普通のJK、実は異世界最強のお姫様でした〜みんなが私を殺したいくらい大好きすぎる〜

セカイ

文字の大きさ
500 / 984
第0.5章 まほうつかいの国のアリス

30 わがままな女王様6

しおりを挟む
「大人気ないよスカーレッド。君は幾つになっても癇癪持ちのままだなぁ」

 わたしたちの前にいつの間にか現れた女の人は、のんきにヘラヘラと笑いながら言った。
 全身だぼだぼな服を着た少しだらしない大人の女の人。
 それは、わたしが知っている人だった。

「ナイトウォーカー! お前、王族特務のクセをして私の邪魔をするのか!」
「邪魔っていうか、あなたを諫めるのも私の仕事のうち、みたいなものだからね、女王陛下。誠に不本意だけれども」

 兵隊さんたちの後ろで、女王様は顔を真っ赤にして叫んだ。
 わたしたちを助けてくれた女の人────夜子さんに向かって。

 夜子さんは大きなため息をついてからやれやれと肩をすくめて、それから後ろのわたしたちに振り返った。
 やんわりとニタニタした顔は、さっき会った時と変わらない。

「やぁアリスちゃん、さっきぶり。君もなかなかどうして無謀なことをするねぇ。流石はと言ったところか」
「よ、夜子さん……? どうしてここに……」
「さぁどうしてだろう。気まぐれみたいなものさ」

 もうダメかと思ったのに助かって、わたしはすこし混乱していた。
 ポカンとするわたしと、わたし以上にびっくりしてるレオとアリア。
 そんなわたしたちに夜子さんはゆるい笑顔を向けてから、また女王様の方を向いた。

「何があったか知らないけれど、相手はお子様だよ? 穏便にいこうよ穏便に」
「その小娘は私を愚弄した。その罪は死をもって償うほかない。私の邪魔立てをするというのなら、ナイトウォーカー、お前とて容赦はしない!」
「容赦しない、かぁ。これは困ったー」

 ぜんぜんこまってなさそうに、夜子さんはニヤニヤしたままほっぺをかいた。
 それから女王様の足元で転がったままにされている魔女の女の子を見て、その後もう一度私にチラッと振り返った。

「……彼女の影響か、それとも純真ゆえか。どちらにしても、私には無視できない感情だなぁ……。やっぱり君は……」
「…………?」

 夜子さんはボソボソと一人で呟いてから、バサバサと頭をかいた。
 すこしイライラしてるみたいな、でもどこかうれしそうな……。

「スカーレッド。君の邪魔をしたいわけじゃないんだけど、だからといって君がこの子たちを殺すのを見過ごすのも気持ちが良くない私なんだ。ここは一つ、私に免じて怒りを鎮めてはくれないかな?」
「ふざけたことを! 私は誰の指図も受けない! ここは私の国。私はこの国の女王だ! 誰であろうとも私に楯突くものは許さない。ナイトウォーカー、お前が私に口を出すのならば、その命を懸けるのだな!」
「やれやれ。子供か君は」

 女王様は『かんしゃく』を起こしたみたいにわめき散らした。
 夜子さんとは知り合いみたいなのに、その夜子さんのことも殺そうとするなんて。
 女王様の『おうぼう』っぷりは、なんだかフィクションみたいにめちゃくちゃだ。
 そんな女王様に、夜子さんは呆あきれたため息をついた。

「者共、かかれ! ナイトウォーカーごと、私に反逆する輩を始末しろ!」

 女王様には夜子さんのあきれ顔は見えていないみたいで、大声で命令を叫んだ。
 兵隊さんたちは夜子さんのことをチラチラ見ながらすこし迷っていたけれど、でも女王様の言うことには逆らえないみたいで、ジリジリとまた近寄ってきた。

「────なんだかわけわかんねぇが、逃げるぞ……!」

 ボーッと夜子さんの背中を見上げていたレオが、急にハッとしてわたしたちの手をとった。
 ぎゅっと力強く手をにぎって、ぐいっと後ろに向かって走り出す。

「逃すな! 殺せぇ!」
「……手助けをするつもりはなかったんだけれど、まぁ少しくらいは、ね」

 すぐに女王様が叫んで、兵隊さんたちが回り込んでくる。
 夜子さんを避けるようにして飛びかかってきた兵隊さんたち。
 けれど夜子さんはそんなこと関係ないみたいで、のんきな声を出した。

 するとわたしたちに向かって飛びかかってきた兵隊さんたちの体が、まるで時間を止めたみたいにピタッと止まった。
 それからすぐに、わたしたちとは反対の方向にぶわっと飛んでいってしまった。

「レオ、逃げ道ができたよ!」
「あぁ。二人とも、離れんじゃねぇぞ!」

 レオはわたしたちの手を強くにぎったまま、走るスピードを落とさずに突き進んだ。
 兵隊さんたちが吹き飛んじゃったことで、わたしたちを邪魔するものは何もなくなって、大通りから簡単に抜け出せそうだった。

「役立たず共め! ならば私の手で殺してやる!」

 わたしたちが路地裏に入り込もうとした時だった。
 女王様の大声に思わず振り返ると、まるで太陽みたいな大きな炎の塊がこっちに向かって飛んできているのが見えた。
 振り返ったわたしにつられてレオとアリアもそれを見て、小さな悲鳴を上げた。

「む、無理……! あんなの無理だよ! レ、レオー!」
「オレだって無理だ! 無茶苦茶だぞこんなの……!」

 目の前がぜんぶ炎で埋めつくされそうなほどの、とっても大きな炎の塊。
 これはきっと女王様の魔法なんだ。
 わたしたちを絶対に殺そうとして、どうしようもないような攻撃をしてきたんだ。

 レオもアリアも完全にすくみあがっちゃって、とてもどうにかなりそうにはなかった。
 まだふれてないのに、でも迫ってきているだけでものすごく熱い炎の塊。
 魔法のことなんてぜんぜんわからないわたしが見たって、これがそう簡単にどうになるものじゃないってことは、よくわかる。

 でも、だからってこのままじゃみんな死んじゃう。
 わたしだけじゃない。わたしを助けてくれようとしてるレオとアリアも死んじゃう。
 それにこんなおっきな炎の塊なら、きっと周りにいる町の人だって……。

 いやだ。そんなのいやだよ。
 魔法はもっと、楽しくてわくわくして、すごくいいもののはずなのに。
 こんなふうに、だれかがだれかを傷つけるために使われるなんて、ダメだよ。

 いやだ、いやだ、いやだ。
 こんなのはいやだ。

 自分が死ぬのもいや。
 レオとアリアが死んじゃうのもいや。
 他の人が死んじゃうのだっていや。

 わがままな女王様も、それを押しつけられなきゃいけないことも。
 楽しいはずのこの国で、こんならんぼうなことが起きるのも。
 ぜんぶぜんぶいや。

 この国は、魔法は、もっと楽しくあってほしい。
 こんな現実こんなの、ぜんぜん楽しくない。

 魔法はもっと、楽しいことに使わなきゃ。
 みんなで、わくわくできるようなことに使わなきゃ。

 レオとアリアを殺すためになんて、絶対ダメなんだ……!

「わたし、そんなのいやだよ!!!」

 思わず叫んだ。
 そんなこと言ったってどうにもならないってわかってるのに。
 でも、わたしの心が思うままの気持ちを叫んだ。

 わたしに力を貸してくれる大事な友達。
 その二人が傷つくのなんて、わたしのために傷つくなんて、絶対いやだったから。

 そう想いをこめて、叫んだ時。
 わたしの胸の、心の奥さがグーっと熱くなった。
 わたしの気持ちの、さらに奥深くから何かとっても大きなものが込み上がってくる。
 そんな風に思ってしまう感覚が、わたしの胸の奥から全身に広がった。

 次の瞬間、わたしたちに向かって飛んできた炎の塊が急にピタッと止まった。
 かと思うと、もぞもぞぐにゃぐにゃと形がゆがんで、そしてくずれ出した。
 それからバーンと大きな音を立てて、ものすごいスピードで空へと高く飛び上がる。

 そして、雲のない真っ青な空の上まで上がると、炎の塊はまるで花火みたいにドカーンと大きく弾けた。
 昼間だからよく見えなかったけど、本当にただのキレイな花火みたいに。
 今までわたしたちに向かってゴウゴウと飛んできたのが嘘みたいだった。

 みんな、ポカーンとそれを見上げた。
 わたしもレオもアリアも、夜子さんに、それから女王様まで。

 ドーンとおもくひびいた花火の振動が収まった頃になって、みんなの目がゆっくりと下に降りてきて、それからわたしに向いてきた。

 みんなのびっくりした顔がわたしを見てる。
 でも、ここにいる誰よりも一番びっくりしてる自信があるわたしは、もう何が何だかわからなくて。
 え?っと首を傾げることしかできなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...