らえばどうなるのかも」
「じょ、女王様でしょ? でも、女王様だからって何でもしていいってわけじゃないって、わたしは思う……!」
私を冷たい目で見下ろしたまま、女王様は静かな声で言う。
わたしは自分が震えてるのがわかったけれど、その目に負けないようにぎゅっと手を握って言い返した。
すると女王様はふんっと軽く鼻で笑った。
「そう、私は女王。この国の女王。故に、私は誰よりも偉い……! 私がこの国の法律なのだから、私は何をやってもいいんだよ。なぜって、この国は私の国なんだからね」
アッハッハと大きな声で笑う女王様。
言ってることは、子供のわたしだってめちゃくちゃだってわかる。
でも周りの兵隊さんも、町の人もだれも、女王様の言うことに『はんろん』しなかった。
「それにね、魔女は死すべき害悪だというのは、誰でも知ってる事実だ。私でなくとも、魔女が姿を表せば等しく死が与えられる。そんな常識に異を唱えるお前の方がおかしいのさ。愚かな小娘」
「そんなの絶対おかしいよ! 魔女は何にも、悪いことなんてしてないのに!」
わたしが言い返すと、女王様はお腹を抱えて大声で笑った。
まるでとってもおかしなことがあったように、ゲラゲラと一人で大笑いする女王様。
散々大笑いすると、うっすら浮かんだ涙を拭いて、わたしのことをまた見下ろしてきた。
「バカなことを言う子だねぇ。魔女は存在そのものが罪なんだ。何もしてないなんて冗談じゃない。魔女はね、生きているだけで罪を犯し続けているのさ。お前、そんなことも知らないのか」
「し、しらないよそんなこと……! だってわたしは、魔女が悪いなんて思ったこと────」
「もうやめろアリス!」
ニヤニヤしながら小馬鹿にしてくる女王様に言い返そうとした時、レオがわたしの腰に飛びついてぐっと後ろに引っ張った。
男の子の強い力で引っ張られたわたしは、勢いよく尻もちをついちゃって、お尻の痛さに一瞬目がチカチカした。
「女王陛下に何やってんだ! 今すぐ謝れ!」
座り込んだわたしの頭をガシッと掴んだレオが、わたしの頭を下ろしながら怒鳴った。
「で、でも! だって絶対おかしいよ!」
「でもじゃねぇ! おかしくもねぇ! いいさらさっさと────」
「その必要はない」
わたしと言うことに聞く耳を持たないレオが、わたしの頭をガシガシと下に押しつける。
そんなレオの言葉を、女王様が静かな声でさえぎった。
「謝罪は必要ない。私に逆らった者の末路は同じ。皆等しく、死罪だ。物知らなぬ子供であろうと、それは変わらない」
「え、えぇ……!?」
何の迷いもなく言われた言葉に、わたしは思わず変な声を出してしまった。
女王様はピシャリとそう言うと、小さくため息をついてからそばにいる兵隊さんに目を向けた。
「その者の首を刎ねよ」
「し、しかし相手は幼い少女ですが……」
「そうか。ならばまずお前が死ね」
命令された兵隊さんが困った顔で言うと、女王様は冷たくそう言い放って、紅いマニキュアがぬられた指先を向けた。
すると兵隊さんの体が突然ごうごうと燃え上がって、吠えるような悲鳴が上がった。
一瞬で全身に火がついた兵隊さんは地面にゴロンと倒れ込んで、そしてすぐに動かなくなってしまった。
火はすぐに消えたけれど、そこに残っていたのは真っ黒焦げになった人の大きさのものだけで……。
「っ………………!!!」
全身がさーっと寒くなって、手も足もガタガタと震えた。
今目の前で起こったことが信じられなくて、頭の中やお腹の中や、身体中がぐちゃぐちゃになったような気持ち悪るさでいっぱいになった。
今、人が、燃えて。真っ黒になって、倒れて、動かなくなっちゃった。
それは、つまり。でも、でも、そんなこと、簡単に……。
頭の中が真っ白になって、何が何だかわからなくなる。
人が死んじゃった。燃えて死んじゃった。
女王様に、殺されて、死んじゃった。
わたしも……わたしも、殺されちゃう…………?
体にぜんぜん力が入らなくて、ただ震えることしかできなくて。
そんなわたしを、女王様は冷たい目で見下ろす。
「次はお前だ。さぁ、この小娘の首を刎ねよ」
もう誰も、女王様の言うことに逆らう人はいない。
兵隊さんたちが、ぞろぞろとわたしの前に集まった。
わたしを見下ろすその人は、頭の先から爪先まで真っ赤だった。
血みたい赤黒い髪の毛は、上に向けて長くのびてる。
まるでロウソクに灯った火みたいに。
そしてそこにはさらに、ぎらぎら光るルビーでできたティアラが乗っかっていた。
目も真っ赤だし、口紅も真っ赤。
少し動きにくそうだけど、『ごうせい』に着飾ったドレスも真っ赤で、クツも真っ赤。
何から何まで真っ赤な女の人が、そのキッと釣り上がった目をわたしに向けて、とってもこわい顔で睨んでくる。
お母さんよりもずっと年上の、とってもキレイなスラッとしたおばさん。でもものすごく『ふきげん』そうな顔のせいで、キレイな顔は『だいなし』だった。
こわくて逃げ出したくなったけど、でもわたしは勇気を振り絞って女王様を見上げた。
だって、あまりにも女の子がかわいそうだったから。
「どうしてそんなひどいことするの? 女王様なら、もっとみんなにやさしくしてよ!」
「ちょ、ちょっと! ダメだよアリス!」
アリアが『かんだかい』声を上げてわたしの足に飛びついた。
ぐいぐいと足を引っ張られるけれど、わたしはそれでも女王様に向かって目を向け続けた。
だってこんなの絶対おかしいもん。
女王様はえらい人なのに、女の子にひどいことをするなんて絶対まちがってる。
だからわたしは、こわくてたまらなかったけれど、でもがんばって女王様に向かった。
「……お前が何者かは知らないが、私が何なのかは心得ているだろう? そして、私に逆らえばどうなるのかも」
「じょ、女王様でしょ? でも、女王様だからって何でもしていいってわけじゃないって、わたしは思う……!」
私を冷たい目で見下ろしたまま、女王様は静かな声で言う。
わたしは自分が震えてるのがわかったけれど、その目に負けないようにぎゅっと手を握って言い返した。
すると女王様はふんっと軽く鼻で笑った。
「そう、私は女王。この国の女王。故に、私は誰よりも偉い……! 私がこの国の法律なのだから、私は何をやってもいいんだよ。なぜって、この国は私の国なんだからね」
アッハッハと大きな声で笑う女王様。
言ってることは、子供のわたしだってめちゃくちゃだってわかる。
でも周りの兵隊さんも、町の人もだれも、女王様の言うことに『はんろん』しなかった。
「それにね、魔女は死すべき害悪だというのは、誰でも知ってる事実だ。私でなくとも、魔女が姿を表せば等しく死が与えられる。そんな常識に異を唱えるお前の方がおかしいのさ。愚かな小娘」
「そんなの絶対おかしいよ! 魔女は何にも、悪いことなんてしてないのに!」
わたしが言い返すと、女王様はお腹を抱えて大声で笑った。
まるでとってもおかしなことがあったように、ゲラゲラと一人で大笑いする女王様。
散々大笑いすると、うっすら浮かんだ涙を拭いて、わたしのことをまた見下ろしてきた。
「バカなことを言う子だねぇ。魔女は存在そのものが罪なんだ。何もしてないなんて冗談じゃない。魔女はね、生きているだけで罪を犯し続けているのさ。お前、そんなことも知らないのか」
「し、しらないよそんなこと……! だってわたしは、魔女が悪いなんて思ったこと────」
「もうやめろアリス!」
ニヤニヤしながら小馬鹿にしてくる女王様に言い返そうとした時、レオがわたしの腰に飛びついてぐっと後ろに引っ張った。
男の子の強い力で引っ張られたわたしは、勢いよく尻もちをついちゃって、お尻の痛さに一瞬目がチカチカした。
「女王陛下に何やってんだ! 今すぐ謝れ!」
座り込んだわたしの頭をガシッと掴んだレオが、わたしの頭を下ろしながら怒鳴った。
「で、でも! だって絶対おかしいよ!」
「でもじゃねぇ! おかしくもねぇ! いいさらさっさと────」
「その必要はない」
わたしと言うことに聞く耳を持たないレオが、わたしの頭をガシガシと下に押しつける。
そんなレオの言葉を、女王様が静かな声でさえぎった。
「謝罪は必要ない。私に逆らった者の末路は同じ。皆等しく、死罪だ。物知らなぬ子供であろうと、それは変わらない」
「え、えぇ……!?」
何の迷いもなく言われた言葉に、わたしは思わず変な声を出してしまった。
女王様はピシャリとそう言うと、小さくため息をついてからそばにいる兵隊さんに目を向けた。
「その者の首を刎ねよ」
「し、しかし相手は幼い少女ですが……」
「そうか。ならばまずお前が死ね」
命令された兵隊さんが困った顔で言うと、女王様は冷たくそう言い放って、紅いマニキュアがぬられた指先を向けた。
すると兵隊さんの体が突然ごうごうと燃え上がって、吠えるような悲鳴が上がった。
一瞬で全身に火がついた兵隊さんは地面にゴロンと倒れ込んで、そしてすぐに動かなくなってしまった。
火はすぐに消えたけれど、そこに残っていたのは真っ黒焦げになった人の大きさのものだけで……。
「っ………………!!!」
全身がさーっと寒くなって、手も足もガタガタと震えた。
今目の前で起こったことが信じられなくて、頭の中やお腹の中や、身体中がぐちゃぐちゃになったような気持ち悪るさでいっぱいになった。
今、人が、燃えて。真っ黒になって、倒れて、動かなくなっちゃった。
それは、つまり。でも、でも、そんなこと、簡単に……。
頭の中が真っ白になって、何が何だかわからなくなる。
人が死んじゃった。燃えて死んじゃった。
女王様に、殺されて、死んじゃった。
わたしも……わたしも、殺されちゃう…………?
体にぜんぜん力が入らなくて、ただ震えることしかできなくて。
そんなわたしを、女王様は冷たい目で見下ろす。
「次はお前だ。さぁ、この小娘の首を刎ねよ」
もう誰も、女王様の言うことに逆らう人はいない。
兵隊さんたちが、ぞろぞろとわたしの前に集まった。
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