普通のJK、実は異世界最強のお姫様でした〜みんなが私を殺したいくらい大好きすぎる〜

セカイ

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第0章 Dormire

51 茶飲み話

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「────それにしてもドルミーレ。あなた、とっても綺麗になったよね」

 しばらくポツリポツリと会話した後、ホーリーは唐突にそう言った。
 目をキラキラと輝かせて僅かに身を乗り出すその様子は、幼い少女時代と変わらない。

「そう、かしら。あまり自分の身なりを気にしたことはないけれど」
「前から綺麗だったけど、もっとずっと綺麗になった。なんて言うのかなぁ……儚げで不可侵っていうか。触ったら壊れちゃいそうな、そんな繊細な感じになったよ。単に大人びたってよりさ」
「よくわからないけれど……私はそんな簡単には壊れないわ」
「ものの例えだよー」

 私が首を傾げながら応答すると、ホーリーはカラカラと笑った。
 自らの美醜についてなんて、考えたこともなかった。
 物や風景を見て美しいと感じることはあっても、ヒトを、まして自分をそういう目で見たことなんて。
 自らの容姿に別段のこだわりはないけれど、でもホーリーが喜ぶ様子を見ると悪い気はしない。

「確かにドルミーレは、この世のものとは思えないほどに綺麗だね。大人になったことで麗しさが増したよ。その長い黒髪も、昔と変わらないワンピースも、よく似合ってる」
「そう。あなたたちがそう言うのなら、敢えてこの状態を変える必要もないわね。元々変えるつもりも特になかったけれど」

 イヴニングまでも褒めそやすのだから、凡そ私の容姿は美しい部類に入ると考えていいようだ。
 それが大多数の賛同を得るかどうかは別問題としても、二人がそう認めるのであれば、敢えて現状を崩す必要はない。
 むしろは私はこれから、ただ生きる、それ以外のことへと目を向け、人生に彩りを見つけた方がいいかもしれない。

 流れのままに返した私に、二人はニコニコと頷いた。
 そしてホーリーは私とイブニングを交互に見比べ、やや口を尖らせる。

「もぅ、イヴだって可愛い顔をしてるんだから、もっとちゃんとすればモテるんじゃないの?」
「私は別に、そういうのには興味がないんだ。それに、ドルミーレだって身なりを気にしていないって言ってるじゃないか。私と同じだ」
「ドルミーレは気にしてなくてもちゃんとしてるじゃん。イヴと一緒にしないでくださーい」

 面倒臭そうに顔をしかめたイヴニングに対し、ホーリーは彼女のルーズな服を摘んで溜息をついた。
 確かにイヴニングは、私が今まで見てきたあらゆるヒトの中で、トップクラスにだらけているように見える。
 私はそれに対して特に思うところはないけれど、外見が緩み切っているという印象は確かに否めない。

 しかしイヴニング本人がそれでいいのなら、友とはいえ他人が口出しをすることではないだろう。
 でもホーリーはぶつくさと小言のように文句をこぼして、イヴニングに煙たがられている。
 ただイヴニングも見た目ほど嫌がっているわけではないようで、強い拒絶の意を示しはしなかった。

「こんな国外れの町だからいいけど、他の町とか王都の方は、結構おしゃれな人多いんだからね?」

 小言を右から左に聞き流しているイヴニングに眉を寄せながら、ホーリーは思い出すように言った。

「まぁ、人間はどこもそんなに裕福じゃないけどさ。でもやっぱり、ちゃんとしてる人はしてるんだよ。綺麗に着飾れとは言わないけど、もう少し女の子らしくした方が絶対いーよー」
「はいはいわかったわかった。まぁ気が向いたら考えておくよ」
「いつ気が向くんだろうねー」
「因みに、そういうホーリーはどうなんだい。その真っ白ファッションが今の流行って認識でいいのかい? それが所謂女の子らしい着飾りなのかな?」

 溜息交じりに皮肉をこぼすホーリーに、イヴニングがするりと切り返した。
 彼女が身にまとっている白尽くめのローブを上から下まで眺め見て、小さく鼻で笑う。

「それが女の子らしい可愛いファッション……? 私の美的センスが壊滅してるのかな?」
「こ、これはそういうので着てるんじゃないの……! イヴの美的センスは壊滅してるかもしれないけど、でもこれは女の子らしさとは別物って認識で合ってますぅ!」
「さらっと私の美的センスの壊滅を肯定するよなぁ君は」

 慌てて身を捩って、服を隠すように自らを抱きしめたホーリーに、イヴニングはやれやれと苦笑した。

「で、じゃあなんだい? お洒落ではないとすると、それはどういうセンスなんだい?」
「別にどうだっていいいでしょ。女の子だからって、必ずしも常に着飾ってなきゃいけないわけじゃないんだから」
「今君がそれを言うのは、やや説得力に欠けるなぁ。ねぇ、ドルミーレ」

 肩を竦めるイヴニングが、唐突に私に同意を求めてきた。
 二人の軽やかなやり取りをのんびりと眺めていただけだった私は、思わず僅かにびくりとしてしまった。
 ホーリーは何か助け舟を求めるように見つめてきているし、イヴニングは同意を得られるのが当然と言う顔でにやけている。

 どちらかと言えば、イブニングの発言に近しい印象を感じる私だけれど。
 でもきっと、この場合はどちらを立てるのも得策ではないように思えて。
 だから私は、わからないという風に肩を竦めて見せた。

「────まぁ、そうだなぁ。君の印象とは些かずれる感じの出立ちだよね。スタイリッシュというか。とすると……」

 私の反応に微笑みながら、イヴニングはホーリーに意地悪な視線を送る。

「大方、カッコつけ、あるいは頭良く見えるかも、とか。まぁそんなところかな?」
「ぎくっ」
「図星を突かれたからって口に出して言わないの」
「あーんイヴなんてきらーい!」

 容赦のないイヴニングの言葉に、ホーリーは喚き声を上げてテーブルに突っ伏した。
 私は特にその服装を気にはしていなかったけれど、その彼女の印象とはやや異なる出立ちは、どうやら彼女なりの見栄のようだ。

 そんな彼女を笑いながら、しかし「ごめんごめん」と背中を摩るイヴニング。
 しばらくすると、不貞腐れた顔をしながらホーリーが顔を上げた。

「王都に行ってみた時、学者さん?みたいな人たちは大体、こんな感じのローブを着てたんだよ」

 ブスッと頬杖をついて、ホーリーは渋々口を開いた。

「ビシッと決めててカッコ良かったし、私もああいうの着れば、田舎っぽさ抜けるかなぁと思ってさ」
「田舎っぽさに加えて、ホーリーは元気おバカだからねぇ」
「おバカとは失礼な!────とにかく、少しでもしっかりした感じに見せようと思ってさ。でもいざ買おうとしてみたら、案外どれも高くって……。一番人気のなかった白しか買えなかったんだよぉ」

 茶々を入れるイヴニングをポカリと叩きながら、ホーリーはガックリと項垂れた。
 その王都の光景はわからないけれど、確かに誰も彼もが白い格好をしているとは考えにくい。
 彼女が見た人たちは、大分印象が異なるものになってしまったんだろう。

 それでも、私としては特に変な装いであるとは思えない。
 確かに質素で簡素な出立ちが多いこの町では、少し目立つかもしれないけれど。
 でも陽気で奔放な彼女を、少し理知的で大人びて見せる効果は発揮している。

 ただ、会話の流れからしても、これ以上服装について触れない方がいいだろうと思える。
 しかしイヴニングはもう少し虐めてやろうと思っているのか、浮かべている笑みが意地悪い。
 そこで私は、ふと浮かんだ疑問を口にすることにした。

「ホーリー、あなたはこの町を出ていたの?」

 会話の節々からそんな予感はしていたけれど、改めて尋ねてみる。
 するとホーリーはくるっと機嫌を直し、輝かしい瞳で頷いた。

「そうだよ! ドルミーレほどじゃないけど、私も色々見てみたくて、国内だけど少し旅をしたの! お土産話、聞きたい!?」

 爛々と語るホーリーは、まるで子供がはしゃいでいるようだった。
 そんな彼女を見て、イヴニングが「こいつは長くなるぞ」と言うので、私は新しいお茶を入れることにした。
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