普通のJK、実は異世界最強のお姫様でした〜みんなが私を殺したいくらい大好きすぎる〜

セカイ

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第0章 Dormire

1 名もなき少女

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キャラクター/左:ホーリー 中:ドルミーレ 右:イヴニング
イラスト:時々様


 ■■■■



 気が付いた時、私はこの世界で生を受けていた。
 いつ、誰が、どこで、どうして私を産み落としたのかは、全くもってわからない。
 私はいつの間にか森の中で一人だった。

 親に捨てられたのか、はたまたはじめから親なんていなかったのか。
 まぁどこぞの女が無責任に捨て去ったのだろうと当たりを付けつつ、やはり確かなところはわからない。
 そんなことを思いつつも、どこか親という存在に実感が湧かなかった私は、もしかしたら本当にはじめから一人だったのかもしれない。

 そんな私は、森の中で一人、十二年の時を過ごした。
 正確には森の動物たちが相当なお節介を焼いてきたのだけれど。
 それでも私は、森の中で一人で静かに暮らしていた。

 人間としての知性や文化、常識や品性は、何故だか頭の中に自然と湧いてきた。
 だから私の生活は、野生が跋扈する森林の只中としては、とても文化的でヒト的なものだと思っている。
 実際に他の人間というものを目にしたことがないから、正確なところはわからないけれど。
 それでも私は、現状の生活に不自由や不便を感じたことはなかった。

 私には、森の動物たちにはないとても不思議な力がある。
 身体能力を逸脱したこの力は、きっと神秘の類なんだろうと私の頭の中にある知識が言ったけれど、じゃあそれがなんなのかはわからなかった。
 とにかく私には、自分の意思を世界に事象として反映させる力があった。

 その力のお陰で、私は森の中で一人で生活することができた。
 木を切り倒して小屋を作り、食糧を調達し衣服を整え、火を熾し水を集める。
 あらゆることはこの力のお陰で意のままに運んだけれど、きっとこの力はそれだけではないと私の無意識が悟っていた。
 恐らくこの力はもっと大きなもので、私の日々の生活の手間を軽減させる程度のものでは治まらない。
 そう思ったけれど、それ以上を望む気もなかった私は、深くは気にせず日々を過ごしていた。

 特に何を望むことのない日々。私は、その日を生きていければ満足だった。
 優しい風に包まれ、豊かな深緑に覆われ、鮮やかな花々や賑やかな動物たちに囲まれる日々。
 代わり映えはなく、けれどだからこそ心地がいい。そんななだらかな毎日。
 そんな私にとって、自身にある不思議な力なんてものは大きな意味を持っていなかった。

 私はただ、毎日を緩やかに過ごしているだけで満足だったのだから。

 そんな私は、十二年間森から出たことがなかったし、特に出たいとも思わなかった。
 力のお陰で日々の生活に困ることは全くなかったし、毎日動物たちが私の周りではしゃいでいるから、人恋しさの様なものも感じたことはない。
 知識としてあったヒトの文化というものが実際どういったものなのか、という興味はなくはなかったけれど。
 それをわざわざ確認しにいく必要性も意義も感じられなかったから、結局ずっと森の中。

 ヒトとは凡そ群れるもので、特に人間という生き物は社会を構築するものだと、頭ではわかっているし知っていた。
 けれど生まれた時から一人だった私には、特段それを欲する意欲がなくて。
 一人で生きていけるのに、わざわざ他人を求める意味が見出せなかった。

 それでも、私の頭の中には人間としての在り方が刻まれているから、本来ならば他の人間の様に多くの他者と生活を共にするべきなんだろう。
 家を建てることや、色々な道具を使うこと、食べ物を調理すること、衣服を身にまとうこと。
 そういった人間的な生活を送っているのだから、きっと人と交わるべきなんだろう。
 けれどそれをするきっかけや、理由がどうしても見つからなかった。

 だから私にはしばらく、名前がなかった。
 他者が存在しない私の日々の中では、自分を差す言葉が必要なかったから。

 けれど五年ほど前のこと、私は白いユリの花に名前を聞かれた。
 そのユリは、花弁の中で瞬く瞳で私を興味深そうに見上げながら、名前を聞いてきた。
 私がないと答えると、ユリは驚きながら笑った。

「それは大変ね。困ってしまうわ」

 意味がわからず、どうして困るのかと尋ねると、ユリは歌う様に笑いながら答えた。

「だってあなたを呼ぶ時に困ってしまうでしょう。名前はね、人から呼ばれるためにあるのよ」

 そう言うユリに、私は漠然とそういうものかと納得した。
 他者と関わることのなかった私に、誰かから呼ばれるという概念がなかったけれど。
 このユリと会話する場合は、確かに呼称が必要かもしれないと。

 それまでヒトの言葉を介す存在と関わってこなかった私には、とても新鮮な感覚だったと覚えている。

「私のことは、ミス・フラワーとでも呼んで頂戴。それで、あなたはなんて呼べばいいの?」

 聞かれても、名前がない私には答えようがなかった。
 必要だとしても、なければ始まらない。
 普通のヒトというのは生まれた際に周囲のヒトが名付けるものの様だけれど、私にそういったヒトはいないから。

 私が困っていると、ミス・フラワーは私の手元に目を向けて、「じゃあ」と口を開いた。
 その時私は森の木の実を集めている中で、綺麗な花を摘んでいた。
 帰ったら小屋の中に飾ろうと、紫が鮮やかな花を。

「あなたのことは、『アイリス』と呼びましょう。よろしくね、アイリス」

 そして私はその日からアイリスとなった。
 ただその後の五年間、彼女以外からその名を呼ばれる機会はなかったけれど。
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