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第8章 私の一番大切なもの
76 ドルミーレの親友
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何か問題が解決したわけではないけれど、でも気持ちはいくらか穏やかになった。
レオとアリアも私の気持ちを聞けてスッキリしたみたいで、私たちはまた少し近づけた気がした。
今抱える不安を言葉にすることで明確にして、共有することで負担を分散して。たったそれだけのことでも、心は段違いに軽くなった。
目を背けて気持ちを誤魔化して、無理に前を向こうとしていた今までよりも。
問題を問題とちゃんと認識したことで、今しなければならないことに集中する心の余裕が生まれた気がした。
気を取り直した私たちは、改めてドルミーレのお城へと向かった。
こうして三人でやってくると、どうしてもここを拠点にしていた昔のことを思い出す。
さっき三人でここにはいた時はそれどころじゃなくて、そんなことを思い起こしている余裕はなかったけれど。
わかりきっていることだけれど、城内には誰の姿もなくて、ひどく静まり返っていた。
かつてドルミーレが居を構えて閉じこもっていたという、無人のお城。
今も尚誰も足を踏み入れることはないようで、そのガランとした雰囲気はもの寂しい。
そんな静かな城内の中で、僅かに魔力を感じ取ることができた。
それは何らかの魔法の痕跡などではなく、人が持つ魔力の気配だということはすぐにわかった。
誰もいるはずのないこのお城の中に、今誰かが確かにいるようだ。
その気配は私がよく知るもので、決して氷室さんのものではないとすぐにわかった。
けれどとても無視できるものではなくて、私は二人と顔を見合わせてすぐ、気配を辿って玉座の間へと向かった。
道中にはやっぱり誰の姿もなくて、このお城の中で感じられるのは、玉座の間にある気配だけ。
しかしそこへと近づいていくにつれて、何だか強力な魔法の痕跡の気配まで匂ってきて、とても嫌な予感がした。
「────おっとぉ、まさかこんなタイミングでやってくるなんてねぇ」
玉座の間の閉ざされていた扉を開くと、中には二人の女性の姿があった。
それは確認するまでもなく夜子さんとお母さんで。
二人は広間の中央付近で身を寄せ合って立っていて、そんな中夜子さんは私たちを見てのんきな声を上げた。
「いやぁここで君たちに会うだなんて。ホント奇遇だねぇ」
「夜子さん! それに、お母さんも……」
まさかここで二人に出会すだなんて思っていなくて、驚きが先行してしまう。
独自で動くと言って姿を消してしまった二人が、どうしてこんなところにいるんだろう。
不思議に思う気持ちが顔に出てしまっていたのか、夜子さんが口を開いた。
「実は少し前まで、ここでクリアちゃんとやり合っててね────残念がらさっきみたいな思念体で、本体ではなかったんだけれどさ。恥ずかしいことに取り逃しちゃって、おまけに足止めまで食らっちゃったんだよねぇ」
そう夜子さんは、まるで普段通りのようにのんびりと話す。
しかしその中には静かな苛立ちのようなものが隠れていて、聞いているこっちとしてはあまり穏やかではいられなかった。
そんな横で、お母さんはフードを深くかぶってこちらから顔を背けている。
その姿に息が詰まりそうになったけれど、夜子さんは全てお構いなしに、マイペースで話を続ける。
「結界を解除して、やっとこさ後を追おうと思っていたら、君たちが飛び込んできたわけさ。なんか、タイミングがいいんだか、悪いんだかねぇ」
「夜子さんは、クリアちゃんがどこに向かったのか知っているんですか?」
「ああ。彼女本人から聞いたよ。クリアちゃんはどうやら、王城でことを成そうとしているみたいだね」
「やっぱり……!」
シオンさんたちの予測は正しかったのだと、私は思わず声を上げてしまった。
やっぱりクリアちゃんは、この国の中枢でありシンボルである王城で、全てを破壊しようとしているんだ。
私のリアクションを見て、「君たちもそこまで読めていたのか」と、夜子さんは微笑んだ。
「あ、でも今はそれよりも……。あの、夜子さんは氷室さんがどこにいるかを知りませんか? 逸れてしまって、それから行方がわからなくて……」
「あぁ……それは……」
まずはこれが最優先だと、私はすぐさま質問を投げかけた。
すると夜子さんは渋い顔をして唸り声を上げた。
「霰ちゃんは……クリアちゃんのところだよ」
「え、えぇ……!?」
言いにくそうにそう口にする夜子さんに、私は一際大きな声をあげて飛び上がってしまった。
それはつまり、氷室さんはクリアちゃんに連れ攫われてしまったとうこと!?
クリアちゃんがさっきまでここにいたのならば、もしかしたらあれからここで私を待っていた氷室さんを連れ去るためだったのかもしれない。
氷室さんは昨日もクリアちゃんとぶつかっていたみたいだし、二人にはその禍根がある。
クリアちゃんの私への執着を考えれば、自分以外の私の友達を疎ましく思うかもしれないし、そうしたら『寵愛』で繋がっている氷室さんなんて一番の邪魔者だ。
氷室さんは殺されてはいないようだけれど、でも心の繋がりが不鮮明になってしまうほど弱っているようだし、何かひどいことをされているのかもしれない。
レイくんが言っていたように、魔女狩りに襲われているということではないみたいだけど。
でも彼女の状況としては、とっても最悪だ。
「す、すぐに助けに行かなくちゃ! レオ、アリア、急いで王都に戻って────」
「いや、行かせないよアリスちゃん」
夜子さんたちと話したいことは色々あるけれど、まずは氷室さんの身の安全が最優先だ。
そう思って踵を返そうとした私に、夜子さんが静かに言った。
ポツリと呟いたような言葉なのに、そこにはとても強い力があって、思わず足を止めてしまった。
「夜子さん……今、なんて?」
「行かせないと言ったんだよ、アリスちゃん。君をこの城から出さないとね」
「ど、どうして……」
いつものように静かに笑みを浮かべる夜子さんが、今は少し怖かった。
つかみどころのない、よくわからない人ではあるけれど、でもいつもなんだかんだと優しい夜子さん。
でも今は、とても冷たく鋭い威圧感が全面に降りかかってくる。
「君を王城へは、クリアちゃんのところへは行かせられないからだ。君のため、ドルミーレのために」
そう言う夜子さんは、私が知らない顔をしていた。
いつも見守ってくれる優しい彼女の面影はなく、それはきっと、ドルミーレの親友としての顔なんだ。
レオとアリアも私の気持ちを聞けてスッキリしたみたいで、私たちはまた少し近づけた気がした。
今抱える不安を言葉にすることで明確にして、共有することで負担を分散して。たったそれだけのことでも、心は段違いに軽くなった。
目を背けて気持ちを誤魔化して、無理に前を向こうとしていた今までよりも。
問題を問題とちゃんと認識したことで、今しなければならないことに集中する心の余裕が生まれた気がした。
気を取り直した私たちは、改めてドルミーレのお城へと向かった。
こうして三人でやってくると、どうしてもここを拠点にしていた昔のことを思い出す。
さっき三人でここにはいた時はそれどころじゃなくて、そんなことを思い起こしている余裕はなかったけれど。
わかりきっていることだけれど、城内には誰の姿もなくて、ひどく静まり返っていた。
かつてドルミーレが居を構えて閉じこもっていたという、無人のお城。
今も尚誰も足を踏み入れることはないようで、そのガランとした雰囲気はもの寂しい。
そんな静かな城内の中で、僅かに魔力を感じ取ることができた。
それは何らかの魔法の痕跡などではなく、人が持つ魔力の気配だということはすぐにわかった。
誰もいるはずのないこのお城の中に、今誰かが確かにいるようだ。
その気配は私がよく知るもので、決して氷室さんのものではないとすぐにわかった。
けれどとても無視できるものではなくて、私は二人と顔を見合わせてすぐ、気配を辿って玉座の間へと向かった。
道中にはやっぱり誰の姿もなくて、このお城の中で感じられるのは、玉座の間にある気配だけ。
しかしそこへと近づいていくにつれて、何だか強力な魔法の痕跡の気配まで匂ってきて、とても嫌な予感がした。
「────おっとぉ、まさかこんなタイミングでやってくるなんてねぇ」
玉座の間の閉ざされていた扉を開くと、中には二人の女性の姿があった。
それは確認するまでもなく夜子さんとお母さんで。
二人は広間の中央付近で身を寄せ合って立っていて、そんな中夜子さんは私たちを見てのんきな声を上げた。
「いやぁここで君たちに会うだなんて。ホント奇遇だねぇ」
「夜子さん! それに、お母さんも……」
まさかここで二人に出会すだなんて思っていなくて、驚きが先行してしまう。
独自で動くと言って姿を消してしまった二人が、どうしてこんなところにいるんだろう。
不思議に思う気持ちが顔に出てしまっていたのか、夜子さんが口を開いた。
「実は少し前まで、ここでクリアちゃんとやり合っててね────残念がらさっきみたいな思念体で、本体ではなかったんだけれどさ。恥ずかしいことに取り逃しちゃって、おまけに足止めまで食らっちゃったんだよねぇ」
そう夜子さんは、まるで普段通りのようにのんびりと話す。
しかしその中には静かな苛立ちのようなものが隠れていて、聞いているこっちとしてはあまり穏やかではいられなかった。
そんな横で、お母さんはフードを深くかぶってこちらから顔を背けている。
その姿に息が詰まりそうになったけれど、夜子さんは全てお構いなしに、マイペースで話を続ける。
「結界を解除して、やっとこさ後を追おうと思っていたら、君たちが飛び込んできたわけさ。なんか、タイミングがいいんだか、悪いんだかねぇ」
「夜子さんは、クリアちゃんがどこに向かったのか知っているんですか?」
「ああ。彼女本人から聞いたよ。クリアちゃんはどうやら、王城でことを成そうとしているみたいだね」
「やっぱり……!」
シオンさんたちの予測は正しかったのだと、私は思わず声を上げてしまった。
やっぱりクリアちゃんは、この国の中枢でありシンボルである王城で、全てを破壊しようとしているんだ。
私のリアクションを見て、「君たちもそこまで読めていたのか」と、夜子さんは微笑んだ。
「あ、でも今はそれよりも……。あの、夜子さんは氷室さんがどこにいるかを知りませんか? 逸れてしまって、それから行方がわからなくて……」
「あぁ……それは……」
まずはこれが最優先だと、私はすぐさま質問を投げかけた。
すると夜子さんは渋い顔をして唸り声を上げた。
「霰ちゃんは……クリアちゃんのところだよ」
「え、えぇ……!?」
言いにくそうにそう口にする夜子さんに、私は一際大きな声をあげて飛び上がってしまった。
それはつまり、氷室さんはクリアちゃんに連れ攫われてしまったとうこと!?
クリアちゃんがさっきまでここにいたのならば、もしかしたらあれからここで私を待っていた氷室さんを連れ去るためだったのかもしれない。
氷室さんは昨日もクリアちゃんとぶつかっていたみたいだし、二人にはその禍根がある。
クリアちゃんの私への執着を考えれば、自分以外の私の友達を疎ましく思うかもしれないし、そうしたら『寵愛』で繋がっている氷室さんなんて一番の邪魔者だ。
氷室さんは殺されてはいないようだけれど、でも心の繋がりが不鮮明になってしまうほど弱っているようだし、何かひどいことをされているのかもしれない。
レイくんが言っていたように、魔女狩りに襲われているということではないみたいだけど。
でも彼女の状況としては、とっても最悪だ。
「す、すぐに助けに行かなくちゃ! レオ、アリア、急いで王都に戻って────」
「いや、行かせないよアリスちゃん」
夜子さんたちと話したいことは色々あるけれど、まずは氷室さんの身の安全が最優先だ。
そう思って踵を返そうとした私に、夜子さんが静かに言った。
ポツリと呟いたような言葉なのに、そこにはとても強い力があって、思わず足を止めてしまった。
「夜子さん……今、なんて?」
「行かせないと言ったんだよ、アリスちゃん。君をこの城から出さないとね」
「ど、どうして……」
いつものように静かに笑みを浮かべる夜子さんが、今は少し怖かった。
つかみどころのない、よくわからない人ではあるけれど、でもいつもなんだかんだと優しい夜子さん。
でも今は、とても冷たく鋭い威圧感が全面に降りかかってくる。
「君を王城へは、クリアちゃんのところへは行かせられないからだ。君のため、ドルミーレのために」
そう言う夜子さんは、私が知らない顔をしていた。
いつも見守ってくれる優しい彼女の面影はなく、それはきっと、ドルミーレの親友としての顔なんだ。
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