普通のJK、実は異世界最強のお姫様でした〜みんなが私を殺したいくらい大好きすぎる〜

セカイ

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第0.5章 まほうつかいの国のアリス

43 喋る動物と昔話10

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「えっと、ドルミーレのお話のこと……?」
「そうそう。君の心は、その話を聞いてどう感じたのか教えて欲しいなぁ」
「そんなこと、急に言われても……」

 ニヤニヤと聞いてくる夜子さんに、わたしはすっかりこまっちゃった。
 今教えてもらったドルミーレのお話は、わたしにはむずかしいことばっかりなんだもん。
 この世界のことや魔法のことをよく知ってるレオとアリアは、わたしなんかより色々わかったみたいだけど。
 だからわたしには、本当にざっくりしたことしか言えることがなかった。

「わたしはなんだか、とってもかなしいなぁって思ったよ」
「かなしい、ねぇ。それは一体、だれが?」
「みんな、かな。ドルミーレも、周りの人も、なんだかかなしいなって」
「ふーん。君はそう思ったのか……」

 夜子さんはあぐらで逆さまのまま、腕を組んでふむふむとうなずいた。

「みんな悲しい、か。じゃあ君はだれが悪いと思う? 悪に染まって力を振りかざしたドルミーレかな。それともあるいは、彼女を迫害した周りの人間かな」
「えぇ……? 誰もわるくないんじゃないかなぁ。わかんないけど、でも悪いことをしようとしてした人は、いないんじゃないの? ただ、みんなすれ違っちゃっただけで……。だからわたしは、それがかしいなって思ったよ」

 ただすごい力を持ってるってだけで、みんなからこわがられちゃったドルミーレ。
 でも、だれも敵わないすっごい力を持ってたら、みんながこわがっちゃうのもしょーがないのかも、とは思う。
 でもだからって仲間外れにしたりするのはよくないけど、でもきっとただこわかっただけで。

 ドルミーレだってみんなと仲良くしたかったはずなのに、でも仲間外れにされ続けたのがさみしくて、心があれちゃったんだと、わたしはそう思った。
 だから、ずっとずっと嫌われ続けてたら、グレちゃってもしょーがないんじゃないかなって気がする。

 だれが悪いってわけじゃないけど、でもみんながもうすこしだけ優しかったら、もっとちがうふうになったんじゃないのかなって。
 だからわたしは、この話はかなしいなって思うんだ。

「なるほど、君はそう感じるわけだ」

 夜子さんはくるんと逆さまから普通になって、目を細くしてわたしを見下ろした。

「この話は普通、悪に染まってしまった魔女を英雄が打ち倒して、国は平和になって発展しましたって話なのさ。ドルミーレが本来善良な人間だったかどうかは問題じゃなくて、大きな力を持った者が心を閉ざして悪に染まり、そしてそれが英雄によって討ち果たされる。それがこの話のキモなわけだ」
「でも、それじゃあドルミーレがただの悪者みたいだよ」
「そうだよ。世間一般、周りの人間から見たら、彼女は絶対悪さ。だって、他人の心の内なんて誰にもわからない。実際、彼女が元々善良だったかどうかなんて、そんなものは人にはわからないのさ。他人から見れば彼女は強大な力を振りかざす危険な存在にしか見えない。だって、彼女はその強大な力で人々に恐怖を与えてしまっていたという部分は、事実なのだから」
「そんな……」

 確かに、今聞いた話の中にドルミーレが元々どういう人だったかって内容はなかった。
 だから、『悪に染まった』っていっても、そもそもそんなによくない人だったって可能性だってあるんだ。
 でもやっぱりわたしは、ドルミーレが周りの人たちに悪い人だって決めつけられちゃったのは、悲しいことだと思う。

 夜子さんの言う通り、その人のことはその人にしかわからない。
 だから、いい人だったかわからないのと同じくらい、悪い人だったかもわからないんだから。

「そんなものなんだよ。でもこの話は、ヒトの集団意識による無意識の悪意を論ずることもできる。悪意のない悪意、大衆による集団心理だ。他人の勝手なイメージと、みんながそう思っているから正しいんだと思ってしまう同調による肯定。そんなヒトの醜さを物語っているとも言える」
「………………???」

 急にものすごくむずかしいことペラペラと言われて、わたしは頭がこんがらがってしまった。
 夜子さんはそんなわたしにふふっとわらって、ごめんごめんと謝った。

「まぁとにかく、普通はどっちかが悪いって思うのが普通ってことさ。そしてこの国に生きている人間、特に魔法使いには、『始まりの魔女』であるドルミーレが悪く聞こえる。まぁ今の話聞けば風はそう思う。そういうものさ。だってそういう話だ。そういうふうに伝聞した話だ」

 夜子さんはチラッとレオとアリアに方に目を向けた。
 わたしもつられて見ると、二人ともひかえめにうなずいていた。

「けれど、君はどっちも悪くないと言った。あからさまに悪役のドルミーレも、ヒトの醜さを表している周りの人々も、どっちも悪くないとね。私は、君のその感性を評価するよ。君はとっても柔軟で、自由な心を持っている」
「そう、なの……?」

 夜子さんの言っていることはやっぱりわからなくて、わたしはびみょーなことしか言えなかった。
 そんなわたしに夜子さんはニッコリニヤニヤ笑う。

「何が正解かなんて私にもわからない。感じ方は人それぞれだから、正解だって人それぞれだ。でも君がそう感じるなら、君は『その力』に囚われない選択をできるだろう。誰の意見でもなく、の意思も関係なく、君自身が感じたことを選ぶことができるだろう。君の心は、そんな自由な立場にある」
「…………???」

 ぜんぜんわからない。夜子さんが何を言いたいのかぜんぜん。
 でも、夜子さんはわざとわからないようなこと言ってるのかもしれない。
 だって、わたしの頭がこんがらがってるのを見て、夜子さんは楽しそうにしてるんだもん。

 こまっちゃってレオとアリアの顔を見る。
 でも二人もさっぱりわからないみたいで、うーんとむずかしい顔していた。
 特にレオなんて、考えすぎてふっとうしちゃいそうなくらい真っ赤な顔をしていた。
 髪も真っ赤だからもうとにかく真っ赤っかだ。

「ナイトウォーカー。この子らはまだわっぱなのだから、ぬしの捻くれた話を聞かせてもわからないでしょうに。本当にぬしは、相変わらずというか……」

 ココノツさんがまた大きなため息をついた。
 夜子さんをジトっと見上げてから、わたしたちに優しい顔を向ける。

「あんまり考えすぎないよう。ぬしは思うままに生きていけばいいでしょう。ただし、自分の心に反することだけはしないようになさいな。誰が何を言おうと、ぬしは心のままになさい。そうすれば、自ずとぬしの道が開けるでしょう」
「もー。いい感じにザックリふわっとまとめるなぁ」

 わたしに優しく言い聞かせてくれるココノツさんと、少しふてくされて感じの、でもニヤニヤ楽しそな夜子さん。
 どっちにしてもわたしにはむずかしいことだらけど、でもとにかく、わたしはわたしらしくいてればいいって、そういうことなのかな?
 いつもどおり友達と一緒に、楽しくしてれば、きっと大丈夫だよね。

 わたしはとりあえずそう『なっとく』することにした。
 わたしの不思議な力とか、『始まりの魔女』との関係とか、わからないことはたくさんあるけど。
 でもレオとアリアが言ってくれたように、わたしはわたしだから。
 わたしは、わたしがやりたいようにやる。

「……ところでナイトウォーカー。ぬしは何の用でここへ? まさかそんなつまらない茶々を入れるために来たわけではないでしょう?」
「あー。まぁ別に用って用ではないんだけどね。ただそうだなぁ、強いて言うなら……」

 ココノツさんはもう一度キセルに火をつけて、大きく吸い込んでから思い出したように質問した。
 ぷーっと煙を吐くココノツさんに、夜子さんは空中で寝っ転がりながのんきな声で答えた。

「この町に女王の兵が来るよって、教えてあげようかなって思ってさ」

 夜子さんののんきな言葉に部屋の中がシーンとなった。
 そして、そこではじめて、外からワーっとさわがしい声がたくさん聞こえてきた。
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