普通のJK、実は異世界最強のお姫様でした〜みんなが私を殺したいくらい大好きすぎる〜

セカイ

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最終章 氷室 霰のレクイエム

15 ドルミーレが望むもの

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 私が、花園 アリスがドルミーレの見ている夢だというのなら、そういう結論も確かに頷ける。
 どんなにそれが信じがたくても、私という存在そのものが、それを証明しているんだから。
 私がこういう人間である以上、その夢を見ているドルミーレが望むものは……。

「ドルミーレが、私になりたい……」

 夜子さんの言葉を噛み締めて、私は反芻した。
 理屈はよくわかる。けれど、でもやっぱり納得は難しい。
 だって彼女はあんなにも、私の在り方を嘲笑ってきたんだから。

 誰よりも繋がりを否定する彼女が、私になりたいと望むのかな。

「眠っている間に見る夢なんてものは、意識的に見られるものじゃない。けれどそこには、心の奥底に眠る願望が反映されることが多い。ドルミーレは確かに全てを拒絶するやつだけれど、でも、それこそが彼女の、決して望んだりはしない願望なんだろう」

 私の戸惑いに頷くように、夜子さんは言った。
 全ての繋がりを否定する生き方をした彼女だからこそ、手の届かないものに憧れを抱いていたってことなのかな。
 私にはいまいち飲み込むことができないけれど、でも今私がそれを納得できるかどうかは問題じゃない。

「ドルミーレは、君という夢を見ている。そして、そんな君に自らの力の一端を貸し与えた。それは本来、彼女の意図とは違ったのかもしれなけれど、それでも君は、ドルミーレの意識の先っぽで、自らの人生を歩むことになった。彼女の生き様を踏まえた君の歩みは、結果として彼女の目覚めを誘発した」
「私が、彼女の延長で、彼女にできない生き方をしたから……相反していても、私たちの距離は近づいた……?」
「そんなとこだろう。本来ならば、微睡に消えるただの夢に過ぎなかったかもしれない。ただ、平穏な理想の中で眠っていたかっただけかもしれない。けれど君が、ドルミーレの心を抱く君が、彼女の在り方をことごとく覆すものだから。それに惹きつけられて、彼女は目覚めるという選択肢を取ったんだ。私は、そう思っているよ」

 夜子さんはそう言って、困ったように苦笑した。
 それは、手のかかる親友を想う、笑みで。
 私が知る彼女の振る舞いとは、少し違った。

 ドルミーレは今まで、外に興味なさそうに、ただ眠っていたいと言っていた。
 特に昔なんかは目覚める気なんて全くなさそうで、私が色々やっていることを、本当に煩わしく思っているようだった。

 自分が害されるのが嫌で、私に力を使わせるようになって、でもそのせいで私はもっと彼女の深みに入っていって。
 それが巡り巡って、彼女に新しい生き方への興味を抱かせてしまったのかもしれない。
 目覚めてみるのも悪くないと、思わせてしまったのかもしれない。

 でも、そうすることでしか私は前に進めなかった。
 ドルミーレを抱いて生きる私は、彼女の運命に翻弄されないという選択肢がなくて。
 それを乗り越えるためには、結局彼女の力を使わざるを得なくて。
 だからこれはもはや、必然的な結果なんだ。

 もしかしたらこれは、お母さんや夜子さんの誘導があったから、なのかもしれないけれど。
 ドルミーレの復活を望む二人は、彼女を目覚めさせることに尽力していたみたいだし。
 私の知らないところで、色んな手を回していたみたいだし。
 でももしそうじゃなくたって、いつかはきっとこうなっていただろうと思える。

 ただ、引っかかることは、彼女の望み。
 私になりたいっていうのは、一体……。

「ドルミーレの望みは、私になること。だとしたら、彼女が目覚めるということは……」
「そうだね。彼女が目覚めるということは、アリスちゃんがドルミーレになるということだ。つまりは、君の体を、心を、意識を、彼女が埋め尽くすことを意味するだろうね」
「なっ…………!」

 私の疑問に、夜子さんは淡々と答えた。
 そのあまりのあっさりぶりに、私は言葉を失った。

「当然といえば当然の帰結だ。だって君は、ドルミーレが見ている夢なんだから。夢に自我があることの方がイレギュラーなんだ。その大元である彼女が目を覚ますとなれば、夢は現実に還る。それは摂理だよ」
「そ、そんなこと言ったって……! じゃあドルミーレの目的は、私を乗っ取ることだっていうんですか!?」
「端的に言えば、そういうことになるね。本体とも言える彼女が、君の在り方を喰らって君になる。そうして新たな存在に移り変わってこの世に返り咲くことが、ドルミーレの目覚めだよ」
「そんな、馬鹿な……!」

 夜子さんは徹底して、言葉に起伏を感じさせない。
 その冷徹な言葉が、却って私に現実を叩きつけた。

 透子ちゃんがしたような、体の乗っ取りなんてレベルの話じゃない。
 私を存在ごと、在り方ごと、心ごと乗っ取って、根本から成り代わろうとするという。
 彼女の夢に過ぎないのだから、見ている本人に還元されるのは当たり前だと。

 そんなことが本当に可能なのか、そんなことはもはやどうでも良かった。
 自分が彼女の夢であると知った時から、自らがあやふやな存在であることは自覚していたけれど。
 でも、彼女の糧でしかないような、ただ消費されるような扱いでしかないとは、思わなかった。

 ドルミーレが目覚めれば、無情な彼女に傷つけられてしまう人が沢山出てしまうかもしれない。
 魔女の苦しみはもっと加速して、悲しみがさらに広がってしまうかもしれない。
 相反する魔法使いや、彼女を虐げていた人間たちが、逆にひどい目に遭わされてしまうかもしれない。

 そんなことは考えていたけれど。
 まさか私自身が喰らわれてしまうなんて、思ってもみなかった。

「お、おい! 待てよ待てよ待てよ!」

 頭が真っ白になった私の代わりに、レオが叫んだ。
 勢いよく立ち上がって、夜子さんに噛み付くように身を乗り出す。

「アリスがドルミーレに乗っ取られるだって!? ふざけんな……そんなこと、させられるかよ!」
「そうです! アリスは、私たちの大切な親友。『始まりの魔女』に奪われるなんて、絶対に許せない!」

 アリアも続いて立ち上がり、立ちはだかるように私の前に出る。
 震える体を奮い立たせて、声を張り上げて叫んだ。
 そんな二人に、夜子さんは嘆息した。

「レオくんと、アリアちゃんだったね。君たちには感謝しているよ。君たちはアリスちゃんの味方となり、時には脅威となって立ちはだかり、彼女の成長を常に促してくれた。その支えが、繋がりが、想いが、アリスちゃんを育んでくれた。だからとっても、ありがたいと思っているよ。君たちは得難い存在だ」

 殺気立つ二人をよそに、夜子さんの言葉はいやに冷静で。
 けれど、二人の気迫に負けないくらい、力強くもあった。

「でも、今は邪魔しないでもらおう。君たちの役目は、もうおしまいだ」

 そう、夜子さんが言った瞬間。
 彼女の足元から巨大な影の猫が二匹飛び出して、レオとアリアに飛びかかった。
 二人は即座にそれに対処しようとしたけれど、猫の突撃はあまりにも早く、即座に食らいついた。

 二人は猫の突撃をまともに受けて、私を飛び越えて大きく吹き飛ばされる。
 背後の壁に叩きつけられた二人は、影の猫が変形して壁に縫い付けて、完全に身動きを封じられていた。

「レオ! アリア!」
「安心してよ、アリスちゃん。彼らに危害を加えるつもりはない。ただ、変に邪魔をされても困るしさ」

 悲鳴をあげる私に、対して夜子さんはとても冷ややかで。
 その非情さが、彼女の真剣さを窺わせた。

「さて、アリスちゃん。先に進む頃合いだ」

 そして夜子さんは、私を突き刺すように見据えて、そう言った。
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