目隠し姫と鉄仮面

草野瀬津璃

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スピンオフ レネ編「木陰の君」

02

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 午後、レネはまず新人団員達に赤い懸章けんしょうを配った。盾の紋章には、女神の絵が刺繍されている。

「これは警備団員の証だ。警備団には稽古着以外の制服はない。仕事中は、必ずこれを身に着けること」
「リーダーのそれも制服ではないんですか?」

 ダイアンが挙手して質問した。
 レネはシャツとズボンの上に着ているチュニック型の皮鎧を見下ろした。外での仕事中は、レネは更に皮の手袋もしている。

「これは自前だよ。給料を貯めて自分で買ったんだ。武器は支給されるけど……、町での通常任務の時は警棒だ。そうだった、警棒……。忘れてた。取りに行こう、ついでに置き場所も教える」

 レネが右手を高く挙げて、ついてくるようにと示す。歩きながら、シゼルが質問した。

「リーダー、質問していいですか?」
「ああ」
「リーダーも剣を使うんですか?」
「まあね。力と体力じゃあ流石に男には劣るけど、腕は良いんだ。刺すのは得意」

 レネがジョークを返すと、新人達の間に沈黙が落ちた。滑ったことに気付いて、レネは咳払いをする。

「おい、いくらなんでも味方は刺さない」
「それは良かった」
「稽古で投げ飛ばすことはあるけどな」

 またもや静かになった。
 レネは苦笑いを浮かべる。

「やりにくいなあ、そこは笑うところだろ? ジョークが通じない奴らだな」
「なんだ、冗談だったんですね」

 クライスがほっと呟くのに、レネは首を横に振る。

「刺すのが得意なのも、投げ飛ばすのも本当だけどな。――あ、着いた」

 本舎の一階への扉の前で、レネは新人達を振り返る。

「ん? どうしたお前達」
「いえ……」

 何故、そろいもそろって青ざめているのか、レネには不思議だった。



「ただいま。ああ、疲れた」

 夕方、研修一日目を終えて帰宅したレネは、家の扉を開けた。
 スープの良い香りが漂ってくる。

「おいしそうなにおい。ヨハン兄、今日の晩御飯は?」
「春キャベツのスープに、カブのサラダだぞ。なんだ、疲れた顔してるなあ。そんなにやんちゃだったか?」

 薄茶色の髪をもった二十代半ばくらいの体格の良い青年が、台所から顔を出した。シャツの上に、黄色いエプロンをしている。
 いかつい見た目なのに、料理や家事を得意としているアイヒェン家の長男だ。普段は近所の料理店で働いているから、料理の腕はお墨付きだ。

「いいや、素直なもんだったよ。町を歩き回ったから疲れてるだけ」
「まあ、メリーハドソンは歩き回るには広すぎるよな。手を洗って来い、ルーカスとディオンを呼んできてくれ」
「アル兄は?」
「まだ帰ってきてないよ。今日は孤児院の手伝いって話だったから……」
「ああ、マリアさんを送ってから帰るってことか。早く告白すればいいのに」
「あいつは慎重なんだから仕方ないさ」

 ヨハンは笑いながら返すと、台所に戻っていった。

(おかしい。なんでこんなに男らしい兄さんの方が、私より女子力が高いんだ)

 ヨハンを見ていると、レネはどうしても理不尽さを感じる。首をひねりながら、家の裏にある共用井戸で手を洗う。弟達を部屋に呼びに行ってから一階に戻ると、食堂に両親と次兄のアルウィンが揃っていた。
 レネの両親は信心深いので、たまに聖堂に手伝いに行くのだ。アルウィンと一緒に戻ってきたらしい。

「おお、戻ったか、レネ。どうだった、今日も男達を投げ飛ばしてきたのか?」
「嫌だわ、あなたったら。娘が嫁に行けなくなったらどうするの? 今でもちょっとヤバイのに」

 小柄な母が、背の高い父を小突いてよろめかせている。
 恐らくレネの腕力の強さは、母譲りだとレネは踏んでいる。

「大丈夫だよ、母さん。その時は僕が面倒を見るから」

 末っ子のディオンが、甘い笑顔を浮かべて宣言した。アイヒェン家では一番美形の少年だ。レネより三つ年下の十七歳である。

「ディー、いくらなんでも弟の世話にはならない。というか、お前の方が私より先に結婚するんじゃないか?」

 姉想いなディオンに、レネは苦笑交じりに返す。
 すると三男のルーカスが心配そうに口を開く。

「でも姉さん、本当にどこにも行く当てがなくなったら、ちゃんと頼ってくれよ。まあ、姉さんのことだから、何かしら働き口を見つけてるとは思うけど……。行動力だけはピカイチだもんな」
「お前達、私が独身で路頭に迷う前提で話してないか!? 私は結婚志望だ!」

 弟二人にレネが怒ると、柔和な次兄がやんわりとたしなめる。

「そうだねえ、レネ。まずはその男勝りな喋り方を変えるところから始めたらどうかな。おしとやかにして、綺麗な服を着たら、顔は綺麗なんだから上手く誤解してもらえるはずだよ」
「そんなことしたら、それはもう私じゃないし、嘘ついてるのと一緒だろ。そもそも誤解してもらえるってなんだよ、失礼だな!」

 レネが反発すると、食卓に笑いが咲いた。
 皆楽しそうだが、レネはちっとも面白くない。
 ぶすくれて、春キャベツのスープを食べ始めるのだった。


     *


 二日目からは、午前中に鍛錬と馬術の稽古、午後に巡回という仕事をこなすことにした。
 とにかく最初のうちは、訓練をして基礎を身に着けることと、巡回しながら町についてもっと詳しくなることが大切だ。
 鍛錬は午前と午後に分けて、他の団員も稽古をする。木剣と体術の稽古は、師範役が決まっているから、レネも一緒に汗は流すけれど教えることはない。

 初日は柔軟体操から始まり、剣の持ち方や体術の基礎の構え、他ジョギングや腹筋背筋、スクワットに腕立て伏せと、トレーニングメニューがてんこもりである。
 慣れない運動に新人達は疲れた顔をしているが、十代後半という若さもあって少し休憩したらすぐに回復している。
 鍛錬の後、レネは彼らに馬の乗り方を教えることにした。乗馬は決まった師範役はいないし、レネは乗馬は得意だから教えるのは問題ない。
 馬に乗れないという三人――シゼルとウォルター、ダイアンには、一人ずつ乗せて対応し、乗れる三人――エディ、ラキ、クライスには厩の前の広場を軽く駆けるように指示をしておく。

「大丈夫だ、ダイアン。この子達は優しいから、そんなにビビらなくても落としたりしないよ」
「は、はい……」

 シゼルとウォルターは乗るだけならすぐに出来るようになったが、ダイアンは高いのが怖いようで背を縮めてしまう。

「姿勢を良くしないと危ないから、怖くても背筋を伸ばすんだ。目線は少し遠くを見る感じで――良し、その姿勢を覚えておけ」

 それぞれ姿勢を覚えたところで、昼休みになった。



 今日も弁当を片手に、レネは鍛錬場の隅にある木陰に向かった。
 ゲイクやハンスと昼食を摂ることもあるが、二人とも内勤で休憩の時間帯がまばらだから、最近はあまり一緒に食べていない。

(研修担当になって何がいいかって、規則正しく、夕方には帰れることなんだけど……。そのお陰で食事相手がいないのは誤算だったな)

 同僚の女性団員と食べることもあるが、彼女達は家が近いからと帰宅することが多い。レネの家は南街の方にあるので、帰る時間がない。
 サンドイッチの入ったバスケットを広げたところで、声をかけられた。

「先輩、俺もご一緒して構いませんか?」

 そこにいたのはシゼル・ブラストだった。アッシュグレイの髪と青い目を持った、一匹狼のような雰囲気の少年である。どこか照れた様子で、右手に持ったバスケットを持ち上げた。

「構わないけど、友達はどうした?」
「ありがとうございます。二人は食堂に行きましたよ」

 レネの返事を聞いて、何故だかシゼルはレネと向かい合うような位置に座った。

「俺の家、今月はちょっと家計が厳しいんで、節約に弁当をって」
「困ってるのか?」
「いえ、弟が食べ盛りなんで、いくらあっても足りない感じで」
「シゼルもそういう時期だろう?」

 レネの問いに、シゼルは目を丸くして固まった。

「……ん?」

 気のせいかシゼルの頬が赤くなったように見えて、レネはきょとんとする。シゼルは僅かに目を逸らす。

「い、いえ、すみません。名前で呼ばれてびっくりしてしまって」
「ああ……悪い、先輩とはいえ馴れ馴れしかったな。ブラストと呼ぶよ」
「いいえ! 是非、名前でお願いします!」
「あ、ああ」

 若干前のめり姿勢で強調するシゼルの態度に、レネは気圧されて身を引いた。

「では、シゼルと呼ぶ」
「はい!」

 嬉しそうに頷いて、シゼルは意気揚々とバスケットを開いた。中にはポテトサラダのようなものと、薄切りにされたバゲットが入っている。
 レネは彼のバスケットの方を眺めながら、心の中で呟く。

(なんか思いの他、なつかれたなあ)

 大して雑談もしていない状況なので、レネはどこでそんなに慕われるようなところがあったのか不思議でならない。

「あんまり量は多くないな。お前くらいだと、もっと食べるだろう?」
「俺はがっついてまでは食べませんよ。あんまり満腹って好きじゃなくて。何かあった時に動きにくい感じが苦手なんです」
「へえ、変わってるな」

 シゼルの言いたいことはなんとなく分かるが、レネは体力を使った分は、がっつり食べたい方だ。

「先輩のサンドイッチは手作りですか?」
「ああ、兄のな。私は料理は苦手なんだ。何故かゲテモノが出来る。あ、でも味の保障はしないが茶を淹れるくらいは出来るぞ。それに焚火で魚だって焼ける」

 レネは話すうちにコンプレックスを刺激されて、つい言い訳みたいに付け足した。

「副団長も私と似てるんだ。あの方は野外料理は得意だが、何故かカマドを使うと失敗するんだよ。それで団長からカマド使用禁止令が出てるから、使おうとしてたら止めるようにな。いくら私でも、カマドで湯を沸かすくらいは出来るから、私の方がマシだ」

 そこまで勢いで話してから、ドン引きされただろうかと心配になったが、シゼルは平然とした態度で頷いた。

「そうなんですね、分かりました。気を付けておきます」
「えっ」

 あっけにとられたのはレネの方である。
 いつもだと何かしら茶化されるのだが、それがない。

「女でそれはないだろって、言わないんだな」

 シゼルは少し考える仕草をして、頷いた。

「言われてみて、そういう視点もあるんだなって思いました。別にいいんじゃないですか、誰にでも得意不得意はありますから。先輩は料理が苦手なんでしょうけど、得意な家事もあるんでしょう?」
「そうだなあ、得意な家事か。考えたこともなかったけど、洗濯は好きだな。綺麗に洗えると達成感がある」

 いつも自分がモテないのは料理が苦手なせいだと思い込んでいたが、料理以外は問題無くこなせている。その新発見に、レネは密かに感動した。

「ははっ、俺と逆ですね。洗濯は苦手で……、溜め込む方が面倒なのは分かってるんですけど、つい山にしちまうんですよね。料理の方がマシです」
「へえ、シゼルは料理をするの?」

 サンドイッチにかぶりつきながら、レネは問いかける。
 後輩とはいえ、男の家庭事情なんてあんまり聞く機会はないので興味を覚えた。ゲイクやハンスだって、家で何をしているかなんて話さないのだ。

「うちの母さんは死んでるんで、仕方なくですよ。初めは家政婦を雇ってみたんですが、泥棒して逃げてしまって。他人不審になったんで、それ以来、父と俺が担当してます」
「それは悪いことを聞いたね。すまない」

 レネが素直に謝ると、「いいんですよ、もう過ぎたことなんで」とシゼルはからから笑い返した。

(最初、どこか警戒心が強そうな雰囲気に見えたのは、これのせいか)

 第一印象のことを思い出して、レネは納得した。

「辛かっただろうに、笑って話せるなんてシゼルは強いな。立派だよ」
「ありがとうございます。……ますます好きになりました」
「そうか」

 二日目にして、「仲間として好き」と思われるなんて初めてだ。
 レネはあんまり嬉しくない自己ベストを更新したことに、内心苦笑いをした。
 だが後輩だと思えばそれも可愛い。

「えっと……それだけですか?」

 恐る恐るシゼルが問うのに、レネは首を傾げる。そして、あははと笑い、シゼルの肩を軽く叩いた。

「ああ、大丈夫だ。ちゃんと分かっている。仲間愛だろう?」
「……ええ」

 少し間があいたことには気付かず、レネはうんうんと頷いた。

「私も、お前みたいな素直な後輩は好きだぞ。ちゃんと先輩として指導するから、頼りにしてくれ」

 にかっと笑いかけるレネに、シゼルはややあって頷いた。

「……はい、よろしくお願いします」

 レネは満足して微笑んだ。
 今日も良い友愛を築いたようである。職場の人間関係は円満な方が良い。残りの三ヶ月も楽しく過ごせそうだ。


     *


 それからは、ひたすら稽古と巡回に明け暮れる日々が始まった。
 始めのうちは、素直な少年ばかりだから楽な仕事になりそうだと喜んでいたレネであるが、一週間もすると問題が起きた。

「シゼル・ブラスト、どうして仲間を殴った?」

 朝、集合場所に行ってみると、シゼルとラキが殴り合いの喧嘩をしていた。それぞれの仲間が引きはがしていたが、二人とも興奮している。
 レネは騒ぐ六人の前に仁王立ちして、それぞれの言い分を聞いた。
 雑談していたらシゼルが殴ってきたというので、ラキとエディ、クライスの言い分は一致していた。

「そいつが、馬鹿にするから! 離せよ、ウォルター」
「でも、放したらまた殴るだろ?」
「殴らない! だから離せ!」

 ウォルターが手を離すと、シゼルは鬱陶しそうに服の皺を整え始めた。
 レネはやれやれと思いながら、ラキを見やる。

「ラキ・ポッド。彼を馬鹿にしたのか?」
「…………」
「だんまりは肯定とみなす」
「ブラストのことは馬鹿にしてません!」
「では誰のことを? ウォルター・バークか、それともダイアン・リードリか?」

 レネの問いかけに、ラキは気まずそうに口を引き結ぶ。レネの無言での圧力に、渋々彼は口を開いた。

「別に馬鹿にしたんでもありません……けど。リーダーのことを噂してました」
「……私?」

 レネは眉をひそめた。

「一昨日、稽古で投げ飛ばしたことを根に持ってるのか? お前、そんなんじゃここでやっていけないぞ?」
「そうじゃありません。ただ……よくあるでしょう? その……」
「よくあることなら、なんで口ごもるんだ?」

 ラキがもごもごと言いよどむので、レネは更に追及する。ラキは意を決したように言った。

「リーダーの足の形が綺麗だって言ってただけです!」
「……は?」

 レネは目を丸くした。

「それでなんでこいつがキレる?」

 シゼルは信じられないという目で、レネを見た。

「なんでですって? 気持ち悪くないんですか、リーダー。仲間内でそんなこと噂されたら」
「さあ、言われたのは初めてだからよく分からんが……」

 レネはどうしていいか分からず、肩をすくめる。

「私はどうすればいいんだ? 魅力的でごめんなさいとでも言えばいいのか?」
「雑談でこんなことを言うなんて、女性だからと見下して侮辱してる発言でしょう!」

 怒るシゼルに対して、レネの方はそんなものなのかと常識のずれを感じていた。
 困惑していると、鍛錬のために集まってきた団員達がこちらにやって来た。その中で、ゲイクが見かねた様子で駆け寄ってくる。

「どうしたんだ、レネ。何か困り事か?」
「それが、どう対処していいやらで困ってる」
「どういうことだ?」

 怪訝そうにするゲイクに、レネは仔細を説明する。
 話を聞き終えたゲイクはシゼルの肩を叩いた。

「喧嘩は良くないが、切れるのは正解だ。お前はよくやったよ。行ってよし、顔を冷やしてこい」
「……はい」

 シゼルは頷いて、井戸の方へ駆けて行く。

「レネ、これはセクハラって言うんだ。女性団員が入るに辺り、決められたことがある。――女性団員を侮辱してはならない」
「うん、それは知ってる。で、馬鹿にするような奴は、稽古で黙らせてきたけど?」
「だからお前のことは皆認めてる。オトコオンナとか言う奴ばかりであからさまな悪口だったけど、こっち方面は全然だもんな。分からなくて当然だ」
「……もしかして遠回しに馬鹿にしてる?」

 ゲイクのこの言葉は、まるでレネに女性的魅力がないと言わんばかりだ。レネがじと目になると、ゲイクはひらひらと手を振った。

「聞け、俺は友人として真面目に言ってる」
「……うん」

 友人という言葉に、レネの胸はずきっと痛んだ。わざわざ強調しなくてもいいのに。

「特定の体のパーツを取り上げて、話題にするのはセクハラだ」
「胸や尻なら分かるが、こいつが言うのは足だぞ?」
「アウトだ。読書嫌いなのは知ってるけど、少しは規則を読み返せよ」

 ゲイクはきっぱりと言うが、レネは納得せずに質問する。

「髪は?」
「セーフ」
「手は?」
「アウト」
「美人」
「セーフ」
「顔が綺麗」
「内容による。綺麗な顔で誘惑しただの言ったらアウト。綺麗だから迫力ありますねだったらセーフ」
「……綺麗だから迫力あるってどういうシチュエーション?」

 レネは怪訝な顔になる。

「うるさい。とにかく、パーツを取り上げるのはアウトなんだって」
「じゃあ、私のような女が、男の団員を、あいつがっしりしててカッコイイと言うのは?」
「セーフだな。遠回しな表現だ」
「首筋がえろくてヤバイとかは?」
「アウト。――なに、お前、そんなこと思ってたの?」

 ゲイクが怖そうに身を引くので、レネは強い口調で否定する。

「思ってない。某同僚が言ってたんだ。でも、首のどこに色気があるんだか、私にはよく分からんから覚えてただけ」
「――はああ。どうせ、サマー辺りだろ」
「黙秘する」

 まさにゲイクの言う通りの人物だったが、レネは友人の名誉の為にきっぱりと返した。
 頭が痛そうにしていたゲイクは、語気を強めて話を纏める。

「とにかく! 勤務中はそういったことを言っては駄目だ」
「休日ならいいのか?」
「私的な場所での会話まで強制出来るわけないだろ。まあ、公共の場で、大声で言っていたら流石にアウトだが」
「ふーん、なるほど。そうなのか。では私も気を付ける。――ラキ・ポッド、お前も気を付けるように」

 納得したレネは、ラキにも注意した。
 その場に言わせた新人達もまた、神妙な顔で一緒に頷いた。
 ゲイクはラキを含めて、真面目に警告する。

「いいか、俺達警備団の人間は、模範的でなければいけない。平民の集まりでも、品性を持って取り組めば、立派な人間になれる。そういった集団が町を守っているということが、この町の誇りになるし――結果的に、領の評判に繋がるんだ」

 じっとラキの目を見つめ、ゲイクは諭す。

「お前はどうして警備団に入りたいと思った? 生活の為か?」
「違います。小さい頃に、祖母がひったくりにあって、それを助けてくれたから、俺もそうやって助ける人間になりたいって思ったから……」
「だったら下世話な噂話なんかするんじゃない。品性は言葉に現れる。普段から気を付けろ」
「……はい、分かりました。申し訳ありませんでした、リーダー」

 ゲイクの説教は、ラキの心に響いたようだ。先程までかすかにあった反抗心は目から消え、彼はしょんぼりとうなだれて謝った。

「よく理解したようだな。――今回は不問にしていいか? レネ」
「ああ。私もよく分かってなかったしな。むしろ認識を改める良い機会になったと思う」
「リーダーが言うから、不問にする。お前達は稽古に行け。レネ、お前はさっきの奴に謝ってこいよ。今回はあいつが正しい」
「……分かった」

 レネは頷いて、改まってゲイクに礼を言う。

「ありがとう、ゲイク。お前は本当、頼りになる」
「どういたしまして。でもレネ、お前の前向きな考え方は大事だよ。お陰で、わだかまりもなく解決できた。慣れてないだけで、お前は良いリーダーだよ」

 ゲイクは軽くレネの肩を叩くと、新人達を連れて鍛錬を始める。
 レネは歩き出しながら、溜息をつく。

(まったく、これだから惚れるんだよ。良い男なんだもんなあ)

 漢気溢れるゲイクは、男の団員達にも人気がある。
 普段一緒にいて眼中になかったが、今はそれに気付いてしまったから、レネはなかなか前の友人の状態に戻れずにいた。
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