普通のJK、実は異世界最強のお姫様でした〜みんなが私を殺したいくらい大好きすぎる〜

セカイ

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第8章 私の一番大切なもの

49 謎多き動向

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「────ところでお二人は、おか……ロード・ホーリーが何をしようとしているのか、ご存知ですか?」

 込み入った話にひとまずの区切りを入れ、少しなんでもない会話なんかをポツリポツリして。
 休息の、というより待機の時間はそろそろ終わりかなと思いながら、私はシオンさんとネネさんに尋ねた。
 そもそも、事態の後始末と魔女狩りの人たちの準備の間に休息をってことだったから、二人がここにやって来れた時点で大分整っているはずだ。
 クリアちゃんの話をして尚更気が逸りそうになるのを、会話をすることで何とか鎮める。

「いいえ。恥ずかしながら、私たちはライト様の真意をお聞かせ頂けていないのです」

 私に比べて、シオンさんはとても穏やかな口調で首を横に振った。
 これが大人の余裕なんだろうか。

「ライト様がロード・デュークスの計画を阻止したいと考えていることは、もちろん承知しています。しかしそれ以上のことは何も。ただライト様は常に、魔法使いと魔女の争いを無くすことをお考えになっている方です。私たちは、その信念についていくだけです」
「それにアリス様の話によれば、あのナイトウォーカーと一緒にいたんでしょ? なら尚更心配ないよ。なんてったってナイトウォーカーは、『まほうつかいの国』史上最強の魔法使いって言われてるんだからね」

 全く心配の色を浮かべないシオンさんとネネさん。
 二人のその余裕は、お母さんに全幅の信頼を寄せているからなんだろう。
 何をしているのかわかはなくても、それは必ずいいことに繋がると信じている。
 確かに、今まで彼女たちから聞いていたロード・ホーリーという人物像は、一番まともな人だと感じられた。

 魔法使いの凝り固まった思考や、この世界の固定概念、色んな人の身勝手な思想に囚われない良識的な在り方。
 魔法使いの思惑や、私がドルミーレに縛られている事を憂いて、色々と立ちまわってくれたりして。
 それになにより、魔女狩りでありながら魔女すらも守ろうとしている、その方向性。
 それらを見れば、確かにロード・ホーリーは信頼にあたる人に思える。

 けれど、私が対面したは、それとは些か様子が違って。
 それがお母さんだったという事実は置いておくにしても、ジャバウォック阻止に固執し、それ以外目を瞑るやり方は聞いていた人物像と違う。

 いや、そんなことはないのかもしれない。
 だって彼女は、私を守るために晴香を犠牲にした人なのだから。
 それこそがロード・ホーリーの本来の在り方。もっといえば、核心的な部分なのかもしれない。

 ただそれが、赤の他人だったのならば飲み込めるのだけれど。
 それが他ならぬ私の母親であるという点が、私の心を掻き乱すんだ。

 アリアとレオが心配そうな目を向けてくる。
 私はそれに、大丈夫だと視線だけを返した。

「ロード・ホーリーと夜子さん────えっと、ナイトウォーカーさん?────は、ジャバウォック阻止が何より最優先みたいなんです。その為には手段を選ばないと言っていたのが、私には怖くて……」
「呼びやすい方でいいですよ。真宵田 夜子という偽名は知っています────ジャバウォック自体、私たちはただのお伽噺だと思っていました。しかしお二人がその実態を詳しく把握しているのであれば、それはやむを得ないことかもしれません」

 シオンさんはテーブルの上でそっと指を組み合わせながら、考えるように眉を寄せた。
 少しの困惑を浮かべつつ、しかし心配は全くしていないという様子だ。

「でも、だったらみんなで協力するべきなのに。私以外のものはどうでもいいって、勝手に行ってしまって。何にも説明してくれませんでした。本当に、大丈夫なんでしょうか?」
「ライト様たちがそう判断したなら、それが最善なのかもね。まぁ、だからってジッともしてられないから、こうしてアリス様と動こうとしてるわけだけどさ。ただ、ライト様たちはもしかしたら、アリス様をジャバウォックと引き合わせたくないのかもね」

 ネネさんはテーブルに頬杖をついて、ぐにゃんとした顔で私を見た。
 さっきまでは色んな感情を噛み殺していたけれど、今は落ち着いて完全にいつもの無気力顔になっている。
 けれど、気の抜けた顔をしつつ頭は回転しているようで、考えるように視線を持ち上げた。

「万が一のことがあった時、アリス様の命だけは守らなきゃいけない。その力は切り札だし、それにやっぱり一国のお姫様だし。だからそんなもしもの時のために、自分たちで率先して対処しようとしてるじゃないかな?」
「最悪の事態になった時、守れるのは私だけだって、そういう意味だったってことですか? でも、あれは……」

 確かにそういう解釈もできるけれど。
 でも、ロード・デュークスに向き合っていた二人の様子や、夜子さんの言葉からは、もっと切迫したものを感じた。
 彼女たちは、そんなもしものことは考えていない気がする。
 絶対に、何があっても、どんなことをしたって、ジャバウォックを阻止したいと思っているように私は思えた。

 だからきっと、あの言葉は本当に、もう何も厭わないという意味に思えてしまう。
 何を犠牲にしても、何を見捨てることになっても、ジャバウォック阻止という目的を果たすと。
 そこまでの過程で二人にとって守るものは、私しかないのだと。

 何故そこまでして私のことを守ってくれるのか。
 二人が私の力を必要としているとは思えない。
 だとしたらそれは、ドルミーレの親友だというのとに関係があるのか。
 私の心の中に彼女が眠っているから、二人は私に死なれたら困るって、そういうことなんだろうか。

 部下であるシオンさんとネネもさんも知らない、ロード・ホーリーの真意。
 そしてそこに、ずっとあちらの世界にいた夜子さんも絡んでいて、手段は選ばないという。
 今のお母さんが、晴香を犠牲にすると選択した時と同じ行動原理で動いているのだとしたら。
 二人の行動が、必ずしも全てを守ってくれるとは限らない。

「ライト様のことならば心配ありません。あの方は、ナイトウォーカーさんに並び立つ程の魔法の使い手。この国のトップを飾るお二人が、考えた末に動いているのです。信じましょう」
「…………はい」

 シオンさんの宥めるような言葉に、とりあえず頷く。
 私だって二人を疑っているわけでないのだけれど、私の目指しているものとはかけ離れている気がして、不安なんだ。
 彼女たちの真意は、私や、多くの人たちとは何か、決定的に違っているものなんじゃないかって、そう思えてしまって。

 どうしてそこまで疑心が渦巻いてしまうのか。
 それは、お母さんがロード・ホーリーであるという、めちゃくちゃな真実そのものもそうだけれど。
 しかもそれを、誰一人として知らないという事実があるからだ。恐らく、夜子さん以外。

 ドルミーレの親友である二人は、本当にこの国にとって味方たる人たちなんだろうか。
 あちらの世界で、ドルミーレの夢である私の側にいたあの人たちは、魔法使いではあるけれど魔法使い側と言っていいんだろうか。

 二人が秘めていることは、この国、いやこの世界に対して仇を成すことになるのではないかと。
 そんな予感がよぎってしまって、どうにも不安が渦巻いて堪らない。

 ただそれを、今とやかく言っても仕方がないのは事実だ。
 彼女たちの真意は彼女たちしか知らないのであれば、当人たちから聞き出す他ない。
 今は目の前の問題に対処することを考えつつ、二人の一歩先を行けるよう頑張るしかないんだ。

 私はそう自分に言い聞かせて、立ち込める不安を、頭を振ることで振り払った。
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