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二章 自由都市へ
閑話 落ち人との出会い
しおりを挟む「ここに隠れていて下さい。決して出てはなりませんぞ」
長老は僕を後ろ手に縛って、地下室に籠めた。『パライズ』の呪文までかけられてしばらく体が動かない。
「流行り病だ。出ろ! みんな出るんだ」
「これで全部か!」
「火をかけろ!」
「何をなさる!」
「流行り病だと言っただろうが。こいつら全部、皆殺しだ。家も焼き捨てろ」
隠れ里が見つかったのだ。真昼に来たのは誰も見逃さない為だろうか、人通りのほとんどない間道に、森に紛れるようにして作った小さな集落だった。
外で何が起こっているのか。蹄の音、男たちの怒声、悲鳴まで聞こえてきた。
『パライズ』が少し弱まった。階段を上がって出ようとした。
だが、地下室の扉を肩で押し上げると、燃え盛る炎がゴウッと襲い掛かって来た。ゴロゴロと階段を落ちてしまう。
熱気が凄い。後ろ手のロープをナイフを探し出して切る。
熱い。このままでは蒸し焼きになって死んでしまう。水瓶の置いてある場所の下に行って、下から土魔法で甕の底に穴を空けて水を浴びる。これ位じゃとても足りない。出なきゃ、ここから。しかし、扉の外は火の海だ。
地下の壁から穴をあけて──。
何でこんな事になったんだろう。何でこんな事をしているんだろう。
いっそのこと、全て────。
横穴を掘っていると、バシャンと音がして熱気が少し逃げた。扉から水がバタバタとしたたり落ちて来る。バシャン、バシャン……。何度か水が落ちて来て地下の熱気もかなりおさまった。
上から足音がする。部屋の中をゆっくりと歩いている、軽い感じの足音。
念のためにクロスボウを手に階段に向かう。
ギィと、扉が持ち上がった。弓を構えてそいつを見る。大人ではない。華奢な影が見えた。途端、影は僕に気が付いて持ち上げていた扉を落とした。煽りを喰らって僕は地下に転げ落ちた。
「ごめんなさい、大丈夫?」
細い綺麗な声が僕に呼びかける。
影は女の子だ。僕より少し年上で、茶色の髪に紫の瞳はちょっとアンバランスな感じ。彼女は隠していた方がいい事までポンポン喋る、とても危なっかしい。
ひとりでぽつんと、まるで、そうまるでこの地上にたった今、ふんわりと降り立ったみたいに忽然と現れた。僕の目の前に。
大言壮語をしている感じでもないし、ごく普通にありのままに話している感じ。
落ち人だろうか。それが一番しっくりくる。
僕の魔法の師匠、長老がよく言っていた。
『稀にこの世界に、違う世界から落ちて来る者がおりますのじゃ。それは赤子として生まれ、長じて番に出会い、周りの人々の運命を変える者と言われております』
僕はこのままでは何れ探し出されて殺されてしまうだろう。この僕の運命を変えてくれる者がいるのだろうか。
そうしてまるで長老が引き合わせてくれたように出会った。
落人って、みんなこんな香りなのかな? 清潔で優しい香り、仄かに甘い匂いがする。美味しそうな唇。いいかな、いいよね。
この落ち人は僕の前に現れたのだから、僕のものだ。
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