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転売スレイヤー、世界を救うため神々の力で転売ヤーを蹴散らす!!
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残業、残業、残業。
俺、万願寺 灯矢(まんがんじ とうや)の人生を、一言で言い表すなら、社畜だった。
妻も彼女もいない、家と会社を往復するだけの社畜ライフ。たまの休みにやるゲームだけが唯一の楽しみだ。
申し込んでいた最新ゲーム機の抽選販売の結果が、今日明らかになる。
最低最悪の体調と精神状態でもなんとか仕事をやり切れたのは、当選の希望があったからだ。
祈りを込めて、メールボックスを確認する。しかし、抽選の結果は、ハズレ。
これで、3回連続でハズレだ。
まさかと思い、これまで見ないようにしていた、あるサイトを見る。
それは、オークションサイト。
思った通り、ゲーム機が大量に転売されている。やめておいた方がいいのに、俺は1人の出品者のアカウントを見る。すると、ずらっとゲームの出品が並んでいた。
「こんな奴のせいで、俺はゲーム機が買えないのか。愛するゲームを、こんな奴の金儲けに利用されているのか」
腹の底から、煮えたぎるような怒りが湧いてきた。
そして、更に腹が立つことがあった。
俺は残業が短く済んだ日には、近所の電気屋にダメもとでゲーム機がおいていないか見に行くようにしている。
そして今日はなんと、奇跡的にゲーム機が売られていた!
――のだが。
「これ1台くださーい」
「申し訳ありませんが、こちらの商品はお一人様1台限定となっておりまして。お客様は先週に1台お買い上げになりましたので……」
「は? 何言ってんの? 俺は今日初めてこの店に来たんですけど? 証拠でもあんの?」
柄の悪い男が、店員に絡んでいた。
明らかに、転売ヤーだ。だが、履歴の残るカードではなく現金支払いなら、お店側は『あなたは以前にもこの商品を買いました』という証拠を出すことができない。
俺は見過ごせずに、転売ヤーに食って掛かる。
「おいお前、ふざけるなよ! お前みたいなのがいるから欲しい人まで行き渡らないんだろうが!」
「ああ? なに上から口きいてんだよリーマン!」
”ドゴォ!”
俺はいきなり顎を殴られた。連勤続きで弱り切っていた俺の体は耐え切れず、転んでしまう。そして後頭部に、激しい衝撃を感じた。急速に意識が遠くなっていく。
こうして、転売ヤーに殴られるという最悪の原因で俺の人生は幕を閉じたのだった。
――――――――
気がつくと、俺は一面の雲の上にいた。どう考えても、現世ではない。
「そんな、俺、死んだのか……?」
「ええ、あなたの命は尽きました。しかし、第二の人生を歩むことができます」
美しい声。俺の目の前には、いつの間にか見たこともないような美人が立っていた。
「私は女神ヘラ。死んだ貴方を、神々の代行者に任命します」
「俺が、神々の代行者・・・?」
「はい。今から貴方を元の世界とは別の世界に送り届けます。ところで、何かやりたいことはありますか?」
神様の前だし、無難な答えを……。
「俺は、ライトノベルで読むような、悠々自適なスローライフを送りたいです」
「ふふ、かしこまらなくて良いのですよ。あなたが、本当にやりたいことを教えてください」
「ええと、俺が死ぬ原因にもなった転売ヤーが憎いです。なので、転売ヤーを規制するような活動をしたいです」
「もっと自分を曝け出していいのですよ」
「……転売ヤーをぶん殴りたい」
「それだけで良いのですか?
「転売ヤーを、転売ヤーを皆殺しにしたい! 片っ端からマシンガンで蜂の巣にしてやりたい!」
「よくぞ言いました。やはり私の目に狂いはありませんでした」
微笑むだけだった女神さまが、ここでようやく笑顔になった。女神様が宙に映像を出す。そこには世紀末のような世界が映っていた。
「これは、貴方が元いたのとは違う世界の、今から10年後の様子です」
美しかったであろう中世ヨーロッパ風の街並みはあれ、果てている。上半身裸のモヒカン頭の男が、馬車で走り回っている。
「オラオラ今日も俺たちが出張販売にきてやったぜ、ありがたく思いな! パンは1個、金貨20枚だ! 買えない貧乏人どもは飢えて死んじまいな!」
「水はいらねえか貧乏人ども! 樽1つで金貨400枚だぜヒャッハー!」
モヒカン男たちの前に渋々並ぶ人々は、全員ガリガリに痩せ細っていた。
「彼らはパン工房や水源を集団で占拠し、水やパンを独占して法外な値段で売りつけているのです」
「なんて悪質な転売ヤーなんだ……!」
見ているだけで怒りがこみあげてくる。
「転売ヤーがはびこっていた結果、転売ヤーは力を増し、この世界は転売ヤーによって滅んでしまう未来が明らかになりました
しかし神々は直接人の世界に干渉できません。そこで、貴方には異世界を救うため、転売ヤーを駆除して欲しいのです」
「もちろん、やらせていただきます」
俺はきっと、あの世界を救うために生まれてきたのだろう。そう思えるくらい、転売ヤーを駆除するという使命は俺の中にするりと入り込んできた。
「さて、ここまでが神としての仕事です。ここからはオフレコです」
女神様はふう、とため息をついた。
「転売ヤーめーーーーーっちゃムカつく! 絶対に転売ヤー許さない!!」
急に女神様が叫ぶ。
「前にお忍びで人間界に降り立って楽しみにしてたライブのチケット申し込んだ時も、転売ヤーのせいでチケット取れなかったの今思い出してもマジで腹立つ! 前の時も! その前も!」
女神様も、どうやら個人的に転売ヤーという存在に怒りを抱え込んでいるらしい。
「というわけで、私からは
・転売ヤーへの憎しみを糧にステータスを大幅に上昇させバーサーク状態になる特殊ジョブ【転売スレイヤー】
・転売ヤーをモンスターとみなし倒すたびにお金と経験値がもらえる加護【転売キラー】
を授けます。
はっきり言って、神として、ギリギリ許されるレベルの超強力なサポートです。この力で、転売ヤーをぶっ殺してきて!」
「「俺たちもいるぜ!」」
振り返ると、いつのまにか俺の後ろには沢山の神が並んでいた。
「俺の名はオーディン。俺の槍【グングニール】を貸すから、俺の代わりにたくさん転売ヤーを殺して来てくれ! 頼んだぞ!」
「俺はスサノオという。俺からは【草薙剣】を貸そう」
「私はパンドラ。こっちは絶対に開けてはいけない箱」
ーーーー
こうして、俺は転売ヤーを憎む100以上の神から武器や道具を貸してもらった。
「最初から全て扱うのは無理ですが、レベルが上がると使える神器が増えていきます。頑張って転売ヤーを皆殺しにするのです!」
ヘラさんとたくさんの神に見送られ、俺の第二の人生が幕を開けた。
こうして、俺は異世界へと降り立った。
ーーーー
一週間後、俺はすっかりと異世界の生活に順応していた。
RPGゲームのようなモンスターがいる中世ヨーロッパ風の世界で、冒険者としてモンスターを倒して暮らしている。
今の俺のパラメータはこんな感じだ。
―――――――――――――――――――――――――――――
【トウヤ】
ジョブ:剣士
筋力:10
知力:13
素早さ:8
幸運:7
―――――――――――――――――――――――――――――
転売ヤーはまだ見つけられていないが、友達はできた。俺に冒険者としてのいろはを教えてくれた、気さくでいい奴だ。名前はベルタンという。
そして、ある日時間は起きた。
“ぐあああああぁ!”
一緒に森で雑魚モンスターを討伐していた時、不意を突かれてベルタンがモンスターに怪我をさせられた。
「大丈夫かベルタン! 今、お前のカバンの中から回復ポーションを出して飲ませてやるからな! って……回復ポーションが無い!?」
「ああ、回復ポーションは昨日お前に使ったのが最後だ」
そんな。
回復ポーションは、冒険者ギルドが管理・販売している。冒険者の命綱であるため、ずっと同じ値段で販売されいている。ベルタンの稼ぎなら、買えないはずがないのに。
「転売ヤーだ……。最近冒険者ギルドでポーションを買いしめて、夜の裏通りで法外な値段で売りさばいている奴らがいる。俺の稼ぎでは買えなくないが、あんな腐った連中からポーションを買うなんて、死んでもごめんだ」
ベルタンは、とても高潔な魂を持っていた。
俺はベルタンを家まで運び、ベッドで寝かせる。包帯などで手当をしたが、それだけで傷は治らない。ポーションが手に入らなければ、ベルタンの命は1日も持たないだろう。
「俺、転売ヤー達からポーションを手に入れてくるよ」
「やめろトウヤ! あんな腐った連中から買うんじゃない!」
俺はベッドの上で叫ぶベルタンを置いて、転売ヤーが出るという裏通りへ向かう。
ーーーー
夜の裏通りを歩いていると、早速怪しい人影が声をかけてくる。
「やあお兄さん、冒険者だね? 今品薄になっている、ポーションはいかがかな? この機会を逃したら手に入らないかもしれないよ?」
「……品薄になっているのはお前らのせいだろうが。なぜこんな真似をする?」
「はは、そんなの決まってるだろう。儲かるからさ」
悪びれもせず、転売ヤーがせせら笑う。俺の腹の底から、熱い思いが湧いてくる。
「お前らのせいでポーションが買えなくて、死にかけている人がいる。俺が知らないだけで、お前らのせいで死んだ人もいるかもしれない。それでも金儲けのために、転売をするのか?」
「ああ、するよ。だって金が欲しいからな」
その言葉で、俺の中の何かが吹っ切れた。体を熱いエネルギーが包む。怒りが俺の脳を丸ごと支配する。勝手にパラメータ画面が立ち上がった。
―――――――――――――――――――――――――――――
【トウヤ】
ジョブ:転売スレイヤー
筋力:987
知力:831
素早さ:780
幸運:890
特殊能力:転売ヤーを倒した数によって神器が解禁
―――――――――――――――――――――――――――――
「金が欲しけりゃ働きやがれ!」
「ウギャー!」
俺は転売ヤーの顔を思い切りぶん殴る。転売ヤーの顔は、収穫を忘れて放置していたミニトマトみたいにグチャグチャのでろでろになっていた。
「てめぇ、俺たちに歯向かうつもりか! 何者だ!」
路地の奥からわらわらと、転売ヤーの仲間が出てきた。
「俺の名前は転売スレイヤー! 好きな匂いはガソリンスタンドの匂い。好きな家事はゴミ掃除。分かってるだろうが、ゴミってのはお前らみたいな連中のことだぜ!」
「面白れぇ、ぶっ殺してやる!」
転売ヤーどもが戦闘態勢に入る。見たところ、全員手練れのようだ。
”ピコン♪ 転売ヤーを倒したことでレベルが上がりました。オーディンの【グングニール】が解禁されました”
俺の頭の中に声が響く。
「いいね! 早速使ってみようじゃねぇか。グングニール召喚!」
俺の手の中に出現したのは、ずしりと重い武器。唸りを上げるエンジン、回転するチェーン。どう見てもチェーンソーですわこれ。
『君の元居た世界風に改造したんだ。格好いいだろう? 破壊力も抜群だぜ!』
頭の中にオーディンの声が響く。
「なんだその唸る剣は? うるさいだけで何も怖くないぜ! ヒャッハー!」
転売ヤーの1人が剣をもって襲ってくる。お馬鹿さん。
「でりゃあああああああ!」
チェーンソーが火花をあげて、剣を両断する。
「へ?」
そしてそのまま、転売ヤーの頭も両断する。
「ウギャー!」
今度はその後ろから突撃してきた、パラディンの盾にチェーンソーを突き立てる。チェーンソーが盾をまるで焼き立てのオムレツのように切り裂き、その奥にいた信じられないような表情のパラディン本人もサックリと両断する。
「ウギャー!」
俺は振り返って、背後から背中にナイフで攻撃しようとしていたシーフの手首を掴む。握力でそのまま骨を砕く。
「転売ヤーのお前らにおトク情報だ! 明日お墓がめちゃくちゃ売れるらしいぜ! 今のうちに買っときな!」
離れたところで詠唱していた魔法使いに、シーフを投げつける。もつれて地面を転がる二人。俺は距離を詰めて、2人まとめてチェーンソーで細切れにする。
「「ウギャー!」」
”ピコン♪ 転売ヤーを倒したことでレベルが上がりました。トールの【タングリス二&タングニョースト】が解禁されました”
転売ヤーどもを蹴散らす俺の頭に、またまた音声が響く。俺の神話知識では、たしかヤギが曳く戦車だったはずだ。
「貴様、よくもやってくれたな! 行けお前達! あの男を囲んでぶち殺せ! 転売ヤーの恐ろしさ、思い知らせてやるのだ!」
転売ヤーどものリーダーらしき男と、10人の仲間が現れた。路地をキレイなフォーメーションを組んで突撃してくる。かなりの腕利き達らしい。
「タングリス二&タングニョースト、召喚!」
”ゴゴゴゴゴゴゴ”
現れたのは、元の世界の戦争映画でおなじみの方の”戦車”だった。ちょうど路地いっぱいの幅だ。こっちも現代風カスタマイズしちゃったかー。
「俺は小さい頃、人間をピンにしてボーリングしてみてぇなって思ってたんだよ……夢が叶ったぜぇ!」
戦車の全速力で、フォーメーションを組んだ転売ヤーどもを轢く。
スパコーン! という音が聞こえそうなくらい(実際はグチョ、みたいな汚い音がした)気持ちよく転売ヤーたちが吹き飛んでいく。
思い出すのは、元の世界での社会人生活。夏の雨の日。
不快指数MAXの満員電車に乗り、ずぶ濡れで帰ってきた後、服を脱ぎ捨てシャワーを浴び、エアコンで冷やした部屋に入った時のような爽快感。ビールが飲みたくなってきた。
転売ヤーどもの死体が転がるなかで、尻もちをついた転売ヤー達のリーダーだけが生き残っている。
「ままま、待ってくれ! 俺は転売ヤーなんかじゃない!」
「ああ?」
転売ヤーのリーダーが何か言いだした。
「価値あるものが高値で取引されるのは、需要と供給の法則だ! 決して悪いことではない! 安いものを安く買って高く売る、これは”せどり”といって――」
「それを転売っつううんだよ!!」
「ウギャー!!」
くだらん言い訳を並べ立てる転売ヤーのリーダーを、チェーンソーで真っ二つにする。スッキリ。全ての転売ヤーを倒したことで、俺のバーサーク状態も解除される。
テンションも元に戻った俺は、死体が転がる路地裏で呆然としていた。
「俺は、人を殺してしまったのか……」
『いいえ、転売ヤーは人ではなくモンスターです』
女神さまの声が頭の中に響く。
「なら、セーフですね!」
よかったよかった。
『ここから西へ行った街で、転売ヤーの大規模な組織が暗躍しています』
「了解しました、ぶち殺しに行きます!」
俺の財布の中は金貨がずっしりと入っていた。転売ヤーを倒したことで手に入ったのだろう。
俺は転売ヤーが持っていたポーションでベルタンを治し、残りは冒険者ギルドへ寄付した。
この世界の転売ヤーを一匹残らず駆逐するために、俺は新たな街へと旅立つ。
俺、万願寺 灯矢(まんがんじ とうや)の人生を、一言で言い表すなら、社畜だった。
妻も彼女もいない、家と会社を往復するだけの社畜ライフ。たまの休みにやるゲームだけが唯一の楽しみだ。
申し込んでいた最新ゲーム機の抽選販売の結果が、今日明らかになる。
最低最悪の体調と精神状態でもなんとか仕事をやり切れたのは、当選の希望があったからだ。
祈りを込めて、メールボックスを確認する。しかし、抽選の結果は、ハズレ。
これで、3回連続でハズレだ。
まさかと思い、これまで見ないようにしていた、あるサイトを見る。
それは、オークションサイト。
思った通り、ゲーム機が大量に転売されている。やめておいた方がいいのに、俺は1人の出品者のアカウントを見る。すると、ずらっとゲームの出品が並んでいた。
「こんな奴のせいで、俺はゲーム機が買えないのか。愛するゲームを、こんな奴の金儲けに利用されているのか」
腹の底から、煮えたぎるような怒りが湧いてきた。
そして、更に腹が立つことがあった。
俺は残業が短く済んだ日には、近所の電気屋にダメもとでゲーム機がおいていないか見に行くようにしている。
そして今日はなんと、奇跡的にゲーム機が売られていた!
――のだが。
「これ1台くださーい」
「申し訳ありませんが、こちらの商品はお一人様1台限定となっておりまして。お客様は先週に1台お買い上げになりましたので……」
「は? 何言ってんの? 俺は今日初めてこの店に来たんですけど? 証拠でもあんの?」
柄の悪い男が、店員に絡んでいた。
明らかに、転売ヤーだ。だが、履歴の残るカードではなく現金支払いなら、お店側は『あなたは以前にもこの商品を買いました』という証拠を出すことができない。
俺は見過ごせずに、転売ヤーに食って掛かる。
「おいお前、ふざけるなよ! お前みたいなのがいるから欲しい人まで行き渡らないんだろうが!」
「ああ? なに上から口きいてんだよリーマン!」
”ドゴォ!”
俺はいきなり顎を殴られた。連勤続きで弱り切っていた俺の体は耐え切れず、転んでしまう。そして後頭部に、激しい衝撃を感じた。急速に意識が遠くなっていく。
こうして、転売ヤーに殴られるという最悪の原因で俺の人生は幕を閉じたのだった。
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気がつくと、俺は一面の雲の上にいた。どう考えても、現世ではない。
「そんな、俺、死んだのか……?」
「ええ、あなたの命は尽きました。しかし、第二の人生を歩むことができます」
美しい声。俺の目の前には、いつの間にか見たこともないような美人が立っていた。
「私は女神ヘラ。死んだ貴方を、神々の代行者に任命します」
「俺が、神々の代行者・・・?」
「はい。今から貴方を元の世界とは別の世界に送り届けます。ところで、何かやりたいことはありますか?」
神様の前だし、無難な答えを……。
「俺は、ライトノベルで読むような、悠々自適なスローライフを送りたいです」
「ふふ、かしこまらなくて良いのですよ。あなたが、本当にやりたいことを教えてください」
「ええと、俺が死ぬ原因にもなった転売ヤーが憎いです。なので、転売ヤーを規制するような活動をしたいです」
「もっと自分を曝け出していいのですよ」
「……転売ヤーをぶん殴りたい」
「それだけで良いのですか?
「転売ヤーを、転売ヤーを皆殺しにしたい! 片っ端からマシンガンで蜂の巣にしてやりたい!」
「よくぞ言いました。やはり私の目に狂いはありませんでした」
微笑むだけだった女神さまが、ここでようやく笑顔になった。女神様が宙に映像を出す。そこには世紀末のような世界が映っていた。
「これは、貴方が元いたのとは違う世界の、今から10年後の様子です」
美しかったであろう中世ヨーロッパ風の街並みはあれ、果てている。上半身裸のモヒカン頭の男が、馬車で走り回っている。
「オラオラ今日も俺たちが出張販売にきてやったぜ、ありがたく思いな! パンは1個、金貨20枚だ! 買えない貧乏人どもは飢えて死んじまいな!」
「水はいらねえか貧乏人ども! 樽1つで金貨400枚だぜヒャッハー!」
モヒカン男たちの前に渋々並ぶ人々は、全員ガリガリに痩せ細っていた。
「彼らはパン工房や水源を集団で占拠し、水やパンを独占して法外な値段で売りつけているのです」
「なんて悪質な転売ヤーなんだ……!」
見ているだけで怒りがこみあげてくる。
「転売ヤーがはびこっていた結果、転売ヤーは力を増し、この世界は転売ヤーによって滅んでしまう未来が明らかになりました
しかし神々は直接人の世界に干渉できません。そこで、貴方には異世界を救うため、転売ヤーを駆除して欲しいのです」
「もちろん、やらせていただきます」
俺はきっと、あの世界を救うために生まれてきたのだろう。そう思えるくらい、転売ヤーを駆除するという使命は俺の中にするりと入り込んできた。
「さて、ここまでが神としての仕事です。ここからはオフレコです」
女神様はふう、とため息をついた。
「転売ヤーめーーーーーっちゃムカつく! 絶対に転売ヤー許さない!!」
急に女神様が叫ぶ。
「前にお忍びで人間界に降り立って楽しみにしてたライブのチケット申し込んだ時も、転売ヤーのせいでチケット取れなかったの今思い出してもマジで腹立つ! 前の時も! その前も!」
女神様も、どうやら個人的に転売ヤーという存在に怒りを抱え込んでいるらしい。
「というわけで、私からは
・転売ヤーへの憎しみを糧にステータスを大幅に上昇させバーサーク状態になる特殊ジョブ【転売スレイヤー】
・転売ヤーをモンスターとみなし倒すたびにお金と経験値がもらえる加護【転売キラー】
を授けます。
はっきり言って、神として、ギリギリ許されるレベルの超強力なサポートです。この力で、転売ヤーをぶっ殺してきて!」
「「俺たちもいるぜ!」」
振り返ると、いつのまにか俺の後ろには沢山の神が並んでいた。
「俺の名はオーディン。俺の槍【グングニール】を貸すから、俺の代わりにたくさん転売ヤーを殺して来てくれ! 頼んだぞ!」
「俺はスサノオという。俺からは【草薙剣】を貸そう」
「私はパンドラ。こっちは絶対に開けてはいけない箱」
ーーーー
こうして、俺は転売ヤーを憎む100以上の神から武器や道具を貸してもらった。
「最初から全て扱うのは無理ですが、レベルが上がると使える神器が増えていきます。頑張って転売ヤーを皆殺しにするのです!」
ヘラさんとたくさんの神に見送られ、俺の第二の人生が幕を開けた。
こうして、俺は異世界へと降り立った。
ーーーー
一週間後、俺はすっかりと異世界の生活に順応していた。
RPGゲームのようなモンスターがいる中世ヨーロッパ風の世界で、冒険者としてモンスターを倒して暮らしている。
今の俺のパラメータはこんな感じだ。
―――――――――――――――――――――――――――――
【トウヤ】
ジョブ:剣士
筋力:10
知力:13
素早さ:8
幸運:7
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転売ヤーはまだ見つけられていないが、友達はできた。俺に冒険者としてのいろはを教えてくれた、気さくでいい奴だ。名前はベルタンという。
そして、ある日時間は起きた。
“ぐあああああぁ!”
一緒に森で雑魚モンスターを討伐していた時、不意を突かれてベルタンがモンスターに怪我をさせられた。
「大丈夫かベルタン! 今、お前のカバンの中から回復ポーションを出して飲ませてやるからな! って……回復ポーションが無い!?」
「ああ、回復ポーションは昨日お前に使ったのが最後だ」
そんな。
回復ポーションは、冒険者ギルドが管理・販売している。冒険者の命綱であるため、ずっと同じ値段で販売されいている。ベルタンの稼ぎなら、買えないはずがないのに。
「転売ヤーだ……。最近冒険者ギルドでポーションを買いしめて、夜の裏通りで法外な値段で売りさばいている奴らがいる。俺の稼ぎでは買えなくないが、あんな腐った連中からポーションを買うなんて、死んでもごめんだ」
ベルタンは、とても高潔な魂を持っていた。
俺はベルタンを家まで運び、ベッドで寝かせる。包帯などで手当をしたが、それだけで傷は治らない。ポーションが手に入らなければ、ベルタンの命は1日も持たないだろう。
「俺、転売ヤー達からポーションを手に入れてくるよ」
「やめろトウヤ! あんな腐った連中から買うんじゃない!」
俺はベッドの上で叫ぶベルタンを置いて、転売ヤーが出るという裏通りへ向かう。
ーーーー
夜の裏通りを歩いていると、早速怪しい人影が声をかけてくる。
「やあお兄さん、冒険者だね? 今品薄になっている、ポーションはいかがかな? この機会を逃したら手に入らないかもしれないよ?」
「……品薄になっているのはお前らのせいだろうが。なぜこんな真似をする?」
「はは、そんなの決まってるだろう。儲かるからさ」
悪びれもせず、転売ヤーがせせら笑う。俺の腹の底から、熱い思いが湧いてくる。
「お前らのせいでポーションが買えなくて、死にかけている人がいる。俺が知らないだけで、お前らのせいで死んだ人もいるかもしれない。それでも金儲けのために、転売をするのか?」
「ああ、するよ。だって金が欲しいからな」
その言葉で、俺の中の何かが吹っ切れた。体を熱いエネルギーが包む。怒りが俺の脳を丸ごと支配する。勝手にパラメータ画面が立ち上がった。
―――――――――――――――――――――――――――――
【トウヤ】
ジョブ:転売スレイヤー
筋力:987
知力:831
素早さ:780
幸運:890
特殊能力:転売ヤーを倒した数によって神器が解禁
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「金が欲しけりゃ働きやがれ!」
「ウギャー!」
俺は転売ヤーの顔を思い切りぶん殴る。転売ヤーの顔は、収穫を忘れて放置していたミニトマトみたいにグチャグチャのでろでろになっていた。
「てめぇ、俺たちに歯向かうつもりか! 何者だ!」
路地の奥からわらわらと、転売ヤーの仲間が出てきた。
「俺の名前は転売スレイヤー! 好きな匂いはガソリンスタンドの匂い。好きな家事はゴミ掃除。分かってるだろうが、ゴミってのはお前らみたいな連中のことだぜ!」
「面白れぇ、ぶっ殺してやる!」
転売ヤーどもが戦闘態勢に入る。見たところ、全員手練れのようだ。
”ピコン♪ 転売ヤーを倒したことでレベルが上がりました。オーディンの【グングニール】が解禁されました”
俺の頭の中に声が響く。
「いいね! 早速使ってみようじゃねぇか。グングニール召喚!」
俺の手の中に出現したのは、ずしりと重い武器。唸りを上げるエンジン、回転するチェーン。どう見てもチェーンソーですわこれ。
『君の元居た世界風に改造したんだ。格好いいだろう? 破壊力も抜群だぜ!』
頭の中にオーディンの声が響く。
「なんだその唸る剣は? うるさいだけで何も怖くないぜ! ヒャッハー!」
転売ヤーの1人が剣をもって襲ってくる。お馬鹿さん。
「でりゃあああああああ!」
チェーンソーが火花をあげて、剣を両断する。
「へ?」
そしてそのまま、転売ヤーの頭も両断する。
「ウギャー!」
今度はその後ろから突撃してきた、パラディンの盾にチェーンソーを突き立てる。チェーンソーが盾をまるで焼き立てのオムレツのように切り裂き、その奥にいた信じられないような表情のパラディン本人もサックリと両断する。
「ウギャー!」
俺は振り返って、背後から背中にナイフで攻撃しようとしていたシーフの手首を掴む。握力でそのまま骨を砕く。
「転売ヤーのお前らにおトク情報だ! 明日お墓がめちゃくちゃ売れるらしいぜ! 今のうちに買っときな!」
離れたところで詠唱していた魔法使いに、シーフを投げつける。もつれて地面を転がる二人。俺は距離を詰めて、2人まとめてチェーンソーで細切れにする。
「「ウギャー!」」
”ピコン♪ 転売ヤーを倒したことでレベルが上がりました。トールの【タングリス二&タングニョースト】が解禁されました”
転売ヤーどもを蹴散らす俺の頭に、またまた音声が響く。俺の神話知識では、たしかヤギが曳く戦車だったはずだ。
「貴様、よくもやってくれたな! 行けお前達! あの男を囲んでぶち殺せ! 転売ヤーの恐ろしさ、思い知らせてやるのだ!」
転売ヤーどものリーダーらしき男と、10人の仲間が現れた。路地をキレイなフォーメーションを組んで突撃してくる。かなりの腕利き達らしい。
「タングリス二&タングニョースト、召喚!」
”ゴゴゴゴゴゴゴ”
現れたのは、元の世界の戦争映画でおなじみの方の”戦車”だった。ちょうど路地いっぱいの幅だ。こっちも現代風カスタマイズしちゃったかー。
「俺は小さい頃、人間をピンにしてボーリングしてみてぇなって思ってたんだよ……夢が叶ったぜぇ!」
戦車の全速力で、フォーメーションを組んだ転売ヤーどもを轢く。
スパコーン! という音が聞こえそうなくらい(実際はグチョ、みたいな汚い音がした)気持ちよく転売ヤーたちが吹き飛んでいく。
思い出すのは、元の世界での社会人生活。夏の雨の日。
不快指数MAXの満員電車に乗り、ずぶ濡れで帰ってきた後、服を脱ぎ捨てシャワーを浴び、エアコンで冷やした部屋に入った時のような爽快感。ビールが飲みたくなってきた。
転売ヤーどもの死体が転がるなかで、尻もちをついた転売ヤー達のリーダーだけが生き残っている。
「ままま、待ってくれ! 俺は転売ヤーなんかじゃない!」
「ああ?」
転売ヤーのリーダーが何か言いだした。
「価値あるものが高値で取引されるのは、需要と供給の法則だ! 決して悪いことではない! 安いものを安く買って高く売る、これは”せどり”といって――」
「それを転売っつううんだよ!!」
「ウギャー!!」
くだらん言い訳を並べ立てる転売ヤーのリーダーを、チェーンソーで真っ二つにする。スッキリ。全ての転売ヤーを倒したことで、俺のバーサーク状態も解除される。
テンションも元に戻った俺は、死体が転がる路地裏で呆然としていた。
「俺は、人を殺してしまったのか……」
『いいえ、転売ヤーは人ではなくモンスターです』
女神さまの声が頭の中に響く。
「なら、セーフですね!」
よかったよかった。
『ここから西へ行った街で、転売ヤーの大規模な組織が暗躍しています』
「了解しました、ぶち殺しに行きます!」
俺の財布の中は金貨がずっしりと入っていた。転売ヤーを倒したことで手に入ったのだろう。
俺は転売ヤーが持っていたポーションでベルタンを治し、残りは冒険者ギルドへ寄付した。
この世界の転売ヤーを一匹残らず駆逐するために、俺は新たな街へと旅立つ。
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異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
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気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
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子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
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日常のことだけが、やたらとうまくいく。
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個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合
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