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第8章 私の一番大切なもの
22 ただいま
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「本当にごめんね、アリス」
氷室さんと別れ、城の中庭に準備されていた、車だけの馬車のようなものに乗り込んだ時、アリアは俯きながら言った。
二人ずつで向かい合って座れるくらいのこじんまりとした車内の中で、私の正面に座ったレオとは違い隣に身を寄せてきたアリア。
けれど私の顔を見ることなく、下の方に視線を泳がせてしんみりとしている。
「あんな酷いことして。嫌、だったよね……」
「それは、まぁ、ね。とっても苦しかったよ」
膝の上で拳を握って姿勢を正し、とても申し訳なさそうにしているアリア。
彼女に今されたことは確かに辛かったけれど、強く窺える反省の色を見ると、あまり強く責める気にはならなかった。
「でも、私のことを想ってくれてるんだってことは、ずっと伝わってたよ。ただそれでも、辛かったことに変わりはないけど」
「そうだよね……ごめんなさい。私どうしても、あなたのためって思うと歯止めが効かなくなってしまって……それでいっつも、やり方を間違える」
「うん。それはちょっぴり、アリアらしいね……」
ここ最近の彼女を見る限りでも、それは大いに心当たりがある。
アリアはとても優しい女の子なのだけれど、びっくりするほど突貫型になってしまう時が多々ある。
それは私のことを想ってこそだというのは、ちょっと嬉しくもあり、でもやっぱり困ってもしまう。
けれど、それほどまでに私は彼女に心労をかけてしまっているってことなんだ。
「もういいから。お互い怪我って怪我もしなかったし。もう、謝らないで。それに、私だってもっとちゃんと向き合うようにするべきだったって、そう思うし」
「そんな、アリスは悪くなんて……悪いのは私だよ」
「ううん、二人の問題だもん。アリアだけが悪いことなんてないよ。それに────」
俯くアリアの頭を撫でていると、車がぐらりと揺れて、車体がふわりと宙に浮き出した。
どうやらこれは空飛ぶ馬車のようだ。でも、牽引している馬はいなかったけど、何がこの車を引っ張っているのだろう。
小窓から外に向けてみると、お花畑に囲まれた城からどんどんと離れていくのがわかった。
小さくなっていくそれを見て、あの中に置いてきた友達のことが、脳裏によぎる。
「それに、最低なのは私の方だから。私は、大切な友達に、あんな顔をさせちゃった……」
私を見送る氷室さんの顔が、今でもこの目に焼き付いている。
滅多に感情を顔に出さない、出したとしてもほんの僅かな変化しか見せない氷室さんが、泣きそうな顔をしていた。
私の選択を受け入れてくれた彼女だけれど、でも、離れることが不安でたまらなかったんだろう。
大切な友達に、氷室さんにあんな顔をさせてしまって、この選択は正しかったんだろうかと、つい思ってしまう。
彼女を悲しませてまですべきことが、私にはあるのかと。
そんなモヤモヤを抱えながらも、でも、私はやっぱり二人を信じる道を進んでみたいと思った。
後でどれだけ文句を言われても、それは甘んじて受け入れるしかない。
「大丈夫だよ、アリス」
アリアはようやく顔を上げ、おずおずと私の手を握ってきた。
それはおっかなびっくりで、恐る恐る、弱々しい握り方だった。
でも、とても柔らかくて温かい。
「私が言えることではないけれど……でも、彼女はとてもあなたのことを想っていたから。ちゃんと、あなたの気持ちをわかってくれてるよ」
「……うん、そうだね。そうだと、いいな」
今はそう思うしかない。氷室さんならちゃんとわかってくれるって。
それは甘えかもしれないけれど、でも、氷室さんなら大丈夫って信じてる。
彼女はいつだって、私の味方をしてきてくれたんだから。
だから私は、そんな彼女の気持ちに応えるために、決して危険を犯しちゃいけないんだ。
「んあー! しんみりしすぎだ。もうちょいパァっとしようぜ」
私とアリアが静かに頷いていると、正面に座るレオが突然声を上げた。
しっとりとした空気が気に食わなかったのか、彼はわざとらしくニカッと笑み浮かべた。
「まぁ思うとこが色々あるのはわかるけどよ。でもさ、やっと俺ら、三人で揃えたわけだろ? 今はそれを喜ぼうぜ。な?」
「……もう、レオ。少しは空気読んでくれたっていいでしょ?」
「いーだろ別に。しんみりタイムはもうおしまいだ。あんま長くやってもなぁ、ウジウジ続くだけなんだからよぉ」
「これだからレオは……まぁ、レオに繊細な気持ちをわかれって方が無理か……」
わーわーと喚くレオに、アリアはあからさまな溜息をついて見せた。
それに反論しようとしたレオだけれど、アリアの表情から力が抜けたのを見て、開けた口を閉じた。
五年ぶりの親友は、大きくなったけれど、でも昔とちっとも変わっていない。
まるであの時から途切れることなく一緒にいるみたいに、全く違和感を覚えたない。
かつて三人で国中を旅した時、ずっと三人で一緒にいたあの時と、なんら変わらないと思えた。
こうして三人で肩を並べると、どうしてもこの空間が居心地よく感じられてしまう。
「ねぇ、レオ、アリア」
レオはぐんと背が伸びて、とっても男の人っぽく、頼もしくなった。
アリアはスラリと綺麗になって、優しく嫋やかなお姉さん感が強まった。
成長した親友たちが、とても愛おしく映る。
私が名前を呼ぶと、二人は優しい表情で私の顔を見た。
そんな些細な仕草も、あの時と何一つ変わりない。
「今言うのって、すごく変だと思うんだけど……でも言わせてほしい」
そんな二人を見ていたら、言わずにはいられなかった。
私にとって二人がいる場所は、確かに私の居場所だったから。
「レオ、アリア……ただいま」
気持ちのままを言葉にする。
二人は、泣いてしまった。
氷室さんと別れ、城の中庭に準備されていた、車だけの馬車のようなものに乗り込んだ時、アリアは俯きながら言った。
二人ずつで向かい合って座れるくらいのこじんまりとした車内の中で、私の正面に座ったレオとは違い隣に身を寄せてきたアリア。
けれど私の顔を見ることなく、下の方に視線を泳がせてしんみりとしている。
「あんな酷いことして。嫌、だったよね……」
「それは、まぁ、ね。とっても苦しかったよ」
膝の上で拳を握って姿勢を正し、とても申し訳なさそうにしているアリア。
彼女に今されたことは確かに辛かったけれど、強く窺える反省の色を見ると、あまり強く責める気にはならなかった。
「でも、私のことを想ってくれてるんだってことは、ずっと伝わってたよ。ただそれでも、辛かったことに変わりはないけど」
「そうだよね……ごめんなさい。私どうしても、あなたのためって思うと歯止めが効かなくなってしまって……それでいっつも、やり方を間違える」
「うん。それはちょっぴり、アリアらしいね……」
ここ最近の彼女を見る限りでも、それは大いに心当たりがある。
アリアはとても優しい女の子なのだけれど、びっくりするほど突貫型になってしまう時が多々ある。
それは私のことを想ってこそだというのは、ちょっと嬉しくもあり、でもやっぱり困ってもしまう。
けれど、それほどまでに私は彼女に心労をかけてしまっているってことなんだ。
「もういいから。お互い怪我って怪我もしなかったし。もう、謝らないで。それに、私だってもっとちゃんと向き合うようにするべきだったって、そう思うし」
「そんな、アリスは悪くなんて……悪いのは私だよ」
「ううん、二人の問題だもん。アリアだけが悪いことなんてないよ。それに────」
俯くアリアの頭を撫でていると、車がぐらりと揺れて、車体がふわりと宙に浮き出した。
どうやらこれは空飛ぶ馬車のようだ。でも、牽引している馬はいなかったけど、何がこの車を引っ張っているのだろう。
小窓から外に向けてみると、お花畑に囲まれた城からどんどんと離れていくのがわかった。
小さくなっていくそれを見て、あの中に置いてきた友達のことが、脳裏によぎる。
「それに、最低なのは私の方だから。私は、大切な友達に、あんな顔をさせちゃった……」
私を見送る氷室さんの顔が、今でもこの目に焼き付いている。
滅多に感情を顔に出さない、出したとしてもほんの僅かな変化しか見せない氷室さんが、泣きそうな顔をしていた。
私の選択を受け入れてくれた彼女だけれど、でも、離れることが不安でたまらなかったんだろう。
大切な友達に、氷室さんにあんな顔をさせてしまって、この選択は正しかったんだろうかと、つい思ってしまう。
彼女を悲しませてまですべきことが、私にはあるのかと。
そんなモヤモヤを抱えながらも、でも、私はやっぱり二人を信じる道を進んでみたいと思った。
後でどれだけ文句を言われても、それは甘んじて受け入れるしかない。
「大丈夫だよ、アリス」
アリアはようやく顔を上げ、おずおずと私の手を握ってきた。
それはおっかなびっくりで、恐る恐る、弱々しい握り方だった。
でも、とても柔らかくて温かい。
「私が言えることではないけれど……でも、彼女はとてもあなたのことを想っていたから。ちゃんと、あなたの気持ちをわかってくれてるよ」
「……うん、そうだね。そうだと、いいな」
今はそう思うしかない。氷室さんならちゃんとわかってくれるって。
それは甘えかもしれないけれど、でも、氷室さんなら大丈夫って信じてる。
彼女はいつだって、私の味方をしてきてくれたんだから。
だから私は、そんな彼女の気持ちに応えるために、決して危険を犯しちゃいけないんだ。
「んあー! しんみりしすぎだ。もうちょいパァっとしようぜ」
私とアリアが静かに頷いていると、正面に座るレオが突然声を上げた。
しっとりとした空気が気に食わなかったのか、彼はわざとらしくニカッと笑み浮かべた。
「まぁ思うとこが色々あるのはわかるけどよ。でもさ、やっと俺ら、三人で揃えたわけだろ? 今はそれを喜ぼうぜ。な?」
「……もう、レオ。少しは空気読んでくれたっていいでしょ?」
「いーだろ別に。しんみりタイムはもうおしまいだ。あんま長くやってもなぁ、ウジウジ続くだけなんだからよぉ」
「これだからレオは……まぁ、レオに繊細な気持ちをわかれって方が無理か……」
わーわーと喚くレオに、アリアはあからさまな溜息をついて見せた。
それに反論しようとしたレオだけれど、アリアの表情から力が抜けたのを見て、開けた口を閉じた。
五年ぶりの親友は、大きくなったけれど、でも昔とちっとも変わっていない。
まるであの時から途切れることなく一緒にいるみたいに、全く違和感を覚えたない。
かつて三人で国中を旅した時、ずっと三人で一緒にいたあの時と、なんら変わらないと思えた。
こうして三人で肩を並べると、どうしてもこの空間が居心地よく感じられてしまう。
「ねぇ、レオ、アリア」
レオはぐんと背が伸びて、とっても男の人っぽく、頼もしくなった。
アリアはスラリと綺麗になって、優しく嫋やかなお姉さん感が強まった。
成長した親友たちが、とても愛おしく映る。
私が名前を呼ぶと、二人は優しい表情で私の顔を見た。
そんな些細な仕草も、あの時と何一つ変わりない。
「今言うのって、すごく変だと思うんだけど……でも言わせてほしい」
そんな二人を見ていたら、言わずにはいられなかった。
私にとって二人がいる場所は、確かに私の居場所だったから。
「レオ、アリア……ただいま」
気持ちのままを言葉にする。
二人は、泣いてしまった。
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