普通のJK、実は異世界最強のお姫様でした〜みんなが私を殺したいくらい大好きすぎる〜

セカイ

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第0.5章 まほうつかいの国のアリス

45 喋る動物と昔話12

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「おぬしは……」
「あぁ……ココノツ様……」

 後ろからじゃわからなかったけど、ココノツさんはとっても驚いているみたいだった。
 そんなココノツさんに、ワンダフルさんはすがりつくような声を上げた。

「私は、聞いてしまったのです。察してしまったのです。あの子たちがしようとしていることを……! だから私は、この町の、我々の為になることをしたかったのです。あの子たちは良い子たちですが、しかし法を犯そうとしていました。それは、それはよくないことでございましょう。それを知ってしまったら、報告をあげるのがこの国に住うものの務め。国のお役に立てば、我らの地位も良くなるものと……!」

 ワンダフルさんはまるで申し訳なさそうにすこしおどおどしながら、でもしっかりと見上げて力強く言う。

「私は生まれこそ『どうぶつの国』ですが、物心ついてすぐここに家族でやってきて、この町の生活の方が遥かに長う御座います。この町が好きなのです。この町で、皆がより良い生活をできればと、私は思うのです。ですからどうか、ココノツ様。あの子たちを……!」
「……なるほど。ぬしの気持ちは、よーくわかりましたとも」

 ワンダフルさんが、わたしたちのことを兵隊さんに報告したんだ。
 はっきりと西のお花畑に行くとは教えなかったけど、でももしかしたらみんなで話してるところを聞かれちゃってたのかもしれない。

「クソ……! アイツがチクリやがったのかよ。もっと警戒しておくべきだったか……」
「ううん。ワンダフルさんは、悪くないよ。ワンダフルさんは、自分たちにとって一番正しいと思ったことをしたんだよ。きっと」

 ガリっと歯を食いしばるレオに、わたしは首を横に振った。

「西のお花畑に行こうとしてたわたしたちは、悪いことをしようとしてたんだもん。それを知っちゃって隠してて、もしバレたらワンダフルさんが罰を受けてたかもしれないし。それに、この町の人たちはずっと差別で大変だったんだから」
「アリスは、それでいいの……?」
「うん。だって、ワンダフルさんは悪い人じゃないってわかってるもん。たくさん親切にしてもらって、仲良くなったでしょ? だからわたしは、ワンダフルさんが悪いとは思わないよ」
「もう、まったくアリスは……」

 ちょっとかなしいなとは思うけど。
 でも、悪いことをしようとしてたのはわたしたちなんだから。
 だから、ワンダフルさんを責めちゃダメなんだ。

 わたしが言うと、アリアはやれやれと苦笑いをしながらため息をついた。
 レオは少し不満そうだったけど、でも文句は言わなかった。

ぬしの気持ちはわかったけれど、認め納得するかは別の話」

 ココノツさんが、静かにそう言ったのが聞こえてきた。
 わたしたちは息をひそめて、身を寄せ合って門の外に集中した。

「なるほど、その様な子らがいたとして、それを密告することで我らの立場が良くなるとして、果たしてそれが最善なのでしょうかねぇ。わちきはそうは思いません。正しさとは己の心で測るもの。ヒトの良し悪しは己の目で見極めるもの。目の前の欲に眩み、誇りを見失った行為は、わちきは善しと思えませんねぇ」
「コ、ココノツ様……! 私は……!」
「ワンダフル。ぬしを責めるつもりはありませんとも。しかし、わちきはわちきで、己が信念を持って臨むまで」

 ワンダフルさんはすっかりショボンとして、俯きながら上目遣いでココノツさんを見上げていた。
 ワンダフルさんがなんと言ったとしても、ココノツさんは自分の気持ちを曲げるつもりはないみたいだった。
 そんな二人を見て、隊長さんは痺れを切らして怒鳴った。

「何をゴチャゴチャと言っている! この犬は、反逆者がいると報告を上げ我らを呼んだ。それが真実ならば即刻身柄を引き渡せ。そうすれば匿っていたことを咎めはしない。しかしそこをどかぬと言うのなら、我らも手荒な手段に出るほかない。それともなにか? この犬は虚偽の報告をして我々を謀ったと、貴様はそう言うか? この犬こそが我らに対する反逆者だと……!」
「………………」

 ワンダフルさんがヒッと悲鳴を上げた。
 大声で怒鳴る隊長さんと、縮こまるワンダフルさん。そしてそれを静かに見下ろすココノツさん。
 なんだか、とんでもないことになっちゃった。

 わたしたちがこの町に来て、余計なことを喋っちゃったから。
 ワンダフルさんも、ココノツさんも、巻き込んじゃったのはわたしたちだ。

 ココノツさんはわたしたちを庇ってくれようとしているみたいだけど、そしたら兵隊さんが襲ってくるか、ワンダフルさんが悪者にされちゃう。
 それはダメだ。ぜったいダメだよ。だって、この町の人は何にも悪くないんだから。

 そんなのわたし、いやだ。

「……アリア、レオ、ごめん。わたし、また無茶するかも……」

 おっかなびっくり言うと、二人とも困った様に笑った。
 でも、怒ってる顔じゃない。

「まったくもぅ。アリスなら、そう言うと思ったよ。でもしょーがないよね。だって、アリスは優しい子だもん」
「仕方ねぇから付き合ってやるよ。お前はそういう奴だってよく知ってる。そんなお前だから、オレたちはずっと守ってやりたいって思ってるんだからな」
「ごめんね。ありがとう」

 ニカッと笑ってくれる二人の手を、ぎゅっとにぎる。
 ちょっとこわいけど、でも二人がいてくれれば平気だって思えた。

 わたしは二人と顔を見合わせてから、覚悟を決めて外を見た。
 ココノツさんのふわふわだった九本のしっぽは、ボサボサに毛羽立ってる。
 ココノツさんも、きっととっても迷ってて、怖いんだ。

「……わちきは……わちきは何も────」
「わたしたちならここだよ!!!」

 おっとりした声を少し震わせながら、ココノツさんが何かを言い出そうとしてる。
 だからわたしはそれをさえぎるために、大声を出しながら玄関口から飛び出した。

 たくさんの目が、一斉にわたしたちに注目した。
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