普通のJK、実は異世界最強のお姫様でした〜みんなが私を殺したいくらい大好きすぎる〜

セカイ

文字の大きさ
628 / 984
第7章 リアリスティック・ドリームワールド

59 もう一度あちらへ

しおりを挟む
 ホワイトはきっと、世界の在り方の事実を知ったんだ。
『始まりの力』によって私の夢が形を持ったのが、あちらの世界だということを。

 ホワイトはそもそもこちらの人間だけれど、『魔女ウィルス』に感染し、そしてレイくんと出会っている。
 その立場と正義感が、魔法使い優位のあちらの世界の在り方を許せなかったんだ。
 そしてそれが作り物によるものだと知ったことで、その全てを正そうと考えた。その正義の名の下に。

 憶測に過ぎないけれど、大きく外れてはいないと思う。
 魔女としての正義を貫く彼女は、そういうものとして作られた世界を間違っていると判断したんだ。
 だから魔法使いに叛逆するレジスタンス活動の果てで、世界そのものを自分たちの納得する形にしようとしている。
 彼女たちが信奉しているドルミーレを中心とした、魔女の世界を。

 その気持ちは、今の私にはよくわかる。
 誰かの手によって作り出された偽りの世界。しかもそれが不条理なものであれば、受け入れるのは難しい。
 私だって、自分の夢をベースに創り出された世界が、どうして『魔女ウィルス』に多くの人が苦しめられているような、そんな悲しいことになっているのか納得できない。
 けれどだからといって、今そこで過ごし生きている人たち全てを否定して、自分の都合の良い世界に創り直してしまおうなんて思わない。

 魔法使いには彼らの考えや都合があって、それは一方の考えで勝手に否定していいものなんかじゃない。
 魔女を忌み嫌い蔑む魔法使いだけれど、そこには正統性だってあるのだから。
 魔女狩りがしていることは残虐だけれど、でも彼らが魔女を討ち取っているからこそあの国は成り立っているという現実は、決して目を背けてはいけない。
 魔女が全く狩られていなかったら、『魔女ウィルス』の侵食による死人は沢山出ていて、国は崩壊していたかもしれないんだから。

 だからやっぱり、ワルプルギスの行いを黙って見ていることなんてできない。
 その叛逆も、無謀な戦いも、世界の再編も。
 魔女の一方的な都合と価値観によるそれは、決して許せるものではないから。

「夜子さん。私、お願いがあるんです」

 大きく息を吸って気持ちを整える。
 私が改まって目を向けると、夜子さんはうんと静かに頷いた。

「私、また『まほうつかいの国』に行きたいんです。その為に、力を貸してもらえないでしょうか」

 私の手を握る氷室さんの手が、ピクリと揺れた。
 けれどそれは一瞬で、すぐに私を支えるように握る強さが強められた。
 その感触を頼もしく思いながらまっすぐ夜子さんを見続けると、穏やかな笑みが返ってきた。

「なるほど。もう、決めたんだね?」
「はい。もう後手に回っている暇はありません。私は自分の手で全てを救う為に、あちらの世界に行って向き合いたいんです」

 一瞬も目を逸らさず、夜子さんに向けて覚悟を口にする。
 五年前に封印を受ける前、幼かった私は夜子さんに弱音をこぼして問題を先延ばしにするという選択肢を提示された。
 その先延ばしにしたものを、受け止めるのが今だ。
 長い間溜め込んできたものに目を向けて、今こそ全てに立ち向かう時だ。

 あの世界は私によって生み出された世界なのだから。
 私に中に眠るドルミーレが全ての問題の原因なのだから。
 私はあの世界で全てを目にし、対面する責任がある。

 その為の強さを、もう私は培ってきたはずだから。

「世界が私の夢から生まれたものだとしても、今起きている問題や苦しみは本物です。ワルプルギスが起こそうとしていることや、魔法使いが巡らせている思惑。そして全ての原因であるドルミーレ。その全てにケリをつける為には、もうここでじっとしてなんていられない。だから夜子さん。私に、あちらの世界に行く力を貸してください」
「…………」

 私の言葉にゆっくりと耳を傾けながら、夜子さんは無言で頷きながらソファーに背を預けた。
 ゆったりと座り込んで、緩やかな視線を私に向けて口元を緩める。
 しばらくそうやって私のことを観察してから、夜子さんはそっと口を開いた。

「もちろん、君が望むのなら手を貸そう。私は君の選択を見守るのが仕事だからね。君が全てに向き合う覚悟をしたというのなら、その背中を押すだけさ」

 そう言うと、夜子さんが穏やかな笑みから普段通りのニヤニヤ顔に切り替えた。
 余裕に満ち溢れた、どこか尊大で偉そうな、けれど抜けきった緩い笑み。
 今も昔も私が良く知る、夜子さんの姿だ。

「私は君自身の選択を尊重する。君が君らしく生き、感じるままに動くことこそが私の望みだからね。その果てに現れる結果を、私は粛々と受け入れるさ。最後に結論をつけるのは結局だからね」
「……はい。ありがとうございます」

 夜子さんはきっと、まだまだ私にはわからないことを知っている。
 けれどそれを今話さないのなら、それはきっとまだ今知るべきことじゃないんだ。
 夜子さんがそう判断しているのなら、私は今自分にわかることに意識を向けて立ち向かおう。

 ここまできたら、きっと全てが明らかになるのはそう遠くないだろうから。

 夜子さんは私が力強く頷くのを確認すると、満足そうに笑みを強めて、それなら視線を隣の氷室さんに向けた。
 ニヤニヤとしたいつもの笑みを浮かべながら、緩やかに煌く瞳で氷室さんを舐め回すように眺める。

「君も、一緒に行くのかな?」
「…………はい。もちろん」
「そうか。君は本当にアリスちゃんが大好きなんだねぇ」

 すっと私に身を寄せながら頷いた氷室さんに、夜子さんは軽い口調で素っ気なく返した。
 自分で聞いておいて、と思ったけれど、夜子さんは夜子さんで氷室さんのことを心配しているのかもしれない。
『まほうつかいの国』出身の氷室さんは、魔女になったことでロード・スクルドをはじめとする家族から迫害を受けた。
 そんな人たちがいるあちら側に行けるのかと、それを確かめたかったのかもしれない。

 けれど氷室さんのスカイブルーの瞳には強い覚悟が宿っている。
 だから夜子さんはそれ以上何も言わなかった。

「あの、あと善子さんも一緒に行ってくれると思います。ホワイトを一緒に止めるって、約束したので」
「善子ちゃん、ねぇ。そっかー」

 私の言葉に夜子さんは視線を逸らし、困ったように眉を寄せた。
 何故そこで渋るのか。私が尋ねようとすると、夜子さんはすぐに表情を戻して先に口を開いた。

「────まぁわかった。君たちにを向こうに送ってあげよう。こちらの世界のことはひとまず私に任せておくといい」

 お行儀悪くソファーの上で膝を立てて、夜子さんはのんびりと言った。
 器用に膝に肘を乗せて頬杖をつき、歪んだ顔で私のことをジッと見る。

「ただ、今日のことで私も結構疲れていてね。すぐに君たちを送り出すってわけにもいかない。世界間移動は燃費悪いしさ。それにアリスちゃんだって大分堪えているだろう? だから今日はみんなでゆっくり休んで、行動は明日起こすとしよう」
「そ、そうですね……。焦って行くより、万全に準備した方がいいですし」
「そういうこと。それに考える時間が必要な子も、まだいるだろうからね」

 そう言うと、夜子さんは明後日の方向に視線を向けた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...